俺は魔導コンロをアイテムボックスから出して、鍋を火に掛ける。実はこんな事もあろうかとフェル達に食わす物は既に下拵えを済ませてある。後はもう一度熱を入れたら完成だ。今回はこの国でもお馴染みの叉焼を作ったぞ。一応説明すると、こっちでいう叉焼は肉にタレを漬け込んで焼き上げるのに対して、現代日本のはいわゆる煮豚だ。今日はこれを丼で出そう。
~この日、戦場へ向かう前~
まずは焼豚から。魔導コンロのオーブンを温めておいて、その間に正油に味醂、甜麺醤に紹興酒、ネギの青い部分と生姜で漬け込みダレを作る。甜麺醤や紹興酒は普通そう簡単に減るモンじゃないけど、食いしん坊トリオの飯に使えば、あっという間になくなるだろうな。まぁ、それはさておき料理を続けよう。
タレに漬け込んだ肉を魔導コンロのオーブンに入れて40分~1時間ほど焼く。途中でオーブンを開けてタレを塗り、更に照りを出す為に水飴をその上から塗る。串を刺して赤い汁が出なければ焼き上がりだ。
煮豚は肉をタコ糸で縛って表面をサッと焼いたら、水で煮込む。煮えたら正油と味醂、ネギの青い部分と生姜を加えて更に煮込む。それともう1つ、紅茶の叉焼も作ってある。こちらは水を紅茶に変えて、そのまま煮込む。ここで香辛料を入れると味がボヤけるからな。で、煮上がったら正油ダレを掛けて、さっき残ったネギの白いところを千切りにして、丼に乗せた叉焼の上に散らせばO.K.。これでいつでもトリオに食わせられるぞ。
~そして現在~
さて、トリオが叉焼丼を食ってる間に兵士さん達の軽食を作るか。俺は再び魔導コンロの前に立ち、料理を開始した。場所は雪蓮や祭さん達が使う、幹部用の天幕。流石に一般の兵士さん達にはネットスーパーを見せられないからな。
アイテムボックスには以前、ドワーフの鍛冶師のアレシュさんから作り方を教えて貰ったソーセージが沢山ある。今度あの親爺さん自慢のBBQコンロを使って、みんなに料理を振る舞うのも良いかもね。まぁ今回作るのはバーベキューじゃないから使わないけど。ん、何を作るかって?フフン、それは……みんな大好き、アメリカンドッグだ。これならそこそこ腹持ちも良いし、食べ過ぎる心配もないだろう。
ネットスーパーで某M社のホットケーキミックスを購入、箱の裏に載っているアメリカンドッグのレシピ通りに作るだけだ。
粉を溶いたら串に指したソーセージに纏わせて、揚げていくだけ。ケチャップとマスタードを適量添えて、兵士さん数人と手分けして全員に配る。
兵士(モブ)
「やっぱ向田様の料理は旨ぇ」
兵士(モブ)
「この甘い皮が意外と肉に合うなぁ」兵士さん達にも好評だな。さて、雪蓮達の天幕に戻るとするか。
祭
「赤いタレと辛子、皮と肉がケンカしないで一つに纏まってるのぅ。これでやる気もみなぎるってモンじゃ」
冥琳
「串のおかげで、箸も匙も使わず食べられるのが良いですな」
穏
「書簡を読みながらでも食べられそうですねぇ……モグモグ」
雪蓮
「これも美味しい♪また作って貰おう」雪蓮に至っては右手に持ったのを食べつつ、もう1本に左手を伸ばしてるよ。
祭
「だから策殿。子供のような真似をするでないというに」ハハッ(苦笑)ま、まぁ雪蓮、祭さん、冥琳、穏には満足頂いたようだけど、孫権達はどうだろう。流石に尋ねにいくのはちょっと怖くて、聞き耳を立ててみる。
孫権
「確かに美味しい……料理の腕は認めても良いわ」
思春
「……雪蓮様がご自慢なさるだけの事はありますな」
明命
「モグ……グスッ…モグモグ」明命?君は何で泣きながら食ってるの?
明命
「戦場で食べるご飯なんて、今まで碌な物じゃなかったのに……こんな美味しい料理が食べられるなんて……ヒク、エッグ……」大袈裟だなぁ……あ、そういやあっちの冒険者も『移動中はマズい携帯食しか食えない』って言ってたな。イヤ、アイテムボックスがあって良かったよホント。
フェル
『おい、あれはなんだ?』叉焼丼を食い終わったフェルが雪蓮達の方へ顔を向ける。
向田
「アメリカンドッグって軽食だよ。材料はまだあるけど……食うか?」
フェル
『無論だ』
ドラちゃん
『あ、ズリィぞフェル。俺も食うからな!』
スイ
『スイも食べる~』ハァー。予想通りの結果にため息出ちゃったよ。このあと俺はフェル達に大量のアメリカンドッグを作らされる事となった。
そして夜も更けて、いよいよ作戦実行の時が近づいてきた。
向田
「ふぅ……」落ち着かない心を少しでも静めようと、天幕から出て空を見上げる。
向田
「ああは言ったものの……やっぱり怖いな」人と人が殺し合う戦場。直視するのも怖いというのは、偽らざる感情ってやつだろう。
向田
「はぁ……」戦場に立った時、俺はどうすれば良いのか?部隊なんて率いた事もない自分が、どうすれば上手く行動出来るのか。考えなければならない事は山ほどあるのに、どうにも思考が止まってしまう。
孫権
「……一人で何をしている」孫権が隣へと歩いてきて、俺に問う。
向田
「んー……考え事かな」
孫権
「何を考えている……?」
向田
「どうすりゃ生き残れるか……かな」体は神様からの絶対防御の加護があるからまず死ぬ事はないけど、精神的にね。こんな日々が毎日続けばきっと俺、心が病むと思う。
孫権
「……怖いの?」
向田
「ああ。正直怖い」
孫権
「そうか……ふっ、男のくせに軟弱な奴ね」
向田
「軟弱かもなぁ……けど、この作戦は俺の発言から始まったんだ。だから……怖いけど逃げ出す訳にはいかないだろ。そう思うから……お月さんを見上げて、生き延びられますようにって、願をかけてたって訳」
孫権
「そうか……」
向田
「孫権はどうしてここに?」
孫権
「わ、私は、その……これが私の初陣なのだ。緊張して何が悪い」
向田
「あ、なるほど……」拗ねたような孫権の口ぶりに、俺は唐突に冥琳の言葉を思いだす。
王者たらんとして無理をしている──初陣を迎えて緊張しているといった孫権の言葉に繋がった。初めは何だか取っつきにくい娘だなって思ってたけど。案外、俺と良く似ているのかもしれない。
向田
「ははっ……」
孫権
「な、何を笑っているんだ、無礼な!」
向田
「ごめん。でもバカにするつもりで笑ったんじゃないんだ。たださ、初めて会った時があんな感じだったから……緊張してるって聞いて、今は何だか親近感を感じちゃってさ……」
孫権
「ふんっ……」
向田
「……お互い、無事でいられると良いな」
孫権
「……盗賊如き下郎に遅れを取るつもりはない。お前も安心しておけ」
向田
「えっ?」
孫権
「……お前は私が守ってやる」まるで照れ隠しをするように、孫権は明後日の方向を見つめながら言葉を紡ぐ。
向田
「……うーむ」
孫権
「なんだ。私に守られるのが不満なのかっ?」
向田
「あ、違う違う……女の子から守ってやるって言われて、思わず嬉しいなー、なんて思ってしまった自分が、なんか悔しいというか、呆れたというか。こういう場合、俺が守ってやるぜ!ぐらい言う方が格好つくのになぁって」
孫権
「……ふっ。無理はせん事だな」
向田
「やっぱ……ムリなのかなぁ……」いくら冒険者の経験があるからって、所詮はフェル達任せだった俺に、人間同士で斬り合う事なんて出来る訳がない。
向田
「……今はまだムリかもしれないけど。そういう気概は持っておこう。うんうん」
孫権
「一人で何をブツブツ言っている……私は別にお前に守ってもらおうなどと思ってないぞ。それに……私は呉の王族のはしくれとして兵達の上に立つ。そして兵達を守ってみせる。それがひいては民を守り、国を守る事に繋がる……私はそう信じている」グッと拳に力を入れ、月を睨み付けながら独白する孫権の姿。それは恐らく、ムリをしている孫権の内から涌き出る痛々しさから来るのだろう。
向田
「…やっぱりさ。孫権は俺が守る」
孫権
「何?」
向田
「孫権が兵のみんなを守るなら、孫権は俺が守ってあげるよ」
孫権
「……き、貴様に出来るのか?」
向田
「出来る、と信じて、俺は俺の出来る事を精一杯にやる。そうやって……守ってあげる。孫権を」
孫権
「……ふ、ふんっ。期待はせん。でも……好きにすれば良い」
向田
「ん。好きにする」
孫権
「……変な奴だ。私はもう行く……貴様も惚けすぎて作戦決行に遅れんようにしろ」
向田
「了解。また後でな」
孫権
「……ふんっ」つんけんした感じで背を向けた孫権だったが、髪から微かに見える耳が、びっくりするぐらい真っ赤に染まっていた。しかし……我ながらどうしてあんな事、口にしたんだろう。自分でいうのもアレだけど結構なヘタレだぞ、俺。意地っ張りな孫権の態度に当てられたのかな?
向田
「何か……案外分かりやすい性格かも。すぐに顔に出るしなぁ」ほんの数分、言葉を交わしただけ。それで全てが分かったとは思わない。だけど……孫権がどこかムリをしている事は、何となく分かった気がした──。
作戦決行の時がやって来た……。
冥琳
「作戦を開始する。興覇、幼平。行け!」
思春・明命
「「はっ!」」
向田
「ドラちゃん、頼んだよ」
ドラちゃん
『クゥーッ!腕が鳴るぜ♪』
冥琳
「黄蓋殿は雪蓮と共に正面へ。後は作戦通りに頼みます」
祭
「任せておけ。策殿、行くぞ!」
雪蓮
「了解……蓮華、行ってくるわね」
孫権
「はい。お気を付けて……」雪蓮と祭さんは直属の部下を集めると、その中の隊長クラスの兵士さんへ指示を出す。
雪蓮
「孫策隊、出るぞ!」
兵士(モブ)
「応っ!」
祭
「黄蓋隊も続く!皆、儂についてこい!」
兵士(モブ)
「応っ!」
冥琳
「穏は蓮華様と後ろへ下がれ」
穏
「はーい!行きましょ、蓮華様♪」
孫権
「待て……向田。武運を祈っておいてやる」
向田
「ありがとう」
孫権
「うむ……行くぞ、穏」俺にそう言って、孫権は軍の後方へ駆け出していった。
穏
「あ、待って下さい、蓮華様ぁ~」おいてけぼりを食らう穏。やっぱりこの娘、基本はトロいんだな……
向田
「……うーん。ツンデレだなぁ」
冥琳
「なんだソレは?」
スイ
『ね~あるじー。それ美味しいのぉ~?』キョトンとした顔で問うてきた冥琳に俺は説明する。あとスイよ、食べ物の名前じゃないからな。
向田
「天の言葉といったところかな……普段はつんけんしてるのに、たまーに優しいところを見せる子、またはその様子の事」
冥琳
「……ふっ、言い得て妙な言葉だな」苦笑する冥琳の遥か後方、城の正門の辺りから、腹に響き渡るほどの
因みに実在するM社のホットケーキミックスのパッケージ裏に、アメリカンドッグの作り方が書いてあるかどうかは私も知りません。テキトーに書いただけです。
m(._.)m
蜀軍勢のオリキャラもまだまだ募集していますので、活動報告によろしくお願いします。