TS 盾役従者は勇者に付いて行けるのか?   作:低次元領域

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かかりつけの歯医者で予約が取れなかったので初投稿です(半ギレ)


5.其れ、勇者の一振り

『──』

 

 ……何かを見下ろしていた。

 はて、ここはどこだろうか。確か僕は、オークと相対して……と考える思考がどこかへ消えていく。

 ただ、「目の前の墓」に対しての悲しみが溢れてくる。誰に対してか分からない怒りが沸いてくる。

 

『──』

『──、──』

 

 誰かが後ろで話している。男女、聞き覚えが無いようである。不思議な感覚だ。

 だけれどそれに返答もせず、僕は墓に対して祈っていた。

 

 ……一体、誰の墓なんだろう。ここまで悲しむということは余程親しい間柄の者だったのだろうか。

 墓石代わりに突き刺さっていた「半壊した盾の破片」に刻まれていた文字を読んだ。

 

 

──勇敢なる盾の戦士、※※ ここに眠る。

 

 ……えっ?

 

 何の冗談だ。はたまた同名というだけか。

 いいや違う。何故だかそれは確かに自分がよく知る友人のことを指していると思えてしまった。

 この酒が供えられた墓の下に、友人が眠っていると、自分が埋めたという確信から。

 

『……君は、こうなってはいけない』

 

 不意に口が動き、意味を発する。先ほどまでは古びた蓄音機の様に聞き取れなかった音が消える。

 この声は誰だ。声は目のすぐ近くより発されている、つまりこの体の物だ。

 

 どこか親しみがあるようで、全てを拒絶している冷たい声だった。

 

『ヤシド、早く起きるんだ。聖剣を手にしたのであれば最善を尽くせ。

可能性を集め、魔を祓うだけなら誰でもできる。ただ、君にしかたどり着けない結末を手にするために振るえ』

 

 何を言っているか、何を知っているのか全く分からない。

 けれど声に押され、抵抗も出来ず意識がこの空間自体から退けられていく。

 流される、何が起きたのかも理解できずただ。水底から水面へと昇る時に似た浮力が纏わり付いて戻ることを許さない。

 

『早くしなければ──』

 

 けれど、それでよかった。

 少し後、僕は確かに思った。

 

『──テオが死ぬぞ』

 

 その言葉を聞き、もがく様に僕は空を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれほど眠っていたのだろうか。口から千切れた草と土を吐き。聖剣を杖代わり起き上がる。

 僕は……そうだ。テオの健闘も無駄にし、オークに投げ飛ばされたんだ。あまりの無様に血が上った。

 

──!

 

 オークの声がする。下卑な笑い声の方へ視線が向いた。

 一昨日の首の痛みによる抑制が無ければ、激昂のままに斬りかかっていただろう光景があった。

 

「ぐっ……」

 

 テオは生きていた。けれど鎧の大半は壊れ飛び散って、綺麗だった髪と肌は土と草で汚されていた。擦り傷も多く見えた。

 彼女は頭一つ分小さい盾を構えてこそいるが、もはや限界だろうと一目で分かるほどの疲弊が見えた。

 

──!!

 

 勝ち誇るオークの叫び声──数瞬後、彼女の頭から血が垂れた。

 

──気が付けば僕は、聖剣を握り走り出していた。

 聖剣の鞘は未だ抜けず重しの様に足を引っ張る。

 

 柄の部分のみ持っていても、鞘は剣を手放すまいと吸い付いて離れない。ふざけるなと苛立ちを込め更に強く握る。

 ……何が聖剣だ、何が勇者だ。オーク一頭斬れないくせにとんだ御託が付いている。笑い話にもならない。

 

 無駄に大きくて重くて何も斬れない。これなら初心者用の長剣の方が何倍も優れてる。

 時が経てば力を取り戻す? その力で世界は救われる? 遅すぎるし規模が大きすぎる。僕は今使いたいんだ。

 

 僕は今──

 

「──テオを助けるんだ」

 

 だから早く起きろ聖剣。

 血が滴る程に握り、鞘を地面に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オークのふっといブツ(腕)で滅茶苦茶にされました。嘘はついてないよ。

 

 あとヤシドの親父さんから餞別だともらった防具が早くもおじゃんになりました。

 ぶっ飛ばされて地面に叩きつけられた時、衝撃を吸収してくれたかと思ったらそのままバカンと。

 あれか、転んだ先の杖(一回限り)みたいな仕様だったのか?

 

 まあおかげでなんとかワンミスはスルー出来たけど。あとでそれらしい鎧買わなきゃ……王様におねだりしたらもらえねぇかな。

 ははは、ここから帰ったら試してみようかな。

 

──!

「……帰れっかな、これ」

 

 痛みで痺れた左腕を回復魔法で巡らせ動かす。けれどダメージが大きすぎるようで、完全復活には程遠い。

 鎧が砕け遮蔽物が無くなったおかげで魔法は使いやすくなったけど、そもそも出力が低すぎてお話にならない。

 対するオークさんは少し息を切らしてはいるが、傷らしい傷は無し。苦し紛れに放った水の弾丸も薄皮を剥くだけに終わった。

 

 ええ、オークってこんな強かったっけ……そうか、防具も盾もついでに体も鍛えていた最後の頃と比べて、今は魔力も筋力もどん底だもんな。

 ああくそ、楽観しすぎた。記憶があるからって現実の辛さは何も変わらないってのをちゃんと認識できてなかった。

 

「……っ!」

 

 ふらり、思考が遠のく。血が流れたらしい。

 足首の力が抜け、片膝が地面に刺さる。オークが勝ち誇ったように雄たけびを上げる。うるせぇ。

 

──

 

 ……巨腕が振りかぶられた。

 あれを盾で受けようにも今の足腰じゃよくて半々殺し。追撃食らって虫の息だ。

 

──!

「……ポーズキメても、写真機なんてもってないぞ?」

 

 減らず口叩いて俺は、その一撃をただ避けることも出来ずじっと見ていた。

 

 あぁ……意外に早い旅の終わりだった。

 記憶を役立て楽をした末路だろうか、調子に乗らず地道に鍛えるべきだったか。

 死にたくねぇなと思ってもどこか、一度死んだ記憶がそれを口に出す事を阻む。

 

 オークの腕に血管が浮かび力が溜まったのが見えた。投石器の糸が切られ、落ちてくる。

 空を切る音と共に、顔よりもでかい拳が近づいてくる。

 

 死ぬのは今度は一瞬だろうか。痛いのは嫌だから一思いに──

 

 ──不意に、オークの影が伸び俺の全身を覆い隠したのに気が付いて……俺は、

 

──ッ!?

 

「……おそよう、勇者ヤシド君」

 

 逆光だぜオークさんと、二つの太陽よりも眩しく輝くアイツを見て笑った。

 

「……お待たせ」

 

 一閃。

 丸太の様に太かったオークの腕を、肩から骨も綺麗に切断して勢いのまま遠くに飛ばした。

 血が勢いよく噴き出て大体俺の方にかかる。ひどいシャワーだ。

 

──ッ……......」

 

 何が起きたか理解できてないうちに、オークの首が飛ばされた。

 これまた綺麗に斬り飛ばされ、今度は足元に転がる。おや目が合いましたね、中々のハンサム顔が取れましたよ。

 

「……ふぅっ」

「おぉ……流石──じゃなかった。それが聖剣の中身か。金色に輝いて綺麗だな」

 

 目の前で倒れ伏したオークの体の後ろで、フラフラと体を揺らすヤシドが居た。

 頭を打った後にいきなり剣を振るったのだ、当然と言える。そして右手には一本のロングソード……鞘の大きさよりも一回り小さいそれは、オークの血も弾いて光を放つ。

 脈うつ様な光の明暗、記憶では三日ぶりだが酷く懐かしく感じた。

 

「……うん。なんとか抜けたよ」

「おめでとさん。これで今夜は変な空気にならずにすむな」

「いや、流石に態々見せに行こうとは思わないけど……」

「いやいやいや、気が付いてないのか? 聖剣のおかげかもだが今のお前、全身うっすら光ってるぜ?」

「え、嘘!?」

 

 いやほんと。その光押さえるのにしばらく苦労しそうだなと、記憶で分かり切っていることを呟いてからかった。

 あの時は夜中に出歩けば蝶も蛾も寄ってくるいい誘蛾灯勇者になってて……腹が痛くなるほど笑ったな。

 今回もしっかり笑ってやろう。

 

「……テオ?」

「ああいやなんでもない、んじゃあ二頭目探しに行くか」

「……」

 

 ……聖剣は、所有者の覚悟を以って抜刀される。そんなことを昔ヤシドが言っていた気がしなくもない事を思い出す。

 ホブゴフリンが相手の時は何を覚悟して、今回は何を覚悟したんだろうか。ふとどうでもいい事がよぎった。

 

 そうだそんなことはどうでもいい。今しがたやっとのことでオークを倒したがまだ一頭のみだ。

 折角ならまた宴会を開けるくらいにはオークを……後二、三頭連れて行こう。聖剣が抜刀された今、盾役がいなくても倒せるかもしれない。

 だから提案したが、ヤシドはどうにも乗り気にならないようで顔を顰めた。

 

 もう二度も死ぬことはないのだ。気楽にいこうじゃないか。

 

「……いや、やめておいた方がいいと思うよ」

「おいおいどうした勇者様? さっきぶん投げられてビビっちまったか、安心しろって少し回復したら──」

 

 さっきみたいに転ばしてやる。そう言おうとして、突然視点が落ち──。

 ──っと思ったら右腕をヤシドに捕まれていた。

 少し痛い、聖剣の力で身体能力も少し伸びたんだろうか。

 

「っと……? わ、悪いな直ぐ起きる……あれ」

「……」

 

 ……もう片方の足が崩れたと気が付いたので立て直そうとする。直らない。

 

 おかしいな、おかしいなと繰り返すうちに……ようやく、自分の腰が抜けていると気が付いた。巡りが悪くなって、全身にうまく力が入らない。

 視界も霞んできた。変だなおかしいな。

 鼻の奥がぐじゅるぐじゅると水音を立てている、おかしいな。

 

 盾を掴む力も無くなり、ヤシドに掴まれた腕だけを残し重力に逆らう箇所が無くなる。

 さながら大地に張り付けにされた巨人だ。

 その力に沿って目から水があふれ出してくる。

 

 ……泣いている、俺が?

 オークへの恐怖で腰抜かして。

 

「……お疲れ様テオ。本当にごめんね……今日は帰ったらたくさんお酒を飲んで休んで」 

「い、いやいやいや! だ、大丈夫だって。こんなん、気が緩んだだけで……ちょい、すぐ泣きやむ、から……」

「大丈夫、大丈夫だから……」

 

 アイツは泣いている俺を見て驚いたように目を一瞬丸くした。

 けど腕をゆっくりと離し、子供をあやす時の様な顔になると、普段聞かない優しい声を出す。

 

 身体のコントロールが利かない、ただ今は泣けと背後で囁かれてるようで、深呼吸をしようにもうまくいかない。

 人生、こんなに泣いたことがあっただろうか。いやない。

 

「……」

「……たまたまだからな、普段なら……こうは」

 

 ……あれだ、きっと記憶の中で死ぬ時に泣かなかったから、今になってやって来ただけだ。

 オークにやられそうになったから泣いてるわけではない、断じてだ。

 

「……ねえテオ、聞いてくれるかな」

「……どうぞ」

 

 だから……そんな目で見てくれるなヤシド。

 

「僕──もっと強くなるよ。君に追いついて、誰にも負けないくらい強くなって……誰にも、傷つけさせたりなんてしないから」

「──」

 

 目の前の親友の奮起は、聖剣の輝きよりも眩しくて……思わず視界を閉じた。

 それに甘えられたら、どんだけ楽だったんだろうな。

 少し寒さを覚えた。

 

「そりゃ……頼もしい……もうちょい近くこい、聖剣暖房だ」

「いやこれ熱はない……うん」

 

 近寄ってきたヤシドに雑に手を伸ばして、服の端を掴んだ。

 光がじんわりと伝わってくる気がして、震えが少し治まる。いい夢を見れそうだ。

 

「けど……馬鹿だな。それじゃ……盾役の意味ねーだろ、はは」

 

 意識を手放す時に呟いた小さな声は、誰に聞こえるわけでもなく解け消えていった。




 シリアスな気がしなくもなくもない、人々は早急に明るい展開を求める。
メス堕ち度? 今10%くらいじゃないっすかね、先は長いが少しずつ男から女に代わったことの変わりようを体験していけテオ。

次回はうーん、メガネ壊れたので1/261730予定で。
作者のTwitterではメガネの遺体が貼られていたりするので気になった方は探してどうぞ

~世界観説明~
・魔法
 穴が世界に出現した頃から備わった不可視のエネルギー、魔力で「ある一定のライン」を引くことで発現する不可思議な現象。
 魔力の種類、大きさは個々人で差がある。一応鍛えて総量を増やすことはできる。

 また、魔力を通して堅固になったり作動する鎧などがあるが、これなどを身に着けていると魔力を外に放出、魔法にするために苦労するため魔法使い職の人間は大概露出が多い。
 別段女魔法使いと言えば露出狂だろという作者の思想が設定を裏付けすることで実現された訳ではない。
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