誰が為に花束を   作:ハレル家

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 オッス遅れてごめん(挨拶)。
 現在、活動報告で参加者を募集しています。
 締め切りは月曜日が火曜日になる直前までお待ちしています。

 まぁ、正直な話で連載を悩んでいます。
 理由? 見たらわかるさ…………


第10史:嵐の静けさ

 

 流れの激しい川の近くで数人の人影が見える。近くの木には濡れた服が吊るされ、その側に焚き火がそよ風に吹かれ揺れている。

 乾かす為に服を吊るした木から離れていない場所で険悪な雰囲気が流れていた。

 

「え、えっと……その……」

「……」

「……」

 

 言い淀む鍵宮、なんとか思い出そうとする久楽、目の前の人物を直視できないのか視線をそらす日向、三者三様の様子を見せるが、三人の共通点は目の前の人物に関係する。

 

「……」

 

 大きめの岩の上に座り、三人に無言の圧力を与えるエインズワース。しかし彼の……いな、彼女(・・)の胸にはサラシが巻かれている。

 そう、エインズワースは男性ではなく、女性だった。

 目を覚ましたエインズワースはゆっくりと周囲の状況を理解し、無駄の無い動きで火を起こして、服が乾くまでの間に三人に座るよう指示し、三人の目の前で腰を下ろした。

 そして、今に至る。最初は平然とした様子の彼女に戸惑っていたが、次第に不機嫌になっていく様子に焦っていた。

 なお、三人は三時間と長く感じていたが、実際は三十八分しか経っていない。

 

「……私が怒っている理由を言ってみたまえ」

 

 もはや隠す様子もなく、さらしと下着姿のエインズワースは堂々としている。逆にその様子がどこぞのマフィアのような威厳が滲み出ているのは余談である。

 

「……女性である事がバレてしまったから……ですか?」

「……はぁ……」

 

 ……そんな養豚場の豚を見るような目で……!?

 

 おそるおそる手を挙げて答える鍵宮。しかし、的はずれな解答だったのかエインズワースは一つため息を溢して一瞥する。

 視線に込められた辛辣なメッセージに鍵宮はショックを受ける。

 

「……あ、アレですよね! アレ!!」

 

 ……言ってみろ。

 

「……すいませんでした」

 

 久楽が引きつった笑みのまま本人から引き出そうとするも、言葉よりも雄弁な視線に折れた。

 

「そ、その、事故とはいえ、エインズワースさんの身体を触ってしまった事でしょうか?」

「論外」

「論外!?」

「全然違うから手を動かして形を作るな」

 

 日向は一番心当たりがある行動を思い出し、おそるおそる解答するも、全く違う解答にショックを隠せない。さらにジェスチャーを含めたのが間違いだったのかエインズワースの眉間のシワが深くなる。

 答えが全くわからずに必死に考える三人。そんな様子を見たエインズワースはため息を溢して三人に答えた。

 

「……はぁ……誤解してるようだが、私は女性である事をバレたから怒っているんじゃない」

『え!? 嘘だ!!』

「…………」

『申し訳ありませんでした』

 

 エインズワースの言葉に反射で答えた三人。完全に怒っていた様子だったのか信じられない反応を見せるも、不機嫌になっていく彼女の姿に謝罪する。

 

「私が女性である事を隠しているのは、いつかバレると思っていた……それが早くなっただけで怒らない」

 

 岩の上から降り、焚き火の熱で服が乾いているか触るエインズワース。その姿に三人は黙って見つめる。

 

「私が怒っているのは、私が女だとわかってあたふたしている君達の態度に怒ったんだ。その慌てようで誰かに遭遇でもするなら、私の隠している事に感付かれるからだ」

 

 ジャージはまだだが、シャツが乾いている事を確認すると、彼女はシャツを着て、少し生乾きのジャージを羽織った。

 

「……だから、私が女性である事を口外せず秘密にし、いつも通り接してくれれば構わない」

 

 一通り言い終わったのか、いつものエインズワースに戻ったと察した三人は安堵し、謝罪をした。

 

「……すまない。エインズワースさん」

「なに、これから気を付けてくれれば良いだけさ」

「今度、買い物に付き合ってくれないかなエインズワースさ、くん」

「……まぁ、良いだろう」

「エインズワースさんと呼んで良いですか?」

「ダメだ」

「なんでですか!?」

 

 何故か日向の意見を却下した彼女に日向は驚く。

 

「タイミングが不自然だ。呼ぶなら、もう少し月日が経った方が良い」

「えぇ……なんか、自分だけ拒否されている感じでイヤです……」

「イヤと言われても、意見は変わらない……それとも、私が女性だから言いにくいのかい?」

「いえ、大人っぽい対応でしたので、今までの同年代の呼び方だと少し違和感を感じました」

「君と私は同い年だろ」

 

 あーでもないこーでもないと意見を言い合う二人に久楽は折衷案を二人に提示した。

 

「まぁまぁ、このままだと意見は平行線のままだし、ジャンケンで決めたらどうかな?」

「それなら文句はありません」

「ボクも文句はない。一回勝負で良いね?」

「はい……フゥ……」

「え!? 流石にそれは……」

 

 CECを使う日向にやり過ぎだと感じた鍵宮が待ったをかけるも、勝負の火蓋は既に切られていた。 

 

「「ジャーンケーン、ポン!!」」

 

 勢いよく出す日向とエインズワース。日向はチョキを出しており、対するエインズワースは……グーを出していた。

 

「……え……!?」

 

 日向が勝つと思っていた鍵宮は意外な結果に驚くも、それ以上に日向は驚きのあまり困惑していた。

 

 ……CECを使ったハズなのに、負けた……!?

 

 一度発動すれば負け無しの集中力が負けた事に動揺し、集中が解けた日向。

 

 ……集中力が足りなかったのか? いや、充分に集中していた……なんで……

 

「わからないって顔だね」

 

 困惑していた日向にエインズワースは声をかける。声に反応して顔を向けると、エインズワースはニヒルな笑みを見せた。

 

「君のCECは強力だ。聞きしに勝る集中力だよ。うん、誇ってもいい」

 

 彼の刹那の健闘に拍手を送るエインズワース。そして、真剣な表情で言葉を続けた。

 

「だが、それは君が持つ能力であって偉能者(グレイトフル)が使う偉業(レコード)ではない。それなりの相手には通用するが、私のような相手には難しいよ」

 

 その言葉に日向は反論できなかった。返す言葉が思い浮かばず、沼のように自身へ沈んでいく事実を受け入れるしかなかった。

 

「おーい、お前ら大丈夫かー?」

「さて、行くとしよう」

 

 向こうから田中と明森手を振りながら近付いてくる。日向も遅れて鍵宮と久楽の後を追う。

 心なしか、歩みが重いのは気のせいだと思いたい。

 

 

□--■□■--□

 

 

 富士の樹海の前にある邸。

 普段ならば男子の枕投げ大会や女子の恋バナで騒がしいハズの邸だが、重苦しくピリピリとした空気が蔓延している。

 開校して大規模な騒動は起こらなかった。強いて言うなら十年前の『教師陣VS男子連合による(文字通りの意味で)血で血を洗う女子風呂突撃騒動』に比べれば謹慎または停学処分で済むが、今回はそんな風に終われない騒動である事が教師陣の表情や纏う空気で察することができる。

 そして、一部を除く生徒達も教師から単独行動を禁じられ、数人で部屋に待機するように言われている。

 とある一室にて沈黙する生徒達。するとコンコン、と外から窓をノックする音が鳴った。ノベルティアが静かに窓に近付き、ノックする。

 

「デスソースを片手に一杯」

「ボナペティ」

「よし、二人だ。開けるから待ってろ」

 

 合言葉を確認すると蛇崎が窓のロックを解除する。そして空元と宇井が窓から素早く入って開けた窓を閉めて鍵をかけた。

 

「お帰り、どうだった?」

 

 ノベルティアの言葉に空元は首を横に振り、宇井は申し訳なさそうな表情になる。

 

「……そっか……」

「うんともすんともしないわ。なんなのかしら、あの壁」

 

 その答えにノベルティアは落ち込み、宇井は自分達が調べにいった壁について悪態を言う。

 

「……世界侵食系の偉業らしい」

「世界侵食系?」

「あ、あれがか!?」

 

 蛇崎の言葉にザックフォードは聞き慣れない言葉に首をかしげ、十神はその言葉に驚いた。

 

「雷センセーが言ってたから間違いねぇよ」

「なるほど……となると、騒動の主犯の目的は捕獲かもしれませんね」

 

 今まで本を読んでいた河津が自身の推測を喋り始める。突然の事に目を点にする一同だが、ノベルティアが代表して質問する。

 

「捕獲って……なんでわかるの?」

「規模が大きすぎます。世界侵食系は目撃例が少ないですが、殆どが一対一(ワンマン)で真価を発揮するタイプが多いそうです。さらに今回は複数の球状を見た目撃者が多く、騒動を大きくしてしまうリスクを天秤に主犯は目的の人物を捕まえる事を狙っているのと思います」

 

 河津の解説に納得の表情になる者や未だに疑問符を浮かべる者が現れる。しかし、現状で説得力の強い河津の仮説に全員がそれを当てはめて考える。

 

「なるほど……それなら合点がいくわ。去年はこんな騒動は起きなかったと教師が愚痴っていたし」

「なら、問題は誰が狙われていたのかだろ? ハッキリ言うと全員が狙われるような偉業はねぇぞ」

「となると、身代金が目的なのかな?」

 

 意見を交換し、自分達でも出来ることがないか模索する。そんな中で、一人が静かに手を挙げた。

 

「……オレ、心当たりがあるかも」

 

 加賀は一斉に向けられた視線にビビリながらも答え、その言葉に全員が目を点にする。

 

「とはいえ都市伝説だから、信憑性は低いけど……」

「それでも構わない。今は判断材料を集める必要がある……捨てるかどうかは聞いてから考える」

「……教えてくれないか?」

 

 河津とザックフォードに話すよう頼まれ、加賀は静かに語り始めた。

 

「……小学生の頃に聞いた変な噂なんだけど……あらゆる傷や病、ついには死を蘇生できる神様みたいな偉業を持った子供がいるって噂なんだ」

「……なんだそれ? 怪しさ満点だろ」

「ほ、本当なんだって! オレの田舎なめんなよ! 朝刊が夕方に来るんだぞ!」

「いや知らねぇよ」

 

 十神の野次に反論する加賀。数人が何かを察したのか表情が険しくなる。

 

「それで、それと心当たりにどんな関係が?」

「それなんだけどさ……スレで出回っていた隠し撮りの画像に似てるんだよ」

「似ている?」

 

 空元が訪ねると加賀は携帯を操作して件の画像を見せる。

 

「これなんだけど」

 

 その画像を見た一同は驚きのあまり声を失った。

 加賀の言っていた事が事実だからではない。

 自分達が知るクラスメイトの面影があったからだ。

 

「……じゃあ、主犯の目的は……」

「……待て、なんか騒がしくないか?」

 

 ノベルティアが真相を言おうとしたら、十神が外の様子がおかしい事に気付いた。

 ここから、彼らが騒動に巻き込まれる事になるなんて駄礼も知る由もなかった。




 ~歴史トリビア~
 世界最短の戦争は38分である。

 1896年にイギリスで起きたザンジバル戦争。
 当時イギリスの保護下にあったザンジバルが、イギリスが定める条件を満たさない者を君主に据えたことから、イギリス側が宣戦布告した。
 ザンジバル側は王宮でろう城作戦に出るが、圧倒的な武力差を前に38分で敗北している。

 即落ちってレベルじゃねぇぞ!


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