この男の通らぬことはいかな日にもないので、触手堕ちの日には泥濘の深い田畝道に退治用の塩を引きずっていくし、リョナ・可哀想快楽堕ちの朝には帽子を阿弥陀にかぶって間男を逃がしてなるものかと武装して通るし、
沿道の家々の人は、遠くからその姿を見知って、もうあの人が通ったから、
あなた更新が遅くなりますなどと春眠にぐっすりと眠る主人を揺り起こすTS執筆者の見えない恋人もいるくらいだ。
それはとある日のこと、書物の山に埋もれ泳いでいた時のこと。
『まずは第一の言葉。魔力に定義づけるため、イメージに結び付ける様に……?』
頭が爆発しそうなほどに字を詰め込み、試行錯誤してはあーでもないこーでもないと呟いている。
傍らには本立てと化した盾が置かれ、もう片方には切り分けられたリンゴがあった。時折口に運んでは、頭の痛みに耐え読み進める。
『うーん……──
スゥと息を吐いて、ただ「どんな力を使いたいか」を口にすれば……俺の周りにふよふよと浮かぶ、淡い青い光。
しかしすぐ霧散し、とてもじゃないが使えそうにはない。
『もう盾だけじゃ駄目だからな……ああくそっ』
だが、使えるようにしなくてはいけない。才能がないというのは分かっている。魔力量だって凡人レベルらしい。自分で計ることすらできない程度の実力だ。
……ここさえ突破できれば後は容易、そう流れの魔法使いに聞いたのだ。必ず手にしてみせる。
そうすれば、そうすれば……勇者のアイツにまだでかい顔が出来る。いちいち怪我を気にされなくて済む。
『それに、頭痛がなおせりゃ二日酔いとかだってな……後は女の子に自慢できるし。ははは、はははは!』
魔法は便利だ。
一刀の下に全てを切り捨てるヤシドの足りない部分を持つ。旅の後だって腐らないスキルだ。
皮算用しては、また借り受けた書物に目を通した。
『
ああ酒が飲みたい、煙草が吸いたい。
けど借り物に万が一かかったり臭いが映ったりしたら不味いし。
──俺が覚えるより、魔法使い普通に雇い入れた方がずっと効率いい気がすんな?
……い、いや、そんなことなったら俺より強い盾役入れるとかいう話になりかねんし無し無し!
まだ女の子の一人にも声かけられてねぇんだぞ、ぜってぇしがみついてやるからな……!
全てはそう、女と、酒と、たばこのためだ。
『ええい、もう思いつきそうなの全部試すか。力は──』
◆
「──
なんでか一番反応が良かったその言葉を紡ぐ。
今に巨腕を振り下ろしてきそうな人型ゴーレムを前に、数えきれないほど唱えてきた言葉を並べる。
「
先ほどよりかはマシになった体を動かして、盾に力を込める。
自分の体の三倍近くはある金属の塊が相手、受け止めようとしてはいけない。形を滑らかに整え、地面の支えを取れるように引っ掛かりを二本、左右斜め下に生やした。
瞬間、黒の金属塊が迫る。
体に走る赤のラインがほんのりと光った気がした。
「ぐっ、ぅぅっ!!」
火花が散る。激しい金属音が鳴った。受け流しては見たがあまりに一撃が重すぎて腕がお釈迦になりそうだ。
痺れが残る左手を揉んで、距離を取った。
ヤシドの奴はまだか? まさか聖剣(意味深)が出しっぱなしで動けないのか。無礼な考えが頭に浮かぶ。
「テオ、こいつ倒してそっち行くから待ってて……くそっ!」
「ああそっちにも出てんのね、クソッたれなゴーレムだ!」
訂正。どうやら彼方にもゴーレムがいるらしい。
なら耐える行為は間違いだ。ゴーレムとの戦闘経験がないヤシドでは、まだ第一段階、碌に穴に潜っていないヤシドでは難しい。
俺が、目の前のゴーレムを倒してどうにかするしかない。舌打ち一つして見上げる。
「──」
「黒いし、今まであってきた中で一番金属してやがんな……」
冷や汗一つ、背中に流れる魔力で熱する。
落ち着け、この程度のピンチなんて旅の後半は腐るほどあったはずだ。周りが強すぎて、俺一人だけハードな戦い。
大量の魔物に囲まれた時なんて俺にどうしようもないが……タイマンならどうとでもなる。きっと大丈夫だ。
「へっブラックメタルゴーレム、とでも呼んでやるぜ。名付け親は俺だ。感謝しろよ?」
体長4メートル超え、横幅3メートル。全身に刻まれた赤い線は恐らく魔力を通すための導線だ。
以前アイアンゴーレムを解体した時、似たようなのが内部にあったことを思い出す。
あれが赤く光るたび、ゴーレムは大きく動く。それが外部にある所為で攻撃タイミングが丸わかりだ。
「コアは……あんなところに!」
それが集結する場所を探して行けば……見つけられる。顔と思わしき部分、頭上に埋め込まれている、赤く光る球体を。
俺の頭より一回りばかり大きいだろうあれこそがゴーレムの心臓部、コアだ。
中にはゴーレムに力を与えるための魔力がこれでもかと詰められているはずだ。
「おい、ヤシドォ! こいつの弱点は……頭の上にある、コア……宝石みてぇなやつだ! あれぶっ壊せば動きが止まる!!」
「わ、わかった!」
「頼んだぜ勇者さん!! ……ふぅ」
ゆっくりと物事を一つ一つ片づけていけば、なんだ案外なんとかなるじゃないかと安堵が心に広がる。
そもそもゴーレムというのは魔力を各部品に通し動く、魔導非生物体だ。スライムみたいな意思がない、予め設定された行動パターンしかとれない。
つまり、戦えば戦うほどゴーレムの動き方というのは分かりやすくなるのだ。
俺とヤシドならば、断然俺の方がゴーレムに慣れている。当たり前だ。
後はうん、勇者様がゴーレムを倒して合流するまで持ちこたえりゃいいな。いくら初見の相手でもここまで遅けりゃ大丈夫だろ。
ははは、おらおら最初の威勢はどうしたゴーレムさんよ?
そんな風に挑発めいた視線を送った。
「……!」
……どうやらこのゴーレム、人の感情を推し量る機能でもついてるらしい。
赤く導線が光る。ゴーレムは掌を広げ、地面に対し垂直に置いた。
「ちょっ!? ま、まてそれはやば──!」
「────!」
地響きと共に舞い散る塵。
立つ者を一網打尽にするような片手の薙ぎ払いを間一髪、跳んで避けられた。足を守る様に覆った盾がすれて体が宙で回る。吐きそう。
前言撤回! 平地では何ともなかったような動作が閉所では一撃必殺のソレだ!?
こんなの持久戦に持ち込んでたらそのうち下手こいてオワリだよ!?
俺でこれだぞ、早くしないとヤシドが……!
可能性の低い賭けをしてまで攻撃しなくちゃなんて最低だ! 俺盾役なんですけど?!
「だぁっ、こなくそ! 盾役魔法使い従者テオ様の一撃でも食らいな!」
右手でゴーレムの頭上を指さし、言葉を吐きだす。
かつてはオークの薄皮を剥くことしかできなかった水の弾丸を並べる。
「
計五発、魔力の調子のいい今ならオークの皮膚を浅く削り、血をにじませることぐらいはできるかもしれない。
貫通力と消費魔力の少なさがウリの魔法がゴーレムの頭部めがけて射出された。
当たれば少しは効くだろう。そんなポジティブな妄想。
「──!」
「……まぁ、防ぐわな……お硬い頭部で」
カンカンペシャリと響き、頬の部分を濡らして消える弾丸。
角度の問題か、手で防ぐこともなく、ゴーレムは僅かに頭部を持ち上げるだけで防ぐ。
いやまあそりゃそうだ。
「──……」
「ま、まぁ動きは鈍いし、いろいろと試してこう」
仮に勇者がいれば、俺が気を引いてアイツに狙ってもらうんだが。
それか俺が身軽なら、ゴーレムに飛び乗って……ない物ねだりしてもしょうがねーか。
さて次はいつ仕掛けてくる。そう睨みながら盾構えていると……。
──ブゥゥン、と何か震える音がした。
次に出るのは煙。ゴーレムの関節部分から噴き出て、浮かぶわけではなく地を這う。
つまり空気より重いという事だが……水蒸気?
「……あ?」
体内に水を蓄えていて、それが熱せられて出てきたのだろうか。
なるほど確かにあれほど巨大なものを動かすのだから熱量もものすごいのだろう。
見れば金属分が赤熱し、生暖かいどころか湿気と共に熱気をこちらに……うん?
「……き、気のせいかな……なんか、めっちゃ熱そうだ、な?」
導線から熱が伝わっているらしい。全身が見る見るうちに熱を持ち……決して「ブラック」などとは呼べない見た目へと変貌していく。
じ、自爆とかじゃない、よな?
ゴーレムはこちらを無視し、態勢を整える。その一挙一動には、どう見ても先ほどまでの愚鈍さがない。
「えーと……その」
……仮にこれが、この魔物の戦闘モードで、今までのが試運転に等しいものだったとしたら?
今から、先ほどまでの質量の一撃が速く、熱を持って襲ってくる?
「こ、これからが本領発揮……とかだったり?」
引き攣った頬で、物言わぬ金属塊に尋ねた。
「────!!」
正解だったらしい。
返答は、予想を超えた拳だった。
「が、ぁっ……!?」
盾に力を込めて精一杯の硬質化、勢いを逸らそうと傾けた。
だが体が浮く。決して耐えきることのできない重量の暴力が俺を襲った。
先ほどの宙回転など生易しいものだった。吹き飛ばされ壁に背中を打ち付ける。
肺から空気が消える。頭を打った気がする。
分からない、視界がグルんぐるん? 酒を飲み過ぎた日よりも回って、立てない。
「──……」
「あ゛、あ゛ぁ……?」
上はどっちだ。盾を杖代わりにして、膝が崩れた。
まずい、このままだとまずい。死ぬ、明確で何もわからずに死ぬ。
魔力を回さなければ、回復魔法を唱えて立たなければここで倒れたらヤシドが不味い。
震える全身に力を入れようとして、栓が抜けた浮き輪の様に抜けていく。
盾だけ誰かに握られているように離れないが、盾だけあっても仕方がない。
「──!」
回る視界の中、ゴーレムが近くにまで来たらしい。腕をわざとゆっくりと振り上げているのが見えた。
……ここまでなのか?
不意に、そんな考えがよぎった。
「──」
……誰かの声がした。
幼い、男の声だ。ヤシド? いや、アイツにしては幼すぎる。
となれば冒険者か。救援、偶々の邂逅。どちらでもありがたい限りだが、相手が悪すぎる。
早く逃げろ、そう言おうとして……ようやく前を向けた。
不思議なもので、その声で、誰かが居たからこそ俺は立ち上がれた。
「……こども?」
巨塊の遠くに、小さな子がいた。白い髪が酷く印象的な。
薄汚れたローブを着た彼は、その手に……似合わぬ長銃を持って、構える。
狙いは、ゴーレムか?
破裂音が響いた、
硝子が割れる音がした。
しばらくして、目の前のゴーレムが……音を立てて崩れ落ちる。
巻き込まれそうで慌て、後ろに下がり尻もちをついた。
「……なっ」
目の前にはいまだ発熱している金属、ゴーレムだったもののパーツたち。
頭部にはめ込まれたコアは色を失い、ただヒビが入ったガラス玉のように透明になっている。
この光景が、少年によってゴーレムが倒されたという事を示していると気が付くのに十数秒を要した。
「……」
少年が近づいてくる。
見れば見るほど子供だという確信が出来上がる。歳は十を過ぎたばかりだろうか?
その紅い目でただこちらをじっと見ている。
何故こんな危険な場所に子供が。いやまてそもそも何で
突然死地から救われ混乱が最果てに至る。
疑問の渦から抜け出るため、俺は一つの簡単な答えを導き出した。
なにか、こちらから声を掛けるべきだ。とにかく、助けてくれたのだからお礼を言わねばなるまい。
そうだ、色々の疑問はその後尋ねよう。そうしよう!
ふら付く体を盾で支え、血の味がする口を開いた。
「……ぁ、えっと……ありがとうな。俺はテオ──」
「ボクはガショーネ・タオン。あなた達を助けてやれと言われたので来ました」
こちらの言葉を遮り、少年は言い切った。
ひどくつまらなそうに、眉をしかめている。
……うーん。
「そ、そうかたすか──」
「勇者一行と聞いていましたが、あの程度の魔物にしてやられるようでは先が思いやられますね」
……はぁ。
「ははは、痛いとこ──」
「まぁ、ボクがついて行ってあげますので……せいぜい、足を引っ張らないようにしてくださいね?」
──うん、クソガキ!
「黙れクソガキ!!?」
「はぁ!? そのクソガキとやらに助けられたのはどこのどいつですか! ボクがいなければ死んでいたくせに!」
叫んだ拍子に鎧が壊れたがどうでもいい。今はこのガキをぶん殴らねばならない。テオは激怒したのだから。
「ね、ねぇっ僕のこと忘れてない!? はやく助け、し、死ぬ! 死んじゃう!!」
うるせえぞ勇者様! ゴーレムぐらいなんとかしてはやくこっちこいや! お前もこのガキ相手すんの加われ!
テオちゃん、憎たらしいガキは嫌いだよ!!
危ないと車掌が絶叫したのも遅し早し、上りの電車が運悪く地を揺り動かしてやってきたので、たちまちその黒い大きい一塊物は、あなやという間に、三、四間ずるずると引き摺られて、紅い血が一線長くレールを染めた。
非常警笛が空気を劈いてけたたましく鳴った。
目を覚ますと、男はTS美少女となっており、今まで敷いてきたメスオチ線路を引きずられていくこととなったのだ。
それはそうとショタに母性本能くすぐられるメス堕ちものってハーメルンで見かけないんだけど私の発掘力が低いのか
・追記 シチュ募集終了いたしました
約32件のエロシチュ、確かに響いたぜ……4件ぐらいに合成絞ったりして書くね
~オリキャラ紹介~
・テオ
魔法は独学で覚えた後、魔人から色々手直しを受けた。鍛錬の時間と魔力量があればもう少し上級の魔法が使えたかもしれない。
今回はクソつよゴーレムに殺されかけた。
・ヤシド
死ぬかと思いました。
助けられた後は流石に興奮どころではなかったらしい。ギャグ落ちに使われたが何気に重傷。
まあ回復してやるから許せ
・ガショーネ・タオン
ガン(銃)、ショーネン(少年)、オネショタ(おねショタ)を三つの名前を持つ。
白髪、真紅の目。少しやせ型。作者の性癖が詰められている。ヤシドのキャラカラーが赤だがまあいいだろう、息子に従う。
生意気系ショタをヒンヒン鳴かせたいのぉ!!(終わりの挨拶)