TS 盾役従者は勇者に付いて行けるのか?   作:低次元領域

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 どうか mesuoti と発音して下さい。


11.光もたらす剣

 遠い昔、異形な生命体が突如として現れた。

 それらを率いる者は自己を「魔王」と称し大地を、海を、空を……世界を闇に落とそうとした。

 

 人間たちは対抗しようとしたが、不可思議な術を使い屈強な肉体を持つ彼らに勝つ術はない。

 奮戦も虚しく、次第に追い込まれていく。

 ……だがしかし、神は人を見捨てたわけではなかったのだ。

 

 闇を切り裂き現れたたのは、一筋の光。

 いずれ、勇者と呼ばれる者は……太陽にも等しい輝きを手に、天より舞い降りた。

 何者、敵なのかと尋ねられると、ただ一言「戦いを止めに来た」と言い切って剣を構え……異形の者へと飛び込んでいった。

 

 それからは一騎当千、聖剣の勇者による英雄譜。

 勇者の活躍を聞きつけ駆けつけた勇士たちと共に、異形の生命体を蹴散らしていく様は各地におとぎ話へ形を変えて受け継がれているそうだ。

 

 だが、魔王との戦いだけは違う。分かっていることはただ、四人が魔王の元へ……彼らが築いた、骸の山の城へと向かって行ったこと。

 一日近く続いた空鳴りや強い光の明滅。収まった後に人が向かえばただ、更地しかなかったこと。

 

 戦っていた勇者たちは、魔王は何処へ……夢のように消えて終わり、人々は困惑した。

 我々はこれからどうすればいいのだと、本当に世界は平和になったのか。闇が晴れても不安の雲は消えず。

 

『恐れるな皆のもの! 空を見よ──寒く冷え切った大地を照らす、太陽があるではないか!』

 

 それをまとめるものが居た。

 勇者様がいなくなった今、我々に再び災厄が襲い掛かってこないとも限らない。

 団結し、国を興そうと叫んだ男が居た。

 

 いつの間にか増えた太陽の下、人々は手をつなぎ、戦火で荒れ果てた地を耕し国を興す。

 二度と理不尽に負けぬよう、根を下ろし創り上げていった。

 

「──これこそがメイクーン家、建国の起源であり、今もおとぎ話に語り継がれる勇者伝説である……ってよ、勇者様ぁ?」

「へー……」

 

 布団に入り読み聞かせられたヤシドの反応はいまいち。

 途中から全く自分に関係ない話が始まり、どうしたものだと困惑していた。

 俺もそう思う。

 

 つい最近書かれた本を閉じ、雑にテーブルに置いた。

 過去を記録する歴史書というのは、どうしても盛られたり、生者に都合のいい事がかかれることが多い。

 が、これはそもそも詳しい事がかかれなさ過ぎて何も言えない。せいぜい、その異形の者たちとは「魔物」ではなく「魔人」の事だったんだろうなと推測するぐらいだ。

 

 そもそも聖剣は一体どこから……そこまで考えて、小難しい事はあまり考えてたくないと酒瓶に手をかけた。

 酒を切らした夜などは、先の不安や身の切り方、考えばかりして眠らぬ日だって未来にはある。

 

 だから煽る、どうせ未来では飲めなくなるのなら今の内に飲んでおこう。そう思えた。

 第一今日は、晩の時に酒の量が足りなかった。色々と邪魔が入ったせいで碌に飲めなかった。高い酒がグラスでただ揺れる姿ばかり見ていた。

 じらされた分飲む。今ここにコップはない。直飲みだ。ワイルドだろう?

 

「……」

「ねぇテオ……聞いてもいい?」

 

 考える。

 人は、間違いを犯す生き物である。

 人は、分かり合えることなどない生き物である。

 魔族もそうであるように、この世には完璧な生命体などいない。

 

「ことわ~る。どーせ酒はやめろとかゆーんだろ? 止めさせたきゃぁ……うまい果実水でも持ってきなぁ」

「……それも考えた。けど、今日はお酒の席だったし仕方ないと思う事にしてる。だから、そうじゃなくてさ……」

 

 ああ気分がいい。不完全を許容すれば世界はこれほど美しく味わえる。喉を通り抜け焼ける感覚を空に逃がす。

 

 ……例えば、姫様は素晴らしい体型をされてらっしゃるが、彼女よりも良い箇所を、バランスを持つものだっている。

 少なくとも胸はすごい人はよく知っている。

 今この時代ではどこにいるかもわからないが、確かにやってくるだろう未来に彼女はいるはずだ。

 うんうん、勇者パーティにいてよかったと思えた出来事の一つだ。

 

「──なんで、下着姿で、僕の部屋で飲んでるの?」

 

「……そわれた」

「えっ?」

 

 歓待の食事会を終えた後、一先ずお互いの部屋に戻った俺達。

 だが俺は今、自分に用意部屋から離れわざわざヤシド君の部屋で飲んでいた。部屋の距離もある。ヤシドの部屋にツマミがあるわけでもない。

 じゃあなんでか? 決まっている。

 

「姫様に襲われかけたんだよっ!! 緊急避難してのヤケ酒じゃ、悪いかぼけぇ!!」

「え、えー……」

 

 姫様は魔王だった。間違いない。

 四天王相手も補助魔法ありとは言え、一撃は何とか凌ぐ(その後戦えるとは言っていない)俺が何もできなかった。

 

 拝啓、過去の勇者へ。

 お前のお嫁さんに食われかけました(意味深)。  

 

「え、えーと……なんでまた僕の部屋なのさ。せめて、普段着になれば──」

「はぁ~~!? お前、城に戻ったらお前の服のついでに、俺の服が全部洗われてて着れなかったんだよ!」

 

 いいですね、勇者様は普通の下着も寝間着も残されてて!

 何で俺だけ全部洗われてんだよ! 姫の仕業でしょうなぁ!!

 

「じゃ、じゃあしかたが……いや寝巻ぐらいは渡されたでしょ?」

「あのフリッフリのクッソ恥ずかしい奴か! 着てたが姫の手を撒くため脱いだ!」

 

 ……ああ駄目だ、頭の中の勇者が困惑している。何をしたのテオ? って説明を求められている。

 違うんですよ過去ヤシド君、決してお酒によって過ちをしでかしたわけではないんです。むしろ落ち度はないんだ。

 

「えっ、もしかしてテオ……部屋からここに来るまでずっと下着姿で逃げてきたの……?」

「悪いか? 二度とあんな行為はごめんだね……あー恥ずかしかった」

 

 一瓶空けてテーブルに置く。盾を部屋に置いてきてしまったせいで碌に体を隠せなかったのが今思い出しても恥ずかしすぎる。

 誰にも見られずヤシドの部屋まで逃げ込めたのは奇跡というほかない。

 眠りの世界にいざなわれていたヤシドを叩き起こし、絡み酒。

 

「……その恥ずかしいって気持ち、僕の前でも保ってよ」

「あー? そりゃ少しは恥ずかしいかも知んねぇが……酒があって、なおかつお前だぞ? 他の奴に比べたら全然だね。ハハハ!」

「せっかく恥じらいを持ったと思ったのにこれか……見えそうだから、ほんと隠して!」

「ガハハ! ほぼ男みてぇな体隠す意味なんざねぇだろ!」

 

 こう、会食に出るじゃないですか。うんそう、過去のお前が「味はどこ……?」ってぼやいていた会食。

 あの時との相違点と言えば、俺がドレス着てたことぐらいだようん。あとメイドさんの手によって軽い化粧とかも施されて……。水とか粉を付けて、一体何の意味があるのかよく分かりません。

 そんで、会食に参加してた偉い人たちはほとんど勇者の所行ってわいわいしててな。

 ヤシドはおろおろしていた。助けられなかった、ざまぁ。

 

「というか襲われたって、リバユラ姫様がそんなことするようには見えないんだけどなぁ」

「聖剣近くで見過ぎて目ぇ悪くしたのかお前?」

「酷くない!?」

 

 姫様は勇者と話に行ったかと思えばすぐ戻って来て……ほぼ俺に付きっ切り。

 まあお偉いさんと話すのは面倒だからありがたいかーと思ってたが……姫様への挨拶をしに、みんなこっち来るから余計疲れた。

 姫様も慣れていることとはいえ面倒なのか俺を盾にしていた。盾役だった。

 

 おや、そちらの方はどこかの御令嬢でございますかー的な冗談も笑い飛ばし、美味い酒も量飲めず。

 時間も程よくなったのでようやくお開き。あぁ疲れたなと用意された部屋にお互いなだれ込む。

 

「いいかヤシドくーん、ありゃ間違いなく魔王だ。欲望に忠実で、その為には策を弄することを苦とも何とも思わない。敵に回しちゃいけない奴だ」

「不敬もいいとこだね……」

 

 ドレスをメイドさんに脱がせていただき、ようやくスースーしない格好になれるかと思った。

 だがなんと、今度は普段着と色気も減ったくれもないあの心強い下着たちがない。

 慌てて聞けばメイドさん曰く「姫より頼まれた」とのこと。謝罪をされたが致し方がない、姫様の思惑通りあの恥ずかしい下着を着たまま、フリフリが付いた寝間着で眠るしかなかった。 

 

「『テオちゃん……一緒に寝ませんか? 折角なので』って扉を叩いてきてな……王宮の警備をかいくぐって来たんだ」

「王族の方々のお部屋ってテオの部屋より更に離れていたよね……?」

 

 夜も更けた頃、奴はやって来た。

 かわいい熊さんのぬいぐるみで胸元を隠し、俺の寝間着と色違いの寝間着に身を包んだ彼女が。

 リバユラ姫様の強さはこの一日で味わった。冗談ではない、このままでは姫の女にされる。理性は断るべきだと訴えかけて来ていた。

 だから俺もきっぱりと断った。

 

『(申し訳ありませんがお許し下さい)よろしくお願いしま』

 

 逆だったかもしんねぇ……。

 少し酒の入った本能が大歓迎していた。部屋にどーぞどーぞと招き入れた。

 三匹の子豚だってもっと警戒すると思う。

「そして二人でそのまま添い寝することになってよー……姫様めっちゃいいにおいがするんだよ。多分石鹸とか最高級の物使ってんだろうな」

「……」

「ンで明かりを消したんだが……うん、眼が冴えすぎて少しも眠くならなくてよ。一呼吸するたびに姫様のいい匂いが全身駆け巡るんだぞ!」

「これ愚痴なのか惚気なのか分かんないんだけど?」

 

 その後!? されるがままだよ!

 固まり過ぎて適当に相槌打ってたのも悪いけどさぁ、あんな柔らかい体押し付けられて断れる童貞なんざいねぇ! 処女だがな!

 寂しそうな声でさ、少しずつ手を伸ばしてくるんだよ! 全身くすぐられてるみたいに震えてたよ!

 

『……テオちゃん、もう寝ちゃいましたか?』

『なんだか少し寒いかも……そっち寄りますね』

『もうちょっと暖かくなりたいなりたいなぁ……どう思います?』

『あたたかい……ふふふ』

 

「う、あ……うあぁぁぁぁ!!」

 

 怖い、次魔王に会ったら完全に姫の女にされる。そう思えるだけの力の差があった。

 僅か一時間近くの出来事に初体験がつまりすぎていてパンクする。

 穴という穴から火が噴き出し、どうしようもなくなる。

 

「うるさっ!? お、落ち着いてよテオ……流石にここまではこないだろうし姫様も──」

 

 宥め様とするヤシドを声を遮るように……ノックが部屋に響いた。

 体が固まる。

 

「……え?」

──夜分遅くすみません勇者様。こちらからテオちゃんの声が聞こえたものですから……入ってもよろしいでしょうか?

 

 知っていたさ、大魔王からは逃げられない。

 夢の名を騙る絶望が今、扉の前にやって来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……返事がありませんが、開いてますね? 失礼します」

 

 世の中の女性は夜の男の部屋にホイホイ来すぎだろう。暗くなった部屋の中で一人そう思った。

 どうやら狸寝入りなど出来る相手ではないらしい。部屋に入って来たリバユラ姫は僕が起きていると確信を持っていたのか、すぐに明かりを点ける。

 そして、部屋の中を一瞥する。まるで今気が付いたかのように、上半身だけ僕は起こした。

 

「ど、どうしたんですか姫様こんな夜遅くに(ど、どうするテオ?)」

「申し訳ございませんヤシド様。テオちゃんが部屋から出て行ってしまって……先ほどこの部屋の辺りから声が聞こえたような気がしたのですが」

「(いないっ、来てないって言え!!)」

「そ、そうですか……? 今夜はテオは来ていませんが(わ、わかった……)」

 

 テオは彼女の視線の中にはない。

 誤魔化せ誤魔化せと、布団の中……僕の腹に頭を乗せたテオ。急いで隠れたせいでこんな場所しかなかったけど……いろいろと危ない気がする。

 いやそもそも人一人が布団の中にいればその分盛り上がるから隠すもなにもない……現に、姫様はそれに気が付いたようだ。

 

「おや……失礼ですが勇者様、その膨らみは……?」

「(誤魔化せ、なんでもいい……猫でも犬でもなんでもいいから誤魔化せ!)」

「あ、え……えーとですねこれは……ね、猫です」

 

 苦し紛れの言い訳をした。

 

「ネコ、そうですか……私も拝見したいものです。捲らせていただいても?」

「(バレてる、バレてるよテオ!) は、はははどうですかね結構気性が荒いものですから、危ないかもー……」

「(誰が気性の荒いネコだ、じゃあ違うものだ!)」

「あ、やっぱり猫じゃありません。犬です、野良犬が来たのでつい……」

 

 苦し紛れの言い訳をもう一度した。

 ……姫はスッとどこからか、首輪を取り出した。人間用のサイズだ。

 

「偶然ですね……私、ワンちゃんを飼ってみたかったんです。大事に育てますのでお譲りいただけますか?」

「(て、テオー!? この人少しやばい気がする!) や、やっぱり気性が荒いから大変ですよ……?」

「大丈夫です、優しく接すれば……それこそ、ネコちゃんになっちゃいますから」

「(なんか悪寒がするんだが姫今何を取り出した!? ええい誤魔化せ、こうなんか……女の子が気に入らなそうなやつ!)」

 

 無理だ。こういうのはテオの得意分野で、肝心のテオが震えており使いものにならない。

 第一女子が嫌いなものが分からない。……テオの趣味ってあまり女の子っぽくないよね。

 お酒とか……? 煙草……いやこんなデカい煙草ってなんだよ。それもう魔物だよ。

 

「さぁ……広いお家で、大事に、大事にしますから……ハァ、ハァ!」

「(もう駄目だ、さよならテオ……)あ、あのその、えーと違くて」

「(諦めんな! じゃないと今夜中に俺が俺ではなくなるから、頑張れ聖剣の勇者!)」

「(……それだ!)」

 

 もはや姫様は姫様ではない。僕の布団に手を伸ばしひっべがえそうとする彼女はテオの言う通り魔王に見えた。

 だからこそ、こう思った──魔王には聖剣だと。

 

「──せ、聖剣! 聖剣があるんです!」

 

 言えば、姫様はピクリと動きを止めた。

 予期せぬ答えだったらしい。数瞬、動力を失ったゴーレムのように微動だにせず。

 ……しばしして、一歩。彼女は僕から……正しくは()()()()()()()()()()()()()()から離れる。

 

「……せ、聖剣(意味深)があるんですか……?」

「……? え、えぇ! 聖剣があります!」

「(??? よ、よくわからんが効いてるぞ、いいぞヤシド!)」

「そ、そのぉ……見たところ、1メートル近くありますけど……」

「せ、聖剣ですから……!」

「そんな大きくなるんですか……!?」

 

 何の話だ? よくわからない。

 だが、先ほどまで欲望に塗れていた姫の顔に焦りが見える。このまま押せば勝てる!

 

「い、いつからそれほど……?」

「え、えーとちょっと前(オークの穴の時)までは(鞘から抜けなかったから)もう少し長かったです」

「ちょっと(数分)前までは更に大きく……!?」

「(……ん?)」

 

 テオが何か思い当たることがあったようだ。悪い顔をする。我ここに策ありといった顔だ。

 だが頼もしい。

 

「だ、男性の剣(意味深)についてはあまり存じませんが、そこまでとは……いえ、これは勇者様だからこそ……?」

「(……ヤシドくーん? ちょっと他に聖剣の特徴言ってみて―)」

「(え、う、うん)他の剣との違いはやはり……光り輝くことですかね」

「光るんですか!?」

 姫様の足が二歩下がる。瞳孔が小さくなり、驚きを全く隠せていない。何故ここまで驚いているのだろうか。

 テオが下半身で笑いをこらえている。何がそこまで面白いのだろうか。

 

「(そうか、そうか……天は俺に味方をしている! ヤシド君、あとはそうだな……あれだよあれ)」

「(あれ……あぁ君の与太話の奴)あとは……まだまだですが、ビームも出せます」

「ビームを出す(意味深)!? え、ええと……お、お邪魔したようなので帰りますね!!」

 

 姫様が全力で部屋から出て行った。

 テオはとうとう抑えきれず、笑い転げた。

 

 何だったんだ……この疑問が解消されるのは、しばらく後の話であった。




これは或精神病院の患者、――低次元領域が誰にでもしやべる話である。彼はもう三十を越してゐるであらう。
 が、一見した所は如何にも若々しい狂人である。彼の半生の経験は、――いや、そんなことはどうでも善い。彼は唯じつと両膝をかかへ、時々ハーメルンのランキングへ目をやりながら、(オリジナルノランキングには枯れ葉さへ見えない樫の木が一本、雪曇りの空に枝を張つてゐた。)院長のTS博士や僕を相手に長々とこの話をしやべりつづけた。尤も身ぶりはしなかつた訣ではない。彼はたとへば「メス堕ちさせたい」と言ふ時には急に顔をのけ反らせたりした。


 いやぁ、魔王は強敵でしたね。(伏線)
・メス堕ち度20%
・レズ堕ち度30%
・レズ???堕ち度5%
書き忘れてたので更新後追加

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