投稿遅れて申し訳ありませんでしたぁぁぁ!
そして二万文字に達してしもうたぁぁぁぁ!
今回はオリ精霊が出てきます。
ではどうぞ。(。・x・)ゞ♪
「どんなもんじゃーいッ!」
来禅高校。物理準備室で士道の声が聞こえる。
左手にはコントローラーを預けながら、右手をグッと握って天高く突き上げた。琴里と令音の強化訓練が実施されてから、休日を含めて十日間。
士道はようやく、ゲームのハッピーエンド画面を迎えたのだった。
その頑張りに感動したのか、士道の隣にいる雷牙が労いの言葉を掛けた。
「お疲れ士道。よく頑張った」
「.....ん、まぁ少し時間はかかったが、第一段階はクリアとしておくか」
「ま、一応全CGコンプしたみたいだし、とりあえずは及第点かしらね。....とはいっても、あくまで画面の中の女の子に対してだけだけど」
背後からスタッフロールを眺めていた令音と琴里が、息を吐くのが聞こえてくる。
「じゃ、次の訓練だけど....もう生身の女性にいきましょ。時間も押しちゃったし」
「....ふむ、大丈夫かね」
「平気よ。もし失敗しても、失われるのは士道の社会的信用だけだから」
「何さらっと不穏なこと言ってんだてめぇ」
「.....士道のいじりてっそんなに楽しいのか?」
黙って二人の会話を聞いていた士道と雷牙だったが、さすがにたまらず口に挟む。
「やだ、盗み聞きしてたの?相変わらず趣味が悪いわね。この出歯亀ピーピング・トムと猪頭改」
琴里が眉をひそめ口元に手を当てながら言う。
「目の前で喋ってて盗み聞きも何もあるかっ!」
「士道少し落ち着け」
士道が叫ぶと、琴里が「はいはい」と手を広げてこちらを制するように言ってきた。
「それで、二人とも。次の訓練なんだけど」
「士道。俺は大丈夫だがいけるか?」
「.....びっくりするほど気は進まんが、なんだ?」
「そうね....誰がいいかしら」
「あ?」
「?」
と士道と雷牙が首を傾げる横で、令音が手元のコンソールを操作し始めた。机の上に並べられたディスプレイに、学校の映像がいくつも映しだされる。
「.....そうだね、まずは無難に、彼女などはどうだろう」
言って、令音が画面の右端に映し出されていたタマちゃん教諭を指さす。
琴里は一瞬眉を跳ね上げ――
「ああ、なるほど。いいじゃない、それでいきましょう」
すぐに、邪悪な笑みを浮かべた。
「.....シン、ライ。次の訓練が決まった」
「ど、どんな訓練ですか」
士道が不安な心地を抑えながら問うと、令音が首肯しながら返してきた。
「.....ああ。本番、精霊が出現したら、君たちは小型のインカムを耳に忍ばせて、こちらの指示に従って対応してもらうことになる。一回、実戦を想定して訓練しておきたかったんだ」
「で、俺にどうしろと?」
「......とりあえず、岡峰珠恵教諭を口説いてきたまえ」
「はァっ!?」
「うわやりたくねぇ」
一人は眉根を寄せ、叫びぶ。もう一人は嫌そうな顔をしながら言う。
「何か問題でもあるの?」
琴里が、二人の反応を楽しむようにニヤニヤと言ってくる。
「大ありだろが.....ッ!んなッ、できるわけ.....っ!」
「本番ではもっと難物に挑まなきゃならないのよ?」
「士道、これは訓練だ。確かに、先生に抵抗力があるかもしれないがこれが精霊だったら文句も言えないぞ?」
「――っ、そりゃ、そうだけど....っ!」
士道が言うと、令音がぽりぽりと頭をかいた。
「....ライの言うとおり、最初の相手としては適任かと思うがね。恐らく君が告白したとしても受け入れはしないだろうし、ぺらぺらと言いふらしたりもしなさそうだ。.....まぁ、君がどうしても嫌だというのならば女子生徒に変えてもいいが......」
「う......ッ」
「で、どうするの?本番での失敗はすなわち死を意味するから、どっちにしろ一回は予行練習させるつもりだったけど」
「士道、腹を括れ。お前だって嫌だろこれ以上変な噂が流れるのは」
「.....先生で頼む」
琴里と雷牙が言ってくるのに、士道は背中に嫌な汗をかきながらそう言った。
「.....よし」
令音は小さくうなずくと、机の引き出しから、小さな機械を取り出し、士道に渡してきた。次いでマイクと、ヘッドフォン付きの受信機らしきものを机の上に置く。
「これは?」
「.....耳につけてみたまえ」
言われるままに、右耳にはめ込む。
雷牙は十日前に事前にもらったインカムをポケットからだし、左耳にはめ込んだ。
すると令音はマイクを手に取り、囁くように唇を動かした。
『......どうかね、聞こえるかな?』
「うぉっ!?」
突然耳元で令音の声が響く。士道は肩をびくっと震わせて跳び上がった。
『......よし、ちゃんと通ってるね。二人とも音量は大丈夫かい?』
「は、はぁ....まぁ一応....」
「こっちも大丈夫だ」
士道と雷牙が首肯すると、令音はすかさず机の上に放ってあったヘッドフォンを耳に当てた。
「.....ん、うむ。こちらも問題ないな。拾えている」
「え?今の声拾えたんですか?こっちにはマイクっぽいのついてませんけど.....」
「.....高感度の隼音マイクが搭載されている。自動的にノイズを除去し、必要な音声だけをこちらに送ってくれるスグレモノだ」
「はぁー.......」
士道が感嘆していると、琴里は机の奥から、もう一つ小さな機械部品のようなものを取り出した。
ピン、と指で弾くと、そのまま虫のように羽ばたいて宙を舞う。
「.....うわ虫か?」
「......見たまえ」
雷牙が気持ち悪そうに言うと令音は、目の前のコンピューターを操作して画面を表示させた。
そこには琴里と令音、雷牙そして士道のいる物理準備室が映しだされている。
「これって....」
「.....超小型の高感度カメラだ。これで君たちを追う。虫と間違って潰さないようにしてくれ」
「はぁー.....すげぇなこりゃ」
「だな俺も思うわ」
と、ぼむ、と尻を蹴られた。
「何でもいいから早く行きなさい鈍亀と固猪。ターゲットは今、東校舎の三階廊下よ。近いわ」
「.......あいよ」
「うぃー」
二人は進みたがらない足をどうにか動かし、物理準備室を出ていった。
そして階段を下りて右に左に首を回すと――廊下の先に珠恵の背中が見えた。
「先――」
と、途中で呼び声を雷牙に肩を掴まれて止められる。
何故止めたかというと、雷牙は「お前そんな距離から呼ぶつもりか?」と言われた。確かにここで大声を出せばまだ学校に残っている生徒や教師たちの注目を集めてしまう。
「.....仕方ねぇ」
士道はその事を避けるため、軽く駆け足になって珠恵の背を追った。何メートルほど進んだ頃だろうか、士道の足音に気づいたらしく、珠恵が立ち止まって振り返ってくる。
「あれ、五河くんと雷蒼くん?どうしたんですかぁ?」
「.....っ、あ、あの――」
ほぼ毎日見ている顔だというのに、いざ口説く対象となると一気に緊張感が増す。士道は思わず口ごもった。
『――落ち着きなさいな。これは訓練よ。しくじったって死にはしないわ』
二人の右耳、左耳から琴里の声が響いてくる。
「んなこと言ったって....」
「え?なんですか?」
士道の呟きに反応して、珠恵が首を傾げる。雷牙は士道のかわりに弁明する。
「いえ、なんでもありませんよ....」
一向に話を進められない二人に焦れたのか、またもインカム越しに声が聞こえてきた。
『情けないわね。――とりあえず無難に、相手を褒めてみなさい』
琴里の言葉に、珠恵の頭頂から爪先までを眺め、褒める材料を探していく。二人は数秒探して見つけたのか士道が先に意を決して、口を開く。
「と、ところで、その服.....可愛いですね」
「え.....っ?そ、そぉですかぁ?やはは、なんか照れますねぇ」
珠恵は嬉しそうに頬を染めると、後頭部をかきながら笑顔を作って見せた。
――おお?これはなかなかいい反応では?
士道は心の中でそう言い。小さく拳を握った。
「はい、先生にとても似合ってます!」
「ふふ、ありがとぉございます。お気に入りなんですよぉ」
「その髪型もすごくいいですね!」
「え、本当ですかぁ?」
「はい、それにその眼鏡も!」
「あ、あはははは......」
「その出席簿も滅茶苦茶格好いいです!」
「あの.....五河くん.....?」
「はぁ....アホすぎ」
珠恵の顔が、だんだん苦笑、というか困惑に染まっていく。
『やり過ぎよこのハゲ。生ハゲ』
士道の右耳にはめ込んでいるインカムから、呆れたような琴里の声が聞こえてくる。
だが、そう言われても、次に何を話せばよいのか分からない。しばし、間が空いてしまう。
「ええと....用は終わりましたかぁ?」
珠恵が首を傾げてくる。
さすがに時間がないと思ったのだろう、右耳に、今度は眠そうな声が聞こえてきた。
『....仕方ない。では私の台詞をそのまま言ってみたまえ』
「あの、先生」
「俺、最近学校来るのがすごい楽しいんです」
「そぉなんですか?それはいいことですねぇ」
「はい。.....先生が、担任になってくれたから」
「え....っ?」
珠恵が、驚いたように目を見開く。
「な、何言ってるんですかもぅ。どうしたんです急に」
言いながらも、まんざらでもない顔を作る珠恵。
士道は続けて、令音の言葉を発した。
「実は俺、前から先生のことが――」
「ぃやはは.....駄目ですよぉ。気持ちは嬉しいですけど、私先生なんですからぁ」
「俺、本気なんです。本気で先生と――」
「えぇと.....困りましたねぇ」
「本気で先生と、結婚したいと思ってるんです!」
――ぴくり
士道が結婚の二文字を出した瞬間、珠恵の頬が微かに動いた気がした。そしてしばしの間黙ったあと、小さな声を響かせてくる。
「....本気ですか?」
「え.....っ、あ、はぁ......まぁ」
突然の雰囲気の変化にたじろぎながら士道が言うと、珠恵は急に一歩足を踏み出し、士道の袖を摑んできた。
「本当ですか?五河くんが結婚できる年齢になったら、私もう三十歳越えちゃうんですよ?それでもいいんですか?両親に挨拶しにきてくれるんですか?婿養子とか大丈夫ですか?高校卒業したらうちの実家継いでくれるんですか?」
まるで人が変わったかのように目を爛々と輝かせ、鼻息を荒くしながら珠恵が詰め寄ってくる。
「あ.....あの、先生.....?」
『.....ふむ、少し効き過ぎたか』
士道がたじろいでいると、令音がため息とともに声を発した。
「.....どういうことだ?」
珠恵に聞こえないくらいの声で雷牙が令音に問う。
『.....いや、独身・女性・二十九歳にとって結婚というのは必殺の呪文らしい。かつての同級生は次々と家庭を築き始め、両親からはせっつかれ、自分に関係ないと思っていた三十路の壁を今にも越えそうな不安定な状況だからね。....にしても、少々彼女は極端すぎるな』
珍しく少し辟易した様子を声に滲ませ、令音が言ってくる。
「そ、それはいいんですけど、どうしろってんですかこれ.....っ!」
「ねぇ五河くん、少し時間いいですか?まだ婚姻届を書ける年齢ではないので、とりあえず血判状を作っておきましょうか。美術室から彫刻刀でも借りてきましょうね。大丈夫ですよ、痛くしないようにしますからね」
にじり寄るようにしながら、珠恵がまくし立ててくる。士道は悲鳴じみた声を上げた。
『あー、必要以上に絡まれても面倒ね。目的を達したし、適当に謝って逃げちゃいなさい』
士道はごくりと唾液を飲み込むと、意を決して口を開いた。
「すッ、すいません!やっぱりそこまでの覚悟はありませんでした.....!どうかなかったことに.....!」
「今日は士道がすいませんでした!大丈夫まだ先生にはチャンスがありますよ。でわ!」
「あ、い、五河くんッ、雷蒼くんッ!?」
背に珠恵の声を聞きながら、二人は走る。
『いやー、なかなか個性的な先生ねぇ』
「ざっけんな....っ!何を呑気な「士道。前!」――」
と、言いかけた瞬間。
「の.....ッ!?」
「.......!」
インカムに注意がいっていたため、士道は曲がり角の先から歩いてきた生徒とぶつかり、転んでしまった。
「....士道!大丈――!?」
「っつつ....す、すまん、大丈夫か?」
士道は言いながら身を起こす。と.....
「ぃ......ッ!?」
士道と雷牙は心臓が引き絞られるのを感じた。何しろそこにいたのは、あの鳶一折紙嬢だったのだから。
しかもそれだけではない。転んだ拍子に尻餅をついてしまったのだろう、ちょうど士道と雷牙の方に向かってM字開脚くをしていた。......白だった。
士道は思わず目を背け、雷牙にいたっては右手で両目を隠す。しかし折紙はさして慌てた様子もなく、
「平気」
と言って立ち上がった。
「どうしたの?」
次いで、折紙は二人に訪ねてきた。
「....いや、気にしないでくれ。絶対にないと思ってたシチュエーションに遭遇してしまったのがショックでな.....」
最後の砦が崩れてしまった。恐るべきは〈ラタトスク〉のシミュレーション能力。なんだかんだであのゲーム、よくできていたのかもしれなかった。
「そう」
折紙はそれだけ言うと、廊下を歩いていった。
と、その瞬間、右耳に琴里の声が響く。
『――ちょうどいいわ士道。彼女でも訓練しておきましょう』
「は....はぁッ!?」
『やっぱり先生だけじゃなく、同年代のデータも欲しいしね。それに精霊とは言わないまでもAST要員。なかなか参考になりそうじゃない。見る限り、彼女も周りに言いふらすタイプとは思えないけれど?雷牙を除いてだけど』
「......」
「おまえ....ッ、ざけんなよ.....?」
『精霊と話したいんでしょ?』
「......ッ」
士道は息をつまらせると、下唇を噛んだ。
覚悟を決めて、折紙の背に声を投げる。
「と、鳶一っ」
「なに」
折紙はまるで声をかけられるのを待っていたかのようなタイミングで振り向いた。
士道は少し驚きながらも、呼吸を落ち着けて唇を開いた。
「その服、可愛いな」
「制服」
「.....ですよねー」
「士道お前というやつは.....」
雷牙は士道の制服の選択について呆れた。
『なんで制服をチョイスしたのよこのウスバカゲロウ』
士道は琴里からものすごく罵倒されてる気がした。
『.....シン、手伝おう』
士道は右耳に聞こえてくる令音の言葉に声を発していく。
「あのさ、鳶一」
「なに」
「俺、実は.....前から鳶一のこと知ってたんだ」
「そう」
声は素っ気ないままだったが、信じられないことに折紙が言葉を続けてきた。
「私も、知っていた」
「――――!」
士道は内心凄く驚きながらも、声には出さない。
「――そうなんだ。.....それで、二年で同じクラスになれてすげぇ嬉しくてさ。ここ一週間、授業中ずっとお前のこと見てたんだ」
「そう」
「私も、見ていた」
真っ直ぐに士道を見ながら、そう思った。
「......っ」
ごくりと唾液を飲み込む。
「でも実は俺それだじゃなくて、放課後の教室で鳶一の体操着の匂いを嗅いだりしてるんだ」
「そう」
さすがにこれはドン引きだろうと思ったが、折紙は微塵も表情を動かさなかった。それどころか、
「私も、やっている」
「.......!?」
士道は顔中にびっしりと汗を浮かべ、雷牙は自分の幼馴染が、ど変態なことをしているとは思ってはいたがまさかここまでしているとは思っておらず驚愕していた。
「――そっか。なんか俺たち気が合うな」
「合う」
「それで、もしよかったらなんだけど、俺と付き合ってくれないか――って急展開すぎんだろいくらなんでも!」
『.....いや、まさか本当にそのまま言うとは』
「そのまま言えっつったのあんたじゃねぇか!」
怨嗟を声に乗せて発し、すぐにハッとして折紙に向き直る。
「あ、その、なんだ.....すまん、今のは――」
「折紙。誤解するな士道は冗談でやっ「構わない」た....へ?」
「..............は?」
二人は間の抜けた声を出した。目が点になる。口が力無く開かれ、手足が弛緩する。要は、体全体を使って呆然とした。
「な....なんて?」
「構わない、と言った」
「....折紙さん?何がですか?」
「五河士道と付き合っても構わない」
「「.......ッ!?」」
士道と雷牙は顔中に汗をぶわっと吹き出させた。側頭部に軽く手を当て、落ち着け、落ち着け、と自分に語りかける。
「士道今ならまだ勘違いで通せる早く」
雷牙は士道に訂正の言葉をかける。
「あ、ああ.....どこかに出かけるのに付き合ってくれるってことだよな?」
「........?」
折紙が小さく首を傾げた。
「そういう意味だったの?」
「え、あ、いや....ええと、鳶一は、どういう意味だと思ったんだ....?」
「男女交際のことかと思っていた」
「......ッ!」
「(やっぱり勘違いしてたか....折紙...)」
「違うの?」
「い、いや....違わない....けど」
「そう」
折紙が、何事もなかったかのように首肯する。
次の瞬間、士道は思いっきり後悔し、雷牙は何故違わないと言ってしまった士道に心の中で叫んだ。
――なぜ、なぜ、「違わない」なんて言ってしまったのか!今ならまだ勘違いで通せたというのに!
と。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――
「っ!?」
「来たか....」
瞬間、何の前触れもなく、あたりに警報が響き渡った。
それと同時に、折紙が顔を軽くあげる。
「――急用ができた。また」
そしてそう言うと。雷牙の目を少し見た後、踵を返して廊下を走っていってしまった。
雷牙は分かっていた。さっき折紙が雷牙の目を見たのは、アイコンタクトでその意味が理解できた。折紙は目でこういった『絶対避難して』と、だが雷牙は十日前に約束したことは今日だけ守れそうにない。少し罪悪感を残しながら心の中で折紙に謝罪をした。
「お、おい――」
今度は、士道が声をかけても止まらなかった。
「ど......どーすりゃいいんだ、これ....」
「そろそろ司令から連絡来るだろ」
ほどなくして、インカム越しに声が聞こえてくる。
『二人とも、空間震よ。一旦〈フラクシナス〉に移動するわ。戻りなさい』
「や、やっぱり、精霊なのか.....?」
士道が問うと、琴里は一拍置いてから続けてきた。
『ええ。出現予測地点は――ここ、来禅高校よ』
◇
時刻は、十七時二十分。
避難を始める生徒たちの目を避けながら、街の上空に浮遊している〈フラクシナス〉に移動した四人は、艦橋スクリーンに表示された様々な情報に視線を送っていた。
だが、正直士道と雷牙には、画面上の数値が何を示しているのかよくわからなかった。雷牙はASTで整備士の肩書きを持ってはいるが、いつも格納庫でCR-ユニットのメンテナンスしかしてないのでこれに関しては無知に近しい。
だが、唯一士道と雷牙でも理解できるのは――画面右側に示されているのが、二人の高校を中心にした街の地図であることくらいである。
「なるほど、ね」
艦長席に座りチュッパチャプスを舐めながら、クルーと言葉を交わしていた琴里は、小さく唇の端を上げた。
「――士道、雷牙」
「なんだ?」
「どした?」
「早速動いてもらうわ。準備なさい」
「.....っ」
琴里の言葉に、士道は体を硬直させた。
「――もう彼を実戦登用するのですか、司令」
と、艦長席の隣に立っていた神無月が、スクリーンに目をやりながら不意に声を発した。
「相手は精霊。失敗はすなわち死を意味します。訓練は十分なのでしょ....げふッ」
言葉の途中で、神無月の鳩尾に琴里の拳がめり込む。
「私の判断にケチをつけるなんて、偉くなったものね神無月。罰として今からいいと言うまで豚語で喋りなさい」
「ぶ、ブヒィ」
何かものすごく慣れた様子で神無月が返す。
士道はその光景を見ながら吹き出た汗を拭った。
「.....いや、琴里、神無月さんの言うことももっともだと思うんだが....」
「士道の言う通りだ。たとえ訓練をしたってまだ実戦登用は早すぎる。後もう1日おいた方がいいと思うが?」
「あら、二人ったら豚語が理解できたの?さすが豚レベルの男たちね」
「ぶ.....っ、豚をなめるなよ!豚は意外とすごい動物なんだぞ!」
「知っているわ。きれい好きだし力も強い。なんでも犬より高度な知能を持っているという説もあるとか。だから有能な部下である神無月や、尊敬する兄と信頼出きる雷牙に、最大限の敬意として豚という呼称を使っているのよ。豚。この豚」
「.......全くこのSっ毛中学生」
「.....ぐぐっ」
正直あまり敬称には聞こえなかった。
しかし琴里も神無月の疑問と士道と雷牙の不安がもっともであることくらいは理解しているようだった。キャンディの棒をピンと上向きにし、スクリーンを示す。
「士道、雷牙、あなた達かなりラッキーよ」
「え.......?」
「......ああ、そうゆう事か」
琴里の視線を追うように、スクリーンに目を向ける。
やはり意味不明な数字が踊っていたが――右側の地図に、先ほどと変わったところが見受けられた。二人が通っている学校に赤いアイコンが二つ、そしてその周囲に、小さな黄色いアイコンがいくつも表示されていた。
「赤いのが精霊、黄色いのがASTよ」
「.....で、何がラッキーだってんだよ」
「ASTを見て。さっきから動いてないでしょう?」
「ああ.....そうだな」
「精霊が外に出てくるのを待ってるのよ」
「なんでまた。突入しないのか?」
士道が首を傾げると、琴里が大仰に肩をすくめて見せた。
「ちょっとは考えてものを言ってよね恥ずかしい。粘菌だってもう少し理知的よ」
「な、なにおう!」
「雷牙、説明お願い」
琴里がそう言うと雷牙は士道に説明すべく、口を開く。
「士道いいか?そもそもCR-ユニットは、狭い屋内での戦闘を目的として作られていないんだよ。いくら
説明が終わるとその瞬間、琴里がパチンと指を鳴らす。それに応じるように、スクリーンに表示されていた画像が、実際の高校の映像に変わった。
校庭に浅いすり鉢状のくぼみが
「校庭に出現後、半壊した校舎に入り込んだみたいね。こんなラッキー滅多にないわよ。ASTのちょっかいなしで精霊とコンタクトが取れるんだから」
「.....なるほどな」
理屈は分かった。
だが、琴里の台詞に引っかかりを覚えた士道は、ジトッと半眼を作る。
「.......精霊が普通に外に現れてたら、どうやって俺たちを精霊と接触させるつもりだったんだ?」
「ASTが全滅するのを待つか、ドンパチしてる中に放り込むか、ね」
「.........」
「鬼すぎる.....」
士道と雷牙は今の状況がどれだけありがたいものかを知った。
「ん、じゃあ早いところ行きましょうか。――二人とも、インカムは外してないわね?」
「あ、ああ」
「大丈夫だ」
一人は右耳、もう一人は左耳に触れる。確かにそこには、先ほど使用したままのインカムが装着されていた。
「よろしい。カメラも一緒に送るから、困ったときはサインとして、インカムを二回小突いてちょうだい」
「ん.....了解した。でもなぁ.....」
士道は半眼を作り、琴里と、艦橋下段で自分の持ち場についている令音に視線を送った。
士道の表情からおおよそ思考を察した琴里が不敵な笑みを浮かべる。
「安心しなさい士道。〈フラクシナス〉クルーには頼もしい人材がいっぱいよ」
「そ、そうなのか?」
士道が疑わしげな顔で開き返すと、琴里が上着をバサッと翻して立ち上がった。
「たとえば」
そして艦橋下段のクルーの一人をビシッと指さす。
「五度もの結婚を経験した恋愛マスター・〈
「いやそれは四回は離婚してるってことだよな!?」
「.....お子さん大丈夫か?」
「夜のお店のフィリピーナに絶大な人気を誇る、〈
「それ完全に金の魅力だろ!?」
「借金大変だな....」
「恋のライバルには次々に不幸が。午前二時の女・〈
「絶対呪いかけてるだろそれ!」
「怖すぎるだろ....」
「百人の嫁を持つ男・〈
「ちゃんとZ軸のある嫁だろうな!?」
「....詮索しないでおこう」
「その愛の深さゆえに、今や法律で愛する彼の半径五百メートル以内に近づけなくなった女・〈
「「なんでそんな奴らばっかなんだよ!(なんだ)」」
「.....皆、クルーとしては腕は確かなんだ」
艦橋下段から、ぼそぼそっとした令音の声が聞こえてくる。
「そ、そう言われても.....」
「大丈夫なのかこれ....」
「いいから早いところ行ってきなさい。精霊が外に出たらASTが群がってくるわ」
苦情を発しかけた二人だが何故か士道の尻だけを琴里がボンっ、と勢いよく蹴る。
「......ってッ、こ、このやろ.....」
「心配しなくても大丈夫よ。雷牙は知らないけど、士道なら一回くらい死んでもすぐニューゲームできるわ」
「っざけんな、どこの配管工だそれ」
「マンマミィーヤ。妹の言うことを信じない兄は不幸になるわよ」
「兄の言うこときかない妹にいわれたかねぇよ」
士道はため息混じりにそう言ったが、大人しく艦橋のドアに足を向けた。
「二人ともグッドラック」
「おう」
「ああ」
〈フラクシナス〉下部に設えられている
最初二人は少々船に酔ったのかのような気持ち悪さを感じたが、数回目ともなると多少は慣れが出てくる。
一瞬のうちに視界が〈フラクシナス〉から、薄暗い校舎の裏手に変わったのを確認してから、士道と雷牙は軽く頭を振った。
「さて、まずは校舎内に――」
言いかけて、言葉を止める。
二人の目の前にある校舎の壁が、冗談のようにごっそりと削りとられており、内部を覗かせていたからだ。
「実際見るととんでもねぇな.....」
「だな、司令どうする?」
『まぁ、ちょうどいいからそこから入っちゃいなさい』
右耳と詰めたインカムと左に詰めたインカムから、琴里の声が聞こえてくる。
士道は「....了解」と頬をかきながら呟くと、二人は校舎の中に入っていった。あまりのんびりしていては精霊が外に出てしまうかもしれないし、それ以前に、士道と雷牙がASTに見つかって『保護』されてしまう可能性もある。
『さ、急ぎましょ。ナビするわ。精霊の反応はそこから階段を上がって三階、手前から四番目の教室と三番目の教室よ』
「了解....っ」
「ああ」
二人は深呼吸をすると、近くの階段を駆け上がっていった。そして一分とかからず、指定された二つの教室の前までたどり着く。
扉は開いておらず、中の様子は窺えなかったが、この中に精霊がいると思うと自然心臓は早鐘のように鳴った。
「て――ここ、二年四組。俺のクラスじゃねぇか」
「俺の隣のクラスは二年三組かまぁ近いのか?」
『あら、そうなの。二人とも好都合じゃない。地の利とまでは言わないけど、まったく知らない場所よりよかったでしょ』
琴里が言ってくる。実際、まだ進級してそう日が経っていないので、そこまで知っているというわけでもないのだが。
「....士道。準備は出来たか?」
雷牙が隣のクラスのドアで士道に声を掛けてきた。
緊張を紛らすためにいってきたのだろう士道は口を震わせて雷牙に返答を返す。
「――まだ心臓が跳ねてるけど、大丈夫だ」
「そうか。まぁ、お互い死なないように頑張ろうぜ!」
返答を聞いた雷牙は笑顔で士道に親指をグッ、と上げた。
「あ、ああ!」
二人は、意を決して教室の扉を開けた。
◇
雷牙が扉を開けると夕日で赤く染められた教室の様子が、網膜に映り混んでくる。
「ん?」
前から二番目、窓際から三列目の机の椅子に、不思議なドレスを身に纏った白髪の少女が、床に両足を付きながら静かに座っていた。紅く幻想的な輝きを放つ目を物憂げな眼にし、ぼうっと黒板を眺めている。
半身を夕日に照らされた少女は、見る者の思考力を一瞬で奪ってしまうほどに、神秘的だった。
それは、つい十日前に再会を約束した少女だった。
「よう。また会えたな」
雷牙が少女に声をかけると、少女は体をピクッ!、と震わせ、ゆっくり後ろを振り向く。
「.......誰?」
少女は声を雷牙にいる方に発す。
雷牙を忘れたのかまたは、夕日の光で見えないだけなのか分からないが、少女は少し警戒した眼で見つめてきたのだ。
「あんな
冗談のつもりで言った雷牙だったが、少女はその単語を聞くと、ハッ!となった。
どうやら忘れていたらしい。
「あなたは...確か....「雷牙だ」そう。その名前」
少女は名前を思い出すと少し雷牙を見つめ腰に装備している刀を何故か引き抜こうとする。
「――ちょっ!おま、一体何するつもりだ!?」
「?偽者か確かめようと...」
「洒落にならんからやめろ!」
雷牙が止めながら言うと少女は素直に警戒を解き刀を鞘に納刀し、刀は光の粒子となって消えた。
その光景に雷牙は「ふぅ」と、ため息を吐いた。
その瞬間。
「――ねぇ...」
「ん?」
少女が雷牙に声を掛けてきた少し切ない声音で、
「――また、会えたね」
雷牙はその言葉を聞くと、口を三日月状に笑みを浮かばせこう言う。
「...ああ、会えたな」
数分ぐらい沈黙が続く。その沈黙を雷牙が壊そうと声を発っしようとするが、『雷牙。待ちなさい」と、インカムから琴里のストップが入った。
〈フラクシナス〉の艦橋のスクリーンには今、光のドレスを纏った二人の精霊の少女が、バストアップで映し出されていた。
愛らしい貌を無表情な視線で、カメラの左側――雷牙の方をジィーと見つめている。
そして周りには『好感度』をはじめとした各種パラメーターが配置されていた。令音が
ついでに〈フラクシナス〉に搭載されているAIが、四人の会話をタイムラグなしでテキストに起こし、画面の下部に表示させている。
一見、士道と雷牙が訓練に使用したゲーム画面にそっくりだった。
特大のスクリーンに表示されたギャルゲー画面に、選りすぐられたクルーたちが、至極真面目な顔をして向かい合っている。
なんともシュールな光景である。
と――琴里はぴくりと眉を上げ、その瞬間、画面が明滅し、艦橋にサイレンが鳴り響いたのだ。
「こ、これは――」
クルーの誰かが狼狽に満ちた声を上げる中、画面中央にウインドウが現れる。
①「さて、改めて自己紹介しよう俺は雷蒼雷牙。おまえは?」
②「ごめん。実は俺、雷牙じゃないんだよ驚いた?」
③「俺と
「選択肢――っ」
琴里はキャンディの棒をピンと立てた。
令音の操作する解析用
つまり、正しい対応をすれば精霊の精神状態が良くなって取り入れることができる。
だがもし間違えれば
精霊もいつまでも待たせるわけにもいかないので。琴里はクルーたちに向かってのどを震わせた。
「これだと思う選択肢を選びなさい!五秒以内!」
クルーたちが一斉に手元のコンソールを操作する。その結果はすぐに琴里の手元のディスプレイに表示された。
最も多いのは――①番
「――やっぱみんな私と同意見みたいね」
琴里が言うと、クルーたちは一斉にうなずいた。
「②は沈黙の時に冗談として使えるように見えますが、警戒を解いていても向こうがまだこちらを敵と疑っているこの場で言っても逆に精神が不安定になるだけでしょう。それに少々鼻につく」
直立不動のまま、神無月がいってくる。
「......③は論外だね。万が一この場を壊せることができたとしても、横に風穴が開いてそれで終わりだ」
次いで、艦橋下段から令音が声を発してきた。
「そうね。その点①は理に適ってるし、上手くすれば真面目に会話の主導権を握ることもできるかもしれないわ」
琴里は小さくうなずくと、再びマイクを引き寄せた。
『雷牙。聞こえる?今から私の言うとおりに答えなさい』
「あ、ああ」
『――さて、改めて自己紹介をしよう俺は雷蒼雷牙。おまえは?』
「――さて、改めて自己紹介をしよう俺は雷蒼雷牙。おまえは?」
「.....」
雷牙の声を聞いた少女は途端表情を悲しそうに歪め、拳をギュッと握ると教室の床から亀裂が少し入り。
スドォォォォォォン
と、大きな衝撃と亀裂と共に光の球みたいなのが雷牙に向かって飛んできた。
「うぉ....ッ」
慌てて亀裂と光の球が無い方に移動した。
一瞬あと、雷牙の立っていた場所に何処からか投げつけられてきた黒い光球の跡があり。床に、二階一階まで貫通するような大穴が開く。
ついでに雷牙はその瞬間の衝撃波で吹き飛ばされ、机と椅子を盛大に巻き込みながら教室の端まで転がった。
「.....ってぇ.....」
『大丈夫?雷牙。さっきの亀裂はその精霊でしょうけど、光の球は士道がいる二年四組のクラスからよ』
「危ねぇじゃねぇか.....ッ殺す気ですか!....っ」
心底心配してない声音でいってくる。琴里に、雷牙は頭を押さえながら身を起こした。
と――
「.....名前なんて必要あるの?」
雷牙の机にある椅子から、少女が言ってくる。
「――え?」
雷牙は困惑した。少女が自分に名前が必要あるのかと、問いてきたのだ。
「確かにあなたに会う約束はした。たけど、私は精霊。人間に害を成すもの。人類の脅威であり死ななくちゃいけないそんな
雷牙は、小さく、眉根を寄せ、奥歯をぎりと噛んだ。
少女への安心感よりも先に。
少女が雷牙の言葉――君の名は、というその台詞を、微塵も信じることができないのが。
信じることができないような環境に晒されていた、というのが。嫌でたまらなかった。
「――それは違う....ッ」
思わず、雷牙は声を、発していた。
「人間はおまえを殺そうとするような奴らばかりじゃねぇんだッ!」
「.........」
少女は目を丸くして、雷牙を見つめる。
そしてしばしの間、もの問いたげな視線で雷牙の顔を見つめたあと、小さく唇を開いた。
「......そんなはずがない」
「本当だ!」
「違う。私が出会った人間たちは、皆私は死ななくちゃならないと言っていた」
「そんなわけ.....ねぇだろうがッ」
「......」
少女は何も答えず、後ろを向いた。
まだ雷牙の話が信じ切れないのだろう後ろを向いた途端少女が雷牙に問う。
「.....じゃあ聞くけど。貴方は
「っ、それは――」
『雷牙、待ちなさい』
雷牙が言おうとすると同時に、琴里の声が右耳に響いてきた。
「――また選択肢ね」
琴里は手に顎を置きながら、スクリーンの中央に表示された選択肢を見つめた。
①「もちろんお前に会うためだ」
②「知らねぇよ、そんなん」
③「偶然だろ、偶然」
手元のディスプレイに、瞬時にクルーたちの意見が集まってくる。①が人気だ。
「②は、さっきの反応を見る限り駄目でしょうね。――雷牙、無難に、お前に会うためだとでも言っておきなさい」
琴里がマイクに向かって言うと、雷牙が画面の中で立ち上がりながら口を開いた。
『お前に会うためだ』
『.........?』
少女が、きょとんとした顔を作る。
『一体何のために?』
少女が首を傾げてそう言った瞬間、またも画面に選択肢が表示される。
①「お前に興味が湧いたんだ」
②「お前と、愛し合うためだ」
③「お前に一つ訊きたいことがある」
「んー......どうしたもんかしらねぇ」
琴里があごをさすっていると、手元のディスプレイには②の回答が集まっていった。
「まぁ、いいでしょ。①や③だとまた質問を返されるだろうし。――雷牙。君と、愛し合うためだ、よ」
マイクに向かって指示を発する。
「あー.....その、だな」
「なに、言えないの?あなたは理由もなく私のもとに現れたの?それとも――」
少女の目が、険しいものになっていく。雷牙は慌てて声を発した。
「お、お前と...愛し合うため....だ?」
雷牙が言った瞬間、少女は腰に掛けてある刀を抜き横薙ぎに振り抜いた。
瞬間、雷牙の頭のすぐ上を刀から出る風の刃が通り抜け――教室の壁を切り裂いて外へと抜けていった。
「うぉ.....ッ!?」
「.....冗談はいらない」
ひどく憂鬱そうな顔をして、少女が呟く。
「......っ」
――ああ、また、この顔だ。
雷牙が大嫌いな、この顔だ。
自分が愛されるなんて微塵も思っていない、世界に絶望した表情だ。
雷牙は、その顔をみると思わず声を発していた。
「俺は.....ッ、おまえと話をするためにここにきたッ!」
雷牙が言うと――少女は意味がわからないといった様子で眉をひそめた。
「.....どういう意味?」
「そのまんまの意味だ。俺はおまえと話がしたい。内容なんかなんでもいい。気に入らないものだったら無視してくれていい。でも、一つだけ言わせてくれ――」
『ちょっと雷牙、待ちなさい!』
琴里が、慌てて諌めるように言ってきた。多分、今士道側の方にサポートにまわって忙しく突然のことすぎて反応が遅れたのだろう。しかし雷牙は止まらなかった。
だって、今までこの少女には手を差し伸べる人間が誰もいなかったのだ。たった一言でもあれば状況が違ったかもしれないのに、その一言をかけてやる人間が、一人もいなかったのだ。
雷牙には父が、母が、そして
でも、彼女には、否定する人がいて肯定する人が誰もいなかったのだ。だったら――雷牙自身が言うしかない。
「自分がいらない存在?ふざけんな!いらなかったらこの世界に生まれていないだろうが!そんな自虐的で自分の事を責めるなら、俺はお前の思考を否定して――」
「正してやる!」
雷牙はだん、と足を踏みしめると、一言一言を区切るように言う。
「.........!」
少女は眉根を寄せると、雷牙から目を剃らした。
そしてしばしの間黙ったあと、小さく唇を開く。
「.......確かライガ。てっいったよね?」
「――ああ」
「本当に、私を否定して正してくれるの?」
「本当だ」
「本当に本当?」
「本当に本当だ」
「本当に本当に本当?」
「本当に本当に本当だよ」
雷牙が間髪入れず答えると、少女はあごに手を置き、顔の向きを戻してきた。
「――ふん」
「誰がそんな言葉に騙されると思ってるのバーカ」
「っ、俺は――」
「....まぁ、あなたは信頼できる。だけど、どんな腹があるのかは知らない。だから....この世界の情報を得るために少しだけ利用する」
言って、もう一度ふんと息を吐く。
「......どゆこと?」
「話しくらいするんでしょ?だからその対価としてこの世界の情報を得る。わかった?」
言いながらも――ほんの少しだけ、少女の表情が和らいだ気がする。
「お、おう、そうだな....」
雷牙は頬をポリポリとかきながらそう返した。
雷牙が困惑していると、左耳に琴里の声が響いた。
『――まったく無茶してくれるわね。まぁ、上出来よ。そのまま続けなさい』
「了解だ」
と、少女が小股で教室の外周をゆっくりと回り始めた。
「ただし私が、不審な行動だと思ったらあなたの身体に風穴が開けるから」
「.....わかった、従うよ」
士道の返答を聞きながら、少女がゆっくりと教室に足音を響かせていく。
「ライガ」
「ん?、なんだ?」
「――早速聞くけど。ここは一体何処なの?初めて見る場所だから教えて」
言って、歩きながら倒れていない机をペタペタと触り回る。
「....ああ、学校――教室、そうだな、俺と同年代くらいの人たちが勉強する場所だ。その席に座って、こうだ」
「へぇー」
少女は驚いたように目を丸くした。
「これに全ての人間が収まるの?冗談でしょ?四十近くあるのに」
「いや、本当なんだよこれが」
いいながら、雷牙は頬をかいた。少女が現れるときは、街には避難警報が発令されている。少女が見たことのある人間なんて、ASTくらいのものだろう。人数もそこまでは多くはあるまい。
「なぁ――」
少女の名を呼ぼうとし雷牙は声を詰まらせた。
「なに?」
雷牙の様子に気づいたのだろう、少女が眉をひそめてくる。
そしてしばし考えを巡らせるようにあごに手を置いたあと、
「.....そうね、会話を交わす相手がいるのなら必要ね」
そううなずいて、
「ライガ。――あなたは私を何て呼びたい?」
手近にあった椅子に寄りかかりながら、そんな事を言ってきた。
「......へ?」
言っている意味がわからず、問い返す。
少女はふんと腕組みすると、尊大な調子で続けた。
「あなたが私に名前をつけて」
しばし沈黙したあとで。
――クッソ重ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
雷牙は心中で絶叫した。
「え、マジ?俺がつけんのッ!?」
「ええ。どうせあなた以外と会話する気もないし。問題ない」
「うっわ、今〈プリンセス〉で忙しいのにこれまたヘビーなのが来たわね」
館長席に腰を掛けながら、琴里は頬をかいた。
「......ふむ、どうしたものかね」
艦橋下段で、令音がそれに応えるようにうなる。
艦橋にはサイレンが鳴っているとのの、スクリーンには選択肢が表示されていなかった。
AIでランダムに名前を組むだけでは、パターンが多すぎて表示しきれないのだろう。
それについて琴里は顎を手におき頭を悩ませていると、
『司令。その役目俺が一人でやってもいいか?』
雷牙が少女の名前決めを一人でやると言ってきたのだ。
「待ちなさい雷牙。焦って変な名前を付けたら取り返しのつかないことになるのよ?」
『――それはわかってる。だが、そっちも士道の方で手一杯じゃないのか?』
「うっ.....」
どうやら図星らしい。それもそうだ琴里たちは今、士道のサポートで手一杯な状態。今士道の方は〈プリンセス〉の名前決めをしている真っ最中なのだ。
琴里はため息を吐き、口を開く。
「わかったわ。そっちの方はあなたに任せるただし、変な名前をつけたら承知しないわよ?」
『御忠告どうも。任せろ名前はもう決まってるんだ』
どうやらもう名前は決まっているようで雷牙は妙に自信のある表情をしていた。
「そ、ならちゃっちゃと付けなさいそろそろ士道の方も終わるし」
『了解』
通信が終わると雷牙は少女の方に身体を向ける。
「なにしてるの?もしかして、まさか私を殺――」
「違うから安心しろ!」
長く話しすぎたようだ。少女が雷牙に半眼で睨みつけてきた。
「さっきのは、おまえの名前を決めていたからだ」
「.....決まったの?」
雷牙はうなずいて少女の名前を呼ぶ。
「お前の名前は――」
太股まであって透き通るような長い白い髪に、宝石を連想させるような紅い眼。そして、彼女が持っている白く輝く一筋の刃。
その名も――
「
自信がある雷牙は、そんな名前を即答で言った。
「ん?」
「どうだ?」
「.......」
少女はしばらく黙ると――
「まぁ、変な名前を付けられるよりマシね」
「さすがに俺でも名前は決められるわ!」
雷牙は叫ぶが、少女はそれを無視しすぐにトントンと雷牙に近づいてきた。
「それで――シロハてっ、どう書くの?」
「ん、それはだな――」
雷牙は黒板の方に歩いていくと、チョークを手に取り、『白刃』と書いた。
「ふーん」
少女が小さくうなってから、雷牙の真似をするように指先を――
「あ、ちゃんとそこにあるチョークを使えよ?指で書いても......」
言いかけて、言葉を止める。何故なら少女の指から風が出てきて黒板が削り取られ、綺麗な『白刃』の二文字が記されていた。
「なに?」
「.....すまん、なんでもないぞ」
「そう」
少女はそう言うと、しばしの間自分の書いた文字をじっと見つめ、小さくうなずいた。
「ライガ」
「ん?」
「白刃」
「へ?」
「白刃。私の名前よ。素敵ね」
「ああ、そうだな....とても良い名前だ」
何故か知らないが....ちょっと気恥ずかしかった。
雷牙は苦笑しながら頬をかいた。
だが、少女――いや白刃は、もう一度同じように唇を動かした。
「ライガ」
.....さすがに雷牙でも、白刃の意図はわかった。
「白刃....」
雷牙がその名を呼ぶと、白刃は満足そうに唇をにッと上げた。
「.....ッ!」
心臓が、何故かどくんと跳ねる。何かに恐怖を感じたわけではない。その笑顔を見たとたん、何かに掴まれた感じがした。だが、それがなんなのか知るよしもない。
今は白刃の笑顔を見れたことしか頭に入っていなかったのだ。
と、そのとき、
「――!?」
突如、校舎を凄まじい爆音と振動が襲った。
咄嗟に黒板に手をついて身体を支える。
「クソ、そろそろ来ると思っていたが今になってくるのかよ.....」
『雷牙、床に伏せなさい』
と、左耳に琴里の声が響いてくる。
「言われなくてもわーってるよ」
雷牙は言われたとおりに床にうつぶせになった。
次の瞬間、ガガガガガガガガガ――ッと、けたたましい音を立てて、教室の窓ガラスが一斉に割れ、ついでに向かいの壁にいくつもの銃痕が刻まれていった。
まるで紛争にいる気分だった。
「やっぱり
『確かに。雷牙の言うとおり精霊をいぶり出すためじゃないかしら。――ああ、それとも校舎ごと潰して、精霊が隠れる場所をなくすつもりかも』
「本当に....、無茶苦茶すぎるな....」
『その部隊に入ってるあなたがいうの?ま、今はウィザードの災害復興部隊がいるからね。すぐに直せるなら、一回くらい壊しちゃっても大丈夫ってことでしょ。――にしても予想外ね。こんな強行策に出てくるなんて』
と、そこで、雷牙は顔を上に向けた。白刃が、先ほど雷牙に対していたときとはまるで違う表情をして、ボロボロになった窓の外に視線を送っていた。
無論、白刃には銃弾はおろか、窓ガラスの破片すら触れていない。だけれどその顔は、ひどく痛ましく歪んでいた。
「――白刃ッ!」
思わず、雷牙は彼女の名を呼んでいた。
「.......っ」
ハッとした様子で白刃が視線を、外から雷牙に移してくる。未だ凄まじい銃声は響いていたが、二年三組と二年四組からの教室への攻撃は一旦止んでいた。外に気を張りながらも身を起こす。と、白刃が悲しげに目を伏せた。
「....早く逃げて、ライガ。私と一緒にいると、討たれることになる」
「知るかよ....っ!」
雷牙は一言いうと、白刃の近くにある椅子に座った。
「え――?」
白刃が目を見開く。
「何をしているの?早く――」
「だから知るかってのそんなこと。今はお前と俺との会話タイムだ。あんなやつら気にするなよ。――この世界の情報、もっと欲しいんだろ?俺が答えられる範囲なら何でも教えてやる」
「......ふふ、やっぱあなた可笑しいよ」
白刃は一瞬驚いた顔を作ってから、雷牙の行動に少し笑い。雷牙の向かい側の椅子に座り混んだ。
◇
「―――」
ワイヤリングスーツに身を包んだ折紙は、その両手に巨大なガトリング砲を握っていた。照準をセットして引き金を引き、ありったけの弾を学舎にぶち撒ける。
とわいえ――
『――どう?精霊は出てきた?』
ヘッドセットに内臓されたインカム越しに、燎子の声が聞こえてくる。
燎子は折紙のすぐ隣にいるのだが――この銃声の中では肉声など届かないのだ。
「まだ確認できない」
攻撃の手を止めないまま、答える。
折紙は自らも銃を撃ちながら、目を見開いて崩れゆく校舎をじっと睨めていた。通常であればまともに見取ることすらできない距離だったが、
と――折紙は小さく目を細めた。
二年四組。折紙たちの教室。その外壁が、折紙たちの攻撃によって完全に崩れ落ち――ターゲットである精霊の姿が見えたのだ。
だが――
『.....ん?あれは――』
燎子が訝しげな声を上げた。
それはそうだろう。教室の中には、精霊の他に、もう一人少年と思しき人間が確認できたのである。――逃げ遅れた生徒だろうか。
「な、何あれ。精霊に襲われてる――?」
燎子が眉をひそめながら声を発する。
だけれど折紙はそれに反応を示すことなく、ただ教室をじっと見つめ続けた。精霊と一緒にいる少年の姿に、見覚えがある気がしたのである。
「――――!」
折紙は、目を見開いていた。
だってその少年は――折紙のクラスメート・五河士道その人だったのだから。
「――折紙?」
隣から、燎子が怪訝そうに話しかけてくる。たが折紙は答えず、ただ頭の中に指令を巡らせた。
全身に纏った
「ちょっと、折紙!?」
『――危険です。単独専行は避けてください』
さすがに異常に気づいたのだろう、燎子と本部から通信が、ほぼ同時に響く。
しかし折紙は止まらなかった。すぐさま両手に携えていたガトリングを捨て、腰に携えていた近接戦闘用の対精霊レイザー・ブレイド〈ノーペイン〉を引き抜いて、校舎へと向かっていった。
だが、校舎に向かう途中。視界に二年三組の教室が入るが、折紙は気づかなかった。そこには士道と同じぐらいに大切な人がいたことを知らずに。
◇
一方その頃士道は銃弾の吹き荒れる二年四組の教室で、女の子
.....当然ながら、生まれて初めての経験だった。十香の力なのだろうか、夥しい数の銃弾は、二人を避けるように、校舎を貫通していく。
とはいえ目の前を弾が通り抜けていくなんて、日常生活でそう体験できるものではない。少しでも動いてしまったら着弾するような気がして、士道は身を硬直させながら会話を続けていた。
会話の内容自体は、なんてことのないものである。十香が今まで誰にも聞けなかったようなことを質問し、士道が答える。ただそれだけの応酬で、十香は満足そうに笑った。
そしてどれくらい話した頃だろうか――士道の耳に、琴里の声が聞こえてきた。
『――数値が安定してきたわ。もし可能だったら、士道からも質問をしてみてちょうだい。精霊の情報が欲しいわ』
言われて、少し考えを巡らせてから士道は口を開いた。
「なぁ――十香」
「なんだ」
「おまえって.....結局どういう存在なんだ?」
「む?」
士道の質問に、十香が眉をひそめる。
「――知らん」
「知らん、て.....」
「事実なのだ。仕方ないだろう。――どれくらい前だったか、私は急にそこに
「そ、そういうものか.....ん?もう一人てっ誰だ?」
士道が頬をかきながら言うと、十香はふんと息を吐いて腕組みをした。
「詳しくは知らん突然この世に生まれ、そこには私と同じぐらいのやつがいたがその瞬間にはもう空にメカメカ団が舞っていてそいつに話すらも出来なかったのだ」
「め、メカメカ団....?」
「あのびゅんびゅんうるさい人間たちのことだ」
どうやらASTのことらしい。士道は思わず苦笑した。だが、士道はASTのことより十香と一緒にいたもう一人のことが気になったので十香に質問をする。
「.....なぁ十香。その一緒にいた人の特徴は覚えてるか?少しだけでいいから教えてくれると助かるんだが....」
十香は腕組みをしながらうーんと考える素振りを見せながら声を発する。
「....確か。白くて赤い目をしていたぞ後はスババーン、ズドドーンとメカメカ団から私のことをよく守っていてとても心強かった」
「――よく分からないが....琴里。何かわかるか?」
十香の説明が非常に壊滅的で士道にはよくわからずその特徴を元に琴里に訊いてみた。
『――そうねぇ.....多分だけど十香が言ってるのは〈ホワイト〉のことでしょうね』
「ホワイト?誰だそれ?」
『精霊の中で全身が白いからそう呼ばれている危険な精霊よまぁ詳しくは後で話すわ――!』
と、次いで士道のインカムから、クイズに正解したときのような、軽快な電子音が鳴った。
『チャンスよ、士道』
「は......?何がだ?」
『精霊の機嫌メーターが七十を越えたわ。一歩踏み込むなら今よ』
「踏み込むって......何すりゃいいんだ?」
『んー、そうね。とりあえず....デートにでも誘ってみれば?』
「はぁ......!?」
琴里の言葉に、士道は思わず大声を上げてしまっていた。
「ん、どうしたシドー」
士道の声に反応して、十香が目を向けてくる。
「ッ――!や、気にしないでくれ」
「......」
慌てて取り繕うも、十香はじとっとした訝しげな目で士道を見つめてきた。
『誘っちゃなさいよ。やっぱ新密度上げるためには一気にこう、さ』
「....んなこと言ったって、こいつ出てきたときにはASTが....」
『だからこそよ。今度限界したとき、大きな建造物の中に逃げ込んでくれるよう頼んでおくの。水族館でも映画館でもデパートでも何でもいいわ。地下施設があるとさらにいいわね。それなら、ASTも直接は入ってこれないでしょ』
「.....む、むう」
「さっきから何をブツブツ言っている。.....!やはり私を殺す算段を!?」
「ち、違う違う!誤解だ!」
視線を鋭くし、指先に光球を出現させた十香を、慌てて制止する。
「なら言え。今何と言っていた」
「そ、それは.....」
士道が頬に汗を滲ませながらうめくと、はやし立てるかのような声が右耳に響いてきた。
『ほーら、観念しなさいよ。デートっ!デートっ!』
そこで艦橋内のクルーを煽動でもしたのだろう、インカムの向こうから、遠雷のようなデートコールが聞こえてくる。
『デ・エ・ト!』
『デ・エ・ト!』
『デ・エ・ト!』
「あーもうわかったよッ!」
士道は観念して叫びを上げた。
「あのだな、十香」
「ん、なんだ」
「そ、その......こ、今度俺と」
「ん」
「で、デート....しないか?」
十香は、キョトンとした顔を作った。
「デェトとは一体なんだ」
「そ、それはだな....」
と、そのとき、右耳に、少し大きな琴里の声が入ってきた。
『――士道!ASTが動いたわ!』
「は......!?」
目前にいる十香にも聞こえてしまっているだろうが、士道は構わず声を発していた。
瞬間――いつの間にやら解放感に溢れていた教室の外から、折紙が現れる。
「――っ!」
十香が一瞬のうちに表情を険しくし、そちらに手のひらを広げる。それから一拍もおかぬうちに、手にした無骨な機械から光の刃を現出させた折紙が、十香に襲いかかった。
◇
数分前。
雷牙は二年三組の教室で白刃と椅子に座りながら、お互いに情報共有していた。内容自体は、なんてことないものだ。
ただ白刃が今まで誰にも聞けなかったようなことを質問し、それを雷牙が答える。それだけの応酬で、なぜか白刃は満足そうに笑った。それもそうだろう。白刃にとって会話は貴重なもので限界するとASTとの戦闘の繰り返しで誰も話をする人などいなかったのだ。
そしてどれくらい話した頃だろうか覚えてはいなかいが――雷牙の耳に琴里の声が聞こえてきた。
『――雷牙。〈ホワイト〉の数値が安定してきたわ。もし可能だったら、雷牙からも質問をしてみて。目撃例が少ない精霊だから情報が欲しいわ』
言われて、少し考えを巡らせ、雷牙は口を開いた。
「なぁ――白刃」
「なに」
「結局おまえはどういう存在なんだ?」
「.....」
雷牙の質問に、白刃が眉をひそめる。
「――わからない」
「わからないってそれはどういう.....」
「本当よ。しょうがないじゃない。――どれくらいだったかな、突然私は芽生えた。ただそれだけ。記憶は無く曖昧。私がどういう存在なのか、知ることが出来ない」
「そうなのか......?」
雷牙が腕を組ながら言うと、白刃はふんと息を吐いた。
「そう。突然この世に生まれて、その瞬間には空にハエが舞っていたの」
「は、ハエ....?」
「あのブンブン飛んでいる人間のこと」
「あぁ、ASTか」
雷牙は白刃の例えが面白すぎて思わず少し笑った。
と、次いでに左耳にはめているインカムから、琴里の声が聞こえてきた。
『雷牙、チャンスよ』
「....?何が?」
『精霊の機嫌メーターが七十を越えたの。一歩踏み込みなさい』
「踏み込むって.....あーそうゆうことか」
『察しが早くて助かるわ。んー、そうね。とりあえず....デートに誘いなさい』
「あーハイハイデートね.......デートォォ!?」
琴里の言葉に、雷牙は思わず大声を上げてしまっていた。
雷牙は勘違いをしていた。一歩踏み込む。つまり一緒にどこかに遊びに行くことだと思ったのだ。
まさかデートとは思わず答えてしまった。
それを聞いた琴里ははぁとため息を吐く。
「?どうしたのライガ」
雷牙の声に反応したんだろう。白刃が目を向けてくる。
「ッ――えと、....気にしないでくれ」
「........」
慌てて取り繕うとするが、白刃はじとっとした訝しげに目を雷牙に見つめてきた。
「さっきから一人で何を言っているの?....!やっぱり私を殺す作戦を!?」
「違う!誤解だ!」
「なら言って。今何て言ったの?」
「う.....」
雷牙が頬に汗を滲ませながらうめくと、白刃が目を細めながらジーと見つめてくる。
「はぁ...わかったよ」
雷牙は観念して白刃に口を開く。
「白刃」
「なに」
「その....今度良かったら俺と」
「うん」
「で、デートに行かないか!」
白刃は、目を見開きながら驚いた顔を作った。
「.....デートね....」
「ど、どうだ?」
白刃は腕組みをしながら少し考えると、
「いいよ」
「え?いいのか?」
「そっちから言ってきたんだから責任とってよ?」
「あ、ああ。そうだな任せろ!」
と、そのとき、
スドォォォォォン!!
隣の二年四組のクラスから大きな音と共に左耳から琴里の声が入ってきた。
『――雷牙!ASTが動いたわ!今すぐ〈フラクシナス〉で回収するから廊下に出て』
「わかった。悪い白刃。デートは明日行こう!んじゃまたな!」
「うん。また、ね。」
雷牙は二年三組に白刃を残して急いで廊下に向かい教室を出て廊下に行くと、突如不思議な浮遊感が襲い雷牙は〈フラクシナス〉に回収された。
白刃だけ残された二年三組の教室はなぜか寂しい感じになっていると感じた。
「.......呼んでる」
そう言うと白刃は椅子から立ち上がり左手を横にかざす。
「――
左手から白い刀が現れた。その刀は鞘は黒く少し金色の装飾あり、柄は白い、鐔は丸い金色で風の絵柄が施されている。刀の刀身は鎬造。
白刃その刀を右手で抜刀し、半壊した窓から隣の二年四組のクラスに向かって行った。
◇
溶接現場もかくやというほどの火花が、あたり一面に飛び散る。
「く――」
「――無粋!」
十香は一喝するように叫ぶと、光の刃を受け止めていた手を、折紙ごと振り払った。
「........っ」
微かに歯を食いしばりながら、折紙が後方へと吹き飛ばされる。――が、即座に姿勢を整えると、銃痕だらけの床に華麗に着地してみせた。
「ち――また、貴様か」
光の刃を受け止めていた手を軽く振りながら、唾棄するように十香が言う。折紙は士道を一瞥すると、安堵したかのように小さな息を吐いた。
しかしすぐに見慣れない武器を構え直し十香に冷たい視線を放つ。
「..........」
その様子を見た十香は、ちらと士道を一瞥してから、自分の足下の床に踵を突き立てた。
「―――〈
瞬間、教室の床が隆起し、そこから王座が現れる。
と、次の瞬間。
半壊した窓ガラスがあった場所から風が吹き。白い物体が十香の前に現れる。その正体は――
つい先ほど、雷牙と会話をしていた精霊〈ホワイト〉の少女。白刃が十香を守るかのように刀を折紙に向けていた。
十香は少し驚いてたが白刃の姿を確認すると、まるで友達みたいかのように、口を発する。
「おぉ来たか白いの!」
「呼ばれた気がしただけよ」
「おい白いの。今回は手出しは無用だいいな?」
「ふーん、わかった」
返答はそっけないが何故か白刃は十香を少しみて安堵したような気がした。
「な.....」
『士道、離脱よ!一旦〈フラクシナス〉で雷牙と一緒に拾うわ。出来るだけ三人から離れなさい!』
士道が呆然としていると、琴里が叫ぶのが聞こえてきた。
「んなこと言ったって......っ」
と、十香が王座の背もたれから剣を抜き、折紙に向かって振るう。
その際の衝撃波で、士道の身体はいとも簡単に、校舎の外に吹き飛ばされた。
「のわぁぁぁぁぁッ!?」
『ナイスっ!』
琴里の声が響くと同時、士道の身体が無重力に包まれる。不思議な浮遊感を感じながら、士道は〈フラクシナス〉に回収された。
◇
「.......やっぱ、あんなことが起こりゃ休校にはなるよな...」
雷牙は両手を頭の後ろに組みながら高校前から延びる坂道を下っていた。
雷牙が精霊に白刃という名をつけた次の日。普通に登校した雷牙は、ぴたりと閉じられた校門と、瓦礫の山と化した校舎を見て、自分の真面目さ?に阿保すぎて息を吐いた。
「うーん家帰っても暇だしなぁ......駐屯地に行ってCR-ユニットの整備でもしに行くか」
考えながら、家への帰路とは違う道に足を向ける。
確かつい最近燎子隊長から最近CR-ユニットの
と――数分と待たず、雷牙は足を止めた。道に、立ち入り禁止を示す看板がたっていたのである。
「...ちっ、通行止めかよ....」
だがそんなものがなくとも、その道を通行できないことは容易に知れた。何しろアスファルトの地面は滅茶苦茶に掘り返され、ブロック塀は崩れ、雑居ビルまで崩落している。まるで戦争でもあったかのような有り様だったのだから。
「――ん、確かここは」
この場所には覚えがあった。初めて白刃に会った空間震現場の一角である。まだ復興部隊が処理をしていなのだろう。十日前の惨状をそのままに残していた。
「.......」
空を見ながら少女の姿を思い浮かべながら、細く、息を吐く。
――白刃。
昨日まで名を持たなかった、精霊と、災厄と呼ばれる少女。昨日、前よりずっと長い時間会話をしてみて――雷牙は確信した。あの少女は確かに、普通では考えられないような力を持っている。国の機関が危険視するのもうなずけるほどに。
今雷牙の目の前に広がる惨状がその証拠である。確かにこんな現象を野放しには出来ないだろう。
「.....ガ」
だけれどそれと同時に雷牙は、彼女がその力をいたずらに振るう、思慮も慈悲もない怪物だとは、到底思えなかった。
「......ぇ、......ガ」
そんな彼女が、雷牙が大嫌いな絶望をしている顔を作っている。それが、雷牙にはどうしても許容できなかったのである。
「ねぇ、ライガ」
.....まぁ、そんなことを頭の中にぐるぐる巡らせていたものだから、気づいて当然の事態に思考がいかず、校門の裏まで歩く羽目になってしまったのであるが。
「......ねぇ、聞こえてる?」
「――あ?」
視界の奥――通行止めになっているエリアの向こう側からそんな声が響いてきて、雷牙は首を傾げた。凛と風を切るような、静かで美しい声。
どこかで.....具体的には昨日学校で聞いたことのあるような声。
......今、こんなところでは、聞こえてくるはずがない、声。
「え、ええと――」
雷牙は自分の記憶と今し方響いた声音を照合しながら、その方向に視線を集中させた。そしてそのまま、全身を硬直させる。
視線の先。
瓦礫の山の上に、明らかに街中に似つかわしくない白いドレスを纏った少女が、ちょこんと屈み混んでいた。
「し――白刃!?」
そう、そこには昨日学校で会話した精霊。白刃がいた。
ハイいかがでしたでしょうか。
オリ精霊の名前は白刃です白い刃に、白刃。格好いいですね。
因みに天使の刀のベースはデビルメイクライの闇魔刀を参照してください。
これもうクロスオーバーしてるかな?
さて、次回は白刃のデート編です。一体どんな風になるのか楽しみに待っててください。
次回:白いデート
貯め書きして、ある程度たまったら投稿した方がいいか?
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そうしよう。
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しなくてもいいです。
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どっちでもいい。