錬金術のアトリエ 1   作:東京のぷるぷる

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錬金術のアトリエ 28

錬金術のアトリエ 28

 

夕方……

エリーゼは旧市街の本屋へと歩く。

持ちなれない、補修用のクレヨンと古い本の入った鞄を抱えて歩く、石畳の道。

……夕食を思い足を止める。

本の住む屋敷である都合で台所はなく、常に外食……

今はモニカ、エルノア達と商人ヤーペッツの開くレストランが行き付けだし、そちらの方へと足を向ける。

 

 

「エリーゼさん、いらっしゃいませ」

レストランに入ると、教会の子供が挨拶する。

まだ彼らが働く、少し早い時間だ。

「ちょっと早くてごめんなさいね」

エリーゼはそう呟き、そしていつも座る壁際の、奥のテーブルへと座る。

商人ヤーペッツが調理場から出てくると、エリーゼに水を持って来る。

 

「今日、蝋絵の具届いたよ。人形師のフリッツの家に納品したようだね。今日はしっかり食べられそうかい?酒とつまみで軽く済ませるかい?」

ヤーペッツはそう尋ねる。

エリーゼが来た時には、ヤーペッツかエルノア、決まってレストランの経営陣が対応するのだ。

 

「どうしようかしら……まだちょっと自分と相談するわ」

エリーゼは少し悩み、答える。

「食前酒くらい飲むかな?少し怪しい、好みの別れそうなワインなら入ってるよ」

「ちょっとだけ、貰おうかしら」

そう話し、ヤーペッツは調理場へと戻る。

そろそろ商人の人、家族連れが訪れ始めた。

エリーゼは教会の子供が持って来た、爽やかさの乏しい、甘いワインを口にして、その光景を眺める。

 

 

……思えば、ヤーペッツとモニカ、エルノアからレストランの相談を受けた時に、エリーゼの貴族的な食事事情は始まった。

女性が入りやすい、でも敷居の低いレストランを作る計画に、モニカとエルノア、ヤーペッツでは金が無かった。

ヤーペッツも営利第一どころか、営利度外視の商人なので、やたら金がない。

そこで3人は、エリーゼに相談を持ちかけたのだ。

長らく本屋をしていて、思うような仕入れは出来ず、金ばかりが貯まっていたエリーゼには、いい話だった。

店の常連兼従業員達にも相談して、金を出す事を決めた。

 

「8万コールよね?それなら何とかできるわ」

そう話すエリーゼに、ヤーペッツは首を横に振った。

「確かに8万コールだけど、そうした金を一括で渡すのは良くないよ。そんな事をされては、私でもその金を抱えて雲隠れしたくなってしまうよ。……まずは5千コールを預かりましょう。そしてレストラン建設の進み具合を、エリーゼさんに見て貰って、その続きを預かりましょう」

「預かりましょう……なの?」

エリーゼは不思議そうな顔をする。

 

「そりゃそうだ。金を出して欲しい、とは言ったが、金をくれ、とは言ってないだろう?レストランの評判が良ければ、その売り上げからエリーゼさんには少しずつ返して行く。8万コールを超えても、少しずつ返し続けて行くのは終わらないんだ。都会ではよくある話だよ」

ヤーペッツは、そう言って笑う。

しかも、出来たレストランでの食事はタダでいいと言うのだ。

エリーゼも、常連兼従業員達も、出資者だからタダだと言う。

 

「そんなうまい話あるの?信じられないわ……」

エリーゼは驚く。

「まあ、それも状況次第だけれどね。状況が悪ければ、売り上げが出ないから、エリーゼさんに返すお金も無い。という事になる。エリーゼさんは損をし続ける事になるからね」

ヤーペッツはそう話し、だがキルヘンベルはこれから人が増えつつある事を付け加えて、レストラン需要は伸びそうだと話す。

 

「……まあ、そうよね。それに私もそうしたお店が出来たら嬉しいわ」

エリーゼはそう言うと、まだ見ぬレストランを思い浮かべる。

「僕もね、故郷に帰ると、そうした店が2つ3つあるんだよ。僕は出資する訳じゃないから、金が無いんだけどね。美味しい料理を提供する場所を作るのが趣味みたいなものだからね」

そうヤーペッツに言われて、レストランに来る度に、ヤーペッツやエルノア達が、フォローしてくれるようになった。

 

 

……そんな事を思いながらワインを飲む。

あまり出来の良くないワインだと思う。

けれど、何となくまたグラスを傾けてしまう……

……出資者であることを鼻にかけちゃいけないって言われたけれど、こんな扱いされちゃうと、鼻にかかっちゃうものよね……

「……ヤーペッツさんを呼んで貰ってもいいかしら?」

エリーゼはヤーペッツを呼ぶ。

 

「……どうしました?」

少し待つと、ヤーペッツがやって来た。

「……このワイン、人気ないの?」

エリーゼは尋ねる。

「……ええ、クセの悪いワインだし、一口でそれと分かる粗悪品だからね。でもね、僕はこの銘柄、好きなんだけど……キルヘンベルでもイマイチだねぇ」

ヤーペッツは苦笑いする。

「あまり長居すると、鼻にかかっちゃいそうだけど、このワイン気に入ったのよ。ボトルを持って帰ってもいいかしら?」

エリーゼは飲みかけのボトルを示す。

「余らせてるからね。その1瓶、包みましょう」

 

エリーゼは、ワインと揚げカレーパンなる物を入れた籠袋を持って、レストランを出る。

レストランは、これから忙しくなる時間だった。

 

 

そして帰る旧市街。

もうすっかり夜なのに、フリッツと見慣れない女の子、そしてレオンを見掛けた。

丁度フリッツの家に入った所で、エリーゼはそれを見送って本屋へと戻る。

 

……何かしら?

……こんな時間に……

少し考える。

あまり考えなしに、ワインと揚げカレーパンなる物を持たされて帰って来たけれど、この本屋の中に食べる場所なんて無かった。

 

 

……なので外に出る。

あまり偉そうに、レストランの一角を陣取っているのが申し訳なくて、こうして出た訳だけど……

本屋の外で、ゆっくりワインなんていうのも……

グラスも満足に無かったりする。

……ふと井戸端で酔いつぶれていた、フリッツを思い出した……

 

 

……フリッツの家が気になるけれど……

レオンも居るみたいだし、おそらく人形劇の打ち合わせじゃないかしら……

……あと届いた蝋絵の具も欲しいし……

エリーゼはそう思って、フリッツの家にふらふらと向かう。

手土産もあるし、人形劇の打ち合わせなら、見てみたいし、たまには押し掛けても……

そうして、フリッツの家の前まで来てしまっていた。

……何て言ってノックしたらいいのか……

 

そう思っていると、ドアが開いてレオンが顔を出した。

「きゃあっ!」

エリーゼは驚いて後退りする。

「あら?エリーゼさん、どうしたのかしら?」

水の桶を持ったレオンが、不思議そうな顔をする。

「あ、あの……グラスが無くて……に、人形劇の打ち合わせなら興味があって……」

エリーゼは慌ててそう話す。

「?……まあ、ちょっと水を汲みに行く所なのよ。エリーゼさんと同じ井戸みたいだけど、知らないのよね。案内して欲しいわ」

レオンはそう言うと、ドアを閉めた。

そしてエリーゼの肩を叩く。

「今ね、ソフィーの師匠、プラフタの魂の器となる人形を作る所なのよ。あのオジサン、人形の事となると目の色変えてノリノリなんだから」

 

そんな話をして、井戸に向かう。

「見慣れない女の子も居たけれど、誰なの?」

「裏市街で冒険者の相手をしている子よ。……プラフタのモデルとして一晩買ったのよ。……あたしが選んだのよ?あのオジサン、すぐ太めの子に目が行くんだもの」

そして井戸水を汲む。

汲み置きが無くて、飲み水にも事欠いてる話もされた。

「人形劇の打ち合わせじゃなかったのね?でもプラフタの魂の器を作ってるなんて、それはそれで興味があるわ。……まあ、このワインと夕飯の場所を探していただけなんだけど……」

「エリーゼさんには刺激が強いかも知れないわね。でも見学も食事も大丈夫じゃないかしら。あのオジサン、あまりにも夢中なんですもの」

そして、レオンとエリーゼでフリッツの家へと戻る。

 

 

「ぎゃっはっ!はっ!はっ!ひー……フリッツ面白い!それ無理っ!はー……っ」

帰ってみると、裸の女の子が笑い転げていて、フリッツはいつも通りの格好で、床の紙に女の子の身体の太さ、厚さなどを記していた。

「転げては型が取れんだろう……あーあ、こんなに皺が寄ってしまって……」

レオンとエリーゼが帰ると、フリッツはそちらに顔を向けた。

「おやエリーゼも?まあレオン、この子を押さえてくれないかな。なかなか型が取れんのだ」

 

「フリッツが笑わすからだよ!ひーっ……顔芸ずるいよぉ……」

随分と若い娘で、細い。

「オジサン、サービス精神が邪魔してるんじゃないのかしら?まあ、こんな楽しい型取りとは思わなかったわ」

レオンはその娘の所へと向かう。

 

……プラフタの人形は、人と同じサイズでリアルな物を作る。

その為のモデルとして、裸商売をしている女の子を一晩買って来た訳だ。

レオンはその型に合わせて服を作るので、今日はこっちに来ているのだと言う……

「お尻はもうちょっとボリュームがあるといいんじゃないかしら?ナルちゃんはお尻小さいわねぇ……」

レオンが女の子を押さえて話す。

床に敷いた紙の上で寝かせて、フリッツが紙に身体に合わせて線を引いている。

 

「良く言われるんだよ……ぷぷっ……だめっ!変顔で待たれてると思うと笑っちゃうよぉ」

押さえられながら、女の子は笑う。

「今は真面目な顔で採寸しているぞ?」

フリッツは微笑みながら線を引く。

丁度腰の辺りの作業。

「嘘!声が嘘だもん!」

女の子は笑いながら顔を隠す。

 

 

……見てていいものなのかしら?……

エリーゼはそう思いながらもその場に立ちすくみ、フリッツとレオンは、何枚もの紙に身体のラインを描き積み重ねて行く。

「君は指が少し長いんじゃないかね?」

フリッツはそう言いながら足の指、形などの採寸を始める。

「そうかな?」

「レオン、君の足も見せては貰えまいか?……ああ、エリーゼもどうだろう?指の長さのバランスを少し見ておきたいのだ」

フリッツは立ち上がる。

 

「まあ、足の指くらいはいいけど、改まって言われると恥ずかしい感じがするわね……」

レオンは靴を脱ぐ。

エリーゼも、あまりにも何もしていないし……

と、靴を脱ぐ事にする。

 

 

「さて、足の型まで採れたなら……君はもう寝ていてもいい。寝てる所でまた確認はしたくなるかも知れないからな。服の方は朝に着てもらう事になるが……」

フリッツはそう言うと、裸の女の子を寝室へと促し、纏めた紙の束を持って机に向かう。

「レオン、設計図の前に、もう1度確認をしておこう」

「足の指……どうしましょうか?」

「爪の形も気になったな……」

フリッツとレオンは、皺が入った紙の群れを見つめ、そう語り合う。

エリーゼは裸足のまま、その姿を眺める。

 

 

「ふぅ~……これで終わり?」

皺が入った紙達の全部に修正を入れて、レオンは腰を伸ばす。

1つ1つの作業は早く、それでもかなりの枚数があり、1時間程掛かった。

「……ああ、これで設計図を作る作業に入れるな。感謝する」

フリッツはにこやかに話す。

「さて、それじゃあ……あたしは帰るとするわね。エリーゼさんは、随分と待たせちゃったみたいだけどね……それじゃあね。素敵な人形、期待してるわよ」

 

そう言うと、レオンはあっさり帰って行った。

「あ……私ももう充分見れたし、帰りますね」

フリッツに顔を向けられて、エリーゼは少し慌ててそう言う。

「……差し入れではないのかな?」

フリッツはエリーゼの持つ、ワインとカレーパンなる物の入った籠袋を指差した。

「あ……」

エリーゼもその籠袋を見る。

 

「恥ずかしい話ですけれど、本屋には食事をする場所が無くて……なのに持って帰って来ちゃったんです……」

そう、俯いて話す。

「それならば、器を用意しようか。君とこうして食事ができるとは、私も果報者だな……」

フリッツは玄関先すぐの暖炉、そこのテーブルに食器を並べると、優しい笑顔を向けた。

「果報者だなんて、そんな……」

エリーゼは照れて目を伏せる。

フリッツは、それぞれのグラスにワインを注ぐ。

 

「もし君が良ければ、是非ともこうして食事をする機会が増えたら、と思う。こうして飲み交わせる事に乾杯しようではないか」

フリッツはグラスを浮かして、エリーゼも合わせてグラスを浮かせる。

「……これは……私には合わないワインだな……これをどこで……?」

少し傾けて、フリッツはグラスを置く。

ワインとは思えぬ甘い香りに、浮いた甘さ……

フリッツにしても、初めて味わう奇妙なワインだった。

 

「あ……そうなのよね。私もそう思うんですけど、何でかしら気に入っちゃって……レストランでも評判悪いみたいだから貰って来たのだけど」

フリッツは違うコップに井戸水を汲む。

「パンを頂いてよろしいかね?」

フリッツは1つしかないパンを眺める。

「ええ、どうぞ」

……ワイン飲めないパン食べられないじゃ、あまりに意味もないし……

エリーゼは答える。

フリッツはパンをナイフで切り分ける。

 

「カレーのパンか……これは……夕食とするかな……」

切り分けたパンを半分ずつ取り分けると、フリッツはお互いに寄せる。

「……夕食なら、半分で足りるんですか?」

エリーゼは尋ねる。

それほど大きなパンでもないのだ。

「はっはっはっ、人形の話があると寝食を忘れる質でな。だがこうして、人形の話があるのに距離を取って過ごせる……その事が貴重だと感じている。これで充分だ」

フリッツは、そう言ってエリーゼを見る。

そして手元のパンに視線を落とした。

 

「あの……それって?」

フリッツの瞳に絡められて、エリーゼは俯く。

……なんだか熱い視線……

「……この村で色々と見てきた。そして女性として私に叶うのは……君くらいかと思っていた」

フリッツはそう話す。

エリーゼは目を伏せたまま、手に持つワイングラスを見つめた。

 

「いえ……ソフィーもモニカも……結構居ますけど……」

エリーゼはそう濁してみる。

「私に彼女達は幼いだろう。娘を見るような気持ちになるな。今寝ている彼女もそうだが……」

フリッツは困って俯き、少し落ち着かないように揺れるエリーゼを眺める。

「私も……同じような年頃ですけれど……」

「女性は年が分からぬ物だし、詮索してどうこう考えるものでもないだろう。……ピッ、と思う物だ。そして君には思う所がある」

「それで……この前井戸で?」

「ああ……あれは不覚だったな……あれは昔を偲んでいただけだった。やたらと思い出してしまったのだ」

「なんか、男の人にそう言われるのって、初めてで困りますね……」

「困らせてしまったかな。だがまた、こうした時間が過ごせると光栄だ。……このグラスは私が傾けるには辛い物があるが、次は何かしら置いておくとしよう」

フリッツはそう言って立ち上がり、暖炉に薪を足す。

 

「……あの……はい……」

断るのも変だし、エリーゼは返事をする。

ワインとかパンどころでもなくて、固まってるばかりだ。

エリーゼの憧れる、素敵な物語を幾つも持ち……

人形劇なんて、夢に溢れる事を専門にしているオジサン……

そのオジサンに、好意を寄せられるとは思ってもみなかったけど……

エリーゼはグラスを傾ける。

 

 

……残して帰るのもおかしいし……

飲まないと減らないし……

甘い、どこかエリーゼの琴線を揺らす拙いワインは、余計に染みる。

「……っはぁ……」

深いため息が出る。

……意識させられる……

胸が苦しい……

ふとフリッツを見ると、エリーゼの方を向いてはいるけれど目を閉じていた。

エリーゼは少しラクなため息をついて、また少しグラスを傾ける。

……残ったワインの瓶、どうしよう……

そう考える。

 

グラスに残る、フリッツのワインも気になる。

……捨てちゃうのかな……

そう思う。

パンの皿を手に、ワイングラスを置く。

フリッツは目を閉じたままだ。

 

「……さて、少し外の風にでも当たって来るか……食事に気兼ねさせてもいかんからな」

そう呟き、フリッツは立ち上がる。

「いえ、すぐに終わりますので……」

エリーゼは少し慌てる。

「いやいや、是非とも落ち着いて味わって行って欲しいのだ。私の飲めなかった分も、捨てるには偲びないが……次に一緒に食事をする時には、もう少しラクな空気になれると、更にありがたい」

フリッツはエリーゼを制して、そう話す。

そして出て行った。

 

……なんか、とんでもなく邪魔だったような……

エリーゼはそう思いながら、作業台に積まれた紙を眺める。

そして自分のワインを飲み干す。

……なんで瓶で貰って来てしまったのか……

まだ半分以上残るワインを見る。

 

 

……まだ帰って来ないかな……

帰るにしても、黙って居なくなるのも申し訳ないし……

エリーゼは燃える暖炉を眺める。

カチャッ……

そうしていると、ドアが開いた。

エリーゼはドアの方に目をやる。

「あれ?」

……誰も居ない……

なのにドアは更に開き、開ききった状態で止まった。

 

「さて、食事が済んだのなら送ろう」

エリーゼの背後から声がして、振り向くとフリッツが立っていた。

「え!?」

不可解な所に居るフリッツに、エリーゼは驚く。

フリッツは意地悪な笑みを見せた。

「はっはっはっ……明日は種の日……人形劇の日だな……」

そんなエリーゼをよそに、フリッツは外に出る。

せっかくの帰るチャンスだし、エリーゼも立ち上がり、フリッツに付いて行く。

 

「明日も人形劇、楽しみにしています」

エリーゼが声を掛ける。

「……それなのだが、台本も人形もあるのでな。パメラと神父様には話したのだが、私は必ずしも参加する訳ではないのだ。それに、明日はプラフタの設計図に時間を割かなくてはならん」

フリッツは足を止めて、エリーゼが追い抜く。

そしてエリーゼも足を止めた。

 

「え?それじゃ人形劇は……」

エリーゼはそう問いかけると、フリッツはゆっくりと歩き出し、エリーゼの背中を押す。

「パメラと……エリーゼ、君にやって欲しい。それに子供達も演者となれるだろう」

フリッツとエリーゼ、並んで歩き、本屋へと向かう。

「そんな……」

エリーゼはガッカリしながら歩く。

「そのため息、明日になれば納得に変わるだろう。私にしか出来ない事は、私の作る人形を作る事だ。人形劇は誰でも演じられるし、そうでなくてはならんからな。何、午前中だけと話をしてある」

そう語るフリッツの話を聞きながら歩くと、もう本屋の前……

 

「残るワインは預かっている。また明日も来てくれると、私も嬉しい」

フリッツは振り返り、帰って行った。

エリーゼは何も言えずに、その後ろ姿を見送る。

……イキナリ後ろに居たから、びっくりして忘れてたわ……

そして残してきたワインを思いつつ、本屋に帰る。

 

 

種の日の朝。エリーゼは本屋を開ける。

そうすると、アナミがやって来た。いつも本屋の番人をしてくれるインテリ女性で、魔物学者を名乗ってもいる。

「今日は教会の方に顔を出して来るわね」

「あら。エリーゼさんも忙しいですね?」

アナミに言われて、エリーゼは笑う。

少し歩くと本屋の番人その3、ソフィーダちゃんとすれ違う。

「メガッタは教会でお祈りするって!」

ソフィーダちゃんはそう言って笑う。

本屋の番人その2、メガッタは種の日、ちゃんとお祈りに行く人なのだ。

 

 

そしてエリーゼは教会へと行く。

種の日の朝、聖歌の聞こえるヴァルム教会で、エリーゼも教会の外の人々に紛れて祈る。

……なんか以前よりも、お祈りの人々が増えたような……

 

 

お祈りが終わると、噴水端会議の時間。

人々が思い思いのグループに別れて、立ち話をする。

「あら~♪エリーゼちゃんじゃな~い。今日は北の人形劇するのよ~♪」

パメラがやって来た。

その後ろから、ディーゼルと教会騎士の人、子供達が人形劇の準備を始める。

人形も台本も、教会に預けてあるのだ。

「北の人形劇?」

 

「そうよ~♪南の人形劇はね~……オジサン達がオジサン達向けにやるって話なのよ~♪」

パメラは何かを思い出そうとして、何かを諦めて話す。

……これは何か抜けてる話なんだな……

と、エリーゼは思う。

「やあエリーゼ、おはよう。僕も北の人形劇の付き添いだから、楽しい人形劇になるといいね。北はお昼までだけど」

ジュリオがお辞儀をして、人形劇の舞台へと向かう。

「エリーゼも人形劇、好きだものね。今日は私の役もあるみたいだから、ちょっと緊張するわ」

モニカも、そう言って笑い、人形劇の舞台へと向かう。

 

……フリッツが居なくても、人形劇はちゃんと動き出すみたいだ……

 

 

人形劇の準備はすぐに整い、噴水端会議の人々が離れていくのを待つ。

……あくまで後から来た催し物だし、噴水端会議を尊重して、そういう段取りになっているそうだ……

 

 

北の人形劇はパメラとディーゼルと子供達、観客も子供達とレストランでよく見かけるおばさん達、商人の人と集まって、人形劇が始まる。

南の人形劇は、芸人師匠と弟子、商人のオジサン、職人のオジサン達とコルネリア……

南の方も同じくらいの人が集まっていた。

 

カン!

 

キン!

 

劇の節目、台詞の終わり始まりを報せる鐘の音が、噴水広場の北で南で響く。

 

北の人形劇、2つ目の話で、エリーゼも演者として参加して、3つ目の話ではメガッタが参加して……

あっという間に、お昼を報せるヴァルム教会の鐘が鳴った。

 

 

……楽しい時間はあっという間……

エリーゼは人形劇の片付けを手伝って、教会へと運び込む教会騎士の人と子供達にエリーゼも並ぶ。

「本屋のお姉ちゃん、すごく上手だったよ!びっくりしたもん!」

子供達に誉められて、エリーゼは照れて笑う。

「そ、そうかしら?でも必死で夢中だったわ」

 

少し長い時間並び、エリーゼの番になったので手に抱えた人形を神父様に渡す。

「お疲れ様」

神父様は優しく声を掛けて人形を受け取り、人形を眺めると、傍らの教会騎士見習いと見て取れる子供に渡す。

そして、片付けられて行く。

 

エリーゼは列を抜けて教会の外へと出る。

昼休みのテスと目が合った。

「やっほ~☆」

 

 

噴水広場、南の人形劇の座席……

布の掛かった丸太に座るテスが手を振るものだから、エリーゼも隣に座る。

「テスも人形劇を見に?」

エリーゼは意外に思う。

お昼時の今、カフェは忙しい筈なのに……

しかも今は人形劇は昼休み。

……やっていない。

「いやぁ~あたしは仕事だよ。なんとお昼に休憩なんだけど、午後の1時間だけ、勢いづけにってさ。ソフィーの作った錬金荷車1号に、食べ物とか飲み物とか積んで売るのさ☆」

うさみみ制服のテスは、空を見上げる。

「お昼、食べたの?」

エリーゼは尋ねる。

エリーゼも空腹を感じてた。

 

「じゃじゃ~んです♪」

そこに、ストリートからこちらに向かうコルネリアの姿が見えた。

大きいカゴを抱えている。

「おぉ~♪勢いづけその2が来たよ~!お昼はここで食べるのさ☆」

「私が勢いづけその1なのです。エリーゼさんも食べてくれると助かります。オスカーさんのお弁当が、さすがにこの量は無理です」

コルネリアは大きいカゴを開ける。

サンドイッチとキルヘンミルクが入ってるのだけれど、サンドイッチの量が多い。

 

「3人でも……食べきれないんじゃないかしら?」

エリーゼは呟く。

「まあまあ、あれ?キルヘンミルク、冷え冷えじゃ~ん!」

「カゴの上に、ハクレイてるてるボーズが居るです」

砕いたハクレイ石を包んだふわふわクロース、それがてるてるボーズとなってカゴ蓋の裏に吊られている。

 

 

やたら美味しいランチを食べる。

コルネリアが大食いで、大量のサンドイッチはちゃ~んと無くなった。

 

その頃には、カフェ横で壺屋で、お昼を終えた職人さん達がこの広場の南を通りかかる。

「お?コル助なぜここに?」

職人のオジサン達は棒読みで尋ねる。

休日の憩いの場、コルネリア露店に貼り紙と案内があるのだから、ここに流れてる親衛隊も居るのだけれど。

「ふふふ、南の人形劇は、人形劇ではなくなり、また午後もあるのです!なので……帰らせません!」

コルネリアは謎のポーズを取る。

「うへぇぇ……帰って寝ようと思っていたんだけどなぁ~……」

職人さん達はのけ反る。ノリがいい……

「寝るには早いよ~、奥さんに煙たがられちゃうぞっ☆それよりも!お土産話の1つでもお持ち帰りすれば、株もあがるよっ☆」

テスもオジサン達をブロックする。

 

「ちゃ~んといつものお値段で、お酒もクッキー☆も秘伝のおつまみも……やって来るのです!飲むにヨシつまむにヨシ財布にヨシ売り上げにヨシなのです!」

「売り上げにもヨシかぁ~……!」

午後に向けて、コルネリアとテスは、お客さんを捕まえて行く。

「じゃあ、カゴはついでだから、八百屋さんに返して来るわね」

エリーゼは大きなカゴを抱えて、八百屋へと向かう。

 

 

「おお、エリーゼさん、そのカゴはウチのヤツかい?」

八百屋では、マルグリットとオスカー、教会の手伝いの子供2人、と何だか暇そうにしていた。

「そう。コルネリアちゃんは何だか忙しそうで……それとお願いがあるんだけど……」

エリーゼはフリッツの話をして、夕飯にサンドイッチでも持って行ければ……とオスカーに話す。

「なるほどね。ちゃちゃっと作れるけど……まだ日が高いなぁ……今作っちゃうかい?」

オスカーは尋ねる。

「今が都合良さそうなら………」

エリーゼはそう答える。

八百屋も暇そうだし、今が都合良さそうだ。

「じゃあ母ちゃん、ちょっとカゴ埋めて来ちゃうな?」

オスカーはカゴを受け取り、八百屋の奥へと入る。

 

「人形オジサンに差し入れなんて、どうしたんだい?」

マルグリットが目を光らせる。

大好物を見つけた微笑みが浮かんでいる。

「いえ、そんなんじゃないんですよ?でも今、プラフタを人形にする為に頑張ってるから……せめて少し応援を、って思いまして……」

エリーゼは少し慌てて、赤い瞳をぱちくりさせながら話す。

「プラフタ……あのソフィーちゃんのトコの空飛ぶ本かい?へぇ……またどんな不思議な事が起きるのかねぇ?」

マルグリットは、遠い目をしながら考える。

 

 

ともかく、エリーゼはフリッツに届けるお弁当……

カゴを抱えて広場へと歩く。

また3人分以上ある重さだけど……

広場に差し掛かると、オジサン達が南側の人形劇?

を、眺めながら飲んだり話したりしていた。

もう人形劇ではなく、歌とか歌っていたり……

笑い声が噴水広場に響いている。

エリーゼは旧市街、フリッツの屋敷へと向かう。

 

……やっぱりそう見えちゃうわよねぇ……

マルグリットの会話を思い出す。

人形のオジサンにご執心……

端から見れば、そう見えてしまうのだ。

本屋の番人達も、そんなエリーゼをどう思うのか……

「はぁ……」

エリーゼはため息を吐く。

 

 




ここには、ゲームには無い、勝手に付け加えた設定を書いておく所。

[補修用のクレヨン]
ちょこっと調合品。古い本の掠れた文字を読みやすくする。

[エルノア]
モニカと一緒に住むおばさん。綺麗好きで飾り付け大好き。
[ヤーペッツ]
食通商人。美味しい物を人に食べさせるのが生き甲斐。

[レストラン]
キルヘンベルの、女性向けリーズナブルな食堂。エルノアさんの飾り付けが輝きまくる。

[教会の子供]
ヴァルム教会の働く子供たち。働く事で色々な人と仲良くなれる。あまりこきつかうと、巡回の騎士に睨まれる。

[蝋絵の具]
蝋と染料で作られる色とりどりの画材。
[ワイン]
葡萄のお酒。
[揚げカレーパン]
パンを揚げて、且つ中にカレーを仕込むという、必殺料理。

[ナルちゃん]
プラフタ人形のヒトガタのモデル。いつもは冒険者を相手にお酒を飲んでたりする。

[アナミ]
本屋の番人。魔物に詳しいみたい。
[メガッタ]
本屋の番人。小説大好き。
[ソフィーダ]
本屋の番人。あまり本は読まないらしいけど……

[ディーゼル]
ヴァルム教会の子供たちの先生。
[北の人形劇]
子供たちによる、子供たちの為の人形劇。お昼まで。
[南の人形劇]
少し大人向けの人形劇。お昼まで。だけどお昼からは芸人師匠と弟子による催しものがある。
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