大暦高等学校の敷地内にある講堂にて、全学年が集まって、学園長の話に耳を傾けていた。
「えー、みなさん。入学おめでとうございます」
マイクを通して講堂全体に響くような声で話す学園長。
「狭き門を潜り抜け、スタートラインに立てた姿に私は嬉しく思いますが、浮き足立ってはいけません。みなさんはスタートラインに立てただけでまだ歩いておらん……みなさんは耕した土に“種まき”した程度です。その花を開花するにも、腐らせるもあなた方の手に左右される事を心に留めといてくれるかの」
学園長の言葉に自分達が偉能者としての階段を登ることを自覚し、気を引き閉めた。
「……さて、年寄りの長話はここまでにして入学ガイダンスを始めるのですが……一年は一部を除いて欠席してるの」
学園長の視線の先には一年のCクラスが空いていた。AクラスとBクラスも欠席はいるもののCクラスは全体がいない。集団ボイコットと呼ばれても不思議ではない状況だった。
「まぁ、何時もの事ですから気にしなくて良いかのう」
しかし学園長はケラケラと笑い、気にしていなかった。
むしろ『何時もの事だと』笑って許した様子に一年はざわつく。ある者は学園長の言葉に信じられない様子で驚き、ある者は先輩である二年生と三年生、教師に視線を向けると二年生は苦笑し、三年生は思い出話に花を咲かせ、教師は数人が心労からか頭を抱えた。
「……あの二人はどうしたんだ?」
「たしか『ライバルに会ってくるわ』と言ってCクラスに突撃し、彼女を止める為にもう一人ついて行ったよ」
「周りを見渡した感じ、いねぇみたいだぞ」
ライオンを模したグリップのステッキを持った白髪で先端に行くにつれて金色のボブカット、緑と青のオッドアイの青年は同じクラスの二人がいない事に気付き、イヤホンを着けたもっさりした黒髪目隠れヘアーをした少年がCクラスに行った事を伝える。
先程の二人よりも背が低く、黒いメッシュの入った金髪ロングのポニテで顔半分を覆い、目鼻立ちはやや鋭い中性的な童顔の頬から首に駆けての刀傷が目立つ少年が帰ってきていない事を言う。
「個人的にCクラスって気になるからオレも行けばよかったなぁ~」
「やめとけ、入学早々に目をつけられるぞ」
「だけど、気になるのは嘘じゃない」
もっさりした黒髪目隠れヘアーの少年は愚痴ると刀傷が目立つ少年に咎められる。もっさりした黒髪目隠れヘアーの少年の言葉に緑と青のオッドアイの青年は賛同する。
「本来Aクラスに入るハズの二人がCクラスにいるからね」
その言葉に二人の少年はオッドアイの青年に視線を向け、青年は軽く足を組む。
「急ぐ必要はない……どのみち、顔を合わせる機会は来るのだから」
ここにいないCクラスにオッドアイの青年は不敵な笑みを浮かべる。
「……あぁ……めんどくせぇ……あの時眠っていないで一緒に行けば良かったぜ。そう思わねぇか?」
「……私は問題ないです……」
その向かい側で話を横目で聞いてた紫に近い青のセミロングヘアで水色の瞳、整った顔立ちの豪快で爽やかな雰囲気の美男子が隣にいた黒い髪を肩まで伸ばしている全体的にスレンダーな印象の少女に話しかける。
長い黒髪の少女は気にする様子もなく答えたら、学園長の話の続きを待った。
「……はぁ……」
自身の周囲に味方がいない事に美男子はため息を溢した。
――■――■■――■――
「……なるほど……それで騒動に発展したと……」
「……はい……」
同時刻。場所変わってCクラス。
日向と黄緑髪の女性の二人以外が全員正座しており、くたびれた男性がクラス内で騒いでた全員を眉間にシワを寄せた表情で見つめる。
「……あの……入学式……始まってると思いますが……」
代表して黒の七三分けの男子生徒が小さく挙手すると、くたびれた男性が答える。
「別にいいが、その場合は笑い者になるぞ」
くたびれた男性の言葉に時計へ視線を動かすと式の最中である。今から入れば間違いなく注目を集めてしまう。
「騒いでたし、別に変わらないんじゃないの?」
「そういう事じゃないんだが……少しついて来い」
騒ぎの元凶とも言える水色のサイドテールの少女が言うと、くたびれた男性は言葉を濁し、ついて来るようにハンドサインを送る。
「いや、入学式の方が――」
「あ、そういや言い忘れてたな……オレは葉隠。
くたびれた男性――葉隠の言葉にCクラス内の生徒達はお互いの顔を合わせ、思案する。
「…………」
「…………」
「…………」
長い沈黙と熟孝の末、反省文回避を選んだ全員が葉隠の後を追いかけた。
――■■――■■■――■■――
「さっきはごめんね」
先に歩いた葉隠に追いつき、暫く歩いていると日向は自身の肩を軽く叩かれ、振り向くとAクラスの二人が話しかけてきた。
茶髪のショートヘアとやや暗い翠の瞳で中性的な顔立ちの青年は申し訳なさそうに謝罪し、水色のサイドテールの少女は居心地悪そうに横を向いている。
「あ、いえ、えっと……」
「そういや自己紹介がまだだったね。ボクは久楽 悠慈(くだら ゆうじ)、それでこっちが宇井天。さっきは本当にごめんね」
「……さっきは悪かったわよ……」
日向が戸惑う様子に自己紹介をしてなかった事に気付いた茶髪のショートヘアとやや暗い翠の瞳で中性的な顔立ちの青年――久楽はもう一度謝り、水色のサイドテールの少女――宇井は申し訳なさそうに小さく呟いた。
「えっと、自分は日向歩です。さっきのは気にしていません!」
「私は鍵宮紬。よろしくね天ちゃん」
日向が答えると近くにいた長い黒髪のポニテで茶眼、赤い眼鏡をかけている少女――
「……ぅん……」
宇井は恥ずかしそうに視線をそらして小さく返事を返す。その様子に悪い人ではないことが伝わり、久楽と一緒に頬を緩ませる。
「そこ、雑談は程々にしろよ」
「あの、葉隠先生。ボク達を何処に案内するんですか?」
葉隠が日向達を注意すると、黒の七三分けの男子生徒が質問する。
「そうだな。内緒って所だが、基本的な知識の復習でもするか……えーと、
「西暦2078年のイギリスです」
葉隠の問題を黄緑髪の女性――
「次に……
次に葉隠は黒の雑多なドレッドヘアーに紫色のメッシュを所々に入れた濃い紫色の瞳に鋭い三白眼の男性――
「え、えっと……スキルで歴史上の偉人に関係するモノ……だったっけ?」
「正確には歴史上の偉人や罪人だ。それとスキルではなく
多少間違えているとはいえ正解に近く、葉隠は訂正だけする。
「最後に……日向歩。何故、偉能者をグレイトフルと呼ぶかわかるか?」
「……わかりません……」
葉隠は日向に問題を投げるも、日向は暫く考え、全くわからないと答える。
「……わからなくて正解だ。適当に答えてたら、ガイダンスの説明中に強制入場してもらうつもりだ」
当てずっぽうで答えられるよりマシだと判断した葉隠。気付けば厳重な扉の前に立ち、隣の壁にある数字が書かれたパネルを押していく。
「偉能者が誕生してから数年は人々から反感を持たれ、多くの人が迫害に会った……偉業を悪用する叛罪者の存在もあって普通の人と偉能者の間に壁ができ、長い時を経て騒動も落ち着き、学校を創られるまで沈静化していった現在でもその
言いながらもパネルを慣れている手つきで押していく葉隠。
「やがて超常が発現及び
ピロン、という電子音と共に扉が自動で開き、日向達を全員室内に入れ、電気をつける。明るくなった周りは市民体育館のような広さで中央にリングのような設置されている。
「……これは……」
「三年間お前達が一番世話になる
そこはあらゆる状況に対応した装置やステージが置かれ、鍛えるのに適した場所だと一目でわかった。
「……広いな……」
「そこ、ボーッとするな。ほれ」
「わっとと……箒……?」
広さに呆然としていた所を葉隠は箒やモップなどの掃除用具を渡していき、分担を説明して清掃するように指示する。
「迅速に行動しろ。時間は有限……終わったら声をかけろ」
「あの、終わったらここを使っても良いんですか?」
「いや、それよりも良い事をしよう」
久楽の言葉に少し考え、何か悪いことを思い付いたのか少し悪どい笑みを見せる葉隠。
「オレ対お前達による変則バトルマッチだ……放課後ファーストフード店でワイワイ雑談はあまり望むなよ……言ったハズだ。『試練を与え続け鍛える』とな」
その言葉に一部の生徒が硬直したのは言うまでもない。
次回から一部の自己紹介と共にゾクゾク出てきます。
次回は戦闘シーンはスキップします。何故なら書いていたら全員の自己紹介が終わらないから!!
~歴史トリビア~
板垣退助の名言である『板垣死すとも自由は死せず』は……本当は『痛いから早く医者を呼んでくれ』と言った説がある。
.