異世界怖い…   作:パイン

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異世界怖い…

「…色々言われてるけど、やっぱり面白いし、いちいちかっこいいなぁ…ビルド」

 

高校2年生の夏休み。

 

部活動にバイトに塾で勉強など、十人十色の過ごし方ができる約1ヶ月の長期休暇。

 

僕の場合は、

家でため込んだ特撮の消化。

 

主に仮面ライダーを一気見しようと企んでいる。

 

冷房の効いた部屋でゴロゴロするのは控えめに言ってサイコー。こんな暑い中で外に出るなんてとてもじゃないが無理だ。

 

大人達はよくやるな…とちょっと感心している。

 

もちろん、これを享受できるのは学生だけであり、夏の暑さに耐えながら勉強なんてできない未熟な僕達だからこそ許された行事であることも分かっている。

 

いずれ僕も人生の先輩方と同じ道筋を辿る。

 

本当は慣れるために外に出て活動した方がいいかもしれないけど、今のうちにしか味わえないことだし、これからの人生で後悔しないように堕落を尽くして英気を存分に養っておこう。

 

「…うん、よかった」

 

仮面ライダービルド全話を見終わったので、一度テレビを消し、目頭を揉む、

 

時々休憩を挟んでいたとは言えど、30分(CMがない為実質20分ほどだが)のストーリーを48話一気見したんだし疲れは溜まる。

 

その休憩の時間でも水分片手にラノベを読んでいたから、実質的に脳は休めていない。

 

「まだ映画にVシネがあるんだけど…仕方ないか。一回寝よう」

 

ふらっ、と倒れるように横になる。

その際ゴッ、と鈍い音がしたけど既に夢の国へと旅立っていた僕は気にせず眠りについた———。

 

【佐藤健太。堅いものに後頭部をぶつけ死亡】

 

 

 

☆☆☆☆

 

……んん。

あれ、なんか床が堅い?

 

いや堅いのはそのままなんだけど、どうも石っぽいような…。

 

「って、これ石じゃん。道理で寝づらいと思った…いや、待ってここどこ!?」

 

洞窟、のように見える。

これと言った光源も無いのに薄い光があるのは何故だろうか。

 

(って、それはどうでもいい!なんで僕がこんなところにいるの!?昨日は部屋で寝たはずなのに…!)

 

クエスチョンマークが僕の頭を埋め尽くす。

まるでわけがわからない。

 

まさかドッキリ?ドッキリか!

…そうであって欲しい。

 

「とりあえず、人を探してみないと話にならない…。ここがどこか知らないと帰り用も無い…」

 

そう口にして仰向けに倒れていた体を起こす…と、体に見覚えのある物が巻きついていた。

 

「え、ビルドドライバー?なんで…あっ、そういや装着しながら視聴してたんだっけ…となると」

 

一つ思いつき、周囲を見渡す。

人の姿は見えなかったが、かわりにこんなものを見つけた。

 

「えっと…フルボトル16個にスパークリングにジーニアス……うん。衝動買いしたものが揃ってる」

 

仮面ライダービルド全話をレンタルした帰りに中古おもちゃ売り場にて購入した、ビルド関連のアイテムが揃っている。

 

残念ながらフルフルとハザードトリガーは売ってなかったけど、ごっこ遊びには十分だと思い購入したものがエコバックごと転がっていたのだ。

 

「でもこれだけあってもなぁ…。というか仮にドッキリだとしたらなんでこれだけ僕と一緒に運んできたんだろ」

 

一周回って落ち着いた頭を捻るも、納得のいく理屈は思いつかない。

 

そもそもこんなところに1人だけポイして放置するなんて意味のわからないことをするような人の考えなんて察せるわけないか、と思考を放棄して歩き出す。

 

コツ、コツ、コツ……

 

洞窟に僕の足音が響く。

部屋にいたのに何故か靴を履いていたけど、ドッキリとはいえ配慮した結果かな。

 

「…………」

 

歩く、歩く、歩く。

 

やけに人が少ない。本当に、誰が僕の様子をコッソリと見ているのだろうか?

 

人が多い方がカモフラージュしやすいってのに。

 

「…………」

 

不安になってきた。というか、よく考えなくても薄暗い洞窟に1人は怖い。

 

まぁ、そういう怖がってる画を撮りたくてドッキリやってんだろうけどね。

 

「………」

 

怖い。

 

流石に痩せ我慢も厳しくなってきた。

 

「………」シャカシャカ

 

無音よりは音があった方がいい。

そう思って適当なボトル…タカフルボトルを一つ手掴みし、手首のスナップだけで振ってみる。

 

不思議と不安が和らぎ元気になった気がする。

力も湧いてきた。

 

もう少し頑張ってみようかな。

 

「………?」

 

…音が、聞こえた。かなり遠くみたいだけど、人の叫び声か何かが確かに聞こえた。

 

一種の極限状態で聴覚でも強化されたのか、普通に洞窟だから音が反響しているのか。

 

「こっちに近づいてくる…?」

 

ドタドタと騒がしい足音。よっぽど急いでいるのか、何かから逃げてる途中なのか。

 

「まさか幽霊…?」

 

背筋が凍る。

あり得ない話じゃない。

 

蛍光灯とかもないのにこの洞窟は薄暗く光ってるし、なんらかの霊的なパワーが働いているのかも。

 

僕も逃げた方が良さそうだけど…1人よりは逃げてる人と合流した方が精神的には安心できそうな気もする。

 

「どうする…?」

 

考えている間にも足音はどんどん近づいてくる。

 

「よ、よし、一回姿を見てみよう」

 

バラエティならビックリして終わり。

幽霊なら後でお祓いしてもらおう。

 

とにかく人と会いたい。

 

そんな心持ちで僕は足音の主を待った。

 

「⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!」

 

「化物ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

ち、血塗れの人が猛スピードで聞いたことない言語叫ながら走ってきたぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

「ッ!!!!」シャカシャカシャカ!

 

僕は走った。それはもう人生最高速度で。

それと同時にタカフルボトルもシャカシャカ音を出す。

 

(気のせいかもしれないけどっ…!僕の足がフルボトルを振るたびに早くなってる気がするっ!)

 

火事場の馬鹿力かもしれないけど!

 

でも!幽霊的なパワーでこっちも強化されてんのかもね!知らんけどっ!

 

「なら、もう一つ…!」

 

適当なボトル(スマホフルボトル)を一つ取り出して、今度は二刀流でシャカシャカ走る!

 

よし、これでもっと速く…!

 

「待って!私は人間です!モンスターじゃない!」

 

「えッ!?」

 

日本語で喋ったぁ!?

 

"ズシャァァァァァッ"

 

「あいたぁっ!?」

 

驚いた拍子に思いっきり転んでしまった…。

ものすごく痛い。でもベルトには傷がついていないようでよかった。結構頑丈なのね。

 

「大丈夫ですか!?」

 

血塗れの人が声をかけて手を差し伸ばしてくる。

正直すごく怖い。

 

「は、はひ…」

 

思わず上擦った声がでた。それにしても、

なんだってこの人はいきなり日本語を喋れるようになっているんだ。

 

さっきまで聞いたことない言語で叫んでたのに。

 

「ああ、血まみれの手でごめんなさい!」

 

「いえ…大丈夫です」

 

彼(?)の手を取らずに自力で立ち上がる。

心配してくれてるし、いい人そうだけど…。

 

血塗れなのはなんで?なんかの仮装?

それともガチ?殺人鬼?え、僕死ぬの?

 

 

(……よ、よく見たらナイフ持ってんじゃん!?)

 

 

怖い。

ここに来て恐怖が振り返してきた。

 

「あなたを怖がってごめんなさい…あなたは怪我をしていませんか?」

 

こ、これから怪我させるつもりでしょ!?

そのナイフで!てか、日本語おかしいよ!日本語再翻訳か君は!

 

怖い!

 

(……に、逃げよう…!)

 

ダッ!

僕は彼(?)に背を向けて逃げ出した。

 

同時にシャカシャカ音も鳴る。

 

「ああ、待ってください!」

 

「待てないよ!だって君怖いもん!」

 

「これが状況です!」

 

「そうだね!僕が逃げて君が命を狙い追う!命をかけたデスレースって言う状況だ!」

 

「はい、人生! ?私は目指していません! ?」

 

「君は何が言いたいのかいまいちわからん!」

 

「それでおしまい」

 

これ以上、会話しても無意味。

若干そう思ってたけど、とうとう相手も認めたみたいだ!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!」

 

シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ!

 

僕の足が、普段からはあり得ないくらいに動く。

これはもう、本当に影響が出ていると見て間違いない。

 

そして彼は、優しく声をかけて油断したところをザシュッ!とやるタイプの殺人鬼に違いない。

 

それなら…少なくともボトルを振って力が発揮できるなら、僕にはネビュラガスが注入されているはず。

 

そしてスマッシュに変異してないと言うことはバザードレベルは少なくとも2以上!

 

このままだといつになっても引き離せないし…一か八か、賭けてみよう…!

 

変身の、可能性に!

 

いつのまにかファンタジーなことになってるけど、あの人から逃げられるなら今はなんだっていい!

 

「お願い…!」

 

『タカ!スマホ!』

 

急いでレバーをぐるぐると回す。

すると、透明なパイプがベルトから飛び出てきた!

 

「うおぉぉぉぉぉ!?本当に本物か!」

 

『Are You Ready?』

 

「こいっ!」

 

『〜♪』

 

「あいたっ……か、変わってる!」

 

少し勢いが付き過ぎてぶつけてしまったけど、本当に変身出来ちゃった!

 

…で、タカフルボトル使ってるんだから、空飛べるはず!

 

…念じれば出てくるかな。

 

「羽、生えろっ!」

 

"バサァッ"

 

出てきた!

そのまま飛んで…逃げる!

 

出来た!

 

「じゃあね!二度と合わないことを願うよ!」

 

殺人鬼に別れの言葉を投げつけて僕は猛スピードで空を駆ける。

 

少しして後ろを振り向くと…そこには誰もいなかった。どうやら振り切れたらしい。

 

「あー………怖かった」

 

助かったぁ……状況は好転してないけど、仮面ライダービルドになれたのはすっごい体験だなぁ。

 

(というか、仮面ライダービルドになれたのなら殺人鬼くらい怖くないのでは?)

 

……いや、やっぱり怖いものは怖いや。

僕は一瞬過ぎった考えを捨てる。

 

いくら血塗れでいかにも返り血で事件後感を醸し出した殺人鬼でも、僕は多分殴れない。

 

多分寸止めしちゃう。

今まで誰かを殴った経験なんてないし、喧嘩なんてもっとない。

 

……いや、今は気にすべきはそれじゃない。

そもそもなんで変身できた?

 

もうドッキリじゃないことは確定だし…夢?

それにしては周りの空気感がリアルすぎる。

 

となると……。

 

 

「異世界転生…?」

 

 

———何故か異世界に飛ばされた(状況的にそうと思われる)僕。

 

はたして無事に元の世界に戻れるのだろうか?それ以前にこの洞窟から出ることができるのだろうか?

 

残念ながら今の僕はどちらもわからない。

 

今はただ、帰れないかもしれないという恐怖を抱きながら歩くことしか出来なかった。

 

「異世界怖い…」




ベル君が血塗れなのは一巻の冒頭部分だから。
因みにベル君が言いたかったのはこれ↓

『えっ、待ってください!僕は人間です!モンスターじゃありません!

あっ、血まみれの手ですみません!

あなたを怖がらせてしまってすみませんでした…お怪我はありませんでしたか?

あっ、まっ、待ってください!

これには事情があるんです!

い、命!?狙いませんよ!?

そんなっ!?』

日本語→英語→日本語の再翻訳にしたらこうなった。
スマホフルボトルの力で異世界の言語を無理やり翻訳したらこうなってもまあ仕方ないかなって。

好評だったら続く。
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