始まります!
場所は雪の降り積もる静かな町、キッサキシティ。つい最近ギンガ団の襲撃を受けて町が壊滅的な被害を受けたが、現在なんとかポケモンセンターを復旧させている状態までこぎつけている。
そこの病院の一室で鏡夜ランは寝かされている。テレビがここ最近の情報を伝えている。
『先週、ヨスガシティでギンガ団による大規模な襲撃がありました。その中でミサイルによる爆撃もあり、ジムリーダーの公式会見によりますと、それで18人が死亡、50人以上が重軽傷を負ったそうです。尚、全壊した病院からは数名が行方不明となっており、ギンガ団に連れ去られたものだと思われます』
「……やはり起きないか」
「どういうことですか? 右京さん、何か知っているんですか?」
病室にはランの他に右京とスズナがいる。スズナが右京に尋ねると、仕方ないか、といったふうな返事をしてスズナの傍へと寄った。
「鏡夜ランは今、ダークライの暴走に巻き込まれている。このシンオウ地方のどこかにいるダークライを止めないとこいつは永遠に目が覚めない」
「そんな……!」
「おそらくダークライ自体はギンガ団が所有しているのだろう。アジトを徹底的に潰せばいずれ見つかるのだが……」
右京が黙ったことで部屋の中で聞こえる音がテレビによる情報公開だけになった。ランの関わった物騒なニュースが中心に放送されている。
『テンガン山でレジギガスが暴走を開始したという説がありますが、どう思われますか』
『ギンガ団が復活して以来、彼らの暴走は目に余るものばかりです。2年前は鏡夜ランや八重春シンといった若者たちがギンガ団を抑え込みましたが、2世とでも言いましょうか、今回の2世には彼らも力及ばずと言った場面が多々あるようです』
『その彼らは現在行方不め……』
音声が途切れる。スズナがテレビを切ったのだ。部屋には沈黙が訪れ、体調の悪化していくランの荒い息だけが病室に鳴っては消える。
シンはギンガ団に捕まってしまっていた。両腕に錠をつけられ、ポケモンは当然奪われている。部屋の温度は-5度と温度計が示している。そばでは寒さに打ち震え、銃弾によってあけられた風穴の痛みに歯をくいしばって耐えているヒカリが横たわっている。その手足にも手錠がかけられていて、動くことができない。
シンの口からは赤い血がこぼれている。ランの居場所を聞き出すためか、拷問を受けているのだ。
ギィ、と重い扉が開けられると、シンの両腕が拘束されたまま思いっきり捻られる等の拷問を受ける。
隣の部屋でビキリ、と砕かれるような音がしてシンの声にもならない絶叫が響き渡る。その後も繰り返され、15分ほどで意識不明となって再び鎖に繋がれた。
「いっこうに吐きませんね。死ぬ方が早いんじゃないでしょうか。こっちの女には何もしないのには意味があるんですか?」
「絶対に吐かない。儂が断言するんだ。間違いない」
意識のないシンと会話を聞く余裕もないヒカリの傍でギンガ団員の一人がプルートと話している。ギンガ団の中でも特に身体の締まった大男だ。他からは拷問係と呼ばれている。
重く、分厚い扉が閉められると、再び―5度の世界が襲いかかる。既に凍傷になりかけていて、危険な状態だ。
ランも意識不明のまま行方不明となっている。ギンガ団に捕まった節はないので、誰かが助けてくれたのだろう。
キッサキシティでは右京とスズナがランを見守りながら話していた。話の内容はランが無事であることを公開するかどうか。同時に意識不明であることも公開される。
スズナが出した提案だったが、利点よりも問題点の方が多い。問題点としては居場所が分かるので、ギンガ団が強奪に来るかもしれないことと、動けないことが確定し、ギンガ団が活性化するかもしれないことだ。
対して利点はランが生きていることで人々を安心させることができるかもしれない程度。よって、この案は廃棄された。
「邪魔するぞっ」
短く必要なことだけを言ったかと思えば、誰の許可もなしにいきなり燃えるような赤いアフロの男と金髪でどこかの不良のような男の二人が入ってきた。
「オーバさんとデンジさんですか……」
一番最初に言い始めたのはスズナ。何を悟ったのか、右京が二人とも何も言ってないのにもかかわらず、静かにと注意する。
「ランが意識不明と聞いてな。ジムは後輩の奴に任せてある。俺とオーバがランの護衛に来たんだが……、右京もここにいたのか」
「ダークライを知っているか?」
突然の右京の質問に、は? と聞き返すオーバに対し、デンジが頷いた。
「ギンガ団のアジトに乗り込んでダークライを奪いたい。いる保証はないがな……。ダークライが鏡夜ランの意識を奪っているようだ」
「しかし、ダークライは空想上のポケモンのはずじゃ……なかったか?」
「実在するポケモンだ。最近まで空想上と言われていたポケモンが次々と見つかっているぞ。ギラティナ、マナフィ、ゾロアーク、ミュウ……噂ではアルセウスも実在するらしい。ディアルガ・パルキアも鏡夜ランや八重春シンが持っている」
「ま、それを言われちゃダークライもクレセリアも実在すると考えた方が自然か……」
「鏡夜ランがここにいることはギンガ団にはまだ気づかれていない。それでも油断はできないからチームを二つに分けたい。一つはここで鏡夜ランの護衛。もう一つはトバリのアジトに乗り込んでダークライを捜索する」
とは言っても、分け方はほぼ決まっている。スズナが護衛をして、残りの三人で乗り込む。可能ならばその際にスズナのユキメノコとマニューラを取り返しておきたい。
ギンガ団員に気づかれないように空を飛んでいく三人。病室にはスズナとランの二人が残っている。
「ラン……死なないでよね。貴方が死んだら私は……」
ふと何を思ったか再びテレビをつけた。静かな病室にニュースが鳴らされる。
『本日未明、ギンガ団は行方不明となっている3人の捜索を断念し、マサゴタウン、フタバタウンを急襲しました。撤収した後、生存者の捜索が行われましたが、フタバタウンの方は住人全てが死亡していることが確認されました。マサゴタウンの方は現在確認作業中と発表がありました』
いきなり映ったのはもうもうと黒煙を上げるフタバタウンとマサゴタウン。フタバタウンは見る影もなく、村が
手に持っているリモコンが床に落ち、衝撃で電池が飛び出す。その表情は凍りついていて、小刻みに震えている。リモコンを拾うのも忘れてその惨劇を見つめ、ギンガ団のやり口に怒りを覚えると同時、心の片端では恐怖も抱いていた。
どうやってここまで徹底的な破壊をしたのか。レジギガスを動かしたのか、ヨスガの時のようにミサイルで吹き飛ばしたのか。
だが、二つあるうちの選択肢の内のミサイルの考えは即行で否定された。破壊された家の潰れ方が、明らかに拳で上から叩き潰されているのだ。ミサイルなら爆散するはずが、二階が一階を押し潰すような感じで潰れている。
「何よ……。ランへのあてつけなの……? これ……。酷い……」
おそらく死者の中にランの義母やシンの母も入ってしまっているのだろう。スズナは自分の人生の中でここまで絶望に打ちのめされたことはないというほど身体から力が抜けた。立っていられず、床に座り込む。
力の籠った爪が床を引っ掻き、歯を食いしばる。
ニュースではさらにトウガン率いるミオシティがギンガ団によって落とされ、ゲンとトウガンが行方不明となっていることや、ハクタイシティが落ち、ロトムをギンガ団に奪われたという速報も入ってきている。
この数週間でシンオウのジムがギンガ団によって4つも落とされた。そのうちのミオとハクタイにはギンガ団が駐留して支配している。戦力の殆どないキッサキにギンガ団が来るのも時間の問題だ。
「ラン……一体、何に巻き込まれているの? 君といたいのに……君はいつもどこか遠くへ行ってしまう。私をもう少し頼って欲しいんだけどなぁ……」
呼びかけるように呟くが、意識のない青年に言葉は届かない。スズナの役目は万が一ギンガ団が襲ってきたときにランを守りきることだ。ベッドの傍らにはいつの間にかボールから出ているチルタリスが心配そうにランを見つめている。
その頃、オーバ、右京、デンジの強襲組は3手に分かれた。オーバがヨスガのギンガ団の一掃。右京がトバリ、デンジがハクタイへと向かった。途中、手に入れた情報でバトルタワーのクロツグがシンの捜索に乗り出しているらしい。やはり実の息子が行方不明である事態に焦りを感じているようで、いつもの豪快さがまったく見えなかった。
――トバリシティ――
「アンタが右京か。アイツはここにいるのか?」
「わかりません。可能性の一環です。アジトがあるので最も可能性が高い場所ではありますがね」
「よーし、乗り込むぞ。ドサイドン、“がんせきほう”だ! 扉をぶっ壊せっ!」
「ゴオオオォォォォォ!!」
ドサイドンのがんせきほうが扉から奥までの道に穴を開けた。4人ほどのギンガ団員がいたようだが、全員ががんせきほうの余波で倒されている。
「ウインディ、出てきなさい。一気に行くわよ」
「カイリュー、頼むぜ! 邪魔な扉はぶっ壊してくれよ!」
右京がウインディに乗り、クロツグがカイリューの背に乗った。スピードが一気に上がり、鉄の扉をカイリューのドラゴンダイブで吹き飛ばすと、突然、気温が20度以上も下がった。
「あ? 寒いな……。カイリュー、戻れ!」
寒さを嫌がるカイリューをボールに戻したクロツグはそこから徒歩になった。
「……にしても、嫌に寒いところだなここ」
「ええ、急がないといけません。こんなところに捕まっているのならば衰弱するのも早いはず……! ウインディ、“ほのおのきば”! 鎖を噛み千切りなさい!」
高熱を纏った牙が部屋を封印している鎖を噛み千切って中に入る。そこで二人の目が大きく見開かれた。
「シン!!」
手錠で両手を縛られ、力なくぶら下がっている自分の息子を見て驚愕するクロツグの横で再びウインディに命令を出している右京。その声も明らかに焦りを帯びている。
両方の拘束が溶け、下に落ちていくシンをクロツグが受け止める。だが、その数秒後に膝から地面に崩れ落ちた。
「容体は!?」
「…………………………」
クロツグは震えたまま何も言わない。それからゆっくりとシンを寒い床に置いて右京の方へ向き直る。
「……死んでいやがる」
「!? なんですって!?」
シンは目を開かず、全く動かない。身体は既に硬直が始まっていて、炎で温めても冷たいままだ。そこから導き出される答えは一つ。死んでいることだ。クロツグが怒りで震えている。
「……ギンガ団の奴等……!! そうだ、ヒカリはどこに行ったんだ! あの子も行方不明だろ!」
右京はそれを聞いた瞬間に部屋を飛び出し、隣の南京錠、その隣も立て続けに破壊した。
「これは……!! 早く来てください! クロツグさん!」
クロツグが息絶えているシンを抱えたまま走り出す。隣の部屋に入った時、クロツグの表情が凍りつく。
「ヒカリ! 生きているのか!? おい!!」
「静かに! かなり、危ない状態ですが……生きています。肩と脇腹……それぞれ右に銃創があります。急ぎましょう。急いで病院に!」
「カイリュー! シンとヒカリを乗せて病院まで飛べ! 場所は分かるな!? そうだ、俺のサインがいるんだ」
カイリューの背にシン、ヒカリ、クロツグのサインの入ったカードの入っているバッグを乗せ、窓を破壊してカイリューを外に出した。
「行くぞ! まだ捕まってるやつがいるかもしれない!」
――トバリ、病院――
「……クソッ」
クロツグが小さく吐き捨てる。彼の前には棺があり、その中に自分の息子、シンが入っている。凍傷も数多くあり、搬送中に落ちたのか、指がいくつか落ちている。
彼の表情は寒さと痛みに耐えかね、苦悶の中で死んでいったのが分かるほど苦痛に歪んでいる。
その隣にも2つの棺がある。ヒカリの命は何とか繋ぎとめられたが、他に見つけた二人、ミルとヒカリの妹は助からなかった。ナナカマドに連絡を取ると、ヒカリの妹は行方不明になったヒカリを探すために旅に出たらしい。その間でギンガ団に捕まったのだろう。
ミルは行方不明のランを探していたようだ。2年前に知り合ったらしく、迷っていた洞窟の出口まで一緒に来てくれたと聞いた。
ミルは亡くなる直前、僅かに残った意識でランのことを心配していた。絶望のまま死んでほしくないという願いから右京は「ランは大丈夫だ。もうすぐ退院できる」と嘘をついた。ミルは安心した表情で「そう……よかった。ありがとう……」と言って亡くなった。
ナナカマドの話によると、マサゴタウンにギンガ団が急襲した際に研究所が半壊し、ヒカリの両親も死亡したという。ナナカマド自身も入院しているそうだ。
フタバタウンではシンの母親である、クロツグの妻も亡くなっているし、ランの義母も亡くなっている。家族がどんどん失われていく悲しみに絶望したくなるのはクロツグも同じだ。
悲しみとは増していくものだ。もしランがシンの死を知ってしまったら、かなりの間は悲しみに打ちひしがれることになるだろう。一番の親友を失くし、自信の義母も亡くして一人になってしまったのだ。
右京とクロツグは彼らが精神的に崩壊してしまわないようにサポートする。それが一番の使命だと胸に刻んだ。