特に不安で眠れない日は規則的な深呼吸と可愛い声が安眠の手助けをしてくれる。
『──テオ様テオ様。ここだけの秘密のお話をしてもいいですか? 実は私、あなた方にお会いするまでずっと、女の人の方が好きだったんですよ』
……いきなり爆弾発言おとされて俺はどうすりゃいいんだい?
一国の姫様がレズ発言はやばいよ。
いや、女の人の方がってことは男も行けるってことか。つまりバイセクシャルか。
そんな……姫様のパイに触りたいと下衆な妄想をしていたからこそ、俺に姫様がバイだという衝撃の事実が告げられたのか?
『しかしここ最近は男性を見て心が温かくなり溶かされてしまうような……一体、私はどうすればいいのでしょうか』
……それって初恋の悩み?
えっ、そんなの告って──じゃなかった。姫様の立場なら告白は厳しいか。
……相手は貴い生まれの方、というわけではなさそうっすね。それなら普通に結婚すればいい話だし。
『え、えぇ……その……』
暖かい、溶かされる……あ、もしかしてヤシドのこと?
ははは慌てないでください。アイツがいる時、顔赤らめた時ありましたよね。そうですかーいやー見る目ありますね流石姫様。
……正直それだったら大丈夫でしょ。この間の事件を鎮めたことで勇者としての栄光も更に強まったから。……そう、もう少し勇者さんが活躍すれば姫様が結婚したいって言いだしても王様はオッケー出すと思いまっせ。
『あ、あの……そうではなく……』
スオウがいる時も顔赤くしてましたんで、単に格好いい人が好きなんかなって思ってたけど。
あ、もしかして好きな人を絞れないとか……あやっぱり。そうっすよね格好いいもんなーヤシドとスオウ。
聖魔剣槍と名高いコンビ。国民とかから人気高いらしいし。
『え、えーとその組み合わせもいいものですが……て、テオ様も人気はあると思いますよ?』
勇者パーティー三人の内三番目だがね、ありがとう。
はははははは……ははは、結婚出来る気がしないぞ俺。酒場でのんびりナンパしてたら大概勇者様に渡して欲しいって手紙貰うし。
いっそ姫様の近くにいられれば眼福だし、姫様の従者でいい人おりません?
『う、うーん私のお付きの人は主に私のせいで少々年齢が上の人が多いので……。あ、いいこと思いつきましたよ』
え、なんですか?
勇者様と婚約できるかどうか話を進めておいて、俺は旅が終わったら執事見習い兼護衛として雇ってもらうよう頼んでおく?
そうすればお付きの人とかがいい人を紹介してくれる、かもしれないですか……いいっすねぇ。就職先も紹介してくれるとかできる上司を持ってると幸せだなぁ。
ははは、ヤシドが王族の仲間入りしたら会えなくなるかもなーなんて思ってたが……案外寂しくならなそうだしいいかもな。
ぜひともそんな感じでよろしくお願いします姫様。
『ええ……二人を引き離すなんてとんでもない事ですからね……剣と盾は一緒にあってこそですよ……へへへ』
……なんか息荒いっすね姫様?
若干腐臭がするのは気のせいに違いないはずだ。
◇
……懐かしい夢を見ていた。
結局その後は婚姻話もうまくいって、ヤシドも満更ではない感じだったな。まあ女の子に好意寄せられて断る男子が少ないけどな。
俺だってそうだぞ。例え好みの子じゃなくても「貴方が好きなの」って言われればホイホイついていく自信がある。
ふふふ、どこかに居ないもんかな。グラマラスでお酒とたばこ嗜んでも文句ほどほどで優しい女の人。
いたらなぁ、そりゃ男として尽くしますよ……って俺女だったわ。
「……ふぁあ」
大き目の欠伸をして上半身だけ起こす。眠い頭のまま辺りを見回せば……宿屋か。
えーとそう、オークの穴の後に宴会をして……えーとそうだ。ヤシドが羨ましかったから邪魔してやった……んだっけ? 記憶が薄い。
まあいいや、朝の煙草と洒落こもう。
「……ん?」
普段の朝とは違う、けれど落ち着く匂いがしてふと視点が落ちる。
……なんかあの、今どけた毛布がやたら盛り上がっている気がする。
具体的には人一人分盛り上がっている気がする。き、気のせいかな……はみ出ている髪の毛が赤く見える様な。
い、いやーまさかね? 流石にこんなことが起こるわけが……。
ペロッと、毛布をはがす。
「……ぐぅ」
奴がいた。気持ちよさそうに寝息を立てていた。薄いシャツ
朝起きたら、記憶の中の勇者ファンたちに殺されかねない、勇者と朝チュンした女になっていた。
昨日はオークと添い寝していたし、ビッチか何かか?
「んん……」
……えっ? ヤッたの? 記憶何もないけど俺の衣服少し乱れてるしヤッたのか!?
待て起きてくれるなヤシドくん、静かにするからもう少し寝ていろ!
念じてるのに動くな、寝てろ寝てお願い!
色々と考えがまとまらないから──!
「……あ、テオおはよ──!?」
「とりあえず寝てろっ!?」
混乱のまま、起き上がろうとしてきたヤシドに対し……近くにあった固い枕で叩きつけた。
会心の一撃だった。思い返しても感心する出来だったことに間違いない。
死角からの鋭い一振りは顎を捉える、
勇者は不意の一撃を受け、天を仰ぎ倒れた。
……ユウシャを たおした!
とりあえず、勝利のポーズを取った。
勇者キラー、ここにあり。
◇
広がる青空。ふたつの太陽はすでに中天を通り過ぎ、さわやかな風が通り抜ける今日この頃。
眼下に広がる城下町では忙しそうにする人々でにぎわいを見せ、騒がしいながらも楽しげな風景に思わず胸が躍る。
「……」
「……いや悪かったって、起きたらいきなりお前が居てビビったんだよ」
「……テオが全然首を離さなったから、ああするしかなかったんだけどね」
追伸、記憶の中の勇者へ。また拗ねました。
すーぐ拗ねますねコイツ。いや寝ざめの顎に強烈な一撃食らえば拗ねるのも仕方がないかもしれないが何も馬車の中で半日近く拗ねなくともいいじゃないか。
ほらオークのバラ肉串あげるから機嫌治せって。
「はぁ……テオが女の子っぽい反応をしたのは逆に安心したんだけどさ……もう少し優しくというか」
「女の子っぽい……?」
何を言ってるんだこいつは。正直俺が男のままでも男と寝てたら混乱して殴ってたからな。
むしろ男の時の方のが怖かっただろうよ。
「え? ……ともかく、あんな風に酔って無防備にしてたらそれこそテオが想像したことが起きるかもしれないんだから。これからはもっと注意をね……」
「はっはっは、この体に欲情する奴なんてこの世にそうそういないって!」
「……」
くっ、また拗ねた。
こんなブツが生えてるかどうかぐらいしか男と変わらない体に興奮する奴なんてていない。というかいたら婚活チャンスだわ……いや男とやる趣味はねーよ。何一瞬考えてんだ俺、気持ち悪いな。
で、せっかく聖剣のお披露目の為に王都に来たんだからもっと輝いてくれ勇者。
拗ねるな拗ねるな串焼き食え食え。
「だからさぁ……折角頂いたお酒の没収は無しの方向で……」
「だめ、酔う度に叩かれたくないし」
「そんなぁ……」
くっ、極悪非道な勇者め! 俺もまた被害者なのだ。
大体察していた宿屋のおっさんに「昨日はお楽しみでしたね」と笑われた俺の気分も考えて欲しいものだ。
──そこから十数分、馬車に揺られた。
……馬車が城下町の入り口にたどり着く。そこには数人の兵士たち。
一人だけ装備が豪華なあたり、誰がリーダー格か分かりやすくていい。というか顔見知りだな。これはこれは、治安の維持に普段は尽力している騎士団長様ではないか。
軽く頭を下げればあちらも直ぐに一礼。ふっ、勝ったな。
「お待ちしておりました勇者様方。お話は伝書より……旅も始まったばかりですが聖剣が輝きを取り戻したそうで」
……よく考えたら王都出て一週間足らずで戻って来るってかなり迷惑かけてる気がするな。
記憶の時は確かホブゴブリンリベンジの後オーク村に向かって、村で宴会した後オーク狩って……いや戻ってくる日変わってないか。
ならいいか。
記憶の中じゃ聖剣の輝きのおかげで王都の住民たちは最高潮に盛り上がっていたからな。
「はい。素晴らしい輝きで……伝説を再度調べるため、そして是非ともみなさまにも見てもらおうと思い……ほらヤシド様」
「……」
ぺら回し、従者ムーブでヤシドを前に出す。少し不満げにこちらを睨んでくるが流石にここは空気を読んで、奴もまた聖剣を抜刀。
……その少し後、剣を中心に光が広がる。暖かくも熱さを感じない、太陽の下だというのに明るさを感じるほどの光量。
それでいて直接見ても目つぶしにならない辺り、本当に不思議な光だと改めて思う。
「おお……これが」
その光の特殊性に直ぐに気が付いたのだろう。騎士団長はしばし言葉を失い、光り輝く聖剣を見ていた。
部下の兵士たちは何が起こっているか分からないといった表情であったが、光を受けて心が温まったのか少し腑抜けた顔になって行っていた。
これぞまさに救世主の光。
聖剣の解放段階としてはまだまだ序の口だが、人々に威光を伝えるには既に十分だろう。
「……と、こんな感じです。……大丈夫ですか?」
「──あっ。え、ええ問題ありません。陛下もお喜びになられるかと……明日の午前には王宮での謁見がありますので、それまでは旅のお疲れを取ってくだされば」
もういいかと光を収めたヤシド。もう光の放出についてのコツをつかんだらしい。いいことだ。
……謁見の日も変わらず、じゃあ陛下もこの光を見て「この素晴らしい光が世に戻らなければいけない何かが起こる」と懸念。
軍が集めた「最近この穴の様子がおかしい」情報が貰えるようになって……という形だ。うむ実に理にかなっている。
「城の中に部屋を用意しておりますので、お休みになりたいときは門番にお申し付けください」
「あぁそれはありがたいことです。では素晴らしい王都の街並みを見に行きましょうか」
記憶の通りに行けば、夜まで散策し晩餐はお城のコックさんによる薄味料理だ。騎士団さんに支給されている塩っ辛い方がいいけどお客様扱いだからなぁ……。
確か前回はヤシドと話し合い、城下町のグルメで腹を埋めてしまおうということで食べ巡りしたんだっけか。
……とは言え今回はちと事情も変わるしな。あとヤシド拗ねてるし。
調べておきたい事もあるから王都の図書館……それとオーク村で貰った鎧は心もとないし、防具屋にも向かいたいな。
別行動するか?
耳打ちする距離まで近づきこそこそと話す。
「ヤシドくん、ヤシドくん。別行動しないかい?」
「ちょ、なに……まさか昼間からお酒飲みたいとかいうんじゃないよね?」
「まさか! ほら、術式付きの防具があれば欲しいからよ……」
はははまさかそんなことする訳ないだろせいぜいコップ一杯こっそりひっかけるだけだよ。
……この純潔の盾レベルなんて贅沢は言わないが、ほんの簡単な術式一つでも刻んである鎧があれば万々歳だ。
身体能力向上系があればなおよし。どうせお金は王様からもらえるしな。
というわけでそちらはジャンクフード漁り。こちらは冒険用の備えの備え。
備えあれば嬉しいな作戦で行こう、そう決まりかけていた。
「ああなるほど……ごめん、疑ってたよ。そうだね今のままじゃ……あ、そうだ!」
罪悪感から態度が軟化しかけた時、ヤシドの顔が明るく……いい事を思いついたと笑顔になった。
勇者はこそこそ話を止める様に俺から離れ、騎士団長の方へと寄っていく。
何をする気なのだろうか分からないが、いやな予感がした。
「? おいヤシドさ──」
「騎士団長さん、テオの防具を作ってもらえるような職人さんとかに心当たりはありませんか?」
うん?
「むっ……そうですな。これからも戦いが続くならばその革鎧では難しいでしょう。騎士団抱えの者を尋ねましょうか」
「ええ、ぜひお願いします。こんなことを言うのもあれですが、もう少し煌びやかなものがいいでしょうね」
「そうでありますな。勇者様のパーティーであれば一般的な物よりも……純潔の盾に相応しい鎧がよろしいでしょう」
あの? 煌びやかな物は趣味じゃないから無骨な、一般に流通しているタイプの奴がいいんだけど。
騎士団さんの奴とかの量産系の奴。
「それでは彼女をよろしくお願いしますね団長さん」
「ええ、もちろん──パレードでもひときわ目立つ、可憐な鎧をご用意させていただきます。
ではテオ殿こちらへ」
……可憐? 誰の装備が?
俺の? 可憐ってまさか、美人冒険者が着こなすようなドレスアーマーとかじゃないよね。やだよ俺ああいった女性の性を出す奴。
あの、騎士団さん達……なんで俺を取り囲む?
「テオは恥ずかしがり屋なので、逃がさないように……」
……勇者さーん?
もしかしてまだ拗ねて……ねぇ! 笑ってやがる!? 朝の恨みかこいつ!
よせやめろ騎士たち、両腕を掴むんじゃない! 連行しようとするな持ち上げるな!
やめろ、女物の防具なんて着たら悲惨な見た目になるだろうが!!
「じゃじゃあテオまた後で……プフッ」
「(覚えてやがれてめーっ!!)」
絶対に着てなるものか、遠くなる俺を見て笑い空気をもらすヤシドに向い、心の中で叫んだ。
TSしたからには、女らしい服を強制的に着るイベントが無ければおかしい。
私はそう思った。
~オリキャラ紹介~
・姫様
王族レズ腐り系
初期案では単なる母性のやべー奴だったのになんで……