明日から、連休だよー!
明日から、連休だよー!
そんな私は仕事だよー!!(涙)
大暦高等学校を卒業した
戦闘能力が高い偉能者は警察や自衛隊等の警備や軍事に携わる仕事、回復や解毒が使える偉能者は医療に携わる仕事、意外にも芸術関係の偉能者は心理学に携わる者もいる。
また、偉業とは関係ない仕事に就く者もいる……特に大暦高校は多くの偉能者を排出した故に例え刀鍛冶の偉能者が絵本作家に就いた人がいても可笑しくない。
だが、簡単に要望通りの職種に就ける訳ではない。優秀な能力を持っていても実績や経験がなければ猫に小判、馬の耳に念仏、宝の持ち腐れである。
学園長は柔軟に対応できるようにと学校行事に偉能者としても鍛えられる行事を取り入れ、ゴミ拾いから警備まで幅広い経験と実績を在学する三年の間に積む事が出来るのは学園長の長く生きた
例に出すと『学年別代表トーナメント』である。一年生は力試しで自身の力を見せつけ、二年生は基礎を固めた実力の証明し、三年生は学んできた総ての全力を発揮し、それによりスカウトにアピールする事で夢に近付くチャンスの一つである。
そして一年も例に漏れず、新入生オリエンテーションという名目で朝早くからバスに押し込まれ、目的地へ到着後に大きな木造の館の前で学園長によるスピーチを静かに聞いていた。
正確には、後ろに生い茂る森が気になってちらほらと気にする者がいる。
「それでは、毎年恒例のオリエンテーションを始めます。質問のある方はおられますか?」
「あのー……清掃範囲はどこまででしょうか?」
学園長のスピーチが終わり、眼鏡をかけたショートヘアの女性--
列に並んでいたザックフォードは自身のすぐ近くにあった看板に視線を向ける。そこに書かれてあったのは--
「できる限り深い所までです」
--ポップなゴシック体で『おいでよ富士の樹海』と書かれた看板だった。
……それ、死んで来いって言わない?
一年全員の心境が偶然にも満場一致した気がする。不意に茂みが動く音を聞いたノベルティアが振り向くと、自身の身長が二倍ぐらいある大きな熊が仕留めたのかピクリとも動かない猪を口に咥えたまま、薄暗い木陰からこちらを見ていた姿を目にして、硬直した。
「必ず二人以上のグループを作り、学園特製のGPSを落とさないように行動するように! 孤立すれば間違いなく迷う! 万が一迷った場合はその場から動かずに先生達が迎えにいく明日の朝まで大人しく待つように! 余談だが俺は去年迷った!!」
「ハイハイ、雷先生の余談はここまでにして行動お願いしまーす」
樹海の近くであっても黒のタンクトップを着用する見た目がゴリラのように濃い角刈りの男性--
「晩飯は地元の猟師達がジビエ料理を振る舞ってくれるそうじゃ。がんばるんじゃよー」
学園長の言葉に生徒全員の目がまるで獲物を狙う肉食動物のように鋭く光輝いた。
『シャアアアアア! ヤンゾォオオオオ!!』
『一ヘクタールでも二ヘクタールでも来いやァァァ!!』
『我、森の主なりィィィィィ!!』
女子とは思えない野太い声で叫ぶ女子生徒、何故か地面に向かってケンカ売る男子生徒、テンションのあまりプロレスラーよろしくに着ていたシャツを破り捨てる男子生徒等の半ば狂化している生徒もいるが、狙い通りにやる気を焚き付けた事に微笑む学園長。その様子を見ていた乾が感嘆する。
「……流石は学園長。見事な人心掌握です」
「ほっほっほ……年の功というヤツじゃ。それに嘘はついておらんからのう」
「地元の野菜が八割で肉がたった二割だという所を除けば、嘘はついてないな」
今は興奮している生徒が真実を知った時にどんな表情になるのか怖くなった葉隠は考えることをやめて遠い目になる。
「それでは葉隠くん、乾さん。前日に伝えた通りお願い致します」
「はい」
「学園長は……」
「私はもしもの為の応援を要請、そして--」
葉隠と乾に後を任せ、学園長は山の方に目を向ける。
「--山狩りじゃ」
誰もいないハズの山を、学園長は鋭く睨み付けている。
□--■□■--□
「……こちらHC。応答願う」
『おう、どうした? もう標的を捕獲したのか?』
「逆だ。要注意人物の学園長がこちらに気付いて警戒している」
『ハァ!? 五キロも離れているのにか!?』
「俺を雇用する前に言っただろ。
『でもよぉ……その怪物を騙せば、お宝が目の前じゃねぇか。夢があるだろなぁオイ!』
「……とにかく、俺はこのまま囮になりながらヤツから離れる。お前達はプランBに移行した方が良い」
『あれをやると疲れるんだよなぁ』
「あの怪物と戦うよりマシだ。健闘を祈る……はぁ……割に合わないな」
□--■□■--□
「あ、こんな所にもあった」
「大量だな……げ、遺書っぽいの見つけちまった」
「見なかった事にしようぜ」
学園長が去っていった後、自由にグループを組んでいく中でオロオロしていた日向は蛇崎に誘われ、ついでに女子と組めなくてガッカリしていた明森とともに富士の樹海でゴミ拾いを行っていた。
「……あの、お二人はどうしてこの学校に来たんですか?」
日向は道中に見つけた赤と黄色の派手な色合いの怪しい缶詰をゴミ袋にいれ、二人に話しかけた。
「……ん? 急にどうしたのさ?」
「……日向ちゃん……俺は気にしてないけど……」
明森は疑問符を浮かべるが、蛇崎は心当たりがあるのか日向を心配そうな視線を向ける。
「わかってます。それでも、聞きたくて……あ、その、深い事情があるなら言わなくても……」
後から人によっては踏み込んではいけない内容ではと考え、慌てて撤回しようとしたら明森の口が開いた。
「……俺さ、女にモテたいんだよ」
沈黙。
まさかの欲求に予想できなかった日向は固まり、蛇崎も予想できてたとはいえ言うとは思わなかったのか硬直する。
「……」
「……」
「あ、正確には人目を気にせずイチャ&アイしたいのよ」
「チャ○&ア○カみたいに言うなよ」
某有名な音楽ユニットのグループ名みたいに言う明森にツッコミをいれる蛇崎。日向はいまだに固まっている。
「俺ってばマスクとサングラスしないと女子から怖がられるんだよね……恐怖心誘発体質……だっけかな? まぁ、すっごく嫌なお話、顔を見せただけで女の子に嫌われちゃうんだよねぇ……お陰で彼女も作れないぜHAHAHA!」
軽薄にいや、軽快に自虐する明森はアメリカン風にボケて笑う。しかし、サングラス越しに見える目には強い意思が映っていた。
「……だから、偉能研究者となって人為的に衝動を克服する方法を探し出す……というか女性に嫌われる体質を治さないと彼女を作れないじゃねぇか!」
最後には照れながらも大声で言う明森。動機はともかく抱いた夢は立派なモノで二人は呆然としていた。
「……」
「なんか言えってば! 滑った感じになるじゃん!」
「……えぇ!? モテたい為に偉能者になったのですか!?」
「そこぉ!? そこなの日向!? もうすでに終わってるのに聞くの!?」
「……悪い。青馬ちゃん並にゲスな理由かなと思ったら、意外にしっかりしてて驚いた」
「酷くね!?」
二人に言いたい放題言われて拗ねる明森だが、二人が明森の夢について否定していない事に気付けなかった。
「オレちゃんは薬学を極め、万病を治す万能薬を生み出す事だ……なんか明森と似てるような感じだな……キハハハッ」
「あんまイジると泣くぞ。年甲斐もなく樹海に響き渡る勢いで泣くぞ」
「どんな脅しだよ」
「ヒュウチャーン」
未だに拗ねる明森に苦笑する蛇崎。日向は自分には無い夢を抱く二人が眩しく見える……偉業も夢もない自分に少しだけ落ち込んでいるとクックルーの声が聞こえ、顔を向けて頬が引きつった。
何故なら、自身の知っているクックルーではなかった。
頭部から下はいつもと同じクックルーの身体だったが、頭部が違った。
黒曜石のような黒い瞳、頭部全体を覆うトカゲやワニを彷彿させる爬虫類のような黄土色の鱗、口から覗く白い歯、頸部に舌骨で支えられた襞襟状の皮膚飾り--
「ピューイ!!」
--端的に言うとエリマキトカゲのマスクを装着したクックルーがそこにいた。
クックルーが喋るとマスクのエリマキが広がり、エリマキトカゲが威嚇しているように見える……ただクックルーが着けると頭部が爬虫類で身体が鳥類の未確認生物のような姿になってしまっている。
「え、えぇぇえぇえぇ!? どうしたんですかソレ!?」
「ヒロッター!」
「……クックルーは鍵宮ちゃんとノベルティアちゃんと一緒だったろ? あの二人どうしたんだよ?」
予想だにしない姿に驚く日向に答えるクックルー。クックルーが答える度にマスクの襞襟状の皮膚飾りが広がってシュールな光景が生まれている。
その様子に呆れながらも蛇崎はペアだった女子二人の事を尋ねた。
「エットネ、カギミントノベチャン、コイバナガハジマッタカラヒマデハナレタ!」
「……あぁ……」
クックルーの言葉に蛇崎は主にノベルティアが鍵宮にコイバナを持ちかけ、少なからず持続ダメージを受ける様子が容易に想像できた。
「アトネアトネ、トガミントテンチャンカラ、キャラメルモラッタリ、モッサントウイチャンニタカイタカイシテモラッタリ、トカゲノマスクヒロッテ、ジュンジュンハミナチャンニデレデレデ、ザックントカワッツーニデアッテ、ソシテサンニンヲミツケター!」
要約すると、『十神と加賀天馬がキャラメルをくれて、空元と宇井に高い高いしてもらい、その最中でエリマキトカゲのマスクを拾い、それを着けたまま歩いていたら八雲が湊に夢中だったのでスルーし、ザックフォードと河津のペアに出会い、最後に三人に出会った』ようだ。
余談ではあるが、空元と宇井にクックルーは高い高いしてもらったが、本当にクックルーと一緒に空を飛ぶ『高い高い』であった事は日向達にとって知るよしもなかった。
「……楽しかったですか?」
「ピューイ!!」
日向の質問に喜んで答えるクックルー。マスクを取った表情には、予想通りの笑顔を浮かべていた。
「さて、そろそろ昼飯だから撤退するか」
「だな。戻るぞ日向、クックルー」
「あ、はい!」
もうすぐ昼時になることを時計で確認した蛇崎と明森が一人と一匹に声をかける。日向は返事を返し、クックルーにも声をかけようとする。
「ヒュウチャーン、アレナニー?」
「……アレ……?」
しかし、声をかける前にクックルーが日向に質問を投げた。突然の事に疑問を浮かべながらも日向とそれを聞いていた明森と蛇崎の二人も前を見る。
「……なんだ……アレ……?」
「……透明な、玉?」
そこには、見た目がシャボン玉みたいな透明の大きな玉が浮かんでいた。大きさは小型車程のシャボン玉がフワフワと日向達の目の前に宙を漂っていた。
見たこともないモノに戸惑う日向と蛇崎、見つめるクックルー、目の前の存在に目を奪われていたが、不意に明森の背筋に冷たいモノが走った。
それは、罪人の
それは、彼が持っていた危機察知能力のお陰か?
それは、ジャック・ザ・リッパーの本能か?
いずれにしろ。目の前の謎の存在に対して明森が感じた勘は--
「今すぐ走って逃げるぞ!!」
--二人と一匹の時間を延ばした。
弾かれるように透明の玉を背に走り出した三人と一匹。遅れて透明の玉が動き出し、見た目に反して速い透明の玉は先に逃げた日向達を簡単に追い付き始めた。
「追い付かれます!」
「ピューイ!!」
「くぅ……ゴメン蛇崎!」
「え……うぉ!?」
「ピューイ!?」
「クックル」
大玉との距離が目と鼻の先になってしまい、明森は苦し紛れに蛇崎を横の茂みに押し飛ばし、クックルーが石に躓いて横の茂みに転けた。日向がクックルーに手を伸ばそうとした直後に大玉が日向と明森を飲み込んで空高く昇っていった。
「ダイジョブー?」
「痛たたた……日向ちゃん! 明森ちゃん!」
蛇崎に近付いて声をかけるクックルー。蛇崎は日向と明森を飲み込んだ大玉に目を向けると大玉はそのまま来た道を戻っていき、別方向から来た複数の大玉と融合して大きなドーム状の物体が完成した。
「……なんだよ……これ……」
「……ピューイ……」
蛇崎とクックルーはそのドームの前で呆然と立ち尽くすしかなかった。
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~歴史トリビア~
四条天皇は自分で仕掛けた滑る床で侍女達を驚かせようとしたが誤って自ら滑って転び、頭を打ってそのまま自身の生涯に幕を下ろした。