TS 盾役従者は勇者に付いて行けるのか?   作:低次元領域

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 恥の多い生涯を送って来ました。
 自分には、女性の生活というものが、見当つかないのです。自分は東北の田舎に生れましたので、TS娘をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでした。
 自分はTS娘小説のプロットを、書いて、消して、そうしてそれが自分の中のメス堕ちに対する欲望を強くするため造られたものだという事には全然気づかず、ただそれは流行りに乗り遅れまいとする作家として複雑に、楽しく、ハイカラにするためにのみ、書き起こされたものだとばかり思っていました。
 しかも、かなり永い間そう思っていたのです。


10.人雄失格

 

 昔から僕は少し内向的なところがあったと思う。

 

 道具屋の息子として生まれた僕は、ガラクタを仕入れてしまっては困る父を見て、何かできないかと思ったことはあったけど結局あまり力にもなれず。

 原っぱに生えている薬草を摘んで団子を作ったり、木の端材を貰って変な彫刻を作ったり。変なことばかりをして暮らしていたからか、村の同年代の子とも仲良く出来ず。

 自然と浮いた僕は、今日も一人。川で綺麗な石を探していた。

 

『……なあ、人が釣りしてる近くでうろちょろすんな。魚が逃げちゃうだろが』

 

 それが、君との出会いだった。

 岩に腰を掛け、タンクトップに半ズボン。釣り糸を垂らしこちらを睨むその姿は……僕と正反対な子だと感想を抱くには十分だった。

 その後……確か、びっくりして転んで、川に頭突っ込んじゃったんだっけ。全身ずぶ濡れになって……慌てたテオに慰めてもらったんだった。

 

『お、おい泣くなよ……俺がイジメたみたいじゃねぇか……! だぁくそ、おらさっさと脱げ! 着替え持って来てるから貸してやらぁ』

 

 ……うん、この思い出はかなり恥ずかしいものだったから封印してたんだった。忘れてた。

 そこからテオとの付き合いが始まった。気が合うのか何なのか、僕が出かけたりするときは大体君が居た。

 

 一緒に遊んで、君が馬鹿をやって、一緒に怒られる。

 一緒に遊んで、僕が転んで、君が転ばぬ先の杖だと言わんばかりに前で立って支えてくれる。

 

 不思議だった。不思議で、楽しかった。

 やがて始まった旅には素敵な仲間もいて、楽しかった。

 

『……ごめんな』

 

 いつしか、君は馬鹿をやらなくなった。

 いつしか、君は歩みが遅くなってしまったと零していた。支えられないと愚痴っていた。

 

 ──それでもよくて、それじゃあ足りなかった。

 道が重なっていて、僕が進んで、テオが後ろから見守っていてくれれば……楽しかったんだ。

 また旅が終われば、二人で、いや他の仲間の二人ともと……夢を見ていたんだ。

 

『ついていけなくて』

 

 だから無我夢中に進んだ。

 これ以上被害を出さないためにも、皆を笑顔にして、君が気兼ねなく馬鹿をやれるようにと。

 

 それなのに……なんで、僕は、何処で間違えていたんだろうか。

 もうこの旅に君はいない。この先にあるかもしれない幸せをかなぐり捨ててでも──君にはいて欲しかった。

 

 だから、少しでも君が笑っていられるように、僕はそれを造ろうと決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじさん、この串焼き三本……二本は包んで下さい」

「あいよ、毎度!」

 

 聖剣を背に進む食べ歩きin王都。

 流石はこの国最盛の都市。国中の美味しい物が集まるこの場では屋台の料理も最高だ。お金さえあれば満足満腹なること違いなし。

 これで今夜の食事の淋しさに悩まされることもない。手には既に選び抜かれた食料がいくつか。一人で食べるにはやや多いが、二人で小腹を埋めるには十分な量だろう。

 

「兄ちゃん、そんな買ってお土産かい?」

「いえ、夜食に……」

 

 どうにも、王宮での食事は健康に気を遣っているのか薄味が過ぎる。普段からあれなら満足できるのかもしれないけど、どうにもジャンクな味付けが好きな僕たちには物足りない。

 特に、お酒を飲む気でいるだろうテオは余計に物足りなくなるだろう。

 流石に女性モノ鎧を着ることになり憂鬱となっている彼女の為にも、こうして用意しておこうと思った次第である。

 

「ん、そんな遅くまで……背中の剣を見るに冒険者か。しっかり食ってスタミナ付けろよ!」

「は、はいありがとうございます……」

 

 肩を叩かれ、小走りになる食べ歩き。

 気のいい主人だということは分かるんだけど、買い物するときに色々話しかけられると困る。

 

 ……テオなら多分、ここから話をつなげてもう一本ぐらい串焼きもらってそうだな。

 僕には無理だけど。

 

 さて買い物は終わった。王宮に向かって……部屋で休憩しようかな。

 よしそうしよう。

 食べ終わった串焼きのゴミを仕舞い、いざお城へ向かおうと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

──ね、ねぇあれって 

──勇者様だ……

 

 歩いて歩いて十数分。

 町並みは絢爛にそれでいて上品に。明らかに先ほどまであった混ざりはなくなってきている。

 ここは王都の中でも富裕層が多い箇所。こんな中では剣を背にしている自分が浮いてしまう。それでも後ろ指刺されないのは……こちらの人達は比較的僕の事を知っている人が多い事だろうか。

 

 先ほどの通りでも何人かから話しかけられたが、それでも気が付かない人の方が多かった。でもなんでだろう、テオに聞けばわかるかな?

 包みからおおよそ周囲と似つかわしくない匂いを零しながら進んでいった。

 

「……ん? なんだろあの人だかり」

 

 そうしてもう少しでお城に着くだろうという頃、道の一部に人が集まっているのが見えた。みんな服装も豊かに見える格好だが、外聞も気にせず一つの店を覗いている。

 はて、そんな皆が気にするようなものがあるのだろうか。気になり近づく。

 

 見たところ、ただの服屋さんにしか見えない。周囲にあった、とても高級そうな服屋さんだ。

 入口は……何故か、執事服を着た二人組が封鎖している。

 ますます気になり、集団の一番外側、つまりは僕に近い女性に対して話しかけた。

 

「すいません、この集まりは一体……どうしたんでしょうか?」

 

 すれば、女性は僕の方を一瞥することもなく答えた。

 

「今、リバユラ姫様がいらっしゃってるんです。一体どんなものを選ぶのか気になるではありませんか」

「は、はぁ……それだけですか?」

「それだけ? 男の人には分からないのかもしれませんが……リバユラ様がお選びになったということは、王家が気に入ったデザインという事。

流行の始まりということよ!」

 

 よくわからなかった。

 流行の服を着るという事が彼女たちにとっては至極大切なことらしい。

 

 ……ならば、眺めている中には男性の姿が見えるというのはどういうことなのだろうか。

 少しずれ、端の方に立っていた男に話しかけた。

 彼もまた、少しも視線をずらすことなく答えた。

 

「すいません、貴方も流行を気にして……?」

「ん、いんや……単に着飾った姫様を一目見ようと待ってるだけだが? なにせあの美貌……ちらっとこっちを見てくれるだけで、日々の疲れが吹っ飛ぶってもんだぜ!」

 

 テオみたいな人だった。

 いやまだこちらの方が分かりやすかったけど。

 

「……随分冷めた目をしてくれるじゃねぇか。今日はなんだってか警備が少なくて、こうして間近で見れる数少ないチャンスなんだぜ?」

「そ、そうですか……」

 

 あまりいらない情報を貰えた。使うことは無いだろう。

 ……とにかく、この店の中に姫様が居て、みんな彼女が買い物を終えるのを待っているらしい。

 

 人気者は大変だなぁ。お店が気になっている人たちが僕が勇者だと気が付かないうちに離れよう。

 そう思った瞬間だった──空気が震えた。

 

「──姫様だ!」

 

 誰かが言った。

 集団が動く、抜けようとしていた僕すらもからめとられ、動けなくなる。方々からかかる圧迫感。おしくらまんじゅうをしている気分だ。

 執事服の人が負けじと「さがってください!」と叫んでいる。

 助けてくださいと僕も叫ぼうかと思った。オークを前にした時よりも明確な死の恐怖というものを感じた。

 

──……あら、いつのまにかこんなに人が。困りましたねテオちゃん

──ハハハソウッスネ、コンナスガタミンナニミラレテ、テオチャントッテモウレシイナー

 

 姫様の声と知り合いに似た声が騒ぎに混じって聞こえた。いやまさかなと聞き流す。

 集団の中から「お綺麗でございます!」「なんとお美しい……」「お隣方はどなたですか?」と質問の塊が投げつけられていく。

 もう何がどうなっているか分からない。このまま一塊の生命体になるのかもしれないとすら思った。

 

──しかしどういたしましょう……このままではお城へ帰れません

──……んんっ。盾でゴリ押すのは無理っぽいなぁ。……ん? 姫さ──リバユラちゃん、いいやつ見つけましたぜ

 

 やっぱりよく知った声が聞こえる気がする。

 でも多分他人の空似だ。少なくともテオがちゃん付けで呼ばれてるなんてそんなことはあり得ないだろう。

 

──じゃあこの盾の裏にいてくれリバユラちゃん、あいつ叩き起こしてきますんで

──て、テオちゃん?

 

──トンと、誰かが僕の背中に乗った気がした。

 もみくちゃにされている中で、その人は僕の聖剣を手でつかんで……。

 

「えっちょ、ちょっと!?」

「はよ輝かせろや、ヤシド!」

 

 剣から背中に伝わる脈動。

 止めようとする前に、視界は白く染まり消えていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、勇者様がたまたまいて助かりましたね」

「だな、勇者様様様ですな」

 

「あのね……」

 

 民衆は聖剣の光を受けすっかりおとなしくなり、姫様たちに謝ると何処かへ立ち去って行った。

 流石聖剣、人の心を穏やかにする力は例え咄嗟に発動しても有効と言う訳だ。よかったよかった。俺が姫様抱えて跳んで脱出とか無理だから。

 姫様はちょっと期待してたみたいだけど。身体強化使っても無理無理。

 

「しっかしヤシド君はなんだってこんなところにいんだ? お前が好きそうな店なんてないと思うが」

「いや、これからお城に行こうと思ってて……むしろなんでテオはリバユラ姫様と一緒に……」

「テオちゃんと一緒に王都を楽しんでおりました、はい」

 

 ええ、姫様は私()王都を楽しんでおりました、はい。

 ……ヤシドは馬車の荷物とかを兵に預け、一人町をぶらぶらしここまで来たというわけか。

 気楽だなぁクソァ!

 

「……ん、おいそのシミ」

「えっ、うわ! 最悪だ……」

 

 ふと疲れ切ったヤシドを見れば、服のあちこちにタレやらなんやらの跡が。

 あーあー、道中の屋台で買ったんだろう料理が潰れて、シミついたんだな。

 バカな奴め、野次馬しなければ。油は個人的にだが血よりも落としづらいぞ。ぐはは後で苦労するといい。

 

「あら、でしたら城で預かって洗わせますよ」

 

 なんて心の中で高笑いしていれば姫様からのお助け。ちっ、救われたなヤシド君。

 まぁいい、今夜はお前は慣れないスーツに身を通し会食だ。せいぜい慣れない社交的な集まりに苦戦するがよい。

 

「あぁすみません、ありがとうございます……あ、ところでなんだけどさ」

 

 なんだヤシド。そんなに頭からつま先まで何べん見返してもテオはテオだぞ。

 お前その視線女性にやったらすごく嫌われたから気を付けろよ。あの時は泣いた。存分に見ていいですよって言って来たくせに……。

 

「──なんで、ドレス着てるの?」

 

 

 

 ……俺が知りたい。

 膝下まであるのにスカートスースーする。肩から胸にかけて肌が出ているの自覚したくない。

 こんな貧相な体でこんな自信ありげなドレス着ているとか全てが恥ずかしくて心が壊れそう。

 

「ふふふ……とても可愛らしく仕上がりました♪」

「た、確かに似合っているけど……すっごいびっくりした。テオがズボン以外履いてるところなんて初めて見たよ」

 

 うるせぇ! こっちだって好きでフリフリの服着てるわけじゃねぇやい!

 下着ももっと色気のあるものにとか言われてさぁ!

 やたらスケスケな奴とか煌びやかな奴強制的に付けられたんだぞ! あ、そこはメイドの方が小さく「すいません」って謝りながらやってくれだけど! ほっといたら姫様が脱がして姫様に着せられてたよ。

 

 あとヒールが高くて歩きづらい。さっきよく跳べたよ俺。

 ……ハハハ、あん時もしかしたらパンツ見られたかもしんない。少し前まで履いていた物ではなく、あんな、あんな……酒場の踊り子でも履かない様なものを!!

 赤面し、しゃがみ込む。

 

「……ヤシド、パンツって……見られると恥ずかしいんだな」

「え、今更?」

 

 

 

 絞り出した悲鳴に呆れた勇者に、盾役従者のアッパーが襲い掛かったのは言うまでもない。

 

 

 

 





 そうして自分は、やがてTS小説を投稿して、それに依って得た歓楽は、必ずしも大きくはありませんでしたが、その後に来たメス堕ち出来ないという事実は、凄惨と言っても足りないくらい、実に想像を絶して、大きくやって来ました。
 自分にとって、「メス堕ち」は、やはり底知れず、おそろしいところでした。決して、そんな一本勝負などで、何から何まできまってしまうような、なまやさしいところでも無かったのでした。


メス堕ち度 15%
レズ堕ち度 20%

次回、盾役従者の下着は(正式名称が)パンツじゃないから恥ずかしくないもん11話は「会食の後、姫のデザートタイム」
おらワクワクすっぞぉ!

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