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錬金術のアトリエ 19
「おう……コル助」
夕食の壺屋……ロジーとコルネリアと、親衛隊の職人さん2人で食べていると、ハロルが通り掛かった。
ハロルも壺屋で食事を取る事は多い。
「今日は焼いたイモに合うと思うです」
コルネリアは手を上げて言う。
壺屋では、イモは煮るのか焼くのか蒸すのか選べる。
「最近は油がいいんだな。いっつも焼いてもらってるよ」
同じテーブルの「コルネリア露店の看板娘、コルネリアを応援する会」会員……
職人のおじさんも、そう言って笑う。
賑やかな壺屋の夕食時……
それがコルネリアにとっていつもの風景となった。
壺屋を出ると、ロジーは帰るが、コルネリアは壺屋前に残る。
壺屋前に順番待ちをしている職人さん、商人のおじさんと話す時間だから、見逃す訳には行かない。
それもいつもの風景だ。
この日は、丁度順番待ちが居なくなった時に、ハロルが出てきた。
コルネリアも鍛冶屋に行こうとした時だ。
「ハロルさん、おやすみです」
コルネリアが声を掛ける。
「おう……あ……お前、ちょっと時間あるか?」
ハロルも、いつものように裏酒場へと足を向けようとして、でも立ち止まった。
「……何か入り用ですか?お酒は飲みませんが……ホットミルクを飲みにカフェなら……付き合えるです」
コルネリアは何となく……
商売の話ではない予感がしたものの、付き合う事にする。
人付き合いは商人にとって凄く大事な事だし、夜のカフェは……
子供子供してるコルネリアとしては入りづらい。
……そして夜のカフェへ……
ホルストは寝ていた。
カウンターで座り、ガン寝している……
お客さんは居ないようだった。
「……最近は俺も、酒場つったら裏酒場だからな……こっちはこんなもんだ」
ハロルはカウンターに座る。
コルネリアは店内を見回す。
いつもならここは……
カリカリトーストとホットミルクを囲んで、旅はこれから……
依頼をさぐったり割り当てたり……
色々と初めて知る事も多い、旅を始める場所。
……ホルストさんの守るこの場所は、必ずしも賑やかではないのですね………
コルネリアはそう思いながら、がらん、としたカフェを見回す。
「酒と……ホットミルクを貰えるか?」
ハロルが声を掛けて、ホルストが起きた。
「おお……!……これは……コルネリアさんとは珍しいですね?」
ハロルとコルネリアはテーブルに移る。
ホルストは起きると、しっかりとした足取りで裏に消えた。
「何か……初めて来たカフェに、ドキドキです……」
コルネリアは目を輝かせて回りを見回す。
誰も居ないテーブル……
誰も居ないピアノ……
誰も居ないカウンター……
「誰も居ないからザワザワするんじゃないか?本当にそれはドキドキか?」
ハロルは天井を見上げて言う。
「ところで今日はどうしました?ハロルさんからのお誘いなんて……思ってもみなかったですけど……まさか……」
コルネリアは口許を隠して、色っぽいポーズを取る。
職人さんにウケるポーズ。
「……レオンから聞いてな……つまりはレオンの差し金だな……」
胸を突き出したコルネリアのポーズに、ハロルは胸に手を伸ばし、コルネリアは突き出した胸を引っ込める。
「すると……色っぽい話です?」
ハロルは伸ばしたままの手をわきわきと動かす。
思わずコルネリアは笑い、ハロルも少し笑って伸ばした手を収める。
「まあ、そんなトコだ……」
ハロルはホルストの消えたドアを見る。
「ど、どんな話になるですか?」
コルネリアは尋ねる。
何か秘訣でも教えてくれそうな空気……
悩みも解決に向かうかも……
なんて期待もしてみる。
「何か別れそうな雰囲気だから何とかしてくれ……と言われたが……俺にとってはどうでもいいと正直思っているな……ホルストは……裏で寝てないか?」
ハロルはホルストの消えたドアを見たまま、そう話す。
「ふむ……確かに……今まで好きだったロジーさんが……今は頑張って好きになろうとしてるです……」
別れそうな雰囲気……
傍目にもそうなのだろう……
いや、レオンさんには話したような……
「……じゃ、嫌いなんじゃねえか。まあ……あんなスカした童貞野郎、好きになっても続かないだろうな。さっさと別れちまえ。そしたら、何とかなった事になる」
ハロルは、そう言って笑う。
……何ともハロルさんらしい邪悪な笑みを浮かべて………
「ハロルさんは、ロジーさんが嫌いですか?……嫌いみたいですが……」
……まあ、ハロルさんに何か期待しても……
そして安心するくらいハロルさんらしい意見だし……
コルネリアはそう思いながら、あまり表情を変えずに聞いてみる。
「まあ、酒も飲めない鍛冶屋から出てこない……だからな。これで愛想も無ければ少しは話せたかもだが……あの童貞野郎はよく分からないからな」
ハロルは言う。
今や冒険者の求める武器、人気ナンバーワンはハロルのナイフ、手榴弾だったりする。
手榴弾と言っても音だけの品物で、魔物を驚かす効果があるらしい。
豚ネズミも出てくる。
そしてフラム大先輩よりも手軽に扱えて、軽いし安いし小さいし、オシャレなのだ。
……完全に時計屋ではない……
「ところで……ドーテーヤローってなんです?初めて聞いたです」
それはともかく、初めて聞く言葉に、意味を聞いてみる。
……なんとなく貶す言葉なのは分かるけど……
「……マジか……まあ……ソフィーにでも聞いておけ。調子狂うな……」
ハロルはそう言って頬杖をつく。
「……?ソフィーさんが詳しいのです?」
コルネリアは、ドーテーヤローについて考えながら、聞いてみる。
「……ホルストの野郎……さては寝てるな……よし、俺からは言ったからな。もう帰るぞ」
ハロルは立ち上がると、そそくさとカフェを出て行った。
……レオンさんの差し金……
ドーテーヤローだからしょうがない、別れちまえ……ってだけだった。
「……ドーテーヤロー……これが鍵なのかも知れない……と、言う事なのでしょうか……」
コルネリアはそんなハロルを見送って、ホルストの消えた裏へのドアを叩く。
……コンコンコンコン……
しばらく待つとホルストが出てきた。
「ははは……ついつい寝てしまいました。湯煎するミルクを眺めていたらついつい……」
そう言ってホットミルクをカウンターに出す。
コルネリアはカウンターの高い椅子に飛び乗り、座る。
「ホルストさんは……疲れてるのではないですか?昼も夜もカフェに居るのです?」
いつもなんとなく疲れた顔……
いや眠そうな顔をしているし、聞いてみる。
「まあ……そうですけれど……ハロル君は帰ってしまいましたか」
ホルストは言葉を濁し、がらん、としたカフェを眺める。
「はい……ところで、ドーテーヤローとは何でしょう?」
コルネリアは首を傾げて尋ねる。
「……ハロル君から聞いたのですね?童貞とは、女性経験の無い男性を言う言葉ですね。ドーテーヤロー……となると、傍目から女性経験がないのだろうな……と思わせる男性の事ですね」
ホルストは苦笑いしながら答える。
……子供には教えられない……
とか言わないのが、ホルストさんの良いところだなぁ……
と、コルネリアは感心する。
「ほほう……なるほどなるほどです……ハロルさんがロジーさんに言っていたのですが……なるほど……的を射ていると言わざるを得ないですね……」
コルネリアは納得する。
「コルネリア露店の看板娘、コルネリアを応援する会」のオジサン達、商人のオジサン達、ジュリオにオスカーと比べても、ロジーが段トツでドーテーヤローだ。
……いや、オスカーはドーテーヤローの素質アリかも……
「ははは、なかなか厳しいですね」
ホルストは更に苦笑いする。
……このコルネリアという子は、何かふっきれた所があるな……と再確認しながら。
「……私はロジーさんが好きで……押し掛け女房してたのですが……最近は好きでもないのです。頑張って好きになろうとしているのですが……どこをどう頑張ったらいいのやら……」
コルネリアはホットミルクを見つめて話す。
前に……ロジーにも話した事……
……ホルストはそんなコルネリアを眺める……
……少し沈黙があって……
コルネリアはホットミルクに口をつける。
少しして、ホルストは話し出した。
「さて……以前そのような女性が居ました。どの男性も続かない……そんな女性でしたが……別れた男に、また惚れてしまいまして……なかなかの修羅場となった事を思い出しました」
その話を聞いて、コルネリアは自分を思う。
……どの男とも続かない……
ってのは分からないけれど、何か当てはまりそうだと感じた。
「ふむ……私も、そういう性格なのでしょうか……」
コルネリアはホルストを見る。
「そうかも知れませんし、そうでないかも知れません。ですがこの話で大事なのは……今のロジー君を好きになれなくても、将来ロジー君がどう化けるか……!その時に惚れ直してももう、そのロジー君の隣には、誰か他の女性が居る、と言う事でしょう」
……別れた男に惚れ直した女を思い出して、ホルストは語る。
……確かにダメな男だったが、結婚して豹変した男……
それに惚れ直した女……
でもその時に男には妻が居て……
……ホルスト裏酒場で派手な喧嘩になっていた……
そんな、ホルストにとっては懐かしい話をした訳だ。
「惚れ直した時……ロジーさんは他の子と居るでしょうか……」
コルネリアはロジーを思う。
……いやらしい顔で自分を見るロジー……
あまり気の利いた話をしない人……
眠ってるのに起こすし……
今やあまり良いイメージが無い。
……なんかもう、側に寄るとぞわぞわイライラするし……
ただただ、残念なイケメンとしか……
「まあ……分かりませんが……大抵大化けする男性の傍らには、大化けさせる女性の影があるものですよ。コルネリアさんが、ロジー君をどう化けさせるか……そう考えると、頑張り方と言うのも見えてくるのではないでしょうか?」
大化けする男性……
この言葉に、コルネリアは自分の露店を思い出す。
コルネリア露店も……
いずれ大化けするはずなのだ……
ショボい露店……
ショボい男……
……そうか……
これからか……
何でかロジーさんについては、今しか見えていなかった。
「……なるほど……!さすがホルストさんです……なんと的確なアドバイスなのでしょうか……で、ホルストさんの傍らには……」
コルネリアは明るい顔になり、口許を隠してホルストを見る。
「ははは、それはヒミツです。もう帰ってあげないと心配するのではないですか?」
何か悩みも飛んだようなコルネリアを見て、ホルストは素直に笑う。
「今日はここに来て良かったです……ふふふ……ロジーさん改造計画……これで行くです!」
コルネリアは意気揚々とカフェを出た。
「さて……上手く行くと良いのですが……」
ホルストは、コルネリアの出たカフェの入り口を見つめて呟く。
コルネリアはカフェの横の井戸水を汲むと、鍛冶屋へと帰る。
鍛冶屋も火が消えて寂しい。
カフェはお洒落でいて……
それで寂しいから、何かコルネリアの琴線に触れる物があったけれど……
こちらには無かった。
……ともかく地下の寝室へと降りる。
「……ただいまです」
地下のドアを開けて、コルネリアはネコ目の笑顔で帰る。
「あれ?なんか機嫌がいいみたいだな。おかえり」
黒いソファーでくつろいでいた、ロジーが顔を上げる。
木材の細工をしていたみたいだった。
「ふふふ……今日はもう眠いのですけど……明日はぷにちゃんを頼って来るです。ロジーさん……明日はデートしましょう」
井戸水の桶を置いて、歯磨きの準備をしながら、コルネリアは言う。
……この井戸水の桶は随分と増やした。
おかげで返すのは明日でいいから、キルヘンベルの人々の水事情は随分良くなった。
「……そうだな……夜に行くのか?」
「夜でもいいですけど、お昼でもいいです」
コルネリアはコップと歯磨きセットを持って、地下室から出る。
歯磨きは鍛冶屋の外でするから、一苦労だ。
星空を見上げながら歯磨きをする。
キルヘンベルで1番可愛い歯ブラシも量産しまくったから、歯ブラシにシンボル描くサービス、なんてのもやってる。
ロジーの地下室へと戻り、着替える。
いつもの服と帽子を外して、髪も解いて……
……ロジーさんが黙って見てる……
コルネリアはそう思う。
その姿を見るまいと背中を向けたまま、白いつやつやコットンの肌襦袢を着る。
着てからロジーの座るソファーを見る。
……先に寝ると、ロジーさんはソファーに寝てしまうから申し訳ない……
そう思う。
「ロジーさんは、まだ寝ないです?」
コルネリアはロジーの座るソファーの、隣に座る。
なんだか触れ合うとイヤな、ぞわぞわがするから、少し離れて座る。
「まあ……いや……寝ようかな……」
ロジーも気まずそうに話す。
嫌っている話もロジーにしているので、ロジーとしても過ごし辛そうなこの頃。
「おさわりはダメですよ?起きちゃいますので……」
コルネリアは明るい声色でそう話す。
そんな声色を選ぶのにもやたら意識して、努力している感じだ。
「それは残念だな……」
でも少し安堵させたのか、ロジーの声も曇りが晴れる。
「それは明日、私も気合い入れてやりますです」
コルネリアはそう話して、つい先程のホルストさんとのやり取りを思い浮かべる。
そしてロジーの胸に身体を寄せて、ポカポカ叩く。
「気合い……?」
コルネリアの、なんだか可愛いポカポカを受けながら、ロジーはそう尋ねる。
「そうです。私は今……あまりロジーさんを好きではないのです……むしろ嫌いです」
コルネリアはロジーの胸に頭を付けて話す。
誰だか分からないくらい近くなると、嫌な気持ちがごまかせたりする。
「それは前も聞いたよ……」
少し呆れたように、ロジーは呟く。
勝手に好きになって押し掛けて来て、嫌いになったとか言いだしてるのだから、呆れた話ではある。
「ひょっとしたら私は、誰に対しても恋心の冷めるのが、早い人なのかも知れません。そして、私が決めたロジーさんを、私が好きじゃないなんて……あり得ないのです」
コルネリアはロジーの胸に頭を付けたまま、決意を込めてそう話す。
「ん?……おお……?」
ロジーさんはそう声を出した。
「私は……ロジーさんが大好きで、ロジーさん以外の人は考えられません。そう決めました……そして私は結構頑固なんです」
コルネリアはソファーに座り直す。
「コル助は……出会いからしてなんか普通じゃない気がしてたけど……今も普通じゃない気がするな……」
ロジーはそう呟くように言う。
「おさわりはダメですけど、ロジーさんが寝る時には抱っこして下さい……おやすみです」
コルネリアはそう言うとロジーに微笑みかけて、ベッドに眠る。
……朝に起きる。白いつやつやコットンの肌襦袢は乱れていて、帯も取れてる。
……時計は6時……
……もう7時になりそうだ。
……結局、おさわりしてジロジロ見てたんだろう……
とは思うものの、起きた訳でもないから、怒らない事にした。
そしてベッドに寝ているロジーは起きない。
「ロジーさん……朝ですよ」
乱れた肌襦袢のまま、コルネリアはロジーを揺さぶる。
「あ……ああ、おはよう……」
ロジーは起きる。
……寝癖が凄い。なんだか可愛く見える。
「今日は鍛冶屋の手伝いに来ます。まずは色々とありますので、お昼過ぎくらいから……だと思いますけど……」
コルネリアは例によって口許を隠して、言う。
「……そ、そうなのか?……分かった」
そして井戸水で顔を洗ったり……
そして1日が始まる。
「コルネリアさん、おはようございます」
教会の子供の女の子、エミーが挨拶する。
コルネリア露店を専門に働いてくれる事を決めてくれた子だ。
そして後3人、日替わりの子供が来る。
コルネリアは子供を多めに雇っているので、子供にとっては楽な仕事、の部類に入る。
椅子もあるしお客さんも優しいし……
表ストリートの仕事は人気だとか。
その中でも1番人気だ。
「おはようです。朝ミルクから行きましょう!」
朝の八百屋。
その子供達と朝のキルヘンミルクを飲む。
もはや朝の風物詩となっている。
「では、まずは色々と調達して来ます。お店はお願いします」
午前中、鍛冶屋の地下に行って、増やす物リストの物を調達する。
ロジーが窯の火を起こす頃……
コルネリアの家は引き払ってしまったので、今やこちらが家なのだ。
背負い籠に調達品を背負って出てくるのは1時間程後。
SPバリアの許す限り増やせるけど、この回復は遅い。
1日20%程の回復。
HPMPLPバリアと違って回復しづらいのだ。
ソフィーの登録した、フラム大先輩、レヘルン先生を増やすのが現状では1番辛かったりする。
増やし辛いものは売値が高く、増やしやすいものは安く設定してたりする。
……なのでコルネリア露店は売値が謎めいている。
高そうな物なのに安かったり、ゴミみたいな物なのに高かったりするので、値札が非常に大事になる。
そして、豚ネズミ調達用のフラム大先輩が、そこそこ売れたりするので油断ならない。
そんなコルネリア露店ワークだけど、平日なのでヒマヒマだったりする。
子供達は商品磨きしながら、お互いの話をしていたり。
そんなほのぼのした露店ライフ。
「コルネリアさんは、冒険行くの楽しいですか?」
子供の1人が尋ねる。
「それはもう……色々な景色……動物なんかを見られますし、ワクワクが止まりません」
前にも会った子ですね……と思いつつ、コルネリアはそう話す。
あまり見ない子供も居たりする。
「俺も冒険者になりたいんだよ。だから裏酒場の手伝い専門でやらせてもらってたんだけど……足をケガしちゃってさ……」
でも、コルネリア露店の手伝いは今日が初めてだと言う7歳の男の子がそう話す。
右足の骨を痛めたみたいで。
「ほほう。薬は塗ったですか?」
コルネリアはその子の足を見る。
「うん。火傷の薬みたいだけど、ケガにも効くって」
「ふむ。これを使うときっともっと効くです」
コルネリアは商品の棚から、山師の薬を渡す。
「これ、高いんだろ?」
男の子は意外そうな顔をして尋ねる。
「人の役に立つ為の物です。これは随分と出番を待っていまして……ちょっと待ちくたびれているくらいですから……あなたが使ってあげて下さい」
ヒマヒマなコルネリア露店、そんなやりとりをしつつ、午前中を過ごす。
「お昼です!ロジーさん!」
明るい顔をしてコルネリアが鍛冶屋に現れた。
いつもお昼は、カフェ裏広場で食べるのが常だ。
「おお……そんな時間か……」
ロジーは剣を仕上げていて、コルネリアの声に顔を上げる。
窯に寄っていて大汗をかいていた。
「やはり……窯の似合う男は格好いいです……」
コルネリアは、ロジーの汗を拭く為のふわふわクロースを取りに行く。
ついでに鍛冶場の片隅に干してある、肌襦袢も仕舞う。
ロジーはそんなコルネリアを優しい笑顔で見送る。
……少しギスギスして来たと思ったけれど……
そうでもなさそうだ……
そんな安堵を思う。
カフェ裏広場へと行くと、職人のオジサン達、商人のオジサン達も居る。
皆、ここが皆の昼食、定番の場所となる。
「おう、コル助」
「もー、女の子にコル助はないんじゃないの?」
レオンとハロルも、楽しそうに昼食を取っていた。
「何かコル助で馴れちゃいましたので……ハロルさんはもう、コル助でいいです」
ご機嫌のネコ目で、コルネリアは言う。
そして昼食のテーブルを一緒にした。
増やして欲しい物リストを追加するチャンスなので、聞いてみたりする。
そんな昼食タイム。
「さて、鍛冶屋のお手伝い、しますよ~……」
昼食が終わり、コルネリアはロジーと鍛冶屋に戻る。
「手伝いも何も、今は暇なだけだけどな……」
ロジーは呟き、窯の火を見る。
「注文も無いです?」
「ああ……ひとしきり皆の手に回った感じするからな。そうそう買い換えないだろ?」
「なら、デートするです。閉めちゃいましょう」
「いや、鍛冶屋ってのは……まあ……行くか……」
ロジーは窯の火を落とし、店を閉めて……
コルネリアに連れられて近くの森へと歩き出す。
「近くの森って言うけど、遠いんだな……」
ロジーは呟く。
「ロジーさんは遠出しないですから……私も最近は荷車に乗ってばかりなので……人の事は言えないですけど……」
そう言いながらも、コルネリアは汗もかいていない。
歩き辛そうな靴で、手甲をふらふらとさせながら器用に歩くのだ。
「……鍛冶屋もなんか、この村には合わないみたいだし……俺……なんか自信がないんだよな……」
コルネリアの後ろを歩くロジーは呟く。
ただ、その時に少し風が吹いた。
……コルネリアは聞こえてなかったのか、森への道を歩く。
時折茂みを見つめたりしながら……
「ロジーさんに勧めたい事があるです」
少し森に入った所の、大きな切り株にコルネリアは座る。
ロジーもため息をつきながら座った時に、コルネリアは言い出す。
「……何だ?」
ロジーはコルネリアの手甲を見る。
近いとこいつがごつごつと当たる。結構デカくて硬い。
「ロジーさんも冒険に出るです。ロジーさんは武器を扱えるように見えませんが……どんな武器を使うです?」
コルネリアはロジーを見上げる。
ポックリで派手な底上げをしてる分、座って並ぶとやたら小さくなる気がする。
「……剣……かな……」
ロジーはコルネリアから目を逸らして、答える。
「なら剣を使って行ってみるです。ソフィーさんのパーティーだと、今やトンデモな場所に行きますから……冒険者のパーティーででも行かないと……武器を作っても信用されないです」
コルネリアはそう話す。
その声は悲しそう……
と言うよりも悔しそうな……
ロジーはコルネリアを見ると、少し潤んだ目をしていて、悔しそうな顔をしていた。
「いや……俺はちゃんと鍛冶屋で修行してだな……」
ロジーは目を逸らす。
……逸らしてしまう……
「……行きたくないです?」
コルネリアは少し怒ったような顔で言う。
ロジーは目を逸らしたまま……
面倒な事になったな……
と頭を掻く。
「鍛冶屋はどうする?」
ロジーは呟く。
コルネリアみたいに、教会の子供を雇える程儲かってる訳でもない。
「今や、農具屋です……冒険者も、時折変わり者が来るぐらいです……」
コルネリア露店は鍛冶屋の目の前。
子供にお客さんのメモを取らせていたり、鍛冶屋事情にも詳しい。
「……コル助は……マナの力があるからいいけど俺は……」
言いかけて、前にこの話し、したな……
とロジーは思う。
「ロジーさんにも、マナの力があるです。私と交わって……マナの力があるそうです。でも……その力は魔物を倒さないと、ちゃんと目を開かないそうです」
ともかく、この場を抜けたいと思いながら、コルネリアの話を聞く。
「……そうだったな……考えてみるよ……」
ロジーはそう言って立ち上がろうとする。
ここに座っていてはいつまでもこの話だ。
「……今、腹を決めて下さい。ロジーさんの武器は命がけとは遠いんです……商人の人も……小手先の武器だと言います……」
コルネリアはロジーにしがみつく。
ロジーはまた座る。
「おい……」
色々と気に入らないし、怒りの熱を感じながらも、ロジーはよそを見て、しがみつくコルネリアの肩を抱くようにする。
……泣かれてはどうにもならない……
「お前は母親か……」
「……母親ではないです。でもこんなんじゃダメなんです」
コルネリアに取りつかれて、ロジーは切り株に背中を付ける。あまりにでかい切り株だ……
昼過ぎから夕方まで、コルネリアに取りつかれたまま過ごし、ロジーは根負けして従う事にした。
……確かに武器を使う現場に行かないと……
と言うのは一理ある。
そして2人はホルスト裏酒場へと向かう。
コルネリア露店に時折現れる冒険者がメンバー募集で、それでいて近場だけのフィールドワークをしてるのだと言う。
髪の乱れたコルネリアは、裏酒場の、そのオジサンにロジーを紹介する。
早速明日の朝に出発するらしく、そこに巻き込まれた。
「しかし、ヒョロい兄ちゃんだな……ちゃんと歩けるのか?」
冒険者のオジサンは酒を飲みながら、笑う。
裏酒場の隅にはハロルの姿もあった。
ロジーにとってはライバル……
だけど意識的に見まいとする。
「おい!グレイゴ……見つけたぞオラァッ!」
突然、ハロルが叫んだかと思うと、恐ろしい速さで裏酒場入り口へと走り、今来た冒険者4人組の1人に掴みかかった。
「うおお、狂犬ハロルだあぁぁぁ……」
そして店の外へと行ってしまった。
……時計屋……
もはや時計屋の面影もない。
「では、私はアトリエに寄ってから帰るです。ロジーさんを宜しくお願いします」
コルネリアは裏酒場を出ると、ソフィーのアトリエに駆け出した。
ここには、ゲームには無い、勝手に付け加えた設定を書いておく所。
[壺屋]
今日も最安値で営業中。実はカフェのホルストさんと、八百屋のマルグリットさんを筆頭にしている集団、商工会から給料が出ていたり。利益度外視なのである。
[裏酒場]
ホルストさんの酒場、スラムエリア本店。ソフィーがよく訪れる、お洒落な方が後から出来たそうで。
[色っぽいポーズ]
コルちゃん曰く、「色っぽいポーズ」端から見ると、色っぽいかどうかは疑問符が付く。
[煮る、焼く、蒸す]
伝統の調理法。
[壺屋前の順番待ち]
あまりに安いけど、あまりに狭い壺屋さんでは、食事時の風物詩。皆それぞれ知った顔なので、情報交換のチャンスでもある。
[夜のカフェ]
基本、めっちゃ暇なんだとか。
[別れそうな雰囲気]
そういうオーラが、だだもれる時もある。
[手榴弾]
ハロル特製の爆発する卵型爆弾。爆発音がする代物だが、その音の大きさは運。ショボい時も多い。そういう事情もあって、かなり安い。なので人気。
[どの男性も続かない女性の話]
ホルストさんの思い出話。別れた数だけ大化けしてる可能性がある。
[ロジーさん改造計画]
コルちゃんの新たな野望。
[コルネリア×ロジー]
ゲーム内でも2人は近い場所に配置されている。
[歯ブラシ量産]
SP消費0.01%で増えまくった。コルちゃんと子供達で、ワンポイントを付けまくったので、見た目はそれぞれ違ったり似ていたり。
[白いつやつやコットンの肌襦袢]
繰り返し使ってると、つやつやしてしんなりしてくる。新品には無い良さが出るのだとか。ほんのりピンク色でもあるけど、ほぼほぼ白い。
[増やす物リスト]
コルちゃんの野望。SPバリアがスカスカ過ぎると、背が縮むのだとか。危険過ぎる。
[エミー]
教会の子供。愛想が良くて可愛いと、職人さん達にも評判がいい。
[家を引き払ってしまった]
ゲーム内でも、特に家は出て来ない。母親と暮らしていたりするのだろうか。この小説では、家は引き払い、鍛冶屋で暮らしている。
[SPバリア]
増やす錬金術に使う魔法バリア。回復が1日20%と遅い。しかも、これはマナの柱で眠った場合。旅の間の、荷車で眠る状態だと5%くらいになる。
フラム[大先輩]
増やすコストが高い爆弾。売れてしまうのも考えもの。
レヘルン[先生]
増やすコストが更に高い。扱いが難しいので、もう一般売りはやめようか商品。
[売値が謎めいているコルネリア露店]
最も謎なのは、謎の釜と謎の皮。やたら高いが、ソフィーが買って行く。
[豚ネズミ]
お肉が美味しいと評判。病気とか寄生虫も居ない事がほとんど。モグラネズミとはえらい違いである。
[教会の子供達]
ゲームでは、時折かくれんぼしてるだけなのだけれど、この小説では八百屋の手伝いや畑仕事、スラムエリアの商店の手伝い等大活躍。教会の収入も、かなりあると思われる。
[カフェ裏広場]
お昼限定の安い食事となると、ここ。
[ふわふわクロース]
ちょこっと調合品。生活雑貨として人気。
[あまりにでかい切り株]
旧市街の北、森の入り口にあるでかい切り株。凄く磨かれていて、すべすべ。
[ホルスト裏酒場]
夜のキルヘンベル、表ストリート沿いでは、賑わいを見せているのはここだけ。
[冒険者のオジサン]
コルネリア親衛隊なのに、スラムエリアによく出没する冒険者。近場しか行かず、豚ネズミや魔法の蔦、ハチミツに蜂の巣、キルヘンミルクスネーク等を専門に調達して日々を過ごしている。
[グレイゴ]
ハロルに良く追いかけられているらしい冒険者。腕利きではある。
[狂犬ハロル]
飛び掛かるその姿が、狂犬を思わせるのでついた渾名。