反董卓連合が洛陽に雪崩れ込んでから、早2ヶ月が経過した。連合に追い詰められ、洛陽を逃げ出した(と、される)董卓達は、その後、西涼に戻ったという説や、暗殺されたという説が飛び交っていて、本当はどうなったのか……まぁ海を隔てた大陸にある、レオンハルト王国はカレーリナ街の俺の屋敷に居るんだけど。
また、曹操が洛陽に入城した後、少帝を保護したらしいが、その後の動きを見るに、少帝を政治利用する気はなさそうだった。
袁紹は河北で更に領土を拡大しようと、あちこちに戦を仕掛けているらしい。その煽りを喰らったのか、反董卓連合で地味に活躍していた公孫賛が、領土を失い、劉備の保護下に入ったという情報もある。その劉備は、董卓討伐に功があった……という事で徐州の州牧に任命された。義勇軍の大将だった劉備が、いつのまにやら州牧になったっていう、ある種の下克上じみた感慨もあるけど、どうやら裏で曹操が糸を引いているらしい。曹操が何を考えているのか、良くは分からないけれど……何やらきな臭い匂いがしてくるのは、俺の勘違いって訳ではないと思う。
一方、俺達は復興作業の為しばらく洛陽に留まっていた。兵士さん達は炊き出しやら仮説住居の設営やらに勤しんでいた。雪蓮と冥琳も指示を出しながら、民家を一軒一軒当たっては必要な物資があるか、食料事情はどうだ等と尋ねていた。そんな中、俺はある意味当然ながら、食料と資材の提供がメインの仕事になっていた。
冥琳
「……しかしアレだな」
向田
「どうしたの冥琳?」
冥琳
「……イヤ。お前のお陰で復興にかかった費用が思ったより安く上がったのでな。安堵していたところだ」
穏
「特に食費なんて、本来なら一番費用が嵩むんですよぉ~。それが剛さんの魔法の箱があれば格安で手に入りますからね~」
雪蓮
「それに従魔三匹が狩ってくる魔物肉も食料に回せるし。ホント、良い拾い物をしたわ」
向田
「俺、物扱いかよ……」そうボヤくと、みんなの間に笑いが起こる。雪蓮はこういう人間だし、お互いに冗談だって分かっているからね。
その復興作業も何とかメドが立ってきたので、俺達も明日には建業へ帰る事になった。その前の晩、俺とフェル達が使っている穴蔵に雪蓮が酒の徳利を持って入ってきた。
雪蓮
「ちょっと良いかしら?」
向田
「雪蓮。こんな時に酒は不謹慎だぞ?」
雪蓮
「良いでしょ?明日は帰るんだから。それに剛とサシで話せるのって、今夜ぐらいだもん」
向田
「サシでって……何を話すんだ?」
雪蓮
「色々よ。この世界にきた時の事とか、これからどう生きるか、とか」
向田
「別に今夜じゃなくても……」そういや、史実の孫策はもうすぐ亡くなるんだっけ。まさか雪蓮……自分の死期を悟って……
雪蓮
「だって城中じゃ常に誰かの目があるじゃない?」……ああ、そういう事ね。とりあえずホッとする俺。元の三国志は知ったこっちゃないけど雪蓮や冥琳、穏に祭さん、蓮華、思春は絶対に死なせたくない。幸い俺にはフェル、スイ、ドラちゃんがいる。いざって時は彼女達を守って貰おうと思っている。
それから俺は雪蓮と呑み交わしながら、レイセヘル王国の勇者召喚に巻き込まれたあの日から今日までの事、殆ど愚痴だったけど……雪蓮に話して聞かせた。勿論神様ズや董卓関連は伏せているぞ。
雪蓮
「……剛も苦労したのね」
向田
「まぁね。最近は慣れたモンだけど」
雪蓮
「それで?」
向田
「それで?というと?」雪蓮の問いにオウム返しする俺。
雪蓮
「だから……これからどう生きるか、よ。今は二つの大陸を行ったり来たりしてるけど、この国が平和になったらどうする訳?」う~ん、そう言われても……実は全く考えてなかった。とりあえずデミウルゴス様に従っているだけだしなぁ。
向田
「そうだなぁ……今後も今まで通りに行ったり来たりすると思う」
雪蓮
「……そう」あれ、雪蓮にしては随分歯切れが悪いな……どうしたんだろ?と、そこに……
冥琳
「雪蓮……こんな所に居たのね。明日出発なんだからさっさと支度しなさい」冥琳は雪蓮の首根っこを掴み、連行していった。振り向き様に
冥琳
「向田。お前もいつでも出発出来るようにしておけよ」と、言い残して自分の天幕へ去っていった。
その翌日、俺達は建業へ帰った。
さてその後、我らが雪蓮殿はというと……反董卓連合での闘いぶりと、その後での洛陽復興に向けての取り組みが大陸各地の庶人に評価され、その声望が一気に高まっていた。しかし出る杭は打たれるって言葉もある。最近は、雪蓮と袁術の仲が、かなりギクシャクし始めていた──。
向田
「ま、それより今はお務めをしないと」俺はカレーリナの自宅に戻り、
ニンリル
「ど、どら焼き!早速食べるのじゃ!」
ルサールカ
「ケーキにアイス……持って帰って食べる……」
アグニ
「ヨッシャ!ビール来たーッ!」
キシャール
「うふふ……高級洗顔クリームに美肌化粧水。これで美しさに磨きを……」
ヴァハグン
「ようやくウィスキーが呑めるぜ!一杯
ヘファイストス
「おうよ!戦神の」貢ぎ物に大喜びする神様ズの騒ぎを適当に聞き流しつつ、俺は建業に戻っていった。
~袁術の城(視点なし)~
そんなある日、袁術はいかにもご機嫌ななめな様子で膨れっ面をしていた。
袁術
「むぅ~……」
張勲
「どうしたんです、お嬢様。スッゴく珍しく物を考えてるみたいに唸っちゃって」一言多い気もするが、マイペースな張勲に自覚はない。何だかんだで、傍若無人で我儘な袁術とは結構名コンビである。
袁術
「何だか最近孫策がムカつくのじゃ」
張勲
「あー……董卓さんとの闘いのあと、孫策さんってば人気者になっちゃいましたからねぇ」
袁術
「そうなのじゃ。妾を皇帝にしてあげるとか言っていたのに、自分だけ人気者になったから、何だか腹が立つのじゃ」つまりは逆恨みである。
袁術
「それに、孫策をイジメる為に色んな策を考えて手を打ってるのじゃが、ぜーんぶ失敗してるのじゃ。ウガー、気に入らんぞぉー!」
張勲
「策っ!?ちょ、美羽様が策って……策って……あははーっ♪」何がおかしいのか、いきなり大笑いする張勲。尤も、袁術が策を凝らす事自体は充分におかしいが……お側付きが笑ってはダメだろう。
袁術
「なんじゃとぉ!失礼な奴じゃ」
張勲
「だって美羽様が策を考えたって、良い策なんて浮かぶハズがないですもん。そんな事しなくたって、美羽様の地を出せば良いんです!意地悪でひねくれ者な地を出せば、孫策なんてチッチキチンですよ!」褒めているのか、バカにしているのか分からない弁明をする張勲。
張勲
「もっと悪どく!性格悪く!それこそ美羽様じゃないですか!」
袁術
「なるほど!妾の地を出せば良いのじゃな!」
張勲
「はい♪」
袁術
「よーし!なら妾はもっと地を出して、孫策をイジメてやるのじゃ♪」
張勲
「よっ!美羽様最高!この腹黒お嬢様め♪可愛いぞ♪」
袁術
「もっと妾を褒めるのじゃー♪うははー♪」
~同じ頃、孫策の城(向田視点に戻る)~
お馴染みとなった城の庭での会議中雪蓮が眉間にシワを寄せている。
雪蓮
「……どこからかバカ笑いが聞こえる気がする」ん、俺には何も聞こえないぞ?いつもの勘が働いたのか。実際、雪蓮の勘はよく当たるけど。
向田
「何それ?空耳?」
雪蓮
「なんとなーくそんな感じがするってだけ……まあ良いわ。冥琳、仕込みの方はどんな感じ?」
冥琳
「仕込みはほぼ完了。決行の日取りは伝えているからそろそろ袁術に一報が届くころね」
雪蓮
「ふーん……で、さっきの報告にあった呂蒙って子。本当に信用出来るの?」
冥琳
「まだ未熟ではあるが、中々見所がある。今後の呉を担う人物となりそうよ」
雪蓮
「そう……ならその子は蓮華の右腕として育てましょうか」
冥琳
「ああ。そうしよう」
雪蓮
「……ところで、こっちの準備はどうなの?」
冥琳
「全て完了しているわ。後は事態の推移を見守るだけってところね」
雪蓮
「了解……準備万端。いよいよね」天を見上げなからの呟きに重なるように、館の外から複数の蹄の音が聞こえてきた。
向田
「あの慌ただしさ……何かあったんじゃない?」
冥琳
「うむ。待ちに待った一報。我らの工作が成功した……という事だろうな」
向田
「おっ。じゃあ……」
雪蓮
「私達の闘いがいよいよ始まるって事……」
冥琳
「いよいよね……雪蓮。ここから先は貴女の演技にかかっているわ……頼むわよ」
雪蓮
「了解」
~その後、再び袁術の城(視点なし)~
兵士(モブ)
「申し上げます!江東の各地で農民達による一揆が発生致しました!」
袁術
「何じゃと!?」
兵士(モブ)
「現在、農民達は江東の各地を占拠しつつ、この城に向かってきております!その数、およそ十万!しかし農民の数は今後増え続けていくかと思われます!」
袁術
「(怒)ぐぬぬー、たかが農民風情が妾に刃向かおうとは良い度胸なのじゃ!七乃、すぐに鎮圧に向かうのじゃ!」
張勲
「えぇー。ムリ」即効で返事をする張勲。しかも思いっきり嫌そうだ。
袁術
「はやっ!?」
張勲
「いやいや。農民とはいえ十万人相手に闘うなんて、いくら私でもムリですよぉ」今にも泣きそうな顔で答える張勲。
張勲
「それにほら、私ってば基本的に城攻め専門?大量生産した衝車で城門めがけて一気にドーンッ!って闘い方しか出来ませんしぃ~」
袁術
「むぅ。ならどうするのじゃ?」
張勲
「もぉ~、美羽様ってばうっかりさん♪こんな時こそ、美羽様の剣であり盾である孫策さんの出番じゃないですかぁ~」
袁術
「おおーっ!そういえばそうじゃな。孫策の事をスッカリ忘れておったわ」
張勲
「あははー、このうっかりさんめ♪」
袁術
「テヘ、なのじゃ♪それじゃ七乃よ。孫策にさっさと命令するのじゃ!」
張勲
「了解でぇ~す♪」意気揚々と雪蓮の元へ向かう張勲。だが、自分達がこの後なんとも悲惨な末路を迎える事を、このアホ2名は未だ知る由もない。