ポケットモンスター 天空の誓い    作:轟 水龍

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2話目 ~新たに知る~

チルタリスに乗って、ミオシティからヨスがシティに移動している途中、シンから通信が入った。

 

「ラン、ナギサの方は終わらせた。ギンガ団の奴ら、一人一人が強くなってやがるな。俺もデンジさんも結構苦戦したよ」

 

「ああ、ミオの方も大変だった。俺は今ヨスガに向かってるけど、シンは?」

 

「俺は……じゃあハクタイシティに行く」

 

「了解。そういえばヒカリは?」

 

「ナギサにはいなかったな……」

 

ギンガ団が再登場したころからヒカリがずっと行方不明なのだ。ライブキャスターも通じず、心配したナナカマドとヒカリの両親から探すようにお願いされた。

 

ライブキャスターでシンと会話していると、下にヨスがシティが広がっていた。だが、様子がおかしい。

 

尋常ではないほどのポケモンの技の応酬、嫌な予感がしたランはシンに声をかける。

 

「悪い! もう切るからな!」

 

ライブキャスターの電源を落とし、チルタリスの方を向く。

 

「チルタリス! ここだ、急降下しろ!」

 

ランの命令に答え、街に突っ込むように一気に下降する。どんどん様子が鮮明になっていく。

 

そして嫌な予感は的中した。

 

「ギンガ団! ここにも……うじゃうじゃと、どこから湧いていやがるんだ!」

 

地面に降り立ち、ここのジムリーダーであるメリッサを探す。すぐに見つかったが、その間にも4人のギンガ団のポケモンを叩き落とした。

 

「メリッサさん! ……メリッサさん?」

 

メリッサに声をかけるも反応が無い。何か呆然と立ち尽くしているようだ。

 

「あ、ラン……ゴメンナサイ……この男に、負けたの……」

 

な!? ジムリーダーであるメリッサが負けた!?一体どんな男……と思って前を見えると、

 

「久しぶりだな、鏡夜ラン」

 

「サターン……」

 

この男の名をランは知っていた。二年前もギンガ団の幹部として動いていた男で、ランの記憶の中で一番危ない人間だ。

 

「どうした、お前も私に挑むんじゃないのか?」

 

「ああ、そうだな。勝負は一対一の3戦。異論は?」

 

「……無い。さあ、始めよう」

 

形式を問いかけたのはサターンが勝負の形式を重んじる人間だからだ。ギンガ団の中ではまともなモラルを持っているといえる。

 

「よし、いけ! レントラー!」

 

「やれっ、ドラピオン!」

 

「グルルルアアアア!」

 

「ギシャアアアァァァ!!」

 

「レントラー! “かみなりのきば”!」

 

先手を打ったのはレントラー。ランの指示でレントラーの牙に高圧の電流が流れ始め、ドラピオンを噛み砕こうと突進をかける。

 

「甘いな! “クロスポイズン”!!」

 

ドラピオンの鉤爪から毒が滴り落ちる。それを見ても尚ランの表情は揺らがなかった。

 

「甘いのはお前だ! “ほうでん”!!」

 

レントラーが牙を向けたと思うと、その牙に宿っているはずの高圧電流があたり一面に放出され、ドラピオンを飲み込んだ。

 

「何っ!? ドラピオン! ……く」

 

攻撃が止んでもドラピオンの身体からは電気がぱちぱちと音を立てている。戦闘不能を悟ったサターンはドラピオンを戻し、新たなモンスターボールを手に取った。

 

「ドクロッグ!」

 

サターンがモンスターボールから出してきたのはサターンが二年前から使っているポケモン、ドクロッグだ。

 

「“どろばくだん”!」

 

「しまった! レントラー、回避を……!」

 

ランの声が焦りを帯びる。だが、回避は間に合わず、レントラーの身体は泥まみれになってしまった。

 

「くそ、拙いな……レントラー! “ほのおのきば”!!」

 

「遅いな、ドクロッグ、回避して“インファイト”だ!」

 

サターンの言ったとおり、レントラーの動きは鈍っており、ドクロッグは難なくそれを避ける、そしてそれでできた、がら空きの胴体に、連続で拳を叩きこんだ。

 

「レントラー!!」

 

倒れ込み、完全に戦闘不能となったレントラー、自分の采配ミスと結論付け、モンスターボールの中に戻す。次のポケモンを選び、ボールを手に取った。

 

「やってくれたな、行け! サーナイト!」

 

《レントラーの敵は私が》

 

「よし、“サイコキネシス”!」

 

「ドクロッグ!」

 

ただでさえインファイトで防御力に支障をきたしたタイミング、さらにドクロッグはエスパータイプに対する耐性が特に低い。

 

サーナイトの洗練されたサイコキネシスに耐え切ることができず、ドクロッグは気を失って地面に倒れた。

 

「くそ、これが最後か、頼むぞ、スピア―!!」

 

最後のポケモン、サターンが手に取ったのはスピア―だ。

 

「エスパーに弱いことに変わりはねえ! “サイコキネシス”!!」

 

「愚かな! スピア―、“むしのさざめき”!!」

 

ポケモンだけでなく、トレーナーの耳をもつんざく超音波が流れる。サーナイトも攻撃をやめ、片膝をついている。

 

《く……こ、この音は……あああああぁぁぁぁぁ!!》

 

超音波をかき消すほどの叫び声をあげ、サーナイトはその場に倒れてしまった。それと同時に音も止む。

 

「ふん、ようやく落ちたか」

 

「サーナイト! く、最後だ! チルタリス!」

 

サーナイトをボールに戻し、チルタリスに命令を出した。元気のよい返事を出した後、スピア―を睨む。

 

「何度でも気絶に追い込んでやる! “むしのさざめき”!!」

 

「チルタリス! “りゅうのはどう”!!」

 

トレーナーでさえ耳を塞ぎたくなるほどの音をものともせずにチルタリスの口に波動が込められる。

 

「放て!」

 

「かわせ!!」

 

瞬時にスピア―の身体が空中に行き、りゅうのはどうは地面を抉るのみとなった。

 

「スピア―、“ダブルニードル”!!」

 

「チルタリス! かわせ!」

 

スピア―のダブルニードルは何とかかわすも、立て続けに同じ技を撃たれ、体力が消耗していた。

 

「今だな、スピア―、“ミサイルばり”だ」

 

怒涛の連続攻撃が止まり、スピア―の両手の棘が、チルタリスに向かって次々と飛んで行った。

 

飛行速度の遅くなったチルタリスにかわすすべはなく、背中に次々と巨大な針が刺さっていく。翼にも次々と刺さり、きりもみ回転をしながら地上に落下した。

 

「スピア―! “ダブルニードル”から“すてみタックル”!!」

 

「な! や、やめろ! 俺のチルタリスはもう戦えねえ!」

 

つまり両方の槍のような腕を前に突き出した状態ですてみタックルをかけるというものだ。実際チルタリスはここまでのダメージが大きく、戦えるような状態ではない。

 

「容赦するな!」

 

「や、やめろーーーッ!!」

 

突き刺さる部分が悪かったらもしかしたら死んでしまうかもしれない。ランが一番恐れている事態だ。

 

今から飛び出せば、チルタリスを攻撃から外すことができるかもしれない。もしかわし切れなくても受けるのが俺で済むかもしれない。

 

「間に合ええーーーーッ!!」

 

「な、正気か!? 飛び出すとは!」

 

これはサターンでも想像を絶する行動だった。下手をすれば自分が死ぬかもしれないというのに。いつの間にか集まってきている野次馬共からも悲鳴と制止の声が飛び交う。

 

チルタリスの傍までは来た。だが、攻撃は回避できない。こうなれば、ランに選択肢はなかった。

 

避けることをせず、チルタリスの前に立ち、盾となった。ポケモンを大事にし、尚且つ自分の存在を軽んじている行動だ。

 

スピア―の槍がランの胸に突き刺さろうとしたとき、メリッサは見ていられず両手で目を覆い隠した。群衆でも悲鳴が起こった、その瞬間、

 

「ムクホーク! “ブレイブバード”!!」

 

突然スピア―の身体が吹っ飛んだ。明らかにポケモンによる攻撃、この一撃でスピア―は目を回して戦闘不能となった。

 

「間に合ったか!?」

 

聞き慣れた声、群衆をかき分けて輪の中に入ってきた少年、

 

「……シン」

 

「良かった、間に合ったかぁ~。はぁ~、怖かったぁ~……一瞬、映ったんだよ……」

 

ランの無事を確認すると力が抜けたようにへなへなと地面に座り込んだ。その傍らにさっきのムクホークが舞い戻り、主人であるシンの顔を覗き込む。

 

「ああ、ありがとうな。お疲れさん」

 

労りの言葉をかけてムクホークをボールの中に戻した。群衆の中からも安堵の声が漏れる。

 

「く、くくくく……この勝負、私の勝ちということかな」

 

「ああ、そうなるな……それと、お前は少しやりすぎだ。限度を知れ」

 

「ふふ、まあ、鏡夜ランに勝利できたことを素直に喜ぶとしよう。それと、確か……八重春シンだったな、貴様にも言っておく。ギンガ団は、復活しておるぞ」

 

謎めいた、いやあまりにもわかりやすい一言を残してサターンはその場を後にした。部下のギンガ団員達もサターンを追いかけて姿を消していく。

 

「いや~、しかし、お前が負けるとはな。どうやらヤバい戦いになりそうだぜ」

 

「ああ、今回は、顔が割れてる分前より大変だ」

 

溜息をつく二人、その周りでは少年が鏡夜ランと八重春シンであることを知って尊敬の視線を向けている者が多かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかり休めよ」

 

ラン達はポケモンセンターにポケモンを預け、その日はヨスガのホテルに泊まることにした。

 

今回の戦闘でぼろぼろになってしまったポケモン達の回復は一晩かけてゆっくり行うことにしている。

 

シンの話によると、ハクタイシティにもギンガ団は来たが、ジムリーダーのナタネと、ロトムが追い返したらしい。ヒカリはいなかったそうだ。

 

ホテルでは、疲れ切った表情の二人がそれぞれベッドに倒れ込んでいた。しばらく沈黙が続いたが、それを先に破ったのはラン。

 

「サターンの奴……かなり強くなっていたな……。あれで、一幹部かよ。……なあシン」

 

「どうしたんだ?」

 

「俺達……大丈夫かな、ヒカリは見つからないし、俺はサターンに勝てなかったし、自信、失くしたかも……情けないよな。俺さ、シロナさんに勝ったトレーナーって自覚があったけど、自惚れていたんじゃないかって思う。だってさ、こんな負け方……ポケモンにも悪いし、俺自身辛すぎる。……幹部がこんなに強かったら、リーダーはどれほどの強さがあるんだ、俺達ではどうしようもないのか、そして、辿り着いた答えが、……俺は、もう、消えたのかなって……」

 

ベッドの中で苦しそうに話す姿、ランは自分のミスで負けたと思っている。シンはそんなランを見て何かフォローしてやれないかと言葉を必死で探すが、上手い言葉が出てこない。

 

「な、何言ってんだよ! お前がそんなことじゃ、シロナさんだけじゃない、ほかのみんなはどうなっちまうんだ? お前を尊敬している人はたくさんいるぞ? お前がそんな自信なさげじゃ、立ち上がれるものも立ち上がれないじゃないか!」

 

自分で言葉を紡ぎだした結果、こんなことしか言えなかった。だが、ランはそれが、一番うれしかった、と言っている。

 

何はともあれ、旅はまだ始まったばかり、まだまだ先があるんだ。ランも、シンも勝てるかもしれない、そう思って行こうということだ。

 

「ありがとうな、シン。楽になった。誰かに……言いたかったんだけどよ、弱音を打ち明けれる奴なんて、お前くらいしかいないからな」

 

自分の心にずっと引っかかっていた物が取り除かれると、ランの身体は急速に睡眠を求めた。それに逆らわずに意識を落としていく。

 

それはシンにも同様で、二人はまだ寝るには早い時間だが、そのまま寝入ってしまった。

 

翌朝、元気になったポケモンを受け取ると、今度は作戦会議に移る。ランはキッサキシティに行き、シンはトバリからノモセへと進むルートをランに伝えた。

 

「オーケー! チルタリス、キッサキまで頼むぜ!」

 

「ムクホーク、トバリへゴーだ!」

 

ムクホークが声を上げると、シンはその背中に乗って飛んで行った。ランもチルタリスに乗って飛び去る。

 

――キッサキシティ――

 

「…………ん……?」

 

目が覚めた。どうやらベッドに寝かされているようだ。頭や身体が痛い。

 

(……ん? あれ……何でここにいるんだろ)

 

チルタリスに乗ってキッサキに向かっていたはずなのに、何故ベッドに寝かされているのか。チルタリスはモンスターボールの中に入っている。まだちょっとぼやける目で周りの様子を窺っていると、近くに誰かがいることが分かった。

 

「あ、ラン! 起きたんだ! 良かった~、心配したんだよ? ランったらエイチ湖の近くに倒れていたんだもん」

 

声と同時にランの身体に温かい感覚、もといスズナが飛び込んできた。起こした身体を再びベッドに戻される。

 

「えーと……スズナ、離れてくれるかな?」

 

「え? あ……、ゴ、ゴメン!」

 

嬉しさのあまり飛びついたが、この状況、誰かが入ってきときに大変なことになる。それに気づいて慌ててランの身体から離れた。

 

「……ええと、で……なんであんなところで倒れてたの?」

 

「あー……、ヨスガからキッサキに移動する途中なー……」

 

シンと別れてキッサキに移動している途中で、ヨルノズクに乗って移動している人を見かけた。別に知り合いというわけではないので通り過ぎようとした時、その人に呼び止められたのだ。

 

「お前、鏡夜ランか?」

 

「……そうですが?」

 

腰に刀を差した女性が鏡夜ランかどうかを尋ねてきたので答えた。

 

刹那、世界が反転した。

 

否、実際にはチルタリスがいきなり方向転換したのだ。小さく聞こえる舌打ち。それは敵と判断するのには十分だった。

 

「ハガネール! “アイアンテール”!」

 

何の前触れもなくいきなり、それもポケモンではなくトレーナーであるランを狙った一撃。無論、ハガネールの一撃をまともに受ければただじゃ済まない。まず間違いなく落ちるし、骨くらいは砕けるだろう。

 

それをわかっててしているなら意図があるはず。意味はないとわかっていてもランは叫ぶ。

 

「貴様! 何のつもりだ! 何を考えてる、言え!」

 

「フ……新四天王を貴様呼ばわりか」

 

余裕の表情から放たれた言葉はランを驚愕させるのには十分なものだった。

 

「まさか……『右京』!」

 

ゴヨウの代わりに四天王となった右京の名は聞いたことはあっても、実際に顔を合わせたことはない。そもそもいきなり攻撃を仕掛けてくるような女が四天王だと考えるのは難しい。

 

「そうだ! 貴様はここで落ちろ!!」

 

気づいた時にはハガネールの尻尾がすぐそこまで来ていて、回避することは不可能。そこから先の記憶はない。おそらく命拾いしたのだろう。

 

「そっか、ここは……もう、ギンガ団にやられて無茶苦茶なんだ。ジムも焼き払われちゃったしさ……。神殿も、荒らされて、レジギガスを奪われて……私は、ギンガ団の幹部っていう奴に負けちゃって、大切なポケモンを二匹、奪われたしさ……もう、どうしていいかわかんないの……!」

 

キッサキは既にやられた。それを打ち明けるスズナの声に涙が籠る。ここの病院は守りきったらしいが、それでも外は惨劇がまだ残っている。

 

焼き払われた家、ジム、ポケモンセンター、神殿……。最早見る影もない。キッサキは惨劇と化していた。復興の見通しなどない。ポケモンセンターすらも無くなってしまったのだ。

 

「でもね、ラン。君が来てくれて嬉しかったよ。私はキッサキの方をしないといけないから行けないけど、お願い! 私のポケモンと、レジギガスを取り戻して! レジギガスは、悪用されたら、本当にヤバいポケモンだから。……頼んだよ、君を、信じてるから」

 

「ああ、わかった。頑張って、何とかしてみるから!」

 

涙を浮かべているスズナの手を取って約束した。絶対に取り返すと。

 

 

 

 

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