TS 盾役従者は勇者に付いて行けるのか?   作:低次元領域

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 作者捕縛隊の出発

 令和二年三月十四日の雌堕新聞は、いずれを見てもまず読者の目を惹いたのは、一号活字で「恋の競争性共の穴世界探検」と表題をだし、本文にも二号沢山の次のごとき、空前の記事であった。


16.穴世界競争探検

 これほどの大量でなおかつ滑らかに整備された石造りの建物を見るのは人生でそうそうない事だろう。

 ネルシャ村の近くに出来た穴をくぐり最初に抱いた感想だった。

 

 コツリコツリ、靴が石の地面を蹴っては音が建物中に響く。

 どれだけ隠そうとしてもどうせ鳴る。ならば無理に気にして精神を疲弊するよりかは気ままに歩くのがいい。

 そう語った彼女の後ろから離れず、進んでいた。

 

 幸いなことに屋内だというのに明かりもある。高い天井には備えられたものだろうか、紫色の怪しい光が僕らを一色に染めていた。

 やがて、歩くうちに……足が止まる。

 

「……分かれ道だ」

「んぁー……こういうのってどっち進んでもなんか損した気分になるから嫌なんだよなぁ。

……にしても、穴の中が()殿()ってのは……中々に珍しいな、うん」

 

 伸縮性のある盾を軽く掲げ、ゆっくりと彼女は立ち止まる。

 だからこそ、僕も彼女にぶつからずにすんだ。正直、心なしか距離が近い気がしていたからありがたい。

 二手の道に分かれた分岐点の前で首を回し、さてどちらに進もうかと悩んでいる。その度に彼女の肩まである髪が揺れる。

 

 風がないからこそ自然と広がる甘いかお──ッ。

 

「フンッ!」

 

 聖剣の持ち手で頭を勢い良く突き、邪念を殺した。

 少しばかり痛い。いや本当はかなり痛い。

 

「うぉっ!? な、なんだっ、敵か?! ……ってヤシド、なにしてんだお前」

「だ、大丈夫……ちょっと、蚊を潰そうと思って……」

「いや穴の中に蚊はいねぇだろ……というか手でやれよせめて」

 

 突如の僕の蛮行に呆れ首をかしげるテオ。まったくもって申し訳ない。仲間にこんな意識を持ってはいけないというのに。

 そのあどけない表情があの夜の君の顔を脳裏に呼び起こ──ッ。

 

「ハゥッ!!」

 

 今度は聖剣を汚さず、己の手を使った。誰にも振るった事のない握り拳が己の頬を捉える。

 こんなに痛いとは知らなかった。絶対に人を殴るものかと決意する。

 

「グーっでやれって意味じゃねぇよ! おいどうした?! 幻覚でも見えてんのかお前!」

「……み、見えてたりはする……かも」

「おいおい勘弁してくれ……」

 

 ……本当に、なんというか調子が良くならない。テオに話しかけられるたびに、あの夜の声を思い出す。

 前を行くテオの姿を見ていると、自然と視線が下がって行ってしまう。紫色の光で怪しく照らされているから余計に艶めかしい。

 「じゃあこれが何本に見えるよ」と言われ差し出された手が、その……僕のアレを触った手だと意識してしまう。

 

 ──少しばかり、下半身に力が流れたのを感じ取った。このままではまずい。

 流石のテオも今は素面、酒などは穴の中に持って来てないし……じゃなくて!! 毒キノコなどの他の要因ではなく、自分でそうなるのは絶対にあってはならない。

 鎮まれ鎮まれと頭の中に全く興奮しないようなものを浮かべようとして──。

 

「……しゃあねぇなー、少し休むか」

『──じゃあ、しゃあねぇよなぁ……♡』

「ッ! ぅ、うん!」

 

 ──不意に、テオがつぶやいた言葉。

 あの日の……あの、扇情的なテオが言い放ったもの。一度果てた後に見せた、月に照らされた……女性としてテオの言葉が今、まるで傍で囁かれているかのように頭で反響する。

 これ以上はまずいっ、前かがみになって地面に腰を下ろす。

 膝を閉じて何があってもバレないように隠した。あまりに勢いをつけすぎてお尻が少し痛い。不自然だっただろうか?

 

「……そんなにか? 風邪でもひいたかぁ……」

 

 幸いにしてテオは全く気が付いていなかった。

 万が一にでも気がつかれたら……どうなるだろうか。

 三つの彼女が思い浮かぶ。

 

『ブフッ、マジかお前! 勇者のヤシド様がぁ、俺みたいな貧相なので興奮してんのか!? ギャハハハッ!』

 

 一番ありがたいのは、下品に笑い飛ばしてくれることだ。正直女の子がする笑い方ではないが、こうしてくれたらかなり気分が楽になる。

 確実に一週間以上はこのネタでいじってくるだろうが、人前では言わないだろう安心感がある。

 

『ちょっ、まっ……なにに反応してんだてめぇ!? 最低だぞこん畜生!』

 

 正直これくらい罵倒されても仕方がない。むしろちゃんと叱ってくれたら反省できる気もする。

 二度とそういうことを考えないようにしようと心に刻むことだろう。

 ……一番まずいのは、

 

『……うん』

 

 朝の、あの気まずい雰囲気になることだ。折角テオが昨夜は何もなかったと提案してくれたのに掘り返すことになる。

 下手をすればパーティー解散だってありうる。絶対にこうしてはいけない。

 だから、僕はテオに興奮してはいけないというわけだ。

 

「一応魔法掛けといてやる。ほれ、顔見せろ」

「い、いいよ……と、というか顔近い……」

 

 革鎧を着ていながらも緩い首元。

 本人は魔法を効率よく発動するためと言っていたが……しゃがんでいる僕に対しかがめば綺麗な首元と、鎖骨が見える。

 胸は見えることはないけれど、どうしてか脳が視線に更にその奥へ進めと指令を出して──。

 

「いやこれ無理だね」

「? なにがだ?」

 

 僕の額に回復魔法を施しながらまた首をかしげる彼女。

 あんなことがあったというのに、「サクヤハナニモナカッタ」と言えば彼女的にはもう何も気にすることは無いのだろうか。

 僕には無理だ。端的に言ってもう彼女のなにもかもがそういうものに見えてきてしまっている。

 

「話に聞いてた魔物もまだ一体も出てこないし……しばらく休むか」

 

 ……いや本当に絶対無理だぞこれ!? 忘れられるわけないだろあんな体験!!

 このままテオと一緒にいたら治まるものも治まらない。

 なにか、なにか心が落ち着けるような物を……剣を鎮めるために……! 頭を抱え、ピンクで支配された脳内を走り抜ける。

 

 ……あっ、そうだ。

 

「……」

「……うん? なんで急に聖剣を」

 

 僕は、剣(言葉通り)を取り出して見せつける様に置いた。

 鞘から抜いて、念じる。

 光れ光れ光れ……!

 

「お、おい……?」

 

 聖剣から光がほとばしる。邪な、邪悪を消す光は人を穏やかにする。

 脳内を埋め尽くしていた、水浴びの時に裸でやってきたテオを、あの夜に淫らに乱れていた彼女を光で消していく。

 卑猥なものが全て光で隠され、ひどく健全な姿になっていく。

 ……いや駄目だ、これでは余計卑猥に見える。もっとだ、全てを光で埋め尽くさなければいけない。

 

「ま、眩しっ──」

 

 神殿の紫の光すら跳ね返す、最上の光を──ただ、幼馴染に興奮しないために、僕は使った。

 

「眩しいっつってんだろ!?」

 

 直後、罵倒と共に痛打が癒されたばかりの頭部に直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者がいきなり目つぶししてきたのでぶん殴りました。

 何度目か分からない、ユウシャ を倒した! って奴だ。そんで何でこんなことしたのか聞いて、ひとしきり笑った。

 これで一週間はからかえるいいネタが出来た。

 

「ったく、いきなり変なことしやがって……」

「ごめん、ごめん……僕はもう旅についていけないかもしれない」

「それお前の台詞じゃないからな……そんなに溜まってんならさっさと抜いてきやがれ」

「テオ、女の子がそんなこと──」

 

「とっととイってこい!」

 

 勇者の尻を蹴飛ばし、視界内に入らないところへ……分かれ道のもう片方へ追いやった。

 

 ……拝啓過去の勇者へ。お前ってこんなアホだったか?

 いや正直馬鹿正直でお人よしだったなぁというのは印象的だが……エッチなことは駄目だよ! って言うぐらいの真面目くんなイメージだったんだが?

 

 どんだけだよ……色を知るとしばらく男は夢中になるって聞くし、仕方ない事なのかねまったく。

 俺みたいなうっすいうっすい色でああなるんだから、アイツ風俗店とか行ったら死ぬんじゃねぇかな。まあ俺も行ったことないけど。

 

「ま、いいや。村長さんからもらった地図でも見るかっと……」

 

 どうせネルシャ村には酒はあっても色町はない。考えても無駄なことだ。

 壁に背中を預け。荷物をあさった。大したものはない。軽食に応急手当セット。ロープのような便利品。

 来る前に顔を見せ、ひどく疲れてそうな村長からいただいた小袋。

 

「……こっからずっと一本道だったから」

 

 開けて、中を確認すれば……途中まで、というよりかはほとんど何も書かれていない地図。それにペンを走らせ、記していく。いわゆるマッピング。

 こうすれば後身のものは困らないし、なにより小銭も稼げる。いいことづくめだ。

 

『おお、勇者様がこのような辺境へ……! よくぞおいで下さいました。ああこれ君、お茶を』

『かしこまりました』

 

 近くに控えていた使用人に命じていたのを思い出す。 杖が無ければ歩くこともままならない様な爺さんだった。

 あとあの使用人……名前はイーパだったか、香水がやたら強くて変な奴だった。ヤシドが一瞬顔顰めてたもん。

 そのあと俺の反応見て何か首傾げてたが。臭くない? てメッセージだったんだろうか。

 

 まあいいか。

 

『困ったことに、出荷用の酒を保管しておく倉庫の中に穴が開いてしまいまして──』

 

 茶を出すよりかはそのお酒を今出してくれたら俺めっちゃ笑顔になるのになーと思いつつ小一時間。

 聞いてもいないことをべらべらと喋っていたが……要は、穴は最近開いたものだし、中は碌に調べられていないとのことらしい。

 

 偶々村にいた冒険者が入ってみたが、一時間たつ暇もなく逃げかえってきた。

 冒険者曰くとんでもなく固い「ゴーレム」がいたらしく、()()()()()が落ちていたので拾ったら現れて追いかけてきたそう。

 

 ……が、今のところその強いゴーレムとやらの姿は見ていない。そんで進みに進んで今は知らない分かれ道。はてこれは一体どういうことか?

 ちなみに奇妙な武器は今、村長さんの預かりになっているそうだ。かなり大金払って譲ってもらったらしい。

 見せて欲しいと頼もうかとも思ったが、これ以上話が続くのも嫌だと話を終えた。

 

「ゴーレム対策に一応策は考えてきたが、無駄になっちまったか……」

 

 ゴーレムは奇妙な武器を守っていただけであり、それが無くなった今はもう何をしても襲われないのだろうか。

 仮にそうならばとんだ徒労だ。せいぜい、神殿を思わせる不思議な作りの穴を探索し、かつて起きた村喪失の「原因」が無ければ帰ろうか。

 

「──!」

 

 そう思って、ふと気を抜いた瞬間だった。

 足が、体が一瞬中に浮く。床が消えたような落下ではない。石の床が波打ち、俺を天井へ弾き飛ばしたのだ。

 

 歯噛みする。盾の重さに引っ張られ宙で体勢を崩して床を転がった。

 その間も石は動き続け、滑らかだった表面は歪み。ヒビが入り始めている。

 なんだ、一体何が? 困惑する俺を他所に、床は隆起する。

 

「……ああなるほど」

 

 紫色の光で包まれた屋内に、巨大な影が現れた。

 その光景は僅か十秒ほどの出来事。間抜けを晒してようやく理解する。

 

 ようやく、お出ましなのだと。

 

──!!

 

 目の前の石……だと思っていたものが叫んだ。動物的な咆哮ではない。石の外殻に隠れていた金属がこすれ、火花を散らしている。

 動くたびに石が崩れ落ち、隠されていた物が露になっていく。

 かつて苦労して倒したアイアンゴーレムよりも黒く、体中を走るラインは赤く光る。人の頭など軽く握り潰せるような大きな手は、オークよりも武骨で逞しい。

 

「ブラックゴーレム? 違うか。こいつは……なんだ?」

 

 過去の戦いでも見たことのない魔物、完全な未知のゴーレムが……帰り道を塞ぎ立っていた。

 それはつまり、ヤシドがいた道への通路を完全に潰し、分断されたことを意味していて……。

 

「……やばくね?」

 

 つぶやきは、金属音にかき消された。




 低次元男爵は完成した依頼絵を見て、
「エッッッッ!!」
と一言叫んだと思うと、急所の傷手にはかなく絶命して終った。



 それはそうと、聖剣さんは最近プレステさんのゲームとかに出張してなぞの光として活躍しているらしいっすよ?
 モザイクいらずだから安心だね!

 
~オリキャラ紹介~
・ヤシド
 ムッツリスケベ。テオのせいで性癖ぶっ壊れた感ある。
 聖剣をかつてないほど使いこなしていた。
 物陰にけ飛ばされたが流石にスル訳にもいかないので、テオに当たらぬよう聖剣の光を浴びまくっていた。

・テオ
 何もなかったと言って本当になかったことにしようとしている奴。
 テオだってねぇ、24cm状態じゃなければ平静なんだからね!

 死ぬかもしれない。
 あと依頼絵が完成しましたので目次、一話後書きに掲載しております。
 姫様がデザインした「純潔の鎧」を着ている未来図となります、
 相談した時になかったはずの首輪を絵師様が書いていて素晴らしいとなった。
描かれた方:kuku様(https://skima.jp/profile?id=46137 )
 →
【挿絵表示】


・イーパ 男
 勘のいい読者ならきっとおわかりだ。
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