袁術の領地を手に入れた俺達は、その余勢をかって揚州全土を制圧した。まぁ制圧といっても、揚州の住民達は皆、諸手をあげて雪蓮を歓迎してくれたから、闘いらしい闘いは殆どなかったんだけど。俺達は着々と足場固めに力を注ぎ、先代孫堅こと孫文台が掲げた天下統一の夢を実現させる為、討って出るチャンスを、虎視眈々と狙っていた。
だが、俺達にはフェル達がついているとはいえ、他の勢力も力をつけているだろう。于吉や白装束共も、あれで諦めたとは思えないし、恐らくこの先は奴らとの激戦も待っているだろう。だけど俺達には雪蓮が居る。英雄王と呼ばれ、大陸全土にその名を讃えられている雪蓮を、俺はこれからも支えていこうと思う。そうでもしなきゃ、デミウルゴス様に申し開きが出来ないからな。ま、理由はそれだけじゃないんだけど。
とにかく。俺達は日々、軍備を整え、内政を行い……来るべき闘いに向けて着々と準備を進めていた。
さて。今はみんなが一室に集まって、毎月の定例会議を行っている。一応ウチのトリオもここに居る、昼寝してはいるが。
穏
「――という訳で、揚州全土の
雪蓮
「ご苦労様……洛陽からくすねてきた台帳が役に立ってるわね」えっ?いつの間にそんな事してたの?ああ、俺が月達をあっちの大陸に連れて行った、その間か。ちゃっかりしてんな。
冥琳
「台帳こ
穏
「それに他国の人口なんかも載ってますから、内政だけでなく、戦略を決定する上でも大いに役立ってくれますからね」
雪蓮
「良い物を手に入れたわね~」
冥琳
「これあるを予想していたからな」
雪蓮
「よっ。流石名軍師!呉の柱石!」
冥琳
「ふざけた事言ってないの……ここから先は諸侯との勝ち抜き戦よ……貴女の采配
雪蓮
「重々承知してるわよ……じゃ、今月の内政担当の割り振りをしましょうか」
向田
「今の目標は富国強兵……って事は、税収増加と軍備拡張が基本方針になるのかな?」
冥琳
「概ね正解だ。しかしその二つは二律背反……天秤がどちらに傾いたとしても、民衆の心に不満の声が蒔かれるだろう」
穏
「均衡を保ちながら、その二つの命題を達成しなくちゃいけませんからねぇ」
向田
「うわ……難しそう」
冥琳
「難しいさ。だがその命題を一刻でも早く成立はさせんと、諸侯に遅れを取る事になる」
向田
「厳しい現実って奴だなぁ」
穏
「その厳しい現実を実現させる事こそ、我ら文官の仕事なのですよ♪」
雪蓮
「そういう事。戦場が武官の活躍の場なら、内政は文官の功名の場。厳しい現実だからこそ、やりがいがあるって訳」
向田
「なるほどねぇ~……」
冥琳
「他人事のように感心しているが、お前も呉の文官の一人なのだから、気合いを入れる事だな」
向田
「……うっそ。俺が文官って……マジ?」イヤイヤ、料理番兼指揮官(主にトリオの)で充分ですよ?これ以上肩書き増えても、扱い切れないってば!
祭
「昔ならばいざ知らず、今の儂らは圧倒的に人手が足りんのだから、当然の事じゃな」
明命
「大丈夫ですよ、剛様。頑張って努力すれば、人は何でも出来ますから!」
向田
「そ、そういうモンかなぁ……」だったら君がやってくれない?ムリだとは分かってるけどさ。
冥琳
「文官に必要な基礎知識は穏に習えば良い。亞莎。お前もな」
亞莎
「はうっ!?わ、私もですかっ!?」
冥琳
「当然だ……お前にはまだまだ教える事が山ほどある……しっかり励めよ」
亞莎
「うう……私、勉強は苦手なんです……」
向田
「ええっ?そうなの?……頭の良さそうな格好してるのに」それで軍師が勤まるの?
亞莎
「こ、これはその……お母さんにこれを着ていきなさいって言われて……」と言って袖で顔を隠す亞莎。あ~、親心あるあるってヤツね。
向田
「あ、そうなんだ……」
亞莎
「で、でも……何とか頑張ります!頑張ってみせます!」
雪蓮
「うふふっ、素直ねぇ。可愛いわ……」雪蓮?何か恐いんだけど?
亞莎
「や、あの……そんな事、ないです……」
雪蓮
「そこで照れるのがまた可愛いの♪はぁ~、蓮華と小蓮にも見倣って欲しいわね」
小蓮
「ぶー。シャオはかわゆい女の子だもんね!」
蓮華
「私は……確かに可愛げはないかもしれません。悪かったですね」イヤイヤ蓮華も小蓮も充分可愛いって。それをいうなら、むしろ俺はフェルやドラちゃんに見倣って欲しいよ。
フェル
『オイ。お主、何か変な事を考えてないか?』
ドラちゃん
『全く……可愛くても得なんて何にもないぜ』
スイ
『ねぇあるじ~。スイは可愛いぃ?』いつの間にか目を覚ましていた3人が聞いてくる。ウンウン、スイは良い子で可愛いよ。蓮華はまだ膨れっ面だな……
雪蓮
「あら。拗ねちゃった」
蓮華
「す、拗ねていませんっ!」
雪蓮
「あはっ、今度は怒っちゃった♪剛助けてー」
向田
「ちょ、俺を巻き込むなっての!」
蓮華
「なんだ剛……お姉様の肩を持つのか?」
向田
「れ、蓮華さん声怖いッス!」
雪蓮
「ふふっ、あらら。蓮華ったら、もしかして妬いてるのかしら?」
蓮華
「だ、誰がこんな奴の為に!」……蓮華。こんな奴呼ばわりはなくない?ちょっとヘコむぞ。
雪蓮
「でも顔が真ぁーっ赤♪」
蓮華
「くっ……!し、知りません、そんなの!亞莎、行くぞ!ついてこい!」
亞莎
「は、はひっ!?」更
冥琳
「ふっ……蓮華様も可愛くなられたモノだ」
祭
「うむうむ。良い傾向じゃな」そんな蓮華を温かい眼差しで見送る冥琳と祭さん。
穏
「剛さん、蓮華様の嫉妬の炎で丸焦げになったりして」穏まで突っ込んできたよ……
向田
「それはそれで、光栄の至りではあるけどなぁ。ただ……」
雪蓮
「ただ……なぁに?」
向田
「そうなったらアイツらのメシ、誰が作るんだ?」全員が納得したような、呆れたような複雑な顔になる。
冥琳
「それはそれ、これはこれだ。しかし、お前も言うようになったモノだ」
向田
「色々と鍛えられてるからね……」
冥琳
「その調子で文官としての能力も鍛えてやろう。明日から授業開始だ」
向田
「……了解」ハァーッ、仕方ない。やるだけやってみよう……
定例会議が終了し、各自解散になる。会議室には俺と雪蓮だけが残っていた。
向田
「雪蓮。蓮華をあんまり怒らせるなよ?あの子、真面目な子なんだから」
雪蓮
「真面目だからついつい誂うっちゃうなよね~」
向田
「尚、質が悪いわ!しかも姉なら、俺以上に蓮華の真面目さ知ってるハズじゃん?」
雪蓮
「剛って結構細かい突っ込みするわよね……ま、これも愛情ってヤツよ」軽く首を傾げるように言いながら、雪蓮は軽くウィンクする……相変わらずというか何というか。Sっ気の強い英雄さんだこと。
雪蓮
「それよりも……蓮華とは上手くいってるの?」
向田
「どうだろうなぁ。微妙なトコではあるけど」
雪蓮
「何よ、自信なさげね~……あなた達が上手くいってくれないと困るんだから、頑張ってよぉ」
向田
「困る?困るってどうしてだよ?」
雪蓮
「私が居なくなった時、孫呉を継げる人間は蓮華だけ……シャオがまだ幼い以上、蓮華が呉の王とならなければならないの。そんな時、あなたと二人くっついてれば、呉の力は更に増すでしょ?」
向田
「……そりゃそうかもしれないけど……でもあまり不吉な事言うなよ、雪蓮」
雪蓮
「不吉じゃないわよ全然……今は戦乱の世。そうなったとしても不思議な事じゃないわ」
向田
「そんな事……俺がさせないさ」
雪蓮
「……ふふ。ありがと」柔らかな笑みを浮かべた雪蓮が、
雪蓮
「あーあ……やっぱり蓮華に譲るの、止めよっかなぁ……」俺の肩に頭を乗せながら小さく呟く。
向田
「何言ってんだよ。雪蓮には冥琳が居るだろ?」
雪蓮
「男の中じゃ、剛が一番好きだもん」
向田
「またそういう事を言う。本気にしちまうぞ?」もう、いい加減俺も覚悟を決めないとな。
雪蓮
「私はいつだって本気だよ……けど、まぁ……剛には蓮華の傍に居て貰わないと。それが孫呉の為だもんね」
向田
「雪蓮……」
雪蓮
「ねぇ剛。今日、暇?」
向田
「えっ?……まぁ勉強は明日かららしいし、フェル達のメシを作る以外は暇といえば暇だけど」
雪蓮
「ならさ。ちょっと付き合ってくれる?」
向田
「どっか行くのか?」
雪蓮
「ん。そんなトコ」言葉を濁した雪蓮に手を引かれ、俺は会議室を出て城外へと向かった。
~視点なし~
人目を憚った場所で、白装束を着た2人の男が何やら話し込んでいる。1人は于吉。もう1人の男は端正な顔立ちだが、その目付きから悪党であるのが分かる。
??
「作戦は失敗したようだな。于吉」
于吉
「すみません左慈。思わぬ邪魔が入りまして」左慈と呼ばれた男は、唾を吐き捨てる。
左慈
「デミウルゴスの加護を受けた奴か……ケッ、あのくたばり損ないの老いぼれが!」かつて世界の管理者だった左慈と于吉だが、謀反を企てたのがバレて、今は神界を追われた身となっていた。
于吉
「しかし、あの老いぼれには敵わないのもまた事実ですからね……苛ついたとしても所詮、何も変わりはしませんよ」
左慈
「ふんっ……決められた道筋を歩く事が、俺達の存在理由か……」
于吉
「そういう事です」
左慈
「くそっ……」
于吉
「ふふっ……子供のように拗ねますね、貴方は」
左慈
「うるさい……それより奴を処理する方法を考えろよ、于吉」
于吉
「それについては既に手を打っていますよ」
左慈
「何?どういう手を打ったんだ?」
于吉
「秘密の手です。あとは仕上げをご
~向田視点~
雪蓮に連れられ、俺は城からホンの少し離れた森の中にある小川へとやってきた。
向田
「……お。この城の近くにも小川があるんだ?……けど、何かあるのか?」
雪蓮
「ん。ここにね……母様が眠ってるの」
向田
「え……?」
雪蓮
「袁術……美羽の城は元々母様が落とした城……母様が死んでからはあの娘に奪われちゃったんだけどね」
向田
「そうだったんだ……でも、それじゃどうしてちゃんとしたお墓を建てないんだ?」
雪蓮
「母様が嫌がったのよ……死んでまで王という形式に縛られたくないってね」呆れたように苦笑する雪蓮……普通王なら大々的に葬儀を行い、立派な墓を建てるもんじゃないかと思うが、雪蓮のお母さんならそれぐらい言いそうな気もする……
向田
「それでこんなところに……」
雪蓮
「戦ばかりの毎日だったからね……死んだあとぐらいはのんびりしたかったんじゃないかしら」小さく笑いながらそう言った雪蓮が、持ってきていた布で墓石を磨き始める。
向田
「あ、手伝うよ」
雪蓮
「ありがと……」実は俺、今の思いを雪蓮に伝える前に、一度お母さんにご挨拶しておきたかったんだよね。雪蓮に倣い、川から水を汲み上げては、墓石に水を掛けて石を磨く。石を磨いたあとは周辺の掃除だ。雑草を抜き、重なった落ち葉を払って周辺を掃き清めた。
于吉の次の企みとは?あ、どうでもいいですけど蜀バージョンの26話を一部修正しました。主人公の闘い?方がより原作(恋姫でない方)に近くなってると思いますが、どうでしょうね……?