とんでもスキルで真・恋姫無双   作:越後屋大輔

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あ、スイが一言も喋ってない……


第二十五席雪蓮、洛陽を復興させんとするのこと

冥琳

「何唸っているのよ?」冥琳が戻るなり、雪蓮に突っ込む。

雪蓮

「剛が私の事、苛めるんだもん」冥琳はニヤニヤしながら俺を見つめて

冥琳

「ほう。向田も強くなったな……これからは安心して、雪蓮のお守りを任せられそうだ」

向田

「俺じゃ役者不足も甚だしいけどなぁ……ま、何にせよ、お帰り冥琳。首尾はどうだったの?」

冥琳

「上々だ。台帳と地図はしっかり確保した……これは呉にとって無形の財産となるだろう」

向田

「情報は大切だからね……で、俺達はこれからどうする?」

冥琳

「劉備と曹操の一番乗り争いの後、洛陽に入城する……少し城内が荒れてるから、その再建に力を尽くそうと思う」あ~、白装束の仕業でね。あれはフェルまで顔をしかめるくらい、酷かったモンな。

雪蓮

「荒れてるってどういう事?」まだ洛陽に入城していない雪蓮が、キョトンとした顔で聞いてきた。それには思春が答えた。

思春

「ボヤ騒ぎの報告はしたと思いますが……どうやら董卓軍が撤退した後、例の白装束の一団が狼藉を働いたようなのです」えっマジで?単に人が居なくなっただけじゃ……

雪蓮

「……チッ。とんだ獣共( けだもの )ね。いつか根絶やしにしてやらないと」

冥琳

「そういう事だから、私達は入城後、すぐに復興作業を開始しようと思うの」

雪蓮

「当然でしょ。穏!」

「はいはーい。資材は充分……とはいきませんが、供出出来る分をまとめておきますね~」

雪蓮

「よろしく。ある程度ムリはして良いから、出せる物は出してあげなさい」

「了解であります♪」そこへ劉備と曹操の洛陽入城が終わったと伝令が入った。

雪蓮

「了解……じゃあ私達も行きましょ」

冥琳

「全軍、洛陽へ入城する!乱暴狼藉をした者は斬首だ!孫呉の正規軍の誇り、忘れるでないぞ!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

 

 俺は雪蓮達と粛々と隊列を組んで、改めて洛陽へ入城した。最初に来た時は気付かなかったけど、あちこちで燻っている黒煙が目に映る。もしかすると俺達がど○でも○アで向こうに行っている間に、白装束の奴らが、フェル達や貂蝉にしてヤられた腹いせに火を付けたのかも知れないな。

向田

「うわ……こりゃ酷いなぁ……」

フェル

『我も人間から見れば獣の部類に入るだろうが……ここまで無秩序な真似はせんぞ』フェルですら顔をしかめる惨状に、雪蓮は心底、ご立腹の様子だ。

雪蓮

「まさに獣の所業ね。ムカつくわ……いつか根絶やしにしてやる」その雪蓮を、自身も怒りに震えながらも宥める冥琳。

冥琳

「我らに力がついてからな……で、この惨状、どう処理する?」

雪蓮

「穏。炊き出しの準備を……それと負傷者の救助は最優先で行いなさい。それと長老格の人間を連れてきて」

「了解であります♪」雪蓮の指示を受けた穏が移動しかけたところへ、俺は待ったをかける。

「どうしましたか~?」

向田

「……これを」俺はネットスーパーで荷車を一台と、菓子パンや惣菜パンを大量に購入して、荷車に積めるだけ積んで穏に差し出した。更にスイ特性ポーション(瓶入り)を両腕で抱えられるだけ手渡した。

向田

「袋を破ればそのまま食べられるよ。後で炊き出しするにしても、食べ物は出来るだけ早く出せる方が良いだろ?この瓶は即効性の薬。副作用の心配もないから重傷を負った人に使って」

「分かりました。じゃあこれ、配ってきま~す。剛さん、後で代金を請求して下さいね~」穏は1人の兵士さんを呼び、荷車を押させて民家へ向かった。

冥琳

「……本当に、お前の箱は色々入っているな」まあね。異世界転移特典の無尽蔵アイテムボックスだし、金さえあれば大抵の物は買えるからね。驚きを通り越して、呆れたように俺に言う冥琳の傍らで、

雪蓮

「思春は治安回復を。明命は仮設天幕の設営準備をしておきなさい」

思春

「はっ!」

明命

「御意!」普段のおちゃらけた姿はどこへやら、部下達に適切な指示を出していた雪蓮。こうして見ると改めて雪蓮のカリスマ性に感心してしまう。

雪蓮

「私達はしばらく洛陽に留まり、復興作業に従事しましょう……良いわね、冥琳」

冥琳

「……計画に多少ズレが生じるが、この際、仕方ないだろうな」

雪蓮

「ズレなんて気にしてる場合じゃないからね……蓮華と祭によろしく伝えておいて」

冥琳

「分かった」

雪蓮

「剛はその箱に何か復興作業に役立ちそうなモノが入ってたら、提供してちょうだい。勿論お金は払うわ」

向田

「……了解」それから間もなくして、穏が1人の老人と一緒に戻ってきた。

「雪蓮様~、長老さんをお連れしましたよぉ~」どうやらこの辺りを仕切っているお爺さんのようだ。

長老

「これはこれは……先ほどは食べ物を皆に配って頂き感謝致します。将軍様」

雪蓮

「提供したのは彼よ」雪蓮が俺を指差すと、お爺さんは俺の足元へ平伏した。

向田

「……そんな事しなくて良いですから!頭を上げて下さい!」お爺さんの手を取って立ち上がらせる。

長老

「……このような状況で何か頂けるだけでありがたいのに、あんな美味いモノを。しかも全員に……あなた様には感謝の言葉もございません」

雪蓮

「彼……天の御遣いだから」ちょっと!いきなり何言ってるんだ雪蓮!?

長老

「……では、あなた様が噂の……いやありがたやありがたや」このお爺さん、今度は俺を拝みだしたよ……。

向田

「そ、そうだ雪蓮。お爺さんに話があるんだろ?」お爺さんの気を逸らす。てか、本来の目的はそっちだろ?もう後は雪蓮に任せよう。

長老

「……そうでしたな。将軍様が私らなんぞに何のご用でございましょう……?」

雪蓮

「お爺ちゃん。炊き出しとか負傷者の治療をするんだけど、他にやってほしい事とかある?」長老に気さくに話しかける雪蓮。そういや時々(冥琳に内緒で)街へ出掛けてるけど、いつもご年配や子供に慕われてるよな。それだけ人望があるからこそ、王として君臨出来るんだろう。

長老

「おお……更にお助け下さるのですか。ありがたやありがたや……」

雪蓮

「お礼は後だよ。お爺ちゃん……今はみんなを助ける方が先……で、やってほしい事とか、何かあるかしら?」

長老

「そうですな……焼け出された人間がかなり多く、雨露を凌ぐ場所を頂ければ……」

雪蓮

「うん。仮設の天幕を張る準備はしているから、とりあえずはそれで凌いでね。その後、資材を搬入して焼けた家の再建をしましょう……ただ、少し手伝ってもらう事になるけど良いかしら?」

長老

「当然でございます!おお……ありがたや……孫策様こそ真の英雄……このご恩、我らは一生忘れませんぞ」

雪蓮

「ふふっ、アテにしとくわね」雪蓮は爺さんに優しく微笑むと、兵士達に檄を飛ばした。

雪蓮

「……では、我らはすぐに動く!皆、疲れてるだろうがよろしく頼む!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」雪蓮の命令を受け、兵士達が一斉に動き始める。ある者は炊き出しに行き、ある者は天幕の設営を始める。やっぱり雪蓮には王としてのカリスマ性があるんだなぁ。

 有機的に連携し、洛陽復興の為に動き始めた部隊の間を縫いながら、万が一の為にドラちゃんをお供にして、俺は雪蓮や冥琳と共に周囲の状況を視察していた。あまりの荒れように渋い顔をする雪蓮。フェルとスイは天幕じゃなく、俺が土魔法で造った穴蔵で寝ている。

雪蓮

「……」

向田

「雪蓮、どうかした?」

雪蓮

「……戦争の爪痕……いつも弱い人間にしわ寄せがいくのよね。やるせないなぁ……母様が死んだ後、江東では内乱や侵略、暴徒の反乱……そういった物が一気に吹き出してね。その時の私は民達を守る力がなかった……それが今、重なって見えるんだよね……」

向田

「でも……これは雪蓮のせいじゃないだろ?洛陽の街に火を放ったのは、例の白装束の連中だし」

雪蓮

「それは分かっているけど……でもあまり心楽しいモノじゃないわよ。こういう光景は」

冥琳

「雪蓮……弱音なぞ聞きたくないぞ」

雪蓮

「冥琳……」

冥琳

「文台様の遺志を継ぎ、天下を目指すと言ったのはどこの誰だ?」

雪蓮

「私……」

冥琳

「ならば弱音を吐くな……雪蓮の優しさは分かっているが、それが覇業の妨げになる場合もある」

雪蓮

「……うん。分かってる」

冥琳

「ならもう言わないで……良いわね?」

雪蓮

「……(コクッ)」

向田

「冥琳、そういう言い方はないんじゃ……」と反論しようとした俺に、

雪蓮

「良いのよ、剛。冥琳の言う通り……弱音なんて吐いてる暇ないんだから。私は私に出来る事を精一杯するだけ。そして後事を蓮華に託さないと……」

向田

「託すって……そういう不吉な事言うのは感心しないぞ」

雪蓮

「あら。心配してくれるの?」

向田

「当たり前だろ……怒るぞ?」

雪蓮

「ふふっ、ごめん……でも……あーあ、蓮華に譲るの、止めよっかなぁ?」

向田

「何言ってんだか……」何だよ、人の気も知らないで……。

冥琳

「ふっ。照れる姿なんぞ、お前には似合わぬぞ」

向田

「ちょ……ヒッドい事言うなぁ」

雪蓮

「あははっ♪」なんて、雑談とも相談ともつかない話をしていると、明命が血相を変えて駆け寄ってきた。

明命

「しぇ、雪蓮様!冥琳様!大変です!」

冥琳

「どうした?何かあったのか?」

明命

「そ、それが!井戸がブワーッてなってて、それで龍がドーンッて舞い上がってて、スゴいのなんのって感じです!」イヤ、意味がわからん……。

雪蓮

「……何それ?」困り顔で問い質す雪蓮。

向田

「もうちょっと落ち着こう、明命。はい、大きく深呼吸して~」

明命

「ふぁぁー!ふぅぅ~~~」

向田

「はいもう1度」

明命

「ふぁぁ~!ふぅぅ~~~……」

向田

「落ち着いた?」

明命

「はい!おちちゅきました!」……赤ちゃんか!

ドラちゃん

『……ったく!世話が焼けるぜ』

冥琳

「舌を噛んでしまうほど落ち着いたところで、もう一度報告してもらおうか」

明命

「はいっ!ええと……説明する事を忘れてしまいました!」

向田

「えええっ!」唖然とする俺。空中でズッコけるドラちゃん。対して雪蓮と冥琳は苦笑している。

明命

「と、とにかく何かスゴいんです!こちらへ来て下さい!」動転しまくりの明命に先導され、俺達は街外れの路地へ向かった。

明命

「ほらあそこ!井戸からスゴい光が放たれているのです!」路地の端には1基の井戸があり、確かにその穴の中から、光が上空を突き抜けるように真上を照らしていた。

冥琳

「なんだこの光は……」

向田

「……これって……」俺はこっちに来た時から、たまに読んでる三國志の文面を思い出していた。確か伝承では孫権の時代になってるけど、ひょっとしたら……

向田

「んー……多分スゴいモノが入ってる。引き上げて見ると良いよ」

雪蓮

「何それ。剛は何か知ってるの?」

向田

「まぁね……明命。お手数だけど中に入って見てくれる?」

明命

「ええっ!?あ、あの……大丈夫なのでしょうか……?」

向田

「大丈夫。身体に害はないよ。ドラちゃんも付けるからさ……頼める?」

ドラちゃん

『え~……』イヤそうにするドラちゃんだけど、俺にはちゃんと秘策がある。

向田

「後でプリン食べさせてあげるからさ」そう言うと手のひらを返して了承する。

ドラちゃん

『おう良いぜ。けどこん中、何が入ってんだ?』

向田

「人間には価値あるモノ……とだけ言っとくよ」

明命

「は、はぁ。では……行きます!」覚悟を決めたように言うと、明命は命綱を巻きながら、ドラちゃんは急降下して井戸の中へと下り──そしてすぐに、明命は巾着袋のような物を持って上がってきた。

明命

「井戸にこんな物がありました!」

雪蓮

「何これ?うっすら光を放ってるみたいだけど」

ドラちゃん

『光り物は嫌いじゃないけど、食えねえしな……それよりお前、プリン忘れんなよ』

向田

「開けてみて」ドラちゃんを宥めた俺は雪蓮に巾着を開けるよう促す。

雪蓮

「ん……よっと」巾着を開いた雪蓮は中の物を見て、ギョッとした顔になる。

雪蓮

「小さな……印鑑?違う、これ……玉璽っ!?」

冥琳

「何っ!?」

雪蓮

「ほら、見てみて。白い大理石を素材とし、龍をあしらった彫刻……秦始皇本紀に書かれている表記と全く同じね」

冥琳

「始皇帝が作らせた、皇帝たる証か……これはとんでもないモノを拾ったな」

明命

「しかし……どうしてこんな井戸の中に?」

冥琳

「分からんが……恐らく、董卓軍撤退の混乱の中、宮廷より持ち出されたモノだろうな。持ち出した人間も、白装束達が乱入してきた事で逃げ切れないと悟り、この井戸に捨てたか隠した……大方そんなトコだろう」

雪蓮

「天祐ね、これは……」う~ん……そうも言えるか。始皇帝といえば、俺でもその名は知ってる、古代中国を初めて統一した人物だもんなぁ……。

冥琳

「ああ。この天祐、存分に利用させてもらおう……明命!」

明命

「はいっ!」

冥琳

「幾人かの兵を洛陽の民に偽装させ、さりげなく情報を流せ……孫策が天より玉璽を授かったとな」

明命

「了解であります!」

冥琳

「この噂が広まれば、雪蓮の下に人や物が集まってくるだろう……雪蓮。ここからは徳ある王として、演技をしてもらうわよ」

雪蓮

「うえぇ……めんどくさいなぁ、もう……」そう言う雪蓮はホントに面倒臭そうな顔になる。さっきまではカリスマ性のある王らしかったのに……。

冥琳

「遊びじゃない。これは正に天祐……この天祐を存分に利用しなければ、私達の未来はないわ」

雪蓮

「分かってるわよ。ただ……ちょっと本音を出してみただけ」

冥琳

「……頼むわよ?」

雪蓮

「了解」

 

 こうして──玉璽を手に入れた雪蓮は、洛陽復興という慈善事業を開始する。董卓を追い払った(気でいる)諸侯達は、意味のない事をする……とばかりに雪蓮をせせら笑っていた。しかし、雪蓮が玉璽を手に入れたという噂が広がるにつれ、俺達の周りには多くの人と物が集まるようになった。また雪蓮の威風を慕い、様々な人間達が援助を申し出てくる。それら1つ1つを天祐と捉え、雪蓮は徳高き王者として、援助を申し出てくれた人達に接していた。その振る舞いに感銘を受け、更に多くの人々が雪蓮を慕って集まってくるという好循環の中、俺達は洛陽の復興に力を注いでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 




ついでに言うと、向田のパンを食べた洛陽の人達はしばらく身体能力が上がったとか。で、復興も思いの外、順調に進んだらしいです……。

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