『ああ、わかった。頑張って、何とかしてみるから!』
今朝、キッサキを飛び立ったランは先日、スズナのポケモンと、レジギガスを取り返すという約束をした。
トバリでシンと合流したランには、目標となる場所は一つに絞られている。
「シン!! ギンガ団のアジトに乗り込むぞおぉぉぉ!!」
周りに業火が舞うのが見えそうなほどの激情。その上、ヒカリがギンガ団に捕まっているという情報をランが捕まえたときた。ブチ切れていてもおかしくない。
入ってみると、以外にも見張りみたいな人間はいなかった。頑丈な扉があるため、それに頼っているのかもしれない。
「アブソル、“シャドークロー”」
アブソルの爪が空気を一閃。それと同時に影の爪が扉を三つに切り崩した。
さらに入ってみると、更に意外なことに全然いない。もしや既に廃ビルかと思ったが、明かりがついているのでだれかはいるらしい。
一階はただの廊下のようだ。部屋とかもなく、廊下の先に階段があるだけ。
二階へ上がると、何故か気温が一気に低くなって、寒い。その中、南京錠で封印された部屋があった。アブソルのシャドークローでこれを壊して中に入ると、
「な! こいつらは!」
「エンペルト、フーディン、ピクシー……皆ヒカリのポケモンだ」
事実、ラン達を見て警戒することなく近くへ寄ってくる。結構長い間捕まっていたのか、衰弱しているポケモンもいる。
「ギンガ団の奴ら……!!」
ポケモンを衰弱するまで寒い部屋に閉じ込めるという行為にランは怒りを覚えた。南京錠の付いた部屋はまだ二つある。
考えたくもないが、どちらかにヒカリが捕まっているかもしれない。とりあえずエンペルト達は仮のボールに入れておくことにした。
――――ガシャン! という音と共に南京錠と鎖が引き千切られ、ランが中へ入る。そして、驚愕した。
「ヒカリッ!!」
中では、ヒカリが倒れていた。
傷だらけの肌、ぼろぼろになった服、閉じられた瞳、寒さで冷え、衰弱した身体……。
「ヒカリ、ヒカリ! おい、大丈夫か!?」
「あ、れ……? ラン……? なんで……ここ、に……?」
意識を取り戻したものの、朦朧としており、まともに立つこともできない。ランに寄り添ってなんとか立っている。
「上着、着ていろ。少しはマシになると思うから」
寒さに震えるヒカリを見ていられなく、ランは自分の上着をヒカリに着せた。少しはマシになったようで、安堵の息をつきたくなるが、ランにはまだやるべきことがある。
「シン、ヒカリを病院へ連れて行ってくれ。……俺は、スズナのポケモンと、レジギガスを取り返さないと。そうそう、エンペルト達はこのボールに入れたから」
ランの淡々とした口調。シンはそれを汲んで、エンペルト達を受け取り、ヒカリと共に道を引き返す。辛そうな表情のままのヒカリがランの方を向いて、小さくだが声を出した。
「ラン、絶対に……戻ってきてよね。ランは、ポケモンのためなら、命を……捨ててしまうような……人だから……」
心配してくれている、それだけでランは嬉しかった。背を向けたまま右腕を高く上げ、「かならず戻ってくる」と約束した。
「頼むぞ!」
「ああ、そっちもな」
ランは走り出す。三つ目の南京錠の部屋は空っぽだったので、そのまま3階へ上がった。
「な!?」
ランの足が止まる。目の前には、見知った顔ではないにしろ知っている奴がいる。
「プルート! 貴様、どこから湧いて出た!!」
「ふん、湧いて出たとは失礼な。私はギンガ団の再構築をし、幹部の一人へと戻ったのだ」
「うるせぇ! そんなことはどうだっていい! 答えろ! ヒカリをどうするつもりだ!? スズナのポケモンと、レジギガスを何に使うつもりだ!?」
ランが怒りに身を任せて怒鳴りつけるのをプルートは煩そうに聞き流した。返答が無いことに怒りがさらに募っていくが、周りにはギンガ団の奴らが多数いて、勝ち目はない。そもそも囲まれている。
「鏡夜ラン、お前は邪魔だ。ここで消えてもらう」
プルートの号令の直後、周りの10人強のギンガ団が一斉にポケモンを出してきた。何をするかはだいたい想像がつく。
「かかれ!!」
プルートの声一つで一斉に襲い掛かってきた。ランのせめてもの対抗策は両手で顔を庇うことだった。
「うあああああぁぁぁぁっ!!」
ほぼ私刑としかとれないような状況。ランの身体には間違いなく毒が入っていた。紫色の傷口が数か所ある。
くらくらする頭で窓の傍まで近づく。そのまま窓から飛び出した。
「ッ……チルタリス!」
風のように舞うチルタリスがランをキャッチして逃げることには成功。だが目的は果たせなかった。後悔の念が残るが今死んだところで結果はヒカリを悲しませるだけだろう。とりあえず毒を何とかするためにふらつく足取りで病院へと歩きだした。
その頃、ヒカリは病院の一室で治療を受けていた。衰弱が酷く、しばらく入院する必要があるらしい。身体中の怪我の治療もしなければならない。とりあえず個室に入ることになった。
「そういえば、ナナカマド博士に連絡入れないとな……」
携帯で言うよりも直接会った方が良いと思ったシンはヒカリを一人にすることに不安があったが、迷いを振り捨ててマサゴタウンへ飛び去った。
――マサゴタウン――
「よし、ありがとな、ムクホーク」
マサゴタウンにあるナナカマド博士の研究所。そこにヒカリの両親もいるはずだ。一回落ち着いてから、研究所の扉を叩いた。
「ん? シンかね。入って来なさい」
ナナカマドの声、それを聞いたシンは扉を大きく開けて研究所へ入り、早い足取りでナナカマドの元へ近づく。
「ヒカリが見つかりました!」
それを聞いた瞬間、ナナカマドの中で渦巻いていたであろう不安が取り去られた。だが、シンの顔は今一つ浮かばれない。
ナナカマドが事情を聴くと、シンは重い口どりで話し始めた。
「正直、酷い状態です。トバリのビルに監禁されてて、衰弱しているんです。とりあえず病院で治療を受けさせてます」
「そうか……当面は、その状態が続くのか?」
「はい……」
一気に場の空気が重くなる。まさかランが怪我を負ってその病院にいることを知らなかったのは最後の救いだろう。
トバリでは、ランが病院で毒抜きを受けて、傷口に包帯を巻いた状態でヒカリに会いに行った。シンがナナカマドの所へ報告に行っているとヒカリから聞いて、椅子に座ってこれからのことを考え始めた。
「ねぇ、ラン……」
「ん? あ、ああ、どうしたんだ?」
相変わらずの弱々しい声。それを聞いて我に返ったランが応答する。実際ヒカリの苦しそうな表情を見ているだけでも胸が張り裂けそうなほどに辛いが、ヒカリの方へ向き直り、話を聞いてみる。
「……ありがとう、実はね、もうだめだと思ってたんだ。一人で、ギンガ団の正体を調査してて、捕まって、あんな寒い部屋に入れられて、後悔してた。……ランに会いたかった。ずっとそればっかり、後悔なんて、何にもならないのに、ずっと、ランに会いたいって、思って……一人で無理して……ごめん、心配かけたよね」
ヒカリの涙交じりの小さな声。ランは聞くに堪えなくて部屋から出ようとしたが、ヒカリに服の袖を掴まれている。
「待って、行かないで……。一人はもう嫌……。お願い、傍にいて」
ヒカリの心からの声、小さい声だったが、それは確実にランの元へ届いている。ランは椅子に座りなおして、ヒカリの手を優しく握った。
「ランが、いてくれるだけで、安心できるよ。ああ、眠たい……せめて、部屋を出るのは、私が寝てからにして?」
「わかった」
短く返事を返してヒカリが寝入るのを待って、それから空腹を覚えた身体を満たすために部屋を出、その後また部屋に戻ってきた。
戻ってきたときにはよく寝ているので、起こさないように気を使ってそっと扉を開けた。
「……ん……、……すぅ……すぅ……」
「……可愛いな」
今のはランのヒカリに対する率直な感想だ。別に寝顔がどうとかというわけではない。……と思う。というより、思いたい。
ラン自身、眠くなってきたので、ここを出て止まる宿かホテルかを探したいところだが、今現在ヒカリのポケモン図鑑もライブキャスターもギンガ団が奪ったままなので、もし万が一にも離れたところで誘拐なんて暴挙に出られたら、せっかく助けたのに逆戻りだ。
さすがに次は怒りを抑えきる自信もない。何故ここまで怒りが込み上げてくるかはラン自身分からない。できるだけ分け隔てなく接しているつもりでも、シンやオーバからはヒカリに一番優しい。と言われている。
とりあえず、椅子に座ったまま、目を閉じて眠り始めた。
「……ラン、起きて」
「うん……?」
あれからどれくらい時が経ったかわからない。ヒカリに起こされて目を開けると、部屋の中にはシンがいた。
「起きたか。ナナカマド博士には報告したから。あと、新情報」
新情報の言葉で一気に目が覚めた。一体なんだと聞くと、それはとんでもないことだった。
「ギンガ団だけどさ……どうも強いポケモンをたくさん集めていたのはレジギガスの改造実験をしているみたいなんだ。ほら、前にジバコイルを改造しようっていう団体があったじゃん、それみたいな感じ。他のレジスチルやレジロック、レジアイスもそれの一部みたいだ」
そこまで聴いてランの表情が驚愕と怒りで震えている。
「じゃあ……スズナのポケモンを奪ったり、ヒカリを直接誘拐したり、それらの一連の動きは全部……!!」
「ああ、全部生贄だ。そしてそれは俺やランも対象内だ。注意しておこう」
大事な情報を聞けた。とりあえず今の所はランがヒカリの傍にいたり、買い出しに行ったり、シンが他の街へ行ったり、情報を集めたりという感じで動くことにした。ヒカリもシンもそれでいいようなので、それで決まった。
「ヒカリは寝ていたら。まだ弱っているんだから、自分でもわかるだろ? まだ本調子はおろか上手く動くこともできないことを」
「……ごめん、迷惑かけっぱなし、だよね」
ヒカリが申し訳なさそうに言ったが、ランは無言のまま首を横に振った。ヒカリはランを一番信用しているらしく、頼みがあるときはランにお願いする姿をよく見かける。
「……手、繋いでてくれる? その方が、安心するから。目を閉じてても、傍にランがいるって分かるから……。ね? お願い」
言いながら手を伸ばしてくる。視線をヒカリから外すが、それでも軽く手を握った。
「……ありがとう。……ラン、私ね…………ううん、いいや」
「あ、あとで買い出しに行くけど、何か欲しい物ある?」
「ううん、いいよ」
「そうか、分かった。ああ、そうだ。ブラッキー、サーナイト、俺がいない間はお前達がヒカリを守るんだぞ」
ヒカリは今動けない。そんな時に、誘拐などという暴挙に出られたら敵わない。なので、誰かを守るのが得意そうなサーナイトとブラッキーを選んだ。
「頼むぞ。いざとなったらギンガ団員に直接攻撃しても構わない」
ランの指示に元気よく答え、窓際と扉を見張り始めた。だからといって、ランものんびりしているわけにはいかない。早めに戻る方が安全なのには変わりないからだ。
ランが出ていき、ブラッキーとサーナイトに守られているヒカリは、一人自分の手を見つめていた。
「ランの手、優しくて暖かかったな……」
自分の手を見つめ、小さく呟いた。ヒカリ自身は気づいていないが、頬が赤くなっている。それを見たサーナイトがヒカリの方を向いて思念波を飛ばした。
《貴女様は御主人様に恋情を抱いておられるのですか?》
「なっ!? そ、それは……え、ええと……」
《お言葉を濁らせておられますね。図星なのでは?》
「そ、それは……それは、ランはカッコいいし、優しいけど……わかんないよ」
《ふふっ……それはもう貴女様が御主人様に恋じょ……「わーーー! 待って待って!」
既にヒカリの顔は真っ赤に染まっていて、反論も慌てふためいている。サーナイトの追い討ちはまだ終わらない。
《まだ最後まで言っておりませんが……、どのように解釈されたので? もしかして……》
「うっ! す、鋭い……。……もう、酷いよサーナイト。私だって分かっているつもりなんだよ?」
《私から言いますと、全く分かっておられないようですが……。恋情を抱いておられるのなら、いっそ打ち明けてしまえばどうですか? そうそう、先程貴方様の寝顔を見て可愛いと仰ってましたよ?》
かああっと顔が赤くなるのが見て取れる。嬉しいのと少し恥ずかしいのがごっちゃになっていて何を考えているかよくわからない。
「……それに、この不安定な時に、ダメだよ、もう少し落ち着いてからでないと」
《いえいえ、この不安定な時だからこそでございますよ。先程の発言から、御主人様もそうなればまんざらではないと思いますが? まあその時がいつ来るのかと言われますと、お答えのしようがありませんが》
サーナイトの言う「その時」のことを考えただけでヒカリの顔が真っ赤になった。否、既に真っ赤だ。
《やっぱり、そうなんですね貴女様は……おっと、御主人様がお帰りになられますね》
「えっ!?」
拙い。今の顔を見られるわけにはいかない。咄嗟に顔まで布団を被って隠れた。
「ただいまーっ、と、何もなかったみたいだな。良かった良かった。……ヒカリ? 何してんだ?」
《ヒカリ様は今……》
「ちょっと待ったサーナイト! 言わないで! 頼むから言わないで!!」
「? 何か言われて困るような話でもしてたのか」
必死にサーナイトを止めようとするヒカリ。さすがに可哀想と思ったか、サーナイトもそれ以上は言わなかった。
サーナイトの話方って、こんな感じですかね?
イメージとして貴族か、御令嬢という感じですけど。