天災兎は平和な世界でISを造りたいようです   作:ライかぐ推し

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天災兎はISを造りたいようです

 皇歴2010年、彼女がまだ幼い子供だった時、日本という国は世界から消えた。

 この世界の強豪国ブリタニア、その圧倒的な軍事力、世界で初めて実戦投入された人型自在戦闘装甲騎(ナイトメアフレーム)の驚異的な戦闘力の前に既存の兵器が役に立たなかったことと、戦争中に枢木ゲンブが自害したことも合わさり日本は敗戦、名前をエリア11へと変え、ブリタニアの属領として生かされることとなった。

 それからはもう全てが慌ただしく、割りとお金と権力があった彼女の両親は彼女と妹を連れてあちこちに雲隠れするはめになるし、本格的な占領が始まってからは昔みたいに自由に外を歩けなくなるしと本当につまらないと感じていた。

 

 なので、彼女は12才の時に家を飛び出した。

 

 「ちょっと造りたいものがあるので」と書き置きを残し、安全地帯と言う名の牢獄から脱走。

 野蛮で危険で安全の保障なんて何一つもない敗戦領土へと彼女は身一つで足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 それから五年と少し経って、深夜のフジサン山頂。

 日本を象徴した自然の一つで、その荘厳なる風景で人々を魅了して止まなかったのも昔の話、希少鉱物サクラダイトを採掘するためにその表面積のおおよそ半分を機械に覆われたその様はまるで今の日本を象徴しているようである。

 そこに音もなく()()()()着地する人影があった。

 

「ふっふっふー、やっぱりザルだね〰ここの警備」

 

 当然ながらそんなことはない。

 サクラダイトというレアメタルはKMF(ナイトメアフレーム)の動力源に使用されることもあるが流体にすると起爆しやすくなるという特性も併せ持つ。

 そのような重要物質の採掘場などエリア11においては総督府を除くとトップクラスに厳重な警戒網が敷かれ、並の人間がそう安々と入れるような所ではない。

 いくら()()()()()()()()()()()という常識外の方法で侵入したとしても、レーダーなどの警戒に引っかかりすぐさま駐留している警備兵に捕らえられて然るべきである。

 

 だが、そんなものはこの天才(天災)の前には無力であった。

 

「さてさて、お目当てのサクラダイトはどっこっかっな~」

 

 頭につけていたウサ耳型のレーダーを両手に持ち、ダウジングのように採掘されたサクラダイトの保管庫へと歩みを進める。

 通路内に設置された最新鋭の監視カメラに彼女の姿が映ることが無く、高度なロックが掛けられたはずのセキュリティゲートもまるで彼女が本来の主であるかのうように容易に開き、何物にも止められることは無く彼女はそこへとたどり着いた。

 

「予定通り一体分……いや余分に二・三体分貰っていこうかな」

 

 手元の端末を操作し、必要な分のサクラダイトを近くにあった搬送用大型トラックに積み込んでいく。

 順調に積載を進めていき、最後のサクラダイトを積み込んだところで異変は起きた。

 

「ん? あれれ?」

 

 別端末から通知音がなり、確認すれば数名がここへと向かってきている画像が映し出されている。

 

「スケジュールには無かったし、抜き打ち検査? ま、元々派手にするつもりだったから特に問題ないかな」

 

 どこから取り出したのか、明らかに生身の人間が持つべきではないサイズの物体、全長4メートルを超える大型のレールガンを何の躊躇も無く搬入出用の出入り口へと発射した。

 作業時間外であるため硬く閉じられていた対テロリスト用のシャッターは無残にも破壊され、それを確認する前に彼女はトラックに乗り込み、エンジンを始動させ、アクセルを全開にして猛スピードでそこから飛び出した。

 

「な、なんだ!?」

 

 近くまで来ていた作業員は突然のことに戸惑うが、すぐさま破壊された出入り口と飛び出したトラックを確認し何が起きたのかを凡そ理解することが出来た。

 

「本部! こちら格納庫、サクラダイトが何者かに盗まれた! 犯人は大型トラックで逃走中! 至急応援を!」

 

 

 

 

 

 

 

「♪~」

 

 鼻唄まじりにトラックを操る彼女。

 ふとミラーを見れば彼女を捕らえようと追跡してくる戦闘ヘリとKMFが数機確認できた。

 

「残念だけど、それじゃあ束さんを捕まえることはできないよ~」

 

 そう言って懐から丸い物体を取り出すとそれを無造作に窓から外へ投げ捨てた。

 彼女の手から離れて数秒後、それは全体から白い煙を発し追手の視界を塞ぐように広く展開した。

 とても手のひらサイズの物体から出たとは思えないその煙に少し驚いた追手だったが、直ぐにKMFのセンサーを展開し煙に突入したところで異変は起きた。

 

『センサーに異常!? どうなっている!?』

 

『くそこっちもだ! 全面真っ白で何も見えん』

 

『スピードを落とせこれでは、うわぁあああああ!?』

 

 煙に触れた途端、センサー全てに不調が生じ、何名かが危険を感じて止まろうとするが対応できなかった数名が猛スピードのまま突っ込み、コースアウトして木々に突っ込んだり、味方を巻き込んで派手に転倒したりと散々たる有り様を晒していた。

 

『追走していたKMFは謎の煙幕により行動不能、我らだけでも追跡を……、何だあれは!?』

 

 戦闘ヘリのパイロットが目にしたのは人形(ひとがた)の何かだった。

 全身を黒い鎧のようなものに覆われた人間に巨人の手足を取り付けたような不可解な格好のそれは戦闘ヘリの前方に立ち塞がっていた。

 それが只の不審者ならパイロットもそこまで取り乱すことはなかっただろう。

 しかし、問題はそれがいた位置がヘリの真ん前だったということ。

 

 そう真ん前、つまりは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 さらにそれの右手には身の丈ほどの日本刀が握られていたと言うこと。

 それが何を意味するかということは、想像に難くない。

 

『――』

 

 戦闘ヘリが何か行動を起こすよりも早く、それは刀を構え、ヘリへと突撃した。

 それは二回刀を振るった、一度目は眼前のヘリへ、二度目は少し後方にいた二機目へと。何れもすれ違いざまにヘリのメインローターを斬り落とした。

 揚力を失ったヘリは墜落し、地面へ激突する前にパイロットたちはパラシュートにて脱出することに成功する。

 生きていることに安堵するパイロットたちだったが、すぐに自身を斬りつけた犯人のことを思いだし辺りを見回すが既にその姿はなく、まるで幻であったかのように影も形も捉えることはできなかった。

 ただ眼下に広がる惨状と遠くに走り去っていくトラックだけが、あれが現実であったと証明していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、大漁大猟の大量だねー、これだけサクラダイトがあれば思う存分私謹製KMFが造れるよ♪」

 

 盗品の山を前に満足げに微笑む彼女。

 年相応の少女のように笑ってはいるが、彼女がしでかした所業とそれに関する被害を考えればとても笑ってはいられないはずだ。

 

「何から造ろうかな~、やっぱりドリル? それともビーム? 変型合体も捨てがたいよねぇー」

 

 だが彼女はそんなことは気にしない。

 それが彼女が彼女として生きていくと決めた際に決意したことの一つであり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()彼女的にはそれで充分配慮したと考えていた。

 

「早くブリタニアを何とかしないと安心してIS(アイエス)も 造れないんだよね、悪用されるのが目に見えてるし、ナンバーズ制度がある内は差別を加速させるだけだから造りたくても造れない、ままならないものだよねー、君もそう思わない?」

 

 そう言って視線を向ける、そこには先の事件でヘリを斬り落とした人形がそこにいた。

 それの名前はゴーレム白騎士、彼女が元から持っていた知識と、今世で生まれ持った知能を合わせることで何とか理想の姿へと近づけることができた第一世代型ISの試作機である。

 本来なら有人機であるそれを無人でも使用できるように改造したためにパイロットはいない、故に答えなど返ってくるはずもないのだが、彼女は話を続ける。

 

「いや、実際な所私でなくてもいいんだけど、これ、設計どおりできたとしてもパイロットがいないんだよねぇ、並みの乗り手だとほぼ死ぬし、だけどパイロットを探す暇も人手もツテないし、だからと言って私の可愛いこの子を他人に渡す気にもなれないし」

 

 ワンマンアーミーにも限度があるしね、と言って彼女は手元の設計図に視線を落とす。

 

「ま、そこは焦っても仕方ないし、地道に一歩ずつやってこか」

 

 そうして彼女は作業を始める。

 それはシンジュクゲットーで大虐殺が起きる少し前の出来事。

 天災と魔王が出逢い、ブリタニア相手に反旗を翻すのはもう少し後のお話。


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