誰が為に花束を   作:ハレル家

9 / 12
 お久しぶりです。ハレル家です。
 今回は日向キュンが抱える能力に迫ります……個人的に羨ましいですが、生きてくとなると大変難しく使い勝手が悪いです。


7史:C.E.C.

 橙色に染まる廊下を歩く全体的にくたびれている印象の男性--葉隠は自分が受け持つクラスの一部の生徒がいまだに帰って来ない事を聞き、まだ高校生成り立てだからはっちゃけたい気持ちを理解しつつ、それでも周囲に迷惑をかけないで欲しいとため息を一つ吐く。

 歩いていくと廊下側の窓から二人の青年が覗いていた。入学式初日に女子生徒にナンパしていたBクラスの二人だと思い出し、その後ろから教室の中の様子を見ると件の生徒が全員いた。

 

「……お前ら、まだ勝負が続いてたんか」

「げ、葉隠センセー」

 

 一人の生徒に放課後エントリー用紙をかけて戦う事を聞いたがまだ続いているとは思わず呟き、その呟きから明森が葉隠に気付いた。

 明森が嫌そうな表情をしたのは、おそらく入学式初日に多対一の際に一番有利なハズなのにボコボコにされた事を思い出したからだろう。

 

「いま、どの辺りだ?」

「緑川くんが日向くんと勝負しようとしてて、この勝敗で決まります」

 

 近くにいたクックルーをモフっている鍵宮に聞くと、どうやらファイナルラウンドに間に合ったようだ。

 

「え、えっと、何で勝負するんですか? 残ってるのは心しかありませんが……?」

「ふふふ……おれの勝負はわかりやすいぞ」

 

 突然の指名に戸惑う日向に緑川は怪しく笑いながら、勝負の内容を発表する。

 

「ジャンケンで先に五勝したやつが勝ちだ!」

「……なんか想像してたよりも平和そうだね~」

「てっきり机に片手をついて、広げた指と指の間をもう片方の手に持ったボールペンで往復するように刺していって、その早さを競うかと思いました」

「いや待つんだ!」

 

 緑川の提示した拍子抜けな反応を見せる桜井と空元だが、赤井が待ったをかけた。

 

「偉能ありのイカサマOKなジャンケンをする気だ!!」

「マジでか!?」

 

 赤井の言葉に驚くザックフォード。まさかの言葉に全員が緑川に目を向けると、本人は不適な笑みを見せて答えた。

 

「え、いや、それ……は……なぁ?」

「なぁ? じゃねーよ!!」

 

 目が泳ぎ、口が震えて図星だった事が一目瞭然な様子に蛇崎のツッコミが教室に響いた。

 

「お前、相手は偉能に目覚めてすらないのに勝負挑むとか汚いなーッ!!」

「一度でいいから日向の爪を煎じて飲め」

「べ、別に良いだろ!! これから偉能者相手に戦う訳だから!」

 

 明森とザックフォードの言葉に反論できない緑川が苦し紛れに言うも、彼に向けられる視線は変わらない。

 

「日向、別に勝負に乗る必要はねぇぜ? チキンレースを提案して、後ろからアイツを外に押し出せば勝利だ」

「お前も何を吹き込んでるの!? そしてお前の言う外は“線の外”だよな!? 決して“窓の外”じゃないよな!?」

 

 日向に囁くように言う田中の言葉に緑川は必死に問い詰めるが、田中は知らないリアクションをして惚けた。

 

「あの、やります」

 

 静かに手を挙げ、日向は戦う意思を見せる。

 

「別に乗る必要ないんだよー……」

「いえ、その、これなら、心配はないかなって……」

「……?」

 

 蛇崎の心配に日向は辿々しく答える。ふと、蛇崎は日向の言葉に違和感を覚える。

 

「は、早く始めようぜ!」

「あ、はい!!」

 

 緑川の声に日向が駆け寄る。その様子に緑川は内心ほくそ笑む。

 

 ……すでに、おれの偉業(ポヤイス)は発動してるぜ……

 

 “グレガー・マグレガー”

 巧みな話術や策略によって、存在しない嘘の国を売った史上最悪の詐欺師。

 まばゆいばかりのメダルと勲章を下げた1人のカリスマがロンドンに姿を現した。彼は『ポヤイス国の領主』を名乗り、土地を譲渡するという王から与えられた書面をちらつかせ、手放しの歓迎を受けた。

 これが得体の知れない男であったなら警戒されていたかもしれないが、グレガー・マグレガーは国外の激しい戦闘に派遣されて何度も死線をくぐり抜けてきたことで知られていた……いわば英雄だった。

 そんな人物が冒険の旅からロンドンに戻り、できたばかりの自分の国--ポヤイスに投資してくれる人間を探しているというのだ。

 グレガーの語る楽園のような環境であるポヤイスに民衆が耳を傾け、彼に投資を行う……それが富と名声と上流階級への仲間入りを強く望んでいたグレガーの嘘とは気付かずに……

 ポヤイス国にたどり着いた時には遅く、彼らの抱いた希望が音を立てて崩れていった……月日が経っても状況はまったく変わらなかった。町は1つとして見つからず、助けが来る様子はなく、病気が広がって少しずつ命が奪われた……幸運にも通りかかったイギリスの船に乗せてもらい、ロンドンへと帰る事ができたが……男女合わせて270人がポヤイス国へ旅立ったが、再び母国の土を踏むことができたのは50人に満たなかった。

 

 ……日向には悪いが、先手必勝だ……

 

 偉業である『虚栄の悪夢(ポヤイス)』はその逸話を元にしたもので、相手は自身が放つ言葉に対する『疑惑』を感じなくなる。

 単純ではあるが、話術や心理戦において強い部類の能力……幸いと言えば、緑川本人はこの能力の使い方を心理戦ぐらいしか使えないと思っている事と本人が心理戦に向いてないという事だろう。

 

「それじゃ、俺はグーを出すぜ……」

「……ハイ……フゥー……」

 

 早速自身の虚栄の悪夢(ポヤイス)で牽制する緑川。日向は返事をしてから集中を始める。

 

「……いや出す手を言えって……」

「まぁまぁ、人の自由だから別に言わなくて良いだろ」

 

 てっきり日向も言うと思ってた緑川は呟くも、田中に宥められる。

 

「「じゃーんけーん……ポイッ!」」

 

 かけ声と共に出たのは緑川のパーに対し、日向はチョキだった。

 

「ま、まぁ、最初だしな……パーを出すぜ」

 

 たまたま勝てたと判断した緑川は改めて宣言してジャンケンするも、緑川のグーに対して日向はパーを出して連勝する。

 

「緑川、二連勝されてるぞ!」

「ま、まぐれだろ……チョキを出す」

 

 青馬にヤジを飛ばされ、気を取り直してもう一度ジャンケンするが、緑川のチョキに対して日向はグーを出した。

 

「……あ、あれ?」

「緑川、さっさと偉業使わねぇとやられるぞ!」

「いや、俺はすでに使って……」

 

 青馬の声に戸惑いながら偉業を使用している事を答える。しかし、またしても緑川が負け、日向が勝った。

 

「な、なんでっ!? 偉業は使ってるのに全然効いてねぇ!? 無効化されてる感じはしないのにどうして……!?」

「ラストだよ~……」

 

 桜井の声に最後のジャンケンが始まり、慌てて出した緑川はパー、それに対して日向の出したのはチョキだった。

 

「なぁー!?」

「緑川ぁぁぁぁぁぁ!?」

「よっしゃ! やったな日向ちゃん……日向ちゃん?」

 

 まさかの完敗に嘆く緑川と青馬、その様子に安堵する桜井と田中、赤井と黄嶋の四人。日向が勝った事に喜ぶ蛇崎が声をかけるも、日向が反応しない事に首をかしげた。

 

「……」

「もう終わったから構えなくていいんだけど……日向ちゃん? おーい」

 

 いまだに固まる日向に蛇崎が声をかけるも反応しない。その様子を見てた葉隠が力強く手を叩いた。

 

「え、あ、あれ? も、もう終わりました?」

「日向ちゃんの勝ちだけど……あれ? 自分で気付いてない?」

「……なるほど。トリックはそういう事か」

 

 空気が響くというよりも爆発するような大きな音に驚き、いつものしどろもどろな日向に戻ったが、勝負の内容に気付かないぐらい集中してた様子に目を点にする蛇崎。その様子に葉隠が納得した表情になる。

 

「……日向、お前は物事に没頭しすぎて、周囲が見えなくなる事がある……違うか?」

「……な、何でそれを……」

 

 葉隠の言葉に自分しか知らない事を言われ、戸惑いを見せる。その様子に自身の予想が当たっていた事に葉隠は確信する。

 

「やはりC.E.C.か……」

「CEC? 完全解答を意味するアレ?」

「それはQ.E.D.」

 

 視界の端で青馬と田中の漫才モドキが始まり、葉隠は間違いを訂正しようとする。

 

「先天性集中力過剰……精神疾患の一種ですね」

 

 しかし、湊の言葉に知っていた事に感心しながらも続きを促す。

 

「脳の一部に何らかの欠損があり、前頭葉の持つ実行機能が制御できず、一つの事象に対する認知、判断、選択、精査が過度に行われた結果……一時的に身動きとれなくなってしまいます」

 

 ……なるほど。コイツが要領が悪かったのはそういう事か……

 

 ザックフォードは日向とのファーストコンタクトや今までの行動を振り返り、当てはまる事があることを思い出して納得する。

 

「それが何で俺の偉業が効かなかったんだよ」

「集中力を研ぎ澄まし、感覚の精度を上げ続ける。それは限りなく上がり続け……ついには、時間の流れがゆっくりになる」

 

 緑川の言葉に葉隠が答える。しかし、集中力が上がり続けた結果を聞き、クラスにいた全員は戸惑いを隠せず固まる。

 

「そのゆっくりとした世界では自分もゆっくりになるが、脳だけは加速しているから常に最適な行動を選択できる……おそらくだが、集中力の強さから緑川の言葉が聞こえず、相手の手がスローモーションで簡単にわかってたんだろ」

 

 葉隠の言葉に全員が日向にゆっくりと視線を向ける。その視線に耐えきれず、日向はおそるおそる首を縦に頷いた。

 

 ……気味悪がられるだろうなぁ……

 

「……な、なんだそれ!? チートだチート!!」

「お前、本当に偉能者じゃないよな!? 素で時間操作できるってヤバイだろ!!」

「今度は僕と勝負しましょう。もちろんジャン拳です」

「イントネーション怪しくなかった!? 空本の言うジャンケンって殴り合いじゃないよな!」

 

 自身の経験から気味悪がられると思っていた日向だが、全員が正反対のリアクションに目を点にした。

 

「……そ、そんな風に言われたのは、初めてです」

「お前の体質をここまでコントロールできるようにしたのは大した人間だ……一目会いたかったよ」

 

 戸惑う日向の頭を数回優しく触れながら、言葉にする葉隠。

 不思議と嫌ではない感覚に日向は少し照れるが、強い頭痛に襲われる。初めてクックルーと助けた時と同じ痛みに悶え、またしても視界がテレビの砂嵐のように荒れだした。

 

 

 

 --…………、………………--

 

 

 

 またしても人影が何かを喋っているが声は聞こえず、しかし今度は姿が少しだけ鮮明に映っており、女性のシルエットを最後に視界が元に戻っていく。

 

「お、おい日向!? 大丈夫かよ!」

「短時間とはいえ、脳を酷使したんだ。むしろデメリット無しで使えるハズがないだろ。冷たいヤツはないか? 飲み物でも構わん」

 

 心配する蛇崎に葉隠が落ち着かせる。湊から冷たいお茶を受け取り、日向に渡す。

 

「ダイジョブー?」

「……ありがとうございます」

「ピューイ!」

「とはいえ、これで決まりだね~」

 

 心配するクックルーを撫でる日向。モフモフと柔らかい毛の感触が手に伝わる。その様子を見て大丈夫と判断した桜井が空元にエントリー用紙を渡した。

 

「あ、それと青馬と緑川もあげよう」

「いらないよ!? そんな生まれた猫を譲るみたいに!」

 

 鍵宮のツッコミを最後にCクラスのエントリー用紙が埋まり、勝ち取った事に空元は満足げな表情を見せた。





 ~歴史トリビア~
 森鴎外が初孫につけた名前は『森マックス』。

 於菟の長男である初孫に「真章(まくす)=MAX」と命名。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。