平凡な日常はすぐに非日常的になる

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続けようと思ったけど続かなかったので供養します


硝煙の香りは払えない

 私は、この世界は壊れていると思っていた。簡単に盗み、犯し、大切な人を殺す。罪を償うという建前のもとで何年か檻に入って時が経てば何食わぬ顔で私たちと同じこの地を歩く。そんな甘い世界が、私は壊れていると思っていた。

 

 私は、田舎の県立の高校に通うごく普通の高校2年生だ。ある土曜日、友達の家で夜ご飯をご馳走になり、帰りが22時をすぎてしまった。もちろん連絡は入れてあり、帰宅する時間も伝えてある。人気の少ない道を通り、山道に1件、ポツンと建っている家の前で自転車を降りる。いくら田舎だからといって、わざわざ山に住まなければいけないほど発達していない訳では無い。山から降れば普通にショッピングセンターやお店などが立ち並んでいるし住宅街もある。だが、祖父から継がれたという理由で父が引越しをしたがらないのだ。母も、それに同意している。娘からしたら学校も友達の家も遠いから、引っ越して欲しいと常日頃から訴えているが、両親は聞く耳を持たなかった。

 ただいま、と扉を開けるが、返事がない。代わりに、リビングの方から母の声が聞こえる。普段の会話とは違う、甲高い声。まるで、セクシー女優の演技の声みたいだ。

「お母さん? 」

 軽く声をかけ、リビングを覗こうとすると、母が大きな声で駄目と叫んだ。瞬間、鈍い音とともに母の悲鳴が家中に響いた。少し駆け足でリビングに飛び込むと、そこには全裸で倒れ込む母と、下半身裸の知らない男の人がいた。いるはずの父の姿はない。

「なんだ、娘がいたのか 」

 男は私を見ると不気味に笑ってみせた。

「やめて、娘には手を出さないで! 」

 母は泣きながら男にしがみつくが、再び男に殴り飛ばされてしまった。

「ちょうど、ババアの使い古しには飽きてたところなんだ 」

 ゆっくりと近づいてくる男に恐怖を感じ、私はその場から逃げ出した。隣接するキッチンに駆け込み、扉を閉めて座り込む。外からは押し扉なので、体重をかければ容易には開けられまい。少しだけ安堵の息を漏らした瞬間、私は衝撃を受けた。さっきまで焦っていて気が付かなかったが、目の前で父が大量の血を流して倒れていたのだ。

「お父さん! 」

 駆け寄り、体をゆするが反応はない。精一杯体を起こすと、父の体には何ヶ所も銃で撃たれたような跡が残されていた。私は腰を抜かし、後ずさる。吐き気が酷い。涙が溢れるが、口を抑えていないと戻してしまいそうで、拭うことは出来なかった。

 後ろで、扉が開く音がした。恐る恐る振り返ると、そこにはさっきの男が、笑顔のままでそこに立っていた。

 恐怖で声が出ない。悲鳴も、助けを求めることも、懇願することも出来なかった。男から逃げるように後ずさると、父のもとへと戻ってしまった。

「お前の父親みたいになりたくなかったら、服を脱げ 」

 拳銃をチラつかせ、肥大化した男性器を主張しながら脅してくる。私が首を横に振ると、男は期限を損ねたのか横にあった食器棚に発砲してみせた。轟音とともにガラスと皿の割れる音がする。顔を歪めたのは恐怖心が硝煙の鼻につく匂いだったのかはわからないが、従わなければ殺されると、私は服に手をかけた。

 上着を脱ぎ、置くために床に手を着いた時、なにやら硬いものが私の手に触れた。ブラを脱ぐ振りをして後ろを向き、それが何かを確認する。そこにあったのは、男が持っているものと同じであろう拳銃だった。

「どうした? 早く全部脱げよ 」

 男は不気味に笑い続ける。私はそれを拾い上げ、男に突きつけた。

 男は最初こそ驚いた表情をしていたが、次第に不気味な笑い顔に戻っていく。

「そういえば、お前の父親に奪われたもんをすっかり忘れてたぜ 」

 男は笑いながら続ける。

「あん時は焦ったな。だが、お前の父親、銃を構えたときめちゃくちゃ足が震えてたんだぜ? あれは傑作だったな 」

 男は笑いながら私に銃口を向ける。

「5秒だけ待ってやる。そいつを捨てて、股を開きな。そうすれば命だけは助けてやる 」

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 呼吸が荒くなるのがわかる。緊張感か、恐怖心か、怒りなのか、それともその全てなのかはわからない。

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 撃たなければ殺される。でも、銃を捨てたら犯される。

 3

 非情にもカウントダウンは続く。どうしたらいいのか、分からなくなる。

 2

 いや、待てよ。男は数える時間を作っている。つまり、その最中は隙だらけではないか? 

 1

 私は混乱状態に陥っていた。

「動かなくなった肉塊に入れる趣味はねぇが、約束の時間だ。さようなら、悲劇のヒロインちゃん 」

 耳を劈く轟音とともに衝撃に襲われ、私は父の亡骸に倒れ込んでしまった。銃口からは硝煙が立ち上っていた。やはり、この匂いは少し苦手だ。男の方を見ると、拳銃を持ったまま倒れていた。眉間に1発だ。不思議と、さっきまでの恐怖心が嘘のように無くなっている。その場に拳銃を投げ捨て、母のいたリビングへ向かう。

 母の体にはいくつもの痣があり、顔は形が変わってしまっている。おそらく、殴殺だろう。辺りを見回すと、男のズボンと母の服が脱ぎ散らかされていた。そこに、もうひとつ拳銃が置いてあった。私はそれを拾い上げ、通学用のカバンの中にねじ込んだ。

 警察に通報すると、山奥だと言うのにすぐに駆けつけてくれた。それから1週間ほど事情聴取や精神鑑定などで時間を使い、なかなか学校には行けなかった。指紋の鑑定で私が撃った事が発覚したからだ。しかし幸いなことに、正当防衛という扱いになりお咎めはない。正直、父と母を失った事の方が私の心を傷つけているため、何年もの求刑を言い渡されても辛くない自身はあったが。

 1週間が経つと、私は普通の高校生として再び学校に行くことが出来た。



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