TS 盾役従者は勇者に付いて行けるのか?   作:低次元領域

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少し短めです


3.恥じらいのない幼馴染

 15歳の誕生日の日、突然天から剣が降ってきた。

 丁度眠っていた時で、目を覚ましたら屋根を貫通し部屋にそれが突き刺さっているのを見た時は恐怖しかなかった。

 慌てて眠りこけたままのお父さんを起こして何の騒ぎだと起きてくる村の人たちに事情を説明して……あれよあれよという間に事態は進んだ。

 

 曰く、僕の部屋を破壊した剣は遥か昔に闇の魔王と称される怪物と戦い消えた伝説の勇者様の物らしい。

 曰く、今の今までは石の中に埋まりその力は眠っていたとかなんとか。

 

 僕が15歳、成人したその日にやって来たことはきっと事故でも何でもなく、僕が新しい勇者として選ばれた証なんだとか。

 勇者の誕生はつまり魔王、もしくはそれに準ずるナニカが目覚めようとしていることではないか。

 今はまだ目覚めたばかりの聖剣と未熟な勇者……けれどいずれ起こるかもしれない災害に備え旅に出て欲しい。

 

 それが誰かの為になるのなら、と了承したはいいもののさてこれからどうしようと思っていた。とりあえず簡単と言われている穴をいくつか回り、鍛えていくのが方針になるけれど……本当に僕に出来るものなんだろうか。

 荷支度をする内に、あれが足りないこれが足りない、もしくは何が足りないか分からないけど足りない。

 不安で仕方がなかった。

 

『……明日からかぁ』

 

 何に使うかもわからない道具をいくつかリュックに詰め合わせて部屋を出た。

 こっそりと家を出て、外の空気が吸いたくて散歩をする。月明りを頼りにふらふらと、特に当てもなくぶらつく。

 流石にもう夜遅いからか、殆どの家の明かりは消え……騒がしい村の景色はまるでどこか違う場所へ、異郷にたどり着いた心地だ。

 

 物心ついたころからずっと暮らしてきたこの村とも今はお別れ。しばらくは知らない町から町へと行く旅が始まる。

 

 ……ちょっと寂しいかもしれなかった。だから……つい、明かりがついていた知り合いの家に、蛾の様に寄せられたのかも。

 

『……いや、今何時だと思ってんだよ。酒場ももう閉めた後なんだが』

『ははは……いやちょっと興奮しちゃって』

『遠足行くわけじゃないんだろ? まったく、よくわからんね』

 

 窓ガラスをトントンと叩けば少し眠そうに、気だるげな眉。

 今の今まで家の手伝いをしていたのか、若干乱れた衣服に……酒瓶を抱えている友達。

 まさか今から飲む気だったのか? 明日村の皆で見送りしてくれるとかいう話だったけど……来ないつもりだったのかい?

 

『いんや? 人間少し酒を入れたぐらいの方が目覚めも早いってもんさ……ま、一人酒って気分だったからもういいけど』

 

 渋々と瓶を寝床の下に隠し、僕用なのか果実水を持ってくる君は……うんやっぱり、いつも変わりない君だ。

 聖剣に選ばれた後はみんな、ありがたいものを見る様に変わってしまったけれど、父さんと君だけはいつも僕をヤシドとして見てくれる。

 

 それが今は……旅立つ寂しさに心地が良かった

 

『──お前の旅、ついて行ってもいいか?』

 

 ……あんまり寂しくならなそうだ。

 いいの!? って思わず聞き返して、笑って、朝を迎えて、寝不足のまま村を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅は思いのほか順調に進んだ。まだ一週間だけど。

 国王様の前でのあいさつとか礼儀とか、ふだんあんなにおちゃらけてるテオが何とか教えてくれて、無事上手くいった。

 そしてテオはうまく言い含めて、国王様から「純潔の盾」という綺麗な装備をいただいていた。

 やっぱり酒場でいろんな人と話す機会があるとそこら辺も磨かれるのかな。父の手伝いをするときは接客はしなかったもんなぁ……。

 

「ふぅ……疲れた」

 

 鎧を脱いで聖剣置いて、一人ゆっくり川につかる。

 火照った体が冷えて流れていく感覚は嫌いじゃない。服の内側に入り込んだ血も洗い流していく。全部返り血だ。自分にはせいぜい転んだりして出来た擦り傷程度。

 魔物を何体も相手したというのにこんなに元気ですんでいるのは、ひとえにテオのおかげだろう。

 

 なんというか、元々頼りになることはあったけど、今日の彼女はとてつもなく冴えている。

 作ってくれたスープはやたら美味しかったし、魔物を前にした覚悟は歴戦って感じがした。……一瞬別人になっちゃったみたいでびっくりしたけど、煙草吸いたがったりバカみたいな話するあたりなんか……なんだろ、魔物と戦う夢を見たとか言ってたし、ちょっと心構えとかが変わったのかな。

 うーん……。

 

「──おーい、水温はどうだ?」

「あぁ、冷たすぎもないし温くもないよ」

「そか、じゃあ俺も入るか」

 

 ああテオも帰って来た。風下にいるからか特徴的な魔力の香がする。

 ちょっと気になるけど、まあ不快じゃない程度。そりゃ健康面に大して問題は出ないらしいけど、依存性があるらしいからやめて欲しいんだけどなぁ。

 

 ……ん? いま彼女は何と言った?

 

「て、テオ? いつものじょうだ──」

「ひょー、つめてーな」

 

 声がする方へ自然と視線が動いた。

 

 絶句した。 

 絶壁があった。青髪の屋根をもつ肌色の壁だと認識した後、その正体に気が付いて僕は首を背けた。筋を痛めた。

 

「……ッ!?」

「ふーやっぱり汗流すと気持ちがいい……あー垢すり持ってくんの忘れた。おいヤシド、持ってるなら貸してくれるか?」

「持ってない、持ってないから近寄らないで!」

 

 いや馬鹿なのか僕の幼馴染は!? 水を歩きどける音がする。なにもお構いなしで近寄ってきている。

 

「……? おいどうしたそんな離れて。そっち苔とか多くて危ないぞ」

「いやいやいや、逆になんで何も気にしてないのさ! せめて何か隠す物使いなよ!」

「……あっ、あー……そうか俺は女だったな、うん」

「テオ今何歳!?」

「お前より一日早生まれ」

 

 朝もそうだったけど、自分の性別に区別がついていないときがあるようだ。

 少しした後ようやく自分が何をしているか気が付いたようで、彼女の歩みが止まる。

 今度はその小さな体がチャポンと肩までつかる音がする。「ほら、もういいだろ?」 と声が聞こえ、恐る恐るそちらの方へ首を戻した。

 

 そこに居たのはやはり幼馴染。少しばかり川に浸かったのか髪の先が濡れて束になり、普段よりかは大人しそうな雰囲気を放っていた。

 怪訝そうに視線を下に落としており、その先には……僕には反射で見えないけど彼女の肢体。

 

「まったく、こんなみょうちくりんでちんちくりんな体なんて見たってなんにも思わねぇと思うんだがな……そこらへんほんと、ヤシドは潔癖だわ」

「いやそもそもこんな勢いよく裸見せられたら誰でもびっくりするって……というか、いつもそんな感じなの?」

 

 剣を限界まで伸ばしてようやく届くかどうかという位置。これでもそれなりに近いが、ある程度落ち着きを取り戻すと、なんとか会話を再開する。

 テオって綺麗な女性とかが好きだって話はよくしてたけど……まさかイコール自分の体なんて見ても何とも思わないなんて思考をしているとは思わなかった。

 いやしてほしくなかった。まだここが誰もいない川だったから良かったけど、下手したら大勢に見られていたじゃないか。

 

「いんや? 流石に普段からこんなことしねぇって。異性に裸見せてたら捕まるわ」

「じゃあ今君捕まるけど」

「そりゃお互い様……まぁあれだ、お前が異性だってすっかり忘れてたわすまんすまん!」

 

 笑って肘から先だけ手を出し、謝る仕草をする彼女。

 ……異性だとも思わないって。ちょっとカチンとくる。

 そういう意味じゃないとは分かっていてもなんだが納得できないものがあった。

 

「……まぁ確かに、テオは男……といよりかはおっさんぽいもんね!」

 

 今だってそうだ。肩まで水に浸かり、父の如く「あ゛あ゛ぁぁ……」なんてうめきに近い声を垂れ流すし、鼻唄を歌う。

 まあここまで女性らしさもない彼女だからこそ、小さい頃からよく遊んだのかもしれないけど。正直十歳の誕生日の正装を見るまでは男だと思っていたし。

 仕返しじゃないけど、からかうつもりでそう言った。

 

「そうそう、こんな川の中で熱燗を一杯……やっぱり俺男なんじゃねぇかな。確認してくれヤシド」

「だから見せなくていい! なに、朝のことまだ根に持ってるの!?」

「ほれほれ……恐らくこれから先お前が見ることになる女体の中の最底辺だぞ~」

 

 思いっきり仕返しが来た。 

 こちらがただ視界を閉じるだけなのをいいことに、しばらくテオに遊ばれた。




早くメス堕ちしねぇかな

次回はイナイレの更新などもあるので1/24、1730予定です。

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