14.5話として、R-18版「TS 盾役従者は貞操を守り切れるのか?」があります。
18歳未満は見ない様お願いいたします。別に読まなくともストーリーは分かる様にかいているつもりですぅ……。
https://syosetu.org/novel/216229/1.html
陽は中天を過ぎ、昼食の口直しに淹れられた紅茶が覚めてしまう頃。
侍女長は懐中時計を見て一つ息を吐き、直ぐに持っていた教本を閉じた。
「リバユラ様、本日の勉学の時間はおしまいでございます。お茶と菓子をお持ちいたし──」
「──そう。ならスティアナ、早く手紙を」
「……かしこまりました」
何か言いたげにするスティアナ。でも直ぐに一礼して部屋を出ていく。
流石、年齢と見た目さえ除けば私にとって完璧なメイド。後40歳ぐらいいきなり若返ってくれないかしら。
「はぁぁ~疲れた……」
ようやく今日の仕事が終わったと、肩甲骨をのばし同じく一息。冷め切った紅茶を流し込んで体の熱を取る。
国の政や経済、姫としての役目はしっかりと果たさなければならないけれど……どうにも情熱が湧いて来ない。
私だって、もっと年ごろの娘の様に色々とおしゃれやスイーツに現を抜かしたいのになぁ……。
首をゆっくりと廻し、凝り固まった血液を流していく。
数分もしていれば、バスケット一杯に手紙を入れたスティアナが音もたてずドアを開け帰ってきた。
「お待たせいたしました。本日は……」
「待って、季節の挨拶やらポエミーな手紙は取り除いて頂戴……!」
その山を見て、思わず眉を顰める。
ここ最近の中でも一番だと思う量だ。そんなに読んでいては日が変わる。
「かしこまりました……残りは三通です」
「……流石ね」
手で制しお願いすれば、山積みされたバスケットがそのまま後ろへ仕舞われ……その後、スティアナの服ポケットから手紙が取り出される。
私の思考を読み、既に仕分けていたらしい、出来る侍女をもって幸せだ。十代くらいまで若返ってくれたらなぁ。
受け取り目を通す。
一通は名門、王都魔法薬研究所から。
紙もインクも一級品。事務の者に書かせたのだろうか、整った文章は長々書かれていも不思議と苦にならない。
……人体の欠損修復薬の研究は順調。けど、最初からなかったものを作り出す薬は難航していると。
そのためにはより多くの実験、素材を集める必要があり──
「……あら、予算の打診? そんなにお金がなかったのかしらここ?」
「……勇者の誕生、ということで様々な部門に手を伸ばしはじめ、人手も足りていないとは聞きますが」
今からは完全に趣味の時間。権力は使うけど。
姫という立場を使えば普段なら一見お断りな職人、将来性豊かな学生の情報が集まるし相談が出来る。強権というのはこのように使うのよ、と誰に自慢する訳でもなく呟く。
「うーん……仕方がないことでしょう。今度お父様にお願いしておきます」
二通目はとある魔導具職人から。
試作品の試しで書かれたらしい、一定の間隔と癖がない文字。タイプライターとやらだったか。
間違いなくあと少しで実用化するだろう完成度に思わず目を輝かせる。やや紙に滲みが多いのが残念だが。
……ええと、うん。
「……??? これ何語かしら……?」
「姫様、お気を確かに」
……でも、書かれている内容が専門的過ぎて理解できないわ。
後で分かる人を呼んで一緒に読みましょう。とにかく経過は順調だという事しか分からなかった。
お祝いとして美味しい干物でも見繕ってもらって送ってあげましょう。うん。
頭が痛くなってきた。三通目は誰からだろうと手に取った。
やや皺が付いた封筒に、雑な蝋引き。差出人は──、
「あら、テオちゃんからですね!」
一日の疲れが吹き飛ぶほどの幸運。
やや急いで封を切り中身を取り出す。平らではない場所で書いたのだろうか。がたがたに揺れた文字が何故かおかしく、それでいて愛しく思えた。
内容は王都から出て起きた事を簡潔にまとめたもの。日記に近いかもしれない。
勇者様の料理がやたら濃い目になっているとか、すれ違った行商人から暴利を吹っ掛けられたので逆に安売りさせてやったとか。
風景と一緒に書かれたものは別段文章力に優れているわけではなかったが、一緒に旅をしているような気分になれた。
……ちょっと、自分のことより勇者様に対しての記述が多い気がするのは気のせいなんでしょうか?
「……そろそろ勇者様たちはネルシャ村につく頃でしょうか。一度だけ訪れたことがありますが……長閑でいいところでした」
あの村に現れた穴の詳細については知らないが、きっといい旅になることだろう。そうすればまたその過程をこうして手紙で送ってくれるだろうか?
これはまだ見ぬ二通目の為、お返事を書かねばなるまい。
「スティアナ、手紙の用意を」
「……はっ」
やはり備えていた侍女長。どこからともなく一式を揃え机に広げた。
薄いカーテンを通して柔らかく部屋の中を照らす光を受けて、宝石のように輝いて見える。
優秀過ぎる、せめて二十代ならいけたかな……。うーん。
筆をとり、サラサラサラり。
お手紙ありがとうございます。お変わりありませんか? こちらでは謎の槍の使い手の事で噂は持ちきりになっており──
「旅の無事を祈っております。リバユラ・メイクーン……っと」
気が付けば便箋の裏まで書き連ねてしまい、かと言って二枚目三枚目となるとテオちゃんに負担を与えてしまう。
残念だけれどもと話を区切り、誤字脱字がないか確かめて封に入れる。
「よろしければ……お預かりいたします」
「ええ、頼んだわ。……ふふっ、こうして仕事も何も関係ない手紙を書いたのは久しぶりね」
手紙を一通書いた後だというのに疲労感はない。
むしろまだまだ書きたいと訴える心がある。その力は次の文面にまで取っておきましょう。
微笑が漏れるのを自覚しつつ考えてふと……いつの日だったか、同じような気分に浮かれていた時があったなと思い出す。
久しぶり……本当に、いつぶりかしら。
あれは……まだ、私が──
「──リバユラ姫様」
思考が過去を巡ろうとする寸での所で急ブレーキが掛けられた。
何だと首を曲げれば、先ほどまでより顔を暗く、険しくした彼女がいた。思わず体を引く。
「な、なにごとですかスティアナ……」
「……いえ、ただ……ただ、テオ様への執心は少し危ういかと、そう……思っただけです」
嘘だ。
いや、考えの何割かに混じっているのかもしれないが、根元ではない。
分かりやすく、けれど本心が分からない彼女。
そんな態度でいられると困ってしまう。一体何を気にして……もしかして、あの事件が関係しているのだろうか?
「……
「っ」
アタリだったようだ。そういえばあの時も侍女長はスティアナだった。それなら危惧は当然かしら。
思い出す、まだ十歳にもならない頃に出会った侍女の事を。
そうだ、毎日会える立場だったというのに手紙を書いたり、就寝の時間が来てもこっそり話したり。
執心とも言える関係性が、あの時あった。
「そうね、あの時は私も短慮だったわ……今頃、彼女はどこにいるのかしら? 誰も教えてくれないのだけど……スティアナは知っているのでしょう?」
「……はい、ですが──」
「ならいいわ。生きているのならきっといつか会えるもの」
誘っているとしか思えなかった彼女。小麦色の肌へ私が手を出そうとした時、悲劇は起きた。
一体どこから聞きつけたのか他のメイドや執事、兵が集まり二人の仲は切り裂かれる。
その後は私の周りには年上の者しか配属されなくなってしまったし、ライパちゃんは何処か知らないところへ連れていかれてしまった。
「……」
口を一文字にして押し黙るスティアナ。やはり何か言いたいようだけど……その真意は計りかねる。
全てはお父様のお考えらしいけれど……仕方がない。しばらくは枕を涙で濡らしたけれど、仕方ない。
身分が、性別が、過程が、なにもかもよくなかった。もしあの日に戻れたら、私は私に忠告をするだろう。「もっとうまくやれ」と。
だが過去に戻る必要はない。何故なら
恋とは一期一会、一度逃したのならば追ってもろくなことにならないのだ。
「それにねスティアナ。テオちゃんは近い将来、地位と名誉を得る。私には今すぐ手を出そうなんて浅慮さはもうないわ」
身分は時間と彼女の活躍が解決する。
過程は姫としての身分を使い、存分に彩って見せる考えがある。
「ねぇスティアナ。もし私が……」
性別は……、
「男性と結婚するなら、誰にも文句は言われないでしょう?」
「……え、ええ。女性の方と、というよりは」
「なら簡単なことです。勇者ヤシド様が地位を得た暁には、私と結婚して頂こうと思います」
「……はい?」
性別は、なに。
大衆から見て私が男性と結婚したとなればいいだけ。
幸いにしてヤシド様は色恋沙汰に疎く、特に懇ろな仲の女性もいないとのことと聞いています。
勇者として権威を得た後は今の私の様に、迷惑な縁談話が舞い込んでくる。仮に勇者様が本当に愛する女性を見つけたとしても、貴族以外との結婚は難しくなってしまうだろう。
「そうして、ヤシド様の側室としてテオちゃんを……フフフ」
「姫様!?」
悪い話ではあるまい。私と結婚すれば側室の数など気にしない。勇者様には愛する人を見つけ側室にしてもらい、私はテオちゃんと愛し合うだけだ。
王位を継承する子種はまぁうん、勇者様からもらうか魔法薬に頼ろう。
仮に、仮に間違ってテオ様を意識するようなことがあっても、その関係ごと私のものにしてしまえばいいだけ。
最後は私のものになるのなら、テオちゃんもヤシド様もどんな恋路を辿ってもらってよい。
これこそ、気短さを克服したリバユラ式恋愛術である。
これにはスティアナも感服するしかあるまいて。ふふふどうです……どうしたのです、そんなに顔を顰めて。さっきより険しくなっておりますよ。
「……せめて、相手の同意を取ってからにしてくださいませ……」
あらそんなこと。
大丈夫よスティアナ。無理強いなんて私が嫌いとするところよ。
テオちゃんの視線、心臓の高鳴り、この間は恥ずかしさからか断られてしまったけれど……あれは、欲望と理性で揺れていた人の目だった。
あと数日一緒に過ごす事さえできればきっとテオちゃんだって素直になってくれるわ。
ああ、楽しみです。早く王都へ戻って来てくれないかしら。
空になったティーカップを覗いて、笑みを深めた。
◆
拝啓姫様、貴方の未来の婚約者とヤっちまいました。
いや本当すみません。次会ったら言うことある程度は聞きますのでどうか許してくださいませ。
その、手だけなので、セーフですよね? あれは医療行為だったので……最後、ちょっと口に入ってしまいましたが、事故です。
ほんとなんです信じてください。
「……」
「……」
言葉もなく走る馬車。馬も心なしか空気を読んでいるのか物静かだ。
荷台にいるヤシドはさっきから聖剣(本物)の刀身を布で磨いては呼気で湿らせている。もはや繰り返しすぎて鏡のようにピカピカだ。やめろ眩しい。
「……」
勇者様の勇者様大膨張事件は無事……無事、終わった。ただ、お互いに強烈な記憶を残して。
瓶一本飲み干したというのに、全くもって俺の記憶からはあの一夜の記憶が消えない。飲んですらいない勇者はもっとだろう。だってアイツ一切目を合わせるどころか体自体見ないもん。
時が時で無ければムッツリスケベ勇者の称号で大笑いしたかったところだが、そうにもいかない。
だって、だって……朝の鳥の鳴き声で目を覚ましたら……うん。あ、アレでべたつく体が……喉奥から変なにおいするし。
しかもムカつくことに、そんな状態でもなぜかこちらの健康状態は絶好調なところだ。
試しに体を流そうと魔法で水を出そうとしてみたら、普段より魔力の流れと量が多く思わず暴発しかける始末。
心当たりなど一つか二つしかなく、その苛立ちから勇者には量と威力を調節したクアバレットによる行水を浴びせた。
……いや断じて、アレが魔力に影響したなんてことあるはずがない。そんなことがあるなら世の中は性で乱れまくっている。
アレだうん、魔力増大の為にしていた訓練が実を結んだに違いない。そうだそうだ。
……いやしっかし、アイツのすごか──
「フンヌッ!!」
思い出そうとした馬鹿な俺を諫めるため、
盾に勢いよく頭を打ち付けた。
「ど、どうしたの!?」
「……心の迷いを断ち切っただけだ──クアエール」
「回復魔法使った!? ほんと何があったのさ……!?」
頭に手を当て、流れる血を止める。角にぶつけるのはやり過ぎたが……ようやく冷静になれた。
荷台からようやく、いつものアイツらしい声が聞こえた。
……このまま押し通してしまおう。
「よーし、勇者様。なんでそんな無言だったのか知らんが──」
「えっいやそれはテオが──」
「サクヤハナニモナカッタ、イイナ?」
「あっはい」
それだけ言えば、勇者は押し黙る。ハハハ、まぁ……悪かったよホント、今度村でいい子見つけたらそれとなく紹介するから。
姫様が恋心そっちに抱いてくれれば全力でくっつけるから……うん。
と、うん。そんなこと考えてないで……ただ今は荷台から出るよう促して、
「──ネルシャ村についたぞ」
まだ百メートル先ほどだというのに香るブドウの香り。
目的地がようやく見えた、勇者の出番だぞ。そう教えた。
まだその身から最後の力が抜けきらないうちは、老父はひっきりなしに十字を切り続けて、「主よ、わが罪(TS娘の妄想をしまくったことやR18小説を書いたこと)を許させたまえ」とささやき続けるのであった。
――そして、これを名残りの意識のひらめきが、すっと消えると共に、彼の眼の中でも、末期の恐れやおびえの色が、やっと消えたのである。
忘れもしない、そのとき、その貧しい老父の今際の床に付き添いながら、わたしは思わず友人の身になって、そら恐ろしくなってきた。
そしてわたしは、友人のためにも、TS娘のためにも、そしてまた、自分のためにも、しみじみ祈りたくなったのである。
──TS娘が幼馴染を意識するシーンは格別であってほしい、と
~オリキャラ紹介~
・スティアナ 苦労系侍女長
若返り薬を飲んではいけない存在。
どうやら姫様の過去の事件について何か思うところがあるようだが……?
・ライパス 元侍女?
ライパちゃんと姫に呼ばれていた子。本名はライパス。
案の定、この子も名前に仕込んでいたりする。
・テオ
アホ
・ヤシド
ムッツリスケベ。童貞が色知ったらこうなるいい見本。
・???
出番が来ない