TS 盾役従者は勇者に付いて行けるのか?   作:低次元領域

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需要あるかどうかわかんないけどストックがある限り続きます


2.寝る子は育っていた

 俺が生まれてすらいなかったころ。具体的に言うと五十年くらい前の頃。

 世界の、何のへんてつもない場所に突如として『穴』が開いたらしい。

 

 一番初めは森の中に。正面から見ても、後ろから見ても円形に。その空間自体に開いた穴は黒く塗りつぶしたかの如く、先に何があるのか何も見ることは出来なかった。

 はてなんだろうと思い入っていった男が見たものは……、

 

「グギギ、ギャッギャッギャ!」

 

 見たこともない、異形の怪物たちの姿であったとさ。

 その後逃げ帰った男は国に報告、軍隊が派遣され鎮圧されるも穴は開いたまま。

 困っていると倒したはずの怪物がまた湧いてきて……それを繰り返している内に、今度は別の地域でも穴が開いたと報告が。

 

 やがて軍隊を派遣するにも頭数が足りなくなり、放置される穴が出始め……国の管理に置けなくなった穴には民間人が未知の素材目当てに出入りするようになってしまった。

 危険も承知で、腕っぷしを引き連れて。

 

 これが今話題の職業、冒険者の走りである。

 

「うっ、思ったよりでかいねゴブリンって……」

「安心しなって、群れる頭もない一番弱い魔物だぜ? 勇者様の手に掛かればちょちょいのちょいさ」

「あのね……」

 

 今では魔物を狩り、その皮や穴内部にある素材を使い便利ですごい道具や武具を作る職業の人だっている。

 なんなら俺が今持っている盾だってそう。アイアンゴーレムとやらから取れた体の一部を加工し仕上げた一品で、魔力を通すことで一回り大きくなったり硬くなったりする便利な盾なのだ。

 ……夢の中ではいろんな素材を集めて強化したはいいが最後は無残に割れた品だがな!

 

「ほら、今ならこっちに気が付いてませんぜヤシドくん。不意打ちして頭落としちまいな」

「そ、そうは言ったってさ……」

「……ったく、わかったわかった」

 

 そんでえーと、数百年以上前と思わしき地層から発掘された聖剣。

 ほんの少し前までは台座に突き刺さったままビクともしなかったため石の彫刻だと誤解されていたんだが……ついこの間、ヤシドが15歳の誕生日を迎えた夜中に光輝き、表面の石がはがれ山越え谷越え飛んで来たって訳だ。

 ……まだ大部分は錆び付いたままだけどな。

 

 そして対応に困った国は、古くから受け継がれていたおとぎ話になぞらえヤシドを勇者と認定。

 おとぎ話の通りになるなら最後魔王なんてものが出て来るらしいので旅をして経験つんでね……と投げ出したのである。

 お金くれるだけマシだね。俺? そりゃもちろん俺は──

 

 心なしかというか確実に以前より重くなった盾を担ぎ、前に出る。

 

「ちょっ──」

「おらこっちだゴブリンども!」

 

 

 ──お金と名声欲しさに勇者の仲間ポジ狙って出てきた盾持ちだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女の子だけどな。うん。

 筋力の低下がほんとにやりづらくなる原因になってて困る、夢の中の経験が無けりゃ一撃受けてのけぞってたかもしれない。

 

「や、やっと倒せた……」

「鞘から抜けない剣とかほぼ鈍器だよな。お疲れ様」

 

 ほぼというか完全鈍器か。2匹いたゴブリンを下し、早くもお疲れモードのヤシド君。

 ははは、自分と同じくらいの長さの鈍器振り回してればそうなるか。これが聖剣の解放と共にゴリラか何か? ってぐらいに身体能力も強化されていくと考えるとなかなか……いやいやあれは夢の事なんだってば。

 いやでもなー……俺って女の子だっけ、記憶が確かならまごうことなき男なんだが……何せ一年近い旅の夢を見ていたせいで自信が持てない。

 

「えーと、ゴブリンで使える素材は……」

「骨だな、特に腕とか足の骨。適当に切り出して持っていくか」

 

 ……いや絶対男だったよ俺! だって旅に出る前の記憶は完全に男の子のものだもん!

 でもそれじゃあ俺が今女になっている説明がつかない……ヤシドに「俺って女だったっけ?」って聞いても「確かに、テオが女子って感じ全然ないね」って笑って返されたし。ひっぱたこうかと思った、いや女子らしい俺とか吐き気催すから当たり前なんだが。

 

 ……これで男のままだったらさぁ、時が巻き戻ったのか!? なーんて小説チックな展開も思いついたんだが。

 夢で死んで目が覚めたら女になってたとかわけわかんねぇ……とりあえず旅を進めるしかないけどさ。

 

 まさかなー……童貞のまま死んだと思ったら処女になるとは。

 今回も処女のまま死にたくねーなーいや男に抱かれたい訳じゃなくて女性を抱きたいんだが。

 

 ……四天王とやらが本当に出てきたら、助言だけして退こうそうしよう。この体のままじゃ夢の中よりも足引っ張るわ。

 

「……よっと、ほらナイフ。俺こっちやるからお前そっちの首折れてる方な」

「え? う、うん……」

 

 草むらに隠しておいたリュックから小刀を取り出しヤシドに手渡す。

 そしてそのままゴブリンの皮に切り入れていく。ゴブリンって小骨多くて筋張った肉だから切るのめんどいよねー。

 ……おらどうしたヤシド君、さっさと手を進めたまえ。鳥とかよくさばいていただろうからこんなん何でもないだろお前なら。

 

「どうした? 国から金が貰えると言ってもある程度は稼がないと」

「い、いや……テオって解体とか出来たっけなぁ……って。その、血とか大丈夫?」

 

 ……いけね、そう言えばこのスキルは旅進める途中でヤシドから習ったものだった。

 元々は酒場の息子(今は娘だが)、親の手伝いをする内に成人する前から酒を飲んだりとやりたい放題をしていたが、血は苦手だったんだっけか。

 

 ……もしかして最初に盾選んだのもこれが関係してるのか? いやうーん。

 そして今ヤシド視点、血が苦手だったはずの幼馴染の女子が何も気にせずゴブリンの腹掻っ捌いてるのか……引くわ。下手人俺ですが。

 誤魔化そうかな、でもそれも面倒だな。

 

「ふっ、ヤシドのを真似ただけだけどな。かなり上手いだろう? 血もなに、赤ワインだと思えばどうってことはない」

「うん、すっごい上手だけど……そう? 怖かったら代わっていいからね」

 

 ……なんか記憶の中より若干ヤシドが優しい気がする。夢の中のヤシド君なら「まだ苦手なの? しょうがないなぁ……」とか言いながら代わってくれたけど。

 原因は……いやいやまだ旅の始まりだ。単に何度も頼んでいたあの頃とは話が違う。

 

 うん、きっとそう、多分……まさかあの唐変木、数々の貴族令嬢からの誘いも通じなかったヤシドが俺を僅かながらでも女の子扱いしているわけがない。

 開いたゴブリンから大腿骨を取り出し、そう思い込むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石は最初の穴、あまりこちらと変わらぬ地形でありそこに居るゴブリンたちも確認できている魔物の中では最弱。

 今ではもはや稼ぐための冒険者すら立ち寄らない、超初心者向けの場所だ。

 

 実戦経験皆無のヤシド、女の子になり筋肉が無くなった俺ことテオの二人でも特に大きな傷もなく探索し終えることが出来た。

 ゴブリンが群れている状況があれば確かに危ういかもしれなかったが、基本的に2-3体。たまにハグれている個体すらいる始末。魔法を使わなくともどうにかなるレベルだ。

 

「いや……最後のホブゴブリンはかなり怖かったけどね。よくあの一撃受けて何ともないねテオ……」

「真正面から止めるのは無理だったからな。衝撃をいかにズラすかが大事だって訳だ」

「へぇ。参考になるなぁ」

 

 ホブゴブリン。ゴブリンが子供レベルの背丈だとしたら成人男性レベルのでかさ。緑の体皮もややごつくなった個体だ。

 懐かしいなぁ、夢の中では舐めてかかった俺が吹き飛ばされて泣きかけたんだった。そのままヤシドが挑んでも勝てなくて、二人で逃げかえって次の日にリベンジしたんだった。

 ……それが今回は一発成功、やっぱり夢なんかじゃないよあれ。じゃないとゴブリンの解体がヤシドより早いわけないし。

 

「でもこの骨ほんと大きいね……聖剣よりこっち使った方が強そう」

「骨振り回すとか勇者じゃなくて蛮族だろ、やめとけやめとけ」

 

 無事穴から脱出し森を歩く帰り道。

 ヤシドに血だらけ骨だらけのカゴを背負ってもらい帰り道。これからは付近の村で一休みし、また次の穴へ向かう訳だ。

 

「次は何処だったかな……ああそうだミカヅキ村! あそこはベーコンが美味いんだ……」

「テオ、よだれ垂れてるよ……」

 

 思い出すはその日の晩の事、自分の腕よりも分厚く切り落とされた塩っ辛いベーコンをたらふく腹に収め、果実酒を呷る。

 リベンジした疲れからも口にするものすべてが美味かった。

 あの楽しさは忘れられるものではない……気が付けば涎を垂らしていた。慌ててふき取る。

 

「テオ、汚いよそれ……」

「うるせ、お互い血まみれの今言ってもしょうがねぇだろ。

……ああそうだ、途中に川があったから沐浴してこーぜ。流石にこのまま顔がパリパリのまま帰るのはあれだ」

「あ、いいねそれ」

 

 勇者様は潔癖で困る……獣の解体とかは平気なんだけどどういう境界線引いてんだろうな。

 生命を奪ったんだからそれで汚れるのは致し方無いとか……? まあいいや、お説教ムードはごめんと出した話題にヤシドが食い付いたのでそのまま誘導する。

 

「ほら、ここ。中々綺麗だろ?」

「ほんとだ……」

 

 少し道を逸れての帰り道。今朝方水を汲んだ川が再びその姿を現す。

 早速服を脱いで血と汗を流そう、そう思った時……ふと俺は一つの衝動にかられた。

 

「……あー煙草吸いたくなってきた。ちょっと吸ってくる」

「え、うん……せっかくいい空気なのに煙草吸うんだ」

「分かってねーな、生命巡ってますって言う匂いと一緒に取り込めば煙草もまた美味しいってもんよ」

 

 そう、朝から混乱していたせいで全く吸えていなかったが一日に三本は吸わないと気が済まない程度に煙草を嗜む俺にとって今は欠乏状態。

 記憶の中じゃ役立たずになった後からは酒の席とか相応しい場でしか吸わなくなったが、そんなことお構いなしに体が煙草を求めていた。

 

「うーん……まぁいいか、じゃあ先洗ってるから」

「おう」

 

 煙草の匂いを嫌がるヤシドを気遣い、川から少し離れる。

 

 リュックから煙草入れを取り出し火付魔具で着火する。この一連の流れは例え何が起ころうが変わることはない。

 これだって穴から採れた素材の産物。火付魔具は特殊な金属を使用することで擦るだけで火が付く。煙草に詰められた草は魔力が豊富で吸っているだけで充足感が沸いてくる。

 煙を含み、思いっきり肺に入れる。血液が全身に巡る感覚、心地が良い。

 

 これが作られる前は麻薬に等しい煙草が製造されていたと聞く、恐ろしい時代もあったものだと思いつつ久々の煙草を堪能する。

 仄かに香る……これは青りんごか。これもまたいい……心が落ち着いていく。

 

 ……そうだ。夢がどうとか記憶がどうとかなんてのはどうでもいいじゃないか。

 得た経験はこうして己がスキルとして身についているし、仮にこれから起きる事件が同一のものだとしたら知識でどうにかすればいい。

 

 今はそう、楽しい冒険を続けよう。煙草もうまけりゃきっと酒もうまい。あとは可愛い子ちゃんが居れば文句なしだが……。

 考えている内に煙草一本吸い終わる。残念、とは思わない。満足だ。

 

「……ぃよし、俺も浴びてくるか!」

 

 早くこの重い革鎧を脱ぎたかったんだ。

 そう思い、川の方へと向かっていった。

 

 

 あれ、何か大切なことを忘れている様な……?

 




次回予定は1/22 17:30です。

~世界観説明~
・煙草
 正式名称は魔煙草(まえんそう)
 現代世界における代物ではなく、燃やして吸うと魔力がみなぎる感覚が味わえる代物。
 基本魔力が少ない人間などが好むとされている。フレーバーも様々。
 

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