俺達が玉座の間に連れてこられるとこの城に仕えてる使用人の人達が、部屋に椅子とテーブルを設置してくれた。テキパキと仕事しながらも、やっぱりフェルが怖いらしく、目が合ったりする度悲鳴を上げたり、顔が青褪めたりしている。そうやって準備が整うと使用人の人達はそそくさと、玉座の間を出ていった。
孫策
「それじゃ改めて、私は孫策。この館の主で、この呉を治める領主よ」
黄蓋
「儂は黄蓋。先代様の頃より、この孫家に仕える宿将じゃ」そして門前で出会ったメガネ女性が、
「私は周瑜という。貴様の尋問官の一人と思ってもらえば良い」はぁ、そうですか。しかしこの周瑜さんも美人だよなぁ。俺が知ってる三國志の登場人物って髭モジャなおっさんのイメージしかないんだけど。
向田
「……俺は向田と言います。で、このデカいのがフェンリルという、あちらでは伝説級の魔獣で、名前を……」
フェル
『我はフェルだ。一応言っておくが、我がその気になればこの大陸などすぐに消し炭と化すからな。それだけは覚えておけ』いきなり何言ってんだこいつは!相変わらずの不遜な態度に出るフェルに俺は内心ヒヤヒヤする。
スイ
『スイはねー、スイって言うの』スイもフェルに続いて自己紹介する。でもスイ、君が会話できるの、俺とフェルとドラちゃんだけだからね。
黄蓋
「何じゃ、この毬みたいなのは?」怪訝そうにスイを見下ろす黄蓋さん。スライムってこの大陸には存在しないんだな。
向田
「この子はスライムという生き物で、スイと名付けました。因みにまだ子供なので、失礼は大目に見て下さい」
ドラちゃん
『ヨッ!』ドラちゃんが孫策さん達の近くまで飛んでいって、手を上げてフレンドリーに挨拶する。
孫策
「アラ可愛い。これって龍の子供?」
向田
「ピクシードラゴンという希少な種類の龍です。これでも成体なんですよ。とはいえ、スッゴく強いですけど」
孫策
「そうなの?でも可愛ぃぃ~♪」ドラちゃんを見た途端、妙にテンションが高くなる孫策さんを黄蓋さんと周瑜さんは呆れた様子で見つめ、ため息を吐く。
ドラちゃん
『な、何だよこいつ!オイ離せ!』ドラちゃんをギュッと抱きしめて嬉しそうな孫策さん。対してドラちゃんは逃れようと、必死にもがく。
ドラちゃん
『助けてくれー!お前、こいつ何とかしろよ!』俺に訴えかけてくるドラちゃんだけど……ご愁傷様です。
孫策
「で、あなたをここに連れてきた理由なんだけど……」あーはいはい、戦に勝つ為にフェルを使いたいんでしょ?分かってますって。
孫策
「その前に……我らが軍師様。この人、どう判断する?」
周瑜
「……」孫策さんに尋ねられた周瑜さんは心の奥を見透かすように、目を細めて俺を見つめてくる。
向田
「……」俺はその瞳をグッと見返した……フェル達がいるんだから恐れる必要はないし、やましい事なんて始めっからない。
周瑜
「……本当にこやつが天の御使いかどうかは分からないが、少なくとも我らの知らぬ国からやって来たという事は分かる」イヤだから最初っからそう言ってますよね?それに天の御使いって何?デミウルゴス様の事知ってるの?
周瑜
「それに確かに胡散臭くはあるが、人柄は悪くない。……何よりまっすぐで良い目をしている。こういう人間は、多少抜けているところがあっても、悪人にはなりきれんだろう。だからこそ後ろに控えている従魔とやらもついてくるのだろうしな」
黄蓋
「お眼鏡に適ったか……儂もこやつの度胸ぶりは、中々好ましいと思っておる。まあ従魔ありきなのじゃろうが」
孫策
「なら決まりかな?」
周瑜
「天の御使いとして祭り上げる資格はあるだろう……雪蓮の好きにすれば良いわ」
孫策
「了解♪」
向田
「……どういう事ですか?」みんなさっきから俺を放ったらかしにして、盛り上がっているけど、何をさせたい訳?
黄蓋
「さっきも少し話したが、貴様がここへやって来る前に、管輅という占い師が占いを吹聴しておったのだよ」
周瑜
「管輅曰く、この乱世を鎮める者は、海の向こうからやって来る天の御使いである、とな」
孫策
「始めは信じてなかったんだけどね。何もない所に開いた穴を通ってあなたが現れた。なら、あなたが天の御使いという存在……ううん、そういう存在になれるって事」
向田
「……そういう存在になれる?ああ、なるほど」天の御使いというか、文字通り神様の使いだけどね。もしそうでなくても、偽称する資格はあるって事か。一応状況証拠は揃ってるんだし。
周瑜
「……分かったようだな」
向田
「一応……で、俺はこれからどうなるんでしょうか?」
周瑜
「それは我らの主の意志による……どうする?」
孫策
「元々、考えていた事を実行するわよ。その為に拾ってきたんですもの」
黄蓋
「ふむ……まぁお好きにすればよろしい。儂は特に反対はせん……何より、儂はこいつを気に入った」がははっ、と豪快に笑った黄蓋さんが、俺の肩をドンッと叩く。……めっちゃくちゃ力があるな、この人。
向田
「痛てて……で、俺はどうなるんですか?」
孫策
「その前に質問……あなたはこれからどうするつもりでいるの?」そう言われてもなぁ。デミウルゴス様にはどこかの王に取り入るように言われたけど、孫策さんの世話になれるかどうか保証もないし、どうしようかな。そう思い、答えに詰まっていた時だった。
兵士(モブ)
「大変です!辰巳の方角より
フェル
「気配から察するにミノタウルスのようだな。ざっと300.頭は居るぞ」フェルはそう言うと、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。つーかこの大陸にも魔物はいるんだ!孫策さん達は大慌てで、
孫策
「街の住民の避難を急がせて!屋敷に居る全員で反撃に出るわよ。陸遜達を叩き起こして!」鬼気迫る表情で指示を出していく孫策さん。これは緊急事態だ!この様子にフェルは落ち着き払って、声を張って城の全員に告げる
フェル
「待て人間どもよ……」
孫策
「今、忙しいのよ!後にして!」
フェル
「……その魔物、我らが始末してやろう」
孫策
「……えっ?」フェルの言葉が意外だったのか、孫策さんの表情が一転してキョトンとなる。
黄蓋
「では儂らも……」
フェル
「要らぬ。むしろ邪魔だ。ウロチョロされてはかなわん」フェルお前、せっかく言ってくれたのにその言い草はないだろう。そもそもここじゃフェンリル自体知られてないんだぞ。
ドラちゃん
『クゥーッ、ミノタウルスの群れか。久々に暴れてやるぜ♪』
スイ
『スイも牛さん。やっつけるー♪』ホントバトルジャンキーだね、うちの子達は。仕方ない、討伐に行こうか。この状況はフォローも出来ないし、兵士さん達をムダに死なす訳にもいかないしね。
向田
「まぁ300.匹程度なら、この面子でどうにかなると思いますので」
黄蓋
「しかし……」不安が拭いきれない黄蓋さんを孫策さんが制する。
孫策
「それなら私が一隊を率いて後ろに控えておくわよ。要は邪魔にならなきゃ良いんでしょ?」
黄蓋
「……しょうがなかろう。但し、ムチャは為さらぬようにな」
孫策
「もう!いつまでも子供扱いなんだから!(膨)」
黄蓋
「儂から見れば一生子供じゃ!」黄蓋さんは膨れっ面の孫策さんを周瑜さんに任せると、俺にヒッソリと囁く。
黄蓋
「我が主も実は、かなりの戦闘狂での。お主の出来る範囲で構わんから、抑えてくれぬか。頼む」黄蓋さんがさっきまでとうって変わって真面目な顔で俺に頭を下げる。そっか、考えてみれば黄蓋さんは先代領主の頃からこの家に仕えてるんだし、孫策さんもある意味娘みたいなモンなんだろう。俺は頷いて、フェル達とミノタウルス討伐に向かった。
ミノタウルスと対峙して僅か数分。そこには凄惨な光景が広がっていた……ええ、辺り一面ミノタウルスの死体ばかりでしたが何か?ホンットうちの子達相変わらず容赦ないね。とにかくこちら側に死傷者が出なくて良かったよ。兵士さん達がホッとしている中、孫策さんは若干不満そうだけど。とりあえず俺がミノタウルスをアイテムボックスにしまおうとしたら、孫策さんの目に留まった。
孫策
「ねえねえ、その箱何?どっから出てきたの?」好奇心旺盛な孫策さんに捕まり質問攻めに遭う俺。側を飛び回っていたドラちゃんが爆笑している。
ドラちゃん
『ハハハッ、ザマアみろ。これでおあいこだな』ただ孫策さんは質問しながら、俺にすり寄ってくるのでそこはちょっと嬉しい。だってこんな美女と密着状態なんだぜ。そりゃ男としては、多少はね……。
ミノタウルス討伐を終えたフェル達はそのまま玉座の間で寝てしまった。そういやこっちに来た時点で夜だったもんな、俺と孫策さん、黄蓋さん、周瑜さんはさっきのミノタウルス騒動で途中になっていた話を再開した。
孫策
「行く宛がなかったら、私達と行動を共にしない?」ここを出ていくと、伝える前に孫策さんから提案された。
向田
「へっ?」
孫策
「あなたを保護してあげるって言ってるの」保護ですか……でも俺、一応カレーリナにある家に【ド○でも○ア】でいつでも帰れるんだよな。もしこっちで暮らすにしても、フェル達が居れば食うには困らんし。いざとなりゃ商人の真似事でもしながら、生計を立てるのも不可能じゃないし。ん、待てよ?これって考えてみればツイてるんじゃないか。
向田
「本当ですか?」
孫策
「そっ。一人と三匹で生きるよりは良いんじゃない?」
向田
「……ええ。この大陸の事を教えてもらわないとならないし。そうして頂けると有り難いですが」
孫策
「なら決定……但し幾つか条件があるわ」
向田
「条件?」はい、予測はついてます。
孫策
「ええ。まず一つ。あなたの知恵をこの呉の統治に役立てる事」あれ、俺?フェルじゃなくて?
向田
「知恵ですか?俺の知恵って……俺、あんまり頭良くないですよ?」
孫策
「頭の善し悪しを言ってるんじゃないの。あなたが居た大陸とかそこの国々、まぁどっちでも良いんだけど、その辺りで知っている事を、私達に教えなさい」
向田
「ああ、そういうのなら出来る……かな?」何だかんだ言っても、あっちの大陸にも随分長い間居たしな。社会の仕組みとか、文化圏の違いとかは、少しは役に立つだろう。
孫策
「簡単でしょ?で、もう一つは私に仕えている武将達と、あなたから率先して交流を持つ事」
向田
「……どういう事で?」
孫策
「有り体に言えば口説いて子作りに励めって事ね」……えぇぇぇぇーっ!
向田
「はぁ!?こ、こ、子作りって!?」な、何を突拍子もない事を言ってんだこの人!
孫策
「あなたの
向田
「え、あ、はぁ……」説明を受けて、孫策さんが何を考えているのかがぼんやりとではあるが理解出来た。けど……それとこれとは話が別だ。
向田
「それって外戚政治みたいなものですか?俺は子作りに専念し、孫呉に繁栄をもたらせば良いと?」
孫策
「そういう事……あ、勿論嫌がる女の子にするのはダメだからね」うん、まあそうなるよな。いわれるまでもないけど。
孫策
「あなたが口説いて、女の子が良いって言うまでは手を出しちゃダメ。分かった?」
向田
「それが条件?」
孫策
「そ♪」つくづく思う。この人軽いなぁ。
向田
「……そんなので良いの?」
周瑜
「良いとは言えんが、伯符の言う事にも一理はあるからな」
向田
「一理って……天の御使いとかいう“何だか分からないけど凄そうなモノ”に対して、畏敬を呼び起こそうって事だろうけど……」
周瑜
「良く分かったな」
向田
「そりゃまぁ……歴史を振り返れば、そういう感覚があるの、理解出来るし」卑弥呼然り、キリスト然り、仏陀然り。神がかったモノに対して畏敬を抱くっていうのは、昔の人なら当然ある事だ。そしてもう1つの畏敬の対象となるのが、血統に対する過剰なまでの信仰だろう。
向田
「俺を天の御使いという事にするなら、神秘と血統の2つが手に入るって事だろう?」話し方に遠慮がなくなってきたな、俺。
周瑜
「そういう事だ。呉に天の御使いの血が入ったという認識が世に広まれば、庶人の心の中に、呉の人間に対しての畏敬の感情が起こる。その畏怖、畏敬の念は呉にとっては大きな利益になり得るだろう……今後の事を考えれば、伯符の判断もあながち間違っているとは言えん」
黄蓋
「貴様も男なんだから、公認で女とイチャイチャ出来て嬉しいじゃろう?」な、何だか大変な事になってるんだけど?
『お主が願う恋愛運も叶うやもしれんでの』デミウルゴス様の言葉が脳内をフィードバックする。しかしデミウルゴス様、これって極端過ぎやしませんかぁーっ!?
中々メシ話に持っていけない……四席辺りになるか?