家庭教師 Ⅹ世   作:naomi

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EP6 晴のチャンピオン

「沢田さん」

 

男に突然殴られたツナ、あまりの出来事に吉常は困惑した。

 

困惑する吉常を他所にその男は透かさずツナの胸ぐらを掴んだ。

 

「大丈夫。気にしないで、お久しぶりですお兄さん」

 

(えっ、知り合いなの)

 

「よくノコノコと日本に帰って来られたな沢田、また約束を破っておきながら」

 

「すみません。お兄さん」

 

(約束…破る…てかお兄さんってどういうことだ)

 

「なんだこのガキは」

 

「ガキって、俺学生ですけど」

 

「そうか。それはすまなかった」

 

「沢田さんを離してください」

 

「なんだ沢田の知り合いか」

 

胸ぐらから手を離す男。

 

「ハルの学校の生徒です」

 

「学生を連れて何をしとるんだ。貴様は」

 

「ハルに頼まれて職場体験をさせてるんです。お兄さん」

 

「職場体験だと、この時期の学生は勉強に精を出しているはずだろう」

 

「それが将来の目標が定まらなくて悩んでいるんです」

 

「フム…丁度いい。俺の職場を見学させてやろう。沢田お前が俺の相手をしろ」

 

「待ってくださいお兄さん。俺明日イタリアに戻るんです」

 

「そんなことは知らん。お前の『罪』を清算することの方が先だ」

 

(なんだこの人無茶苦茶だー)

 

「沢田さん。なんなんですこの無茶苦茶な男」

 

「俺の名は笹川了平。沢田の知り合いだ」

 

「あんたに聞いてない」

 

(笹川了平って2階級制覇中のボクシングのチャンピオンじゃんか。沢田さんの人脈どうなってんだよ)

 

「いや、あなたチャンピオンってことは一般人殴っちゃダメでしょ」

 

「沢田はこの程度では死なんぞ」

 

「そういう問題じゃ無いでしょ、プロライセンス持った人は一般人殴っちゃダメなんでしょ」

 

「そんなことは俺と沢田の間では関係無い」

 

(この人イカれ過ぎだろー)

 

「吉常君。大丈夫」

 

「沢田さんでも…」

 

「わかりましたお兄さん。いつ伺えばいいですか」

 

「明日の朝5時だ」

 

「わかりました」

 

「そこの学生。職場見学をしたいならその時間に『並盛ジム』に来い」

 

「大谷吉常です。ボクシングに興味は無いけど、こんな犯罪行為見過ごせないんでお邪魔します」

 

「うむ。ボクシングの素晴らしさを見学して行くといい」

 

そう言い了平は走り去って行った。

 

 

 

 

翌朝。

 

(並盛ジムって確か、あった。沢田さんとあの人三浦の知り合いの美人さんもいる)

 

「ごめんねツナ君。お兄ちゃんがまた無茶言って」

 

「お兄さんとの約束を守れなかったからね。これは必要なことだよ」

 

「でも…」

 

「沢田さん。おはようございます」

 

「おっ、吉常君おはよう」

 

「ツナ君この子は」

 

「ハルのところの生徒さんで、大谷吉常君。訳あって俺がここ数日面倒見てたんだ」

 

「わーハルちゃんの生徒さんなんだ。笹川京子ですよろしくお願いします」

 

「大谷吉常です。…あの笹川ってもしかして」

 

「ああ京子ちゃんはあの人の妹なんだ」

 

(嘘だ…絶対嘘だ)

 

「おう沢田来たな」

 

扉を開けて既に戦闘準備万端の了平が出てきた。

 

「吉常とやらも来たか」

 

「えぇ…」

 

「お兄ちゃん。どういうことなんでツナ君を殴ったの」

 

「きょ、京子。なんでお前がここに」

 

(本当にこの二人兄妹なんだ…)

 

「私が話しておいたからね。久しぶりだね京子と沢田」

 

奥から女性が1人出てきた。

 

「どういうことだ」

 

「京子から昨夜電話があってね『沢田の頬が誰かに殴られたみたいに腫れてるんだけど、本人が話してくれないのどうしたらいいかなって』そしたらアンタが丁度沢田と決闘するなんて言うもんだから、京子に教えたのよ」

 

「余計なことをせんでいい」

 

「中学からのダチが心配そうに相談してくるんだ。手を貸すに決まってんだろ」

 

「花…」

 

(沢田さんあの人は誰です)

 

(笹川花。旧姓『黒川花』、俺と京子ちゃんが中学の頃からの付き合いの同級生で。お兄さんの奥さんなんだ)

 

「聞いてしまったのなら仕方ない。リングに上がれ沢田。始めるぞ」

 

「ちょっとお兄ちゃん」

 

「これは『男と男の約束』なんだ京子。京子は帰っていろ」

 

「なんでそんなことでツナ君とお兄ちゃんが」

 

「京子ちゃん大丈夫。これは俺のケジメとして必要なことなんだ」

 

「ツナ君…」

 

リングの上に立つ2人の男と見守る3人

 

(沢田さん華奢な身体だと思ってたけど。凄くしっかりした身体付きしてるな…)

 

「あの…花さんでしたっけ」

 

「なんだ三浦のところの生徒。大谷だっけ」

 

「二人の約束の内容ご存知ですか」

 

「いや。知らない…ただ予想だけど京子がらみだと思うよ」

 

「京子さんがらみ…ですか」

 

「二人の共通点は京子だからね…まあ女の勘だけど」

 

決闘が始まる。

 

(沢田さん現役世界チャンピオンの攻撃全部かわしてる。マジでかこれ)

 

「身体は訛ってないようだな」

 

「日々の鍛練は行ってますから」

 

「なのに何故だ。何故あの約束は守れんのだ」

 

「…」

 

「答えろ沢田ーーーーー」

 

了平の渾身の右ストレートがツナの頬に当たる。ツナは一瞬で力が抜けたように膝から崩れ落ちた。

 

「ツナ君」

 

京子は透かさずリングに上がる。了平をじっと見詰める。

 

「京子…」

 

「お兄ちゃんの馬鹿」

 

「うっ」

 

「京子ちゃん。お兄さんを責めないでこれは俺の罪にたいする罰だから」

 

「ツナ君でも」

 

了平が差し出す手にツナが捕まる。

 

(頼んだぞ沢田)

 

(はい)

 

鎮まりかえるジム。

 

「…これがボクシングだー」

 

(いや、テレビで放送されるような光景見せてくれ。いくら場を盛り上げるためだとしても、ボクシングの魅力伝わらないよ)

 

「…無理矢理過ぎ、そんなんでボクシングの魅力伝わると思ってんの」

 

「勿論だ。なぁ大谷吉常」

 

了平以外の人達は彼の表情で察した。

 

「なんだ京子。お前まで何故そんな目で見る」

 

「悪いね。この男こういう奴でさ、良かったら今日の放課後また来な、本当のボクシングの魅力を見せてやるよ」

 

「ありがとうございます。花さん」

 

「京子達はどうする」

 

「俺達は予定通り。イタリアに戻るよ」

 

「行くんですか」

 

「うん。あっちでの仕事をほっぽり出す訳にはいかないからね、なるべく時間作って日本に戻るからさ。頑張って自分の道を見つけな」

 

ツナは1枚の写真を取り出す。

 

「…俺のいない時はこの人を頼りな、話は通しておくから」

 

ツナ達と別れた吉常はその日登校した。

 

「あんた、この数日なにしてたの」

 

「お前には関係ねーだろ石田」

 

「サボり」

 

「うるせー、三浦の知り合いに人生相談してたんだよ」

 

「三浦先生の知り合いってどんな人よ、成果はあったの」

 

「お前に答える義理はない」

 

窓から見える飛行機の後を目で追う吉常。その日の吉常は空を眺める時間が多かった。


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