(^_^ゞ
蜀のみんなが天幕へ戻っていくと、蓮華は冥琳を怒鳴り付けた。
蓮華
「冥琳っ!この大切な時に、先ほどの振る舞いはどういうことだ!お前らしくもない!」その様子を俺は雪蓮や有希君と傍観している。
冥琳
「……今はまだ、ご説明すべきではないかと」
蓮華
「何っ!」
冥琳
「……わたしはこれから、為すべきことを成さねばなりません。お先に天幕に下がらせて頂きます」
蓮華
「な……」
冥琳
「では……」そしてホントに天幕へ戻っていった冥琳。タメ息を吐く蓮華に対して、雪蓮はあまり気にしていない様子だ。
蓮華
「……はぁ」
雪蓮
「気落ちしているわね」
蓮華
「と、当然です!この大切な時に、呉の宿老と柱石が喧嘩なんて……!」
雪蓮
「……あのね、蓮華」
蓮華
「何ですか?」
雪蓮
「もう少し、冥琳と祭を信じましょ」
蓮華
「……??どういうことですか?」
雪蓮
「あの二人が貴女にとって不利になるようなこと、すると思う?」
蓮華
「それは……」
雪蓮
「しないわよ。絶対に……だから、今はことの成り行きを静観してあげて」
蓮華
「……姉様、何か知っているのですか?」
雪蓮
「私は何も。でも剛達は何か知ってそうね」ここでもいつもの勘が冴えるか……雪蓮も相変わらずだな。つーか冥琳や祭さんをよほど信頼しているんだろうな。
向田
「……まぁね。相手こそ違えど、俺らの世界では有名な話だから……けど口に出しては言えない」
有希
「いくら自分の陣地とはいえ、どこに間諜の耳があるか分かりませんしね」
蓮華
「信じて良いんだな?」
向田
「ああ。俺達を信じろ」
蓮華
「……分かった。なら信じる……」
向田
「うん……ありがとう」大きく頷いてお礼を言いながら、蓮華の頭をクシャクシャと撫で付ける俺。
蓮華
「あん。もう……子供扱いしないで」
向田
「いやいや、今日は何だか素直に俺の言うこと、聞いてくれるからさ……嬉しいなぁって」
雪蓮
「子供扱いされるのも今の内だけよ。私なんて、しょっちゅう有希にドヤされているし」……えっと、雪蓮……子供扱い以前に君、有希君より年上だよね?まあ冥琳のことは彼に任せて俺は夜まで待機していよう。
~有希視点~
祭さんと冥琳さんが言い争いを始めたのをきっかけに僕はこれが本来の三国志演義で云われる「苦肉の策」を案じたとみた。左慈や于吉が間諜を送ってることはとっくに気づいているから、向田さんとは念話で話す。どんな間諜も念話を聞き取ることは出来ないし、あいつらが念話を盗み聞き出きるならそもそも間諜を送らず、直接闘いを挑んでくるハズだしね。
向田さんに、冥琳さんに何かあったら飲ませるように頼まれて僕は渡された小瓶を、水筒に移しておいた。やがて日が沈んでから、僕はその水筒を持って冥琳さんの天幕を訪れた。
有希
「冥琳さん」
冥琳
「有希か……何用だ?」
有希
「まぁ2、3ありまして……で。このあとは?」
冥琳
「このあととは?」
有希
「祭さんが陣地を抜け出したあとですよ」
冥琳
「……ほお。見抜いていたか」
有希
「一応。これでも1度は勇者と呼ばれた身ですから。それぐらい見抜かないと」
冥琳
「そうか……さすがだな」
有希
「そんな大したことでもありませんけど……で、どうするんです?」
冥琳
「陣地を抜け出した黄蓋殿は、左慈の陣に向かい、降伏を申し出る」
有希
「で、降伏した祭さんが、奴らの陣地の中で暴れるって寸法ですか……」
冥琳
「そういうことだ……よくぞ、我が策に気付いてくれたと思う」
有希
「……やっぱり。2人とも、事前の打ち合わせとかしてなかったんですね?」
冥琳
「そんな暇があったと思うか?」
有希
「……まさか」敢えておどけた感じで答える僕。実際に冥琳さんしかり、祭さんしかり、出陣の準備やら何やらで、大忙しだったしなぁ……
有希
「あの一瞬で全てを察したと……スゴいな、2人とも……」
冥琳
「ふっ……伊達に呉の宿将や、呉の柱石などと、偉そうな名で呼ばれてはおらんのだよ」
有希
「……ですね。何て言うか……恐れ入りました」
冥琳
「恐れ入るのはまだ早いさ……この策を成功させなければ全てが水泡に帰す……」
有希
「ええ……必ず成功させましょう」
冥琳
「させるさ。必ず……」
有希
「僕も協力を惜しみません……当面は何をすれば良いですか?」
冥琳
「今のところは何もない……いや、雪蓮と蓮華様に上手く説明をしてもらいたい」
有希
「それなら向田さんがやってますよ……雪蓮さんは勘づいてるみたいですよ。蓮華さんも信じるそうです」
冥琳
「そうか……」
有希
「あの……ムリしてません?」
冥琳
「蓮華様には……これぐらいの策を見抜く目を、次期王として当然、持っておいて頂かなければならんからな」
有希
「強がらなくて良いのに……」
冥琳
「強がってなどおらん……ところで有希」
有希
「はい?」
冥琳
「左慈との闘い、お前はどう見る?」
有希
「んー……正攻法で当たれば僕達の負けは目に見えてるでしょうね。だけど……それなら正攻法で当たらなければ良いんです。大軍相手に、正攻法でない闘いをする……そのために戦場に赤壁にしたんでしょう?」
冥琳
「ほお……そこまで分かっているなら、切り札が何であるかは見当がついているようだな」
有希
「ええ……けど、その切り札を使うにしても、川の上じゃ状況が限られてくる……そこが気になってるんですよね。今の状態じゃ……連環の計、出来ないでしょう?」
冥琳
「ふむ……そこまで見抜いていたか」
有希
「選ばれし勇者の称号は伊達じゃありませんよ」拒否しましたけど、と苦笑して続ける僕に冥琳さんは髪を書き上げて言葉を繋ぐ。
冥琳
「そのようだな……だが安心しろ。策はしっかりと講じているよ」
有希
「へっ?」
冥琳
「劉備との闘いのあと、赤壁周辺の村々に、細作を放った……新しい船の停留方法が発明されたとな。船と船を鎖で繋げば、荒波に船が流されることもなくなり、また、停留中の揺れを最小限度に抑えることで、船員の体力の消耗を抑える……そんな偽情報を流しておいた」
有希
「まさに連環の計ですね……けど、左慈がそれを信じるかなぁ?」
冥琳
「例え信じないにしても……いつだったか居ただろ?あの貂蝉とやらにも根回しを依頼しておいた。そうすれば、左慈とてムリにでも繋がれた船で出撃せねばならなくなる」
有希
「利用出来るモノは全て利用する、か……で、動けなくなったところを狙う。さすが周公謹だなぁ」
冥琳
「ふっ……褒めても何も出んぞ」
有希
「……純粋に感心しただけですよ」
冥琳
「ふむ。ではその賞賛、素直に受け止めよう」くくっ、と鼻で笑う冥琳さんが、穏やかな顔になって僕を見つめる
冥琳
「……有希。雪蓮と向田をどう思う?」
有希
「どうって……結構お似合いかと」ことなかれ主義な向田さんと無鉄砲極まりない雪蓮さんだけど、何だかんだ意外と名コンビだもんね、あの2人。
冥琳
「あとは蓮華様だな……どこぞに相応しいのが居れば良いのだが……私は少し休む。左慈との決戦が終われば……世は平和になるだろう」
有希
「そうですね……そうなれば良いです」
冥琳
「なるさ。強かではあるが、劉備は義理堅い。それに大義のために立っている人物だからな。呉の統治が
有希
「冥琳さんっ!?」
冥琳
「騒ぐな有希!」
有希
「……っ!?」
冥琳
「この身に巣くった病魔
有希
「大したことない訳ないでしょう!さ、これを」僕は水筒を取り出し、飲み口を冥琳さんの口へ押し付け、首を90度にして強引に流し込む。
冥琳
「お前……何を飲ませたっ!」
有希
「何って……」と、僕が言いかけると、1人の兵がこちらに駆け寄ってきた。かなり慌ててる様子だ。
兵士(モブ)
「た、大変です!」
冥琳
「どうした!」
兵士(モブ)
「こ、黄蓋様が幾人かの兵と共に、陣地を脱走致しました!」
冥琳
「なんだとっ!すぐに追手を出せ!」
兵士(モブ)
「はっ!」
有希
「始まったな……」誰にともなく小さく呟く僕だったけど、
冥琳
「ああ……一世一代の大芝居。この周公謹、見事演じきってみせよう……」冥琳さんも本気で動く気のようなので、僕も向田さんに念話で伝える。
~視点なし~
本陣では雪蓮と蓮華、思春が脱出した祭を追撃する部隊を編成していた。
思春
「慌てるな!すぐに部隊を出して追撃するぞ!」
明命
「♪しかし!黄蓋様が……黄蓋様が私達を裏切るなんて!何かの間違いですっ!」
思春
「明命。現実を見ろ。今、この事態が起こっているのはどうしてだ?」
明命
「それは……」
思春
「希望的観測を判断の基準にするな。現実を冷静に分析し、部下に指示を出せ」
明命
「は、はい……」
亞莎
「呂蒙隊!完全武装で追います!みなさんすぐに準備して下さい!」
蓮華
「祭……どうして私をうらぎった……っ!」
雪蓮
「落ち着きなさい、蓮華。今はとにかく、部隊を指揮する者を選び、組織立って追撃しなくちゃいけないわよ」
蓮華
「そ、そうですね……では穏。お前が全軍の指揮を執ってくれ」
穏
「了解であります♪」
蓮華
「必ず……必ず、生きて祭を私の下へ連れ戻してくれ……頼む!」
穏
「はーい♪では皆さん、完全武装したあと、一生懸命追うふりをしましょ~♪」
亞莎
「は?ふ、ふりですか?」
穏
「……てへっ。間違えてしまいました~。一生懸命、祭様をおいましょえね~♪」
思春
「はっ!」
明命
「はっ!」
雪蓮
(穏は冥琳の思惑にいち早く気づいたみたいね。口を滑らせたのは減点だけど……全く、ヒヤヒヤさせないでよね)
~有希視点~
さて、冥琳さんにエリクサーを飲ませて、一安心したのも束の間。川に目をやると……まずいな、もう追撃準備に入ってる!
冥琳
「ふむ。さすがは蓮華様だな」
有希
「感心している場合じゃありません。僕達が先頭に立たないと、ホントに同士討ちに発展しますよ!」
冥琳
「分かっているさ……周家の部隊を集めろ。すぐに追黄蓋殿を追うぞ!何としても軍の先頭に立て!」
兵士(モブ)
「はっ!」
~視点なし~
一方祭は、部隊を引き連れ左慈達が率いる艦へと向かいつつ、蓮華を待ち受けていた。
祭
「ふむ……奇襲にはもってこいの闇夜だな」
兵士(モブ)
「黄蓋様。我が舟の後方より、各部隊が追撃してきております」
祭
「ふむ。先頭の旗は誰のものじゃ?」
兵士(モブ)
「周と陸。あと旗はありませんが、フェル殿とプリウス殿の姿が」
祭
「ほっ。向田も有希も気付いておるか。さすがじゃな」
兵士(モブ)
「はっ。最近、兵達の間でもいたく人気があるようでして」
祭
「ほお。それは気付かなんだ。あやつらにそれほどの人徳があったとはな」
兵士(モブ)
「お二人はよく兵達にも旨い飯を振る舞っているようですからな。加えて天の御使いという評判も、影響を与えているのでしょうが……しかし、このまま追撃部隊を引き連れたまま、左慈のところまで向かうのですか?」
祭
「うむ。そうせんと、左慈は我らのことを信用せんじゃろう?」
兵士(モブ)
「はぁ……しかし、その勢いのまま、両者激突……という危険性もあるかと思いますが」
祭
「あのひよっこどもがそこまでバカモノならば、呉にとって必要なし……その場で死ねば良い。しかしな。皆、有能な若者達よ。激突する前にとっては返すじゃろうな」
兵士(モブ)
「そうなってくれれば良いのですが」
祭
「きっとなる。そう信じて、我らは精々、左慈に見破られないように必死に抵抗すれば良い」
兵士(モブ)
「はっ……しかし抵抗すれば、追撃してくる部隊にも被害が出ますが、それはよろしいので?」
祭
「多少の被害は目を瞑るしかなかろう。それに、いざとなればフェルが結界とやらを張ってくれるじゃろうて」
兵士(モブ)
「了解しました。では本気で抵抗してもよろしいのですね?」
祭
「当然だ。追撃部隊を全滅させる勢いで、しっかりと反撃せい」
兵士(モブ)
「はっ!」
祭
「頼むぞ」
兵士(モブ)
「了解であります。では!」
祭
「さて……我
遂に決着なるか?
本編が終了したあと、追加話を書くかもですが「こんな話が見たい」なのはありますか?候補は次の通り
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月と詠に再会した呂布と陳宮の話
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ゴン爺に出会う雪蓮の話
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