天災兎は平和な世界でISを造りたいようです 作:ライかぐ推し
「んんんん~~~~?」
その日、彼女はこの世界に生れ落ちてから滅多に見せたことのない困惑の表情を浮かべていた。
彼女を悩ませている原因はとある人物のDNAデータ。
先日、アッシュフォード学園に侵入してきたとある青年から(勝手に)採取したDNAである。
現在、アッシュフォード学園の全領域は彼女、篠ノ之束の監視下に置かれており、彼女の目が届かない場所はどこにも存在しないほどである。
故に、彼が侵入してきたことにも真っ先に気がついたし、脅威ではないと判断して邪魔をすることもしなかった。
もっと言うならば、束は彼のことを知っていた。
彼女がC.C.やルルーシュのギアスに目をつけた時、この世界の裏側に蠢く不可思議な力に気がついた時にエリア11総督府にクラッキングを仕掛けて盗み出したデータの中に彼に関する記述も存在したのだ。
しかし、そのデータですら肝心の彼の正体に関しては不明としか記されておらず、こうして彼女が自らの手で調べることとなった。
そして手っ取り早い方法として、彼女がまず最初にとった手段がDNA検査である。
小型の蚊のようなドローンを使い、彼が睡眠している間を見計らい血液を採取、そしてすぐに彼女のラボにて分析、さらにはありとあらゆる専門機関や国家機関のデータと(勝手に)照合した結果、とある不可解な事実が判明したのだ。
『
この検査結果を目にした時思わず機器のエラーを疑った。
しかしその後に再照合したところで結果は同じ、しかも日本皇族の直系の血筋は既に途絶えていて現在には存在していないと言うおまけつき。
もしかすれば日本のどこかの秘境で生き延びていた皇族がいたのかもしれないが、それだとブリタニアのDNAが混じる可能性は殆どない。
念のため彼と現在存在するブリタニア皇族とのDNAをすべて照合した結果、ブリタニア皇族特有の特徴が彼にも見られたため、彼はブリタニア皇族で間違いはない。
外見年齢から考えて彼は恐らくルルーシュたちと近い世代だろうと彼女は考えた。
その年齢ならば確実に現皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの血を引いているはずであるのだが、彼と皇帝の親子関係を証明する結果は得られなかった。
だがこれは本来有り得ない。
何せ、その年齢で現在存在するブリタニア皇族はすべて皇帝シャルルの妻か子であるはずなのだ。
正体不明のブリタニア皇族と正体不明の日本皇族とのハーフ。ふざけてるとしか言いようがない。
彼女の頭脳を以ってしても解明しきれない不可思議な結果に、彼女は頭を傾げるしかない。
「……現段階で推測するとするなら、過去に存在した皇族が現代までタイムスリップかコールドスリープでもしてきたとか? 私という
そう言って彼女はとある地点の映像を表示する。
それはエリア11に存在するとある孤島。
正体不明の彼が発見された場所であり、現在でもその島に存在する遺跡を調査するために度々ブリタニアから調査員と怪しい人間たちが足を運んでいる場所。
その島の名は神根島と言った。
「調査するにしても現地にいる奴ら全員始末なり無力化する必要があるよね。でも定期連絡の類は何とかなるけど直接来られた場合の対処が面倒、もうあっちでは浮遊航空艦が試験運用の段階に入ってるみたいだし正直何時どこに何が来ても可笑しくはない。バレたら最悪本国からラウンズなり直属の部隊なり
ふと、適当に周囲を見回していると彼女を囲むように設置された数々のモニターの内一つ、それが映し出している映像に見覚えのある人物たちが映りこんでいることに気がついた。
「あれ? なんでこいつらこんな所にいるの??」
それは先ほど彼女が赤髪と称した少女、カレンと記憶喪失の青年が二人でゲットー、エリア11各地に存在するイレブンたちが住む貧困街に居た。治安も悪くテロリストなどの反政府勢力がよく隠れ家にしている危険地帯である。
この二人は両者共に日本人の血を引くハーフであるが、半分はブリタニア人の物であるため知らない人から見れば憎い敵国の人間と勘違いされて襲われても不思議ではない。
「ねえ、刀奈ちゃん、ちょっと過去ログ探ってみてくれない」
束は視線を逸らさずその場にいる誰かに話しかける。
いや、その表現は正しくないだろう。
この移動式研究基地に彼女以外の人間は乗っておらず、他の誰かに通信している形跡もない。
では誰に話しかけていたのか? その答えはすぐに画面の向こうからもたらされた。
『どうやら彼、ライの記憶を取り戻す手がかりを探す為にあちこち行ってるみたいね。カレンが彼のお世話係に任命されたのも関係してるみたい。……ただ、今回はちょっとまずいわね』
画面上に突如扇子を持った青い髪の少女が現れる。
彼女が左手でとあるファイルを摘んで開くと、彼らの行動が箇条書きで纏められた報告書と画像が表示された。
『この付近の反政府組織の動きが慌ただしくなってるから早くて今から、遅くても数日以内にテロが起きる可能性が高いわね』
「ていうか、もう起きてるみたいだね」
束がそう言ってとある監視カメラの映像を拡大すると、そこには布に包まれた怪し気な何かを設置するイレブン達の姿が映し出されていた。
「まったく、危機感が足りてないんじゃないかなこの二人は。……仕方ない、この束さんが直々に警告してあげるかな。一応は仲間なんだし」
彼女は手慣れた手つきで懐から携帯電話を取り出すと目にも留まらぬ早さで番号を入力し、どこかへとかけ始めた。
『やあやあこんにちわ。噂の記憶喪失イケメンと二人でゲットーでデートとは中々に手が早いね。兵は神速を尊ぶと言うけど恋愛でもそれは同じなのかな? まあ理屈は理解できなくもないけど、恋愛なんて生まれてこのかた経験したことがないから私にはどうもわからないんだよね。君的にはどう思う?』
非通知の番号から掛かってきた電話に出た途端若い女がやけにハイテンションで話し掛けてきた。
一瞬悪戯電話かと思ったカレンであったが、電話の主がこちらの動向を把握していることと何よりその声に聞き覚えがあったので思わず問い返してしまった。
「え、篠ノ之さん!? どうして私の番号を? それより、なんで今私たちがここにいるのを知って――」
『まあまあそんな細かいことはさておき、記憶の手がかりを探すと言う点において馴染みがありそうな場所をめぐると言うのは有り触れた考えではあるけど同時に効果的なのには違いないのだよね。脳に刻まれた感覚や既視感など、些細なことから記憶が戻るという症例も多く報告されているからね。まぁそれでも戻らないという例もあるのだけど手掛かりが皆無な現状だと何もしないよりかは遥かに有効かもね。だ・け・ど、ちょっと場所選びを間違ってない? ゼロのもとに身を寄せてから気が緩んじゃったかな?』
「えっと、場所選びですか?」
問いただそうとしたものの、まるで洪水のように押し寄せる彼女の言葉に思わず聞きにまわってしまう。
束がこちらへ問いかけた所でようやく口を開くことができたカレンであった。
『そうそう、その場所もうすぐテロが起きるよ。コイツラの動きから察するにその場にいる日本人を巻き添えにしてブリタニア軍を強襲するような感じのが。死にたくなかったら早く逃げたほうがいいよ、ただでさえ厄介なお荷物抱えてるんだから。じゃこの辺で』
「え!?あ、ちょっと!?」
テロという言葉に詳細を聞き返そうとしたカレンであったが既に通話は途切れており、向こう側からの反応はない。
呆気にとられる彼女であったが、そんな場合ではないと頭を振り直ぐに周囲の状況を確認し始めた。
怪しい素振りをする人間は周囲にはいない。しかし、あの頭のおかしい女がわざわざこちらに知らせてきたと考えると嘘である可能性は低いと彼女は感じた。
ならば今すぐにでもこの場を離れるべきだと考えたカレンは側にいたライへと話しかける。
「ねえ、もうそろそろ」
帰りましょう、そう言いかけた彼女であったが、突如発生した空気を震わせるほどの強大な爆音が彼女の言葉を遮らせた。
何が起きたのかと二人で音のした方向へと顔を向けると、どうやら何かが爆発したらしく周囲の浮浪者たちを巻き添えにしてブリタニア軍のパトロール隊を爆破したように見て取れた。
そして生じた爆煙の向こうから銃を持った日本人とブリタニアの旧式KMFを改造した無頼数機が爆煙の中から現れているのが見える。
どうやら隠れ潜んでいたテロリスト共が攻勢に出たのだとすぐに理解できた。
(くそ、遅かった!)
どうやらあの人の言ったとおりにテロが決行されたようだ。
ならばいま自分たちが最優先するべきはなにか? 決まっている。自分の身の安全を確保することだ。
カレンは反政府組織、巷を騒がせる黒の騎士団に所属するテロリストであるが、今この状況下においてはその身分は役に立たない。
彼らは、一人は記憶喪失につき不確定ではあるが、日本人の血を引いているハーフである。
しかしもう半分は憎きブリタニア人の血を引いている。
そんな彼らの事情などテロリストには関係あるはずもなく、外見がブリタニア人でブリタニアの学生服を着てゲットーに入り込んでいる人間など絶好の獲物でしかないということである。
「こっちよ!」
ライの手を引き走り出す。
今ならまだ戦火もそこまで広がっていないと考え、すぐに来た道を引き返した。
現状において、彼女の手足となるKMFはここにはなく、頭となるゼロもいない。
彼女たちはその身一つでこの場から逃げ延びなければならないのだから迷ってはいられない。
…………そう、迷ってはいられなかったのだ。余計なことを考えずただ逃げるべきだったのだ。
『今こそ立ち上がれ日本人よ! 我ら
彼らの耳に、何処かからそんな大音量の声が響いた。
拡声器を使いこの辺り周辺にいる日本人へ呼びかけていることに二人はすぐに気がついた。
ライは黒の騎士団という単語に聞き覚えがあった。
弱きを助け強きを挫く、テロリストでありながら騎士団を名乗る今このエリア11で最も人気のある組織と言っても過言ではない。
ニュースでもイレブンもブリタニア人も関係なく彼らに助けられた人間は数多くいると報道されていた。
ならば危なくなったら彼らに保護される方法もありか、などと考えていると急に手が後ろに引っ張られた。
不思議に思い背後を振り返ると、そこには有り得ないものを見たような顔で両目を見開き奴らを凝視しているカレンがそこにいた。
どうやらカレンが急に立ち止まったことによりライは彼女を追い抜いたが、つないだままの手が鎖のように彼を引き止めていたようだった。
思わずカレンが見つめる先を見る。
そこには…………先ほどまで生きていた人間だったものが数多く転がっていた。
爆発の瓦礫に押しつぶされた者、爆走するKMFに轢き殺された者、ブリタニア軍ごと銃撃された者、数多くの命だったものの残骸を彼女は見つめていた。
「違う! 黒の騎士団は弱い者の味方だ!! こんな無差別に巻き込むような真似は絶対にしない!!」
怒りが限界に達したのか彼女は叫ぶ。
その表情はまるで大切なものを汚されたようなことに対する怒りのようだとライは感じた。
唐突な感情の発露に圧倒され呆気に取られるライであったが、直ぐに我に返ることとなった。
それはなぜか? それは唐突に背後に立っていた廃ビルを破壊して無頼がこちらへと向かってきたからだ。
(不味い!)
カレンも気づいてはいるが、彼らが避けるよりもそのKMFが突撃してくるほうが圧倒的に早い。
せめて彼女だけでも逃がそう。そう判断したらライはカレンを引き寄せようとした正にその時だった。
『はいどーん!!』
そんな力の抜ける声と共に何かが無頼へと突撃してきた。
流星の如き速さで降下してきたそれは着地点にいた無頼へその強靭な右脚蹴りを叩き込むと、その機体ごと元いた廃ビルへと激突したのであった。
その衝撃は凄まじく、周囲に爆発とも錯覚させるほどの爆音と衝撃を響かせた。結果、廃ビルは衝撃のあまりに外壁が剥がれ落ち、今にも崩れそうになっている。
あまりのことに思考が停止しかけたライであったが、すぐにカレンの手を引いて付近の物陰へと身を隠した。
『何だ!? 何が起きた!?』
彼らが姿を隠した直後、予定にない爆発に近くにいた無頼が三体、生じた土煙を囲むように半円状に集結する。
自身の武装を土煙へ向け、何が起きてもいいように警戒を怠らなかった。
しかし、その災害は彼らの警戒などまるで意味などなかったかのように、正面から彼らの一人へと襲い掛かった。
黒煙から突如として現れたソレは手に持った巨大なKMF用の日本刀にてまず一体の無頼を袈裟切りにした。
間髪いれず返す刀で近くにいたもう一体をコックピットごと水平に切り裂いた。
味方を撃墜されてようやく三体目の無頼は敵の攻撃を受けていることに気づき迎撃行動に移る、はずだった。
しかし、彼がトリガーを引くよりも圧倒的に早い速度で、ソイツは地面を蹴りつけた。
KMFとは思えぬ脚力によってソレは無頼へ跳躍し、機体を回転させその胸部へと蹴りを叩き込んだ。
無頼はまるで力任せに脱出装置を稼動させたかのように頭と胴体を残してコックピットブロックは後方へと押し出された。
本来のプロセスを無視した方法で射出されたそれは外力で酷く歪み、搭乗員がいたと思われる場所はつぶれて無くなっている事からパイロットはもう生きてはいないことが察せられるだろう。
『はいしゅーりょー。全くそんなお粗末な機体と腕で黒桜に敵うと思っているのかな? 兵の練度も装備の質も目標への計画性も何もかもが足りてない。生まれ変わって出直してきたら? 産まれなおしたところで再会できるとも限らないけど』
たった今三体の、最初の機体を含めれば四体の無頼を殲滅したとは思えない軽い口調でそいつは話し出す。
『ま、人様の名前を借りないと動けないような雑兵なんてその程度でしょ。それより君たちは大丈夫? 計算上傷一つ負ってないはずだけど、メンタル面までは考慮に入れてないからトラウマにはなってない?』
続いてそいつは二人の方へと体を向ける。
禍々しいその風貌に反してまるで年頃の少女のような声色で話すそれに思わず呆気にとられるライであったが、すぐに我にかえると「問題ない」とそいつへ告げた。
『なら良かった。取り敢えず死にたくなかったら君たちはあっちから逃げるといいよ。観測した限りだと、ブリタニア軍もテロリストもそちらは手薄だから』
そう言って彼らの背後を指差す。
『じゃ、私はこれから偽物狩りに行かなきゃいけないから――』
またね、と言おうとしたそいつの言葉を遮り、ライが問いかける。
君は一体何者なのかと。
一瞬の沈黙の後、聞こえて来たのは鈴を転がすような笑い声だった。
『君がそれを聞くんだ。ま、気になるなら黒の騎士団においでよ。君レベルならゼロの役に立つだろうし、
目の前のKMFから思いもよらない答えが返された。
記憶喪失のことは生徒会の面々くらいしか知らない秘密、というよりかはライと関わる人物がすくないこともあって公には広まっていない情報だったはずだ。
明らかに初対面の(おそらくは女性であるはずの)人物がそれを知っているはずがない。
自分の事について何かを知っている。そう確信したライは更なる問いかけをしようと手を伸ばすが、KMFは既に常軌を逸した脚力で遠くに跳躍してしまっていた。
黒の騎士団。
そう独り呟く。
そこに自身の記憶にまつわる手掛かりがあるのなら、そう思い自然と拳に力が入る。
その様子を憂いを込めた瞳でカレンが見つめていた。