ポケットモンスター 天空の誓い    作:轟 水龍

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11話目 ~ギンガ爆弾~

場所はエイチ湖のほとり。そこに一人の青年が立っていた。あまり暖かそうには見えない格好だが、身体は震えていない。彼はとあるものを探していた。

 

僅かに聞こえるカチ、カチという音を頼りに雪の中、探していく。雪の中に埋められているのは爆弾。だが、普通のとは威力が文字通り桁違いの代物、ギンガ爆弾だ。3年前にリッシ湖を吹き飛ばしたそれはさらに威力が上がっている。もし爆発すればキッサキはおろかテンガン山、カンナギタウン、ハクタイシティは消えてなくなるだろう。

 

当然、ランもヒカリも死ぬ。死体も残らないだろう。彼は必死になって爆弾を探すが見つからない。

 

「仕方ないね……。リザードン、“かえんほうしゃ”」

 

 

青年のモンスターボールから出てきたポケモンはリザードン。龍のような口から火炎を発射して辺りの雪を溶かす。

 

「もういいよ。下手にやって爆発でもしたら大変だ」

 

リザードンの炎を止め、残った雪をかき分けて爆弾を探す。

 

「見つからない……。参ったね……。どうしようか」

 

考えあぐね、場所を変えてみた。カチカチという音を頼りに少しでも大きいところを探し、ゆっくりと歩いていく。

 

「……ここかな」

 

一瞬、確かに一瞬だったが音が大きく聞こえたような気がする。そこに狙いを定めて一直線に掘り進めた。

 

「あった。でも、どうしようかな……。大きすぎる」

 

どう見ても運べる大きさではない。どうやって埋めたのだろうと疑問に思うくらいだ。おそらく自分が立っている場所の真下にも爆弾があるだろう。

 

そして、リザードンにかえんほうしゃを命令した自分を思い出して、ゾッとした。もし、この場所でそれを命令していたら、運が悪ければ爆発していただろう。

 

背中に冷や汗が流れるが、今はそれどころではない。この爆弾を海に捨てるなり何なりしないといけない。この重たい爆弾を運ぶにはリザードンの力を借りるだけでは足りないだろう。彼はもう一匹飛行タイプを持っているが、それでも足りないと思う。コードがあるので正しいのを切断すれば爆発しないようにできるだろうが、危険すぎる。間違ったものを切ればその場でドカンだ。

 

爆発まで、あと26分35秒。時間は刻一刻と過ぎていく。彼の目にもそれが明確な数字として表されていて、それが一層彼を焦らせている。

 

一方キッサキシティ。こっちではつい数分前にランが目を覚ました。白旅が作った薬を飲んだおかげで幻覚症状は出ていない。だが、記憶の混濁、破壊は抑えきれないのか、虚ろな目でぼうっと外を見ている。

 

「ラン……」

 

呟いたのはヒカリ。ランの記憶の混濁は意外なほどに酷く、自分に起こっている事態等がグチャグチャになっていて、理解できていない。おまけに治療薬の副作用で、今は杖が無いと歩けない。

 

「……ヒカリ」

 

「ラン? どうしたの?」

 

「……俺は、どうするべきなんだ? 何で、ここにいるんだ」

 

「ランは…………」

 

ヒカリの言葉が途中で止まる。次、何をするか知らない方が良いかもしれない。今のランは下手に動けないのだ。

 

これからランがすることは分かっている。それを自分が行うことはできないだろうか。自分がランと比べて力不足だとは自覚している。だが、こんな薬物でぼろぼろになったランを戦わせたくない。

 

それを考えて、ヒカリは口を開いた。

 

「ランは、体調を万全にすることが一番大事だよ!」

 

「……だけど、ギンガ団をどうにかしないといけないんじゃ……」

 

「わっ、私に任せて!」

 

「……ヒカリを一人にしたくない。……杖、取ってくれるか?」

 

「どこへ行くの?」

 

「決まってるだろ。ギンガ団のアジトだ」

 

それはダメ、とヒカリの身体の中で警鐘がなる。ランの身体はこれでもかというほどボロボロなのだ。危険な世界に入れるわけにはいかない。

 

必死にランを引き留めるヒカリを見て、ランも今は諦めたのだろう、ベッドに座りなおした。

 

「ラン、私もポケモントレーナーなんだよ。今のランを守れるわ。約束する、絶対にランを守るし、ギンガ団も倒すから、私がやるわ」

 

「そうか、心強い。だけどな、俺個人の戦いでもあるんだ。俺が足を止めるわけにはいかない。……ん?」

 

「ラン?」

 

「アイツは……。ヒカリ、ちょっと出てくる」

 

ランが再び立ち上がり、コートとマフラーをつけ、扉から出ようとする。ヒカリは当然付き添う。ランの補助もしないといけないし、一人にして行方不明とかなったら、あとで自分を殺したくなると思う。

 

爆発まで14分56秒。

 

 

 

 

 

エイチ湖のほとり、青年は爆弾を取り出すことには成功した。だが、どうやって止めるかは分からない。時間も無くなってきている。泉に沈める程度では爆発を殺せないだろう。爆発すればリフレクター10重くらいはいとも簡単に破壊するだろうし、相殺する方法もない。

 

考えあぐねていた時、後ろで雪を踏む音が聞こえた。

 

一瞬、背筋が凍りつき、身体がビクッと震えたが、後ろを振り返ってみればそこには杖を突いているランと傍にヒカリが立っているだけだった。

 

「ラン君! 久しぶりだね!」

 

「お前……美月か……? 何でここに……いや、お前は5年前の事故で死んだはずじゃ……」

 

「なんとか、ね。ヒカリちゃんも、久しぶり。覚えているかい?」

 

黒髪で綺麗な琥珀色の瞳の青年がにっこり笑う。この中性的な顔立ちの青年をヒカリは知っている。

 

――だが、ランの言うとおり、彼は死んでいるはずだ。『美月 ハク(みづき)』は。

 

「美月、なんでここに?」

 

「この爆弾を知っているかい? この爆弾の爆発を阻止するために来たんだけど……力不足というのは悔しいね……。解除方法が分からないんだ。で、どうしようかなと思っていたところなんだ」

 

ハクの綺麗な顔も5年前からずっと見ていない。これまでどこにいたのだろう。

 

「そうだ、ラン君。これ、ずっと渡せなかったけど……。シン君はキッサキにいるのかな」

 

シンの名を聞いた瞬間、ランの身体がビクッ、と震えた。ハクはこのことを知らない。

 

「シンは……もういない。ギンガ団に殺されたんだ」

 

ハクの顔に影が落ちたような気がした。ランもヒカリも暗くなっている。数秒の間、ハクは下を向いていたが、顔を上げると、ランに二つのモンスターボールを手渡した。

 

中に入っているのは……コロトック、チャーレムの二匹。どちらもランとシンのポケモンだ。

 

「コロトック! 5年ぶりだな! ………………ハク、ありがとう」

 

コロトックをモンスターボールから出し、ランの元へ歩いてきたとき、自分を覚えていてくれたことで地面に崩れ落ちた。涙も見える。無論、嬉し泣きと言うやつだ。

 

「良かった……。本当に良かった……。チャーレムも、久しぶりだな……」

 

チャーレムも、コロトックも自分を覚えていてくれていた。これほど嬉しいことは人生でもそうない。ずっと泣いていたいが、そうもいかない。爆発までの期限があと12分ほどだ。

 

爆発まで、11分57秒。

 

 

 

 

 

 

「ダメだ、海に落とす程度では意味が無いと思うよ」

 

「やっぱダメなのか……。なら、ハードマウンテンの火口に落としてしまえばどうだ?」

 

「どうやって運ぶの?」

 

「ハクのリザードン、俺のチルタリス。あと、ヒカリは最近フワライドをゲットしたんだろ? それだけいれば行けると思う」

 

手に入れてからまだ数日だから不安があるけど。とランが付け加えていった後、ハクは納得したように頷いて、リザードンを呼び出す。

 

残った時間は5分ちょっと。すぐに移動しないと間に合わない。

 

「リザードンは右側を掴んで。チルタリスは左を。フワライドは上を掴んで気球みたいになってくれるか」

 

ランの命令を受けた3匹のポケモンはすぐに行動を開始した。フワライドは上側を掴み、チルタリスの足とリザードンの手がそれぞれの取っ手を掴み、空に飛びあがろうとする。

 

「ちっと重たいか。俺らが降りれば行けるだろうけど……。お前等だけで行けるか?」

 

「大丈夫だと思うよ。リザードンは自信満々だ。君のチルタリスも言っているじゃないか。フワライドも、大丈夫と言ってるよ」

 

ハクがにっこりと笑ってリザードンを撫でる。それに倣うようにランもチルタリスの背中を撫で、送り出した。

 

爆発まで4分33秒。

 

チルタリス達を送り出した後、ハクはラン、ヒカリと話していた。

 

「ラン君も大変だったんだね。そんな薬にやられていたなんて……」

 

「今はヒカリがいるから、何とか大丈夫だ」

 

「ヒカリちゃんも、ラン君の役に立てて嬉しいよね?」

 

「うん。そうそう、ハクも良い人見つけることできると思うんだけど」

 

「あはは……。僕にはできないよ。ラン君やヒカリちゃんみたいな度胸もないしさ」

 

苦笑いした後、無垢な笑顔を向けてくるハクも久しぶりだ。ハク自身は気づいていないが、ヒカリ曰く、ハクはカッコいいというより、中性的で可愛いというのが正しいそうだ。

 

声も高く、女っぽいところがある。背もランに比べれば少し低い。髪は長いし、肌も白い。身体つきも、ランと比べて中性的だ。

 

「ハクは可愛いんだから~。愛想良く振る舞えばすぐに彼女ができるよ」

 

ヒカリがハクを茶化し、頬をつつく。ハクは顔を赤くして、少しだけ離れた。ヒカリはハクを過大評価しているわけではない。

 

「え、えっと、トバリのジムリーダーのスモモさんも来ているんだけど……。まだ来ないね」

 

その頃、スモモはエイチ湖のほとりの前の豪雪地帯でギンガ団の下っ端と戦っていた。相手の数は5人。自身の格闘技で2人倒して、ポケモンで一人を倒して残った二人と戦っている。

 

「キノガッサ、バシャーモ、“スカイアッパー”!」

 

命令を受けたキノガッサがギンガ団のカイロスを跳ね飛ばし、バシャーモが炎を纏ったアッパーでケンタロスを吹っ飛ばした。

 

「ケンタロス、“とっしん”!」

 

「キノガッサ、“マッハパンチ”!」

 

シュッ、と目にも見えないような速度でパンチが繰り出され、ケンタロスの身体を吹っ飛ばし、戦闘不能にさせる。

 

「カイロス、“ハサミギロチン”!」

 

「バシャーモ、“ほのおのパンチ”!」

 

カイロスの大あごのハサミがバシャーモに襲いかかる。が、それを器用にかわしたバシャーモの拳がカイロスの身体にぶち当たった。

 

焼け焦げたカイロスが雪の上に倒れ、ギンガ団がポケモンを回収してから逃げ出した。満足したスモモはポケモンを戻して、雪の上をザクザクと歩き始めた。

 

ふと、意味もなく空を見上げてみる。真っ白いだけの何もない空だ。しかし、スモモの目には明らかにリザードンとチルタリスとフワライドが飛んでいるのが見えた。尤も、フワライドはチルタリスに引っ張られているが。

 

一方ランの方は視界にチルタリス達が見えてきたところだった。ランの容体は悪化の一途を辿っているせいで、杖が無いと歩けないし、顔色は言うまでもなく悪い。しかし、手を振ってチルタリスを迎えるくらいはできる。ランの肩に乗ったチルタリスの頭を撫で、

 

「ご苦労だったな。落としてきてくれた?」

 

こく、とチルタリスが頷いたのを見て安心したランはボールの中にチルタリスを戻し、

 

「じゃあ、キッサキに戻ろうか……って、スモモは?」

 

「わ、忘れてもらっては困ります……」

 

雪の中から出てきた半袖の少女、スモモが歩いてきた。考えてみればヒカリもミニスカートであるが、寒そうには見えないし、ランもコートを着ているとは言っても極寒のキッサキでは実用には程遠い薄手だし、マフラーは既に外している。彼らはなんだかんだとかなり寒さに強かったりする。

 

 

 

 

 

「あー、クソ寒いな」

 

「寒いけど……ランも寒そうには見えないよ?」

 

「ハクの方が寒そうに見えないな。特にスモモ。半袖はちときついぞ」

 

「大丈夫です。修業を積めばたとえ氷の中でも暖かく感じるので……ぶぇっくし!!」

 

大丈夫というのは嘘だろう。思いっきり震えているし、たった今クシャミが飛び出したところだ。「うー……」と言ってはガチガチと震えている。

 

「スモモさん……コートくらい羽織ってください」

 

ハクの着ているコートをスモモに着せる。ありがたく受け取ったスモモは、修業云々ということもなく迷わず袖を通した。

 

「はー、生き帰りました……」

 

「(そういえば、スモモさんもだいぶ大人っぽくなったよね。スモモがジムリーダーだった頃って、確か12歳くらいだったもん)」

 

「(今14? ハクに随分寄ってるけど……。ははっ、なんだ、いるじゃねぇか。なーにがいないだ。ったく、ハクの野郎、嘘つきやがったな。もしくは自覚が無いだけか)」

 

「ハクさん……、や、やっぱりいいです。十分暖まりました」

 

頬が少し赤くなったスモモがコートをハクに返す。ランとヒカリはハクとスモモのやりとりを見て笑っている。

 

こうやって人の物語を見ているのも面白い。旅を始めてから、楽しいと思った回数は少ないし、久しぶりに感じる。こうやって笑うのもいつ以来だろう、旅を始めた少しあと以来かもしれない。

 

ハクにコートを返すスモモと羽織るように言うハクはかなりいい関係と言える。あとはそう言うのに鈍そうなハクがどう出るか。

 

「わわっ! ハ、ハクさん……」

 

「? 顔赤いですよ? 風邪でも引いたんですか? だから言ったんですよ……」

 

コートを着せてもらったスモモの顔が真っ赤になっているのを見て、ハクが少々外れた考えのもとに言葉を投げかける。

 

「(ハクがだめだ。アイツは鈍すぎる)」

 

「(……うん)」

 

「ぷわーっ!?」

 

突然、スモモの頭の上に木から落ちた来た雪が直撃し、頭の上や肩などに雪がかかった。

 

「大丈夫ですか? 冷えますよ」

 

スモモの頭に掛かった雪を落としているハクだが、スモモの顔が真っ赤に染まっていることには気づいていない。終わった後、にっこりとほほ笑んだのはハクからすれば特に意味はないが、スモモからすれば止めに等しいだろう。

 

――キッサキシティ――

 

スモモを含め、4人がキッサキ病院に帰り着いた。ランは病室に戻り、ヒカリとハク、スモモも一緒に病室に入る。

 

「ラン君はここで治療を受けてるんだね」

 

「ああ、体調は悪化の一途だがな」

 

「幻覚剤の成分には、身体の血管を詰まらせたり肺の動きを阻害するものがあるからね……」

 

今部屋の中にいるのはランとハクだけ。スモモとヒカリは別の場所に移った。5年会わないうちにハクは随分と勉強したのか、幻覚剤の成分が分かっている。やはり禁断症状を抑えても記憶の混濁が残る。ハクが行方不明になる前のことは殆ど覚えていない。

 

5年以上前のことは殆ど欠落しているので、ハクのことをちょっとでも覚えているだけでも結構覚えている方かもしれないが。

 

「邪魔するぞ」

 

不意に扉が開かれ、刀を持った長身の女が入ってきた。右京だ。

 

「右京……何しに来たんだ?」

 

「ギンガ団の新アジトの構造が分かった。地下に進んでいる。噂程度だが、ポケモンを洗脳する装置を開発したらしい」

 

「厄介だな……。俺の奴らもそんなことになってなきゃいいが」

 

「そこそこ位のある奴を締め上げて吐かせたら、黒岩とかいう奴がディアルガやパルキアを洗脳したらしい。という情報を取れた。他にも八重春シンや貴様のチームもやられているらし……」

 

右京が話している途中、いきなり窓ガラスが砕け、3匹のポケモンが侵入してきた。

 

「な!? ガチだったのかよ!」

 

入ってきたポケモンの目は赤い。洗脳されているのが丸わかりだ。

 

侵入してきたポケモン、レントラーとサーナイト、ヘラクロスの3匹がランに狙いを定める。

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