袁術
「(泣)う、ぐしゅ……イヤじゃ……イヤじゃイヤじゃイヤじゃ!妾は死にたくないのじゃ~~!うわぁぁぁ~~~んっ!うわぁぁぁん、助けてたもぉぉ~~~~!」
張勲
「(泣)ううっ、美羽様ぁぁぁ~~~!えぐ、ぐすっ、そ、孫策さん!お嬢様の命は助けてあげて下さいぃ!私の命ならいくらでも差し上げますからぁ!」
袁術
「うわぁぁん!七乃ぉぉぉぉ!」
張勲
「お嬢様ぁぁぁ~~~~!」
雪蓮
「麗しき主従愛って?……でも泣きわめいても許してあげない。うふふっ、二人仲良く殺してあげる」雪蓮が剣を振り降ろした、まさにその時だった。
ムニュ。袁術達と剣の間に何かが挟まって、間の抜けた音がした。
スイ
『ダメーッ!』ナゼかスイが袁術と張勲を庇っていた。
雪蓮
「スイ?あなた何してるの?……って聞いてもムダね。あなたの言葉が分かるのは剛達だけだもの」
スイ
『泣いてるよぉ。可哀想だよぉ~』雪蓮が、イヤ孫家が今まで受けてきた屈辱を思えば、この乱世において雪蓮が袁術を斬るのは至極当然と言える。しかしスイにそんな事が分かるハズもなく、ただ、あまりにも惨めに見えた2人につい情けをかけてしまったのだ。
雪蓮
「……ま、良いわ。この子に免じて少しだけ、命を長らえさせてあげる。明命、拘束して」自分を追いかけてきた明命に気づいた雪蓮は、袁術と張勲を縄で縛らせた。
明命
「雪蓮様。この二名をどうなさるおつもりですか?」
雪蓮
「とりあえず蓮華に説明して……それから剛にこの子の通訳をさせるわ。何でこの二人を庇ったのか、気になるし(元々本気で殺すつもりもなかったしね)」
~向田視点~
蓮華
「……甘いのではないですか?」かつて袁術がふんぞり返っていたと思われる玉座の間に居た蓮華と冥琳と俺の目の前に、生きたままの袁術と張勲を連れてきた雪蓮に詰め寄る蓮華。明命は雪蓮の指示で、一旦この場を離れている。
雪蓮
「それはこの子に言ってよ。それとも蓮華は私に袁術を殺せって言うの?」雪蓮はスイに目を向けつつ、蓮華に問い質す。どういう事かと聞けば、雪蓮が手にかけようとした袁術達をスイが庇ったそうだ……何で?
蓮華
「あ、いえ……そういう訳ではありませんが……」
雪蓮
「なら良いじゃない。殺すにしても、スイの言い分を聞いてからでも遅くないでしょ?そういう事だから、剛。通訳をお願い」へいへい、分かりました。
向田
「なぁスイ。どうして袁術達を庇ったりしたんだ?」
スイ
『あのね~、前にあるじが料理のお手伝いしてくれる人が欲しいって言ってたでしょ~。だからスイ、連れてきたんだよぉ~』あー……そういや、そんな事言ってたかもしれないなぁ。スッカリ忘れてたよ。
向田
「えぇーと……スイが言うには、この2人に俺の手伝いをさせる為に、生かしておこうとしたらしい」俺が説明すると、雪蓮も蓮華もポカーンとした表情になる。
雪蓮
「ま、良いんじゃない?剛の好きにすれば?」
蓮華
「お姉様っ!?」
冥琳
「ホントに良いのか?向田の下につけるとなれば、雪蓮の側にも置く事になるけど?」
雪蓮
「んー、けど二人だけならきっと報復も出来ないだろうし、良いわよ」それは言えてるな、この2人アホだし。まぁ、こいつらがどれだけ使えるか分からないけど、雪蓮の許可も出てるし、スイの顔を立てて採用してみるか。
向田
「……それじゃ、2人には今までの地位も何もかも捨てて俺の調理助手になってもらおっか。断るなら……」
袁術
「何じゃ!今度こそ孫策に斬られるのかや!?」真っ青な顔で訊ねてきた袁術。
向田
「……そんな生易しいモンじゃない。こいつに噛み殺させる」俺はフェルを親指で指して答える。
フェル
『うむ。逆らえば食い殺すぞ』フェルも悪ノリして、袁術と張勲に歯を剥き出して脅かす。
張勲
「きゃあーーっ!」
袁術
「ひぃーーーっ!」
雪蓮
「……剛も結構恐い事言うわねぇ」
蓮華
「全く……お人好しにもホドがあるぞ」半ば呆れたような表情で俺を見る蓮華。その横で苦笑いしている雪蓮。良いさ、もう何とでも言ってくれ。
アホ2人の処遇がとりあえず決まったトコへバタバタと足音が近づいてきた。
亞莎
「城内の制圧、完了致しました!」亞莎からの報告。これを以て、寿春城は完全に落ちた。
袁術
「妾は、本当に全て失ったのじゃな……」元は自分の物だった城を、雪蓮に奪われたとハッキリ自覚したみたいだ。ま、こんな世の中だし、ある意味自業自得だから諦めるしかないよね。
張勲
「……命があるだけ良いじゃありませんか。美羽様」張勲も、もう袁術を慰める以外は何も出来ないか……それでも2人一緒に居られるだけ、マシなんじゃないかと思う。さて、落ち着いたらみんなのメシでも……とか考えてたら、明命が戻ってきた。
明命
「現在、思春殿が宝物殿や食料庫の確保に向かっております!」
雪蓮
「ご苦労様……ふぅ」これでようやく一段落だな、と思ったけど、冥琳が未だ厳しい表情で、雪蓮に進言する。
冥琳
「まだ一息吐くのは早いぞ、雪蓮。ここを本拠として、次の闘いの準備がある」
雪蓮
「分かってる……」雪蓮はそれだけ呟くと、また王の顔になり、兵士さん達の指揮を執る。
雪蓮
「各部隊はこれより、城下の治安の維持に務めよ!すぐに統治活動に入るわよ。蓮華、貴女も手伝って」
蓮華
「はいっ!」
さて。みんながそれぞれの仕事に向かったところで、俺も自分の仕事をしようかね?今日は何を作ろうかな?と献立を考えていると、小蓮が俺を訪ねてきた。
小蓮
「剛~、今日のご飯はナ~ニィ?」ニコニコしながら聞いてきた。俺が料理番だって知ってたんだな。てか、この娘は俺に何を期待してるんだか。
向田
「今、思案中だけど……何か食べたいモノがあるの?」
小蓮
「えっと……シャオね、お洒落なモノが食べたい!」えっ?……それはまた、ザックリとしたリクエストだな。お洒落なメシ?というと、元の世界でいえばOLとかが食ってたようなヤツか。その辺りの知識は皆無……ん?でもないぞ。学生時代にバイトしていた喫茶店に確かそんなメニューがあったかもしれない。細かいレシピはうろ覚えだけど、再現してみるか。
まずはネットスーパーでトマト、ブロッコリー、ベビーリーフ等こっちじゃ手に入らない野菜を取り寄せる。付け合わせというか、主菜はパスタにしよう。あの店で出してたのと同じ、スパゲッティにするか。勿論、マカロニとかペンネなんかもオススメだぞ。
ここで1つ問題が。今日のオシャレご飯では、ウチの食いしん坊達は恐らく納得しない。そこで、3人の分はみんなのとは少し変えて、アレンジを加える事にした。これならあいつらも満足してくれるだろう。
コカトリスの鶏肉に、軽く塩コショウして、皮目からオリーブ油で焼いていく。焼き色がついたらひっくり返して、とろけるチーズを乗せる。最後にトマトソースを上からかけて、しばし蒸し焼き。焼き上がれば今日のメイン、なんちゃってイタリアンチキンの完成だ。スパゲッティも同時に茹でる。チキンにしっかりした味をつけたから、こっちはホンの少しの塩胡椒と、レモン汁を軽く絞って終わりだな。茹で上がる前に袁術と張勲を呼び出して、手伝いをさせる。この時に2人からも、真名を預かる事になった。
袁術
「妾は袁術、字は公路。真名は美羽と言うのじゃ。
張勲
「張勲、真名は七乃です。ご主人様宜しくお願いします」因みに2人共、さっきまで着ていた服から中華風メイドの格好に着替えている。
向田
「こちらこそ改めて宜しく。それじゃ今日は俺が調理するから、2人には配膳をしてもらうよ」
美羽・七乃
「「はい(なのじゃ)!」」
こっちから見て奥の方にメインのなんちゃってイタリアンチキンを乗せて、手前にスパゲッティとベビーリーフ中心のサラダを並べて三角形状に添えれば、OLとかに好まれそうな「カフェランチ風なんちゃってイタリアンプレート」の完成だ。まぁ、晩メシだけど。
美羽と七乃に、盛り付けの済んだ皿からドンドン運ばせていく。俺はチャチャッと、食いしん坊トリオのメシを用意する。特大のチーズ入りオークカツを揚げてスパゲッティにドドーンッと乗っけたら、さっきのトマトソースを基にしたデミグラスソースを、タップリとかけてやる。以前に出張で赴いた先の名物を俺流に(そんな大したモンじゃないけど)アレンジした食いしん坊トリオ向け、カツ丼ならぬカツスパだ。
ドラちゃん
「この長いヤツ肉とスッゲェ合うな。ソースが絡まってると更に旨え♪」
フェル
「パスタなる穀物だそうだ。これを食うのも久し振りだな。うむ、悪くない」あ~、そういや長い事パスタは作らなかったなぁ。確かフェルを従魔にしたばかりの頃に一回作ったけど、それ以来かもな。
スイ
「チュルチュルしてるのが楽しい~。あとチーズも美味しい♪」パスタ初体験のスイとドラちゃんも、バクバク食ってるし概ね好評だ。そうなると、雪蓮達の反応が気になるんだけど……特に小蓮。
小蓮
「可愛ぃー❤️それに色どりとか綺麗。しかもスッゴく美味しい!シャオ、こういうのが食べたかったの♪」な、なんか目が尋常じゃないぐらい輝いてるよ(焦)……不評よりは良いけど。
雪蓮
「前に食べたおむらいすとかにも、この赤いのが入ってたわね。この地でも作ってる農家があるかしら?」やっぱり雪蓮は国の事を考えてるね。小国とはいえ、王ってのは大変だ。よく勤まっているよ。
雪蓮
「剛ぃ~。葡萄酒出してぇ」台無しだよ!俺の感心返せコノヤロー!
祭
「策殿!」そうだ。祭さん、ここはガツンと言ってやってくれ!
祭
「分かっておられる!この料理には葡萄酒じゃ!」ズルッ!ズッコケてしまった。そういやこの人も大の酒好きなんだよなぁ。
冥琳
「すまんな向田。明日からは私がよーく言って聞かすから、今日だけは呑ませてやってくれ」苦笑いの冥琳から頼まれ、俺はネットスーパーでワインを購入すると雪蓮と祭さんの盃に注いだ。
穏
「剛さ~ん。私にも下さ~い」あれ、穏って酒呑めたんだっけ?ビールはあまり好きそうじゃなかったから、呑めないイメージあったんだけど。
冥琳
「全く……」呆れる冥琳。まあそうなるよね。
向田
「冥琳は呑まないの?」俺が尋ねると
冥琳
「私まで酔っぱらう訳にはいかんだろう」ため息混じりにそう返した。とそこへ、俺が持っていたワインの瓶を誰かの手が取り上げた。蓮華だった。
蓮華
「今日だけっていうなら貴女もどう?一杯ぐらい平気でしょ?」
冥琳
「蓮華様……」
蓮華
「……それに貴女に何かあった時の、亞莎の予行練習だと思って。ね」なるほど。そういう考え方もあるのか。
冥琳
「……そういう事でしたら」蓮華に言われて冥琳も、その言葉に甘えるようだ。ただ蓮華が持つ瓶を受け取り、俺の居る方へ向き直る。
冥琳
「蓮華様に酌なぞさせる訳にいかん。向田、お前が注げ」そりゃそうか。当然俺は頷き、冥琳の盃にワインを注いだ。まぁ何だかんだで最後は宴会になってしまったが、総合すれば良い結果に終わったな。
こうして――。袁術こと美羽は、城も土地も没収。張勲、もとい七乃と一緒に俺の部下となった、そして俺達はようやく国と言える物を手に入れる事が出来た。ここから天下統一の第一歩が始まるんだ……と。勝利の余韻に浸っていた俺は、そう信じていた――。
穏がワインを頼むくだりはEKUZUGESU様の感想を元にしました。ありがとうございます。
ラストが意味深な終わり方ですが、越後屋は難しい話とか書かないので、次回は割とご想像通りの展開になると思います。(感想やメッセージ等での展開予想はご遠慮下さい)