錬金術のアトリエ 1   作:東京のぷるぷる

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錬金術のアトリエ 53

錬金術のアトリエ 53

 

種の日、14時に日輪の雫も完成予定。

なので、北の人形劇には行けない1日となってしまう。そして朝から雷雨………

 

「こんな雨も降るのだな」

錬金荷車2号、1階に座るナザルスが呟く。

「そうですね。1日中これが続く日もあるんですよ」

ジュリオが応える。

「ジャーン!雨だー!」

 

そんな時に、アトリエからソフィーが出てくる。

雷雨の中、元気爆発状態だ。

「ソフィー!こら!用もないのになぜ外に出るのです!」

プラフタもドアから顔を出す。

「ほら!朝食も用意しなきゃだから!」

「作ってもいないでしょう!それに今日の朝はエルノアが持って来ると!昼もオスカーが用意する予定でしょうに!」

ナザルスとジュリオは、そんなやりとりを眺める。

「はは……暇をもて余してると、じっとしていられないから、ソフィーは」

ジュリオはそう話す。

「若い、というのは羨ましい限りだな……」

そんな微笑ましい光景に、ナザルスとジュリオは顔を綻ばせる。

 

 

……雨は弱くなり、モニカとエルノアさんがウメさんを乗せてやって来た。

種の日の噴水広場の賑わいに、レストランからも出店を企み、レストラン荷車1号の試運転も兼ねてるらしい。

「飾り付けすご~い!お花屋さん?」

結構離れた場所から発見したソフィーが、絢爛荷車レストラン号に取り付く。

2階建て荷車なんだけど、2階部分は全て飾り付けとお花という、あまりにも目立つ造りで、屋根もピンクの布にフリフリヒラヒラの白い布を散りばめて。

 

高機能版マナフェザーの注文、コレの為だったか……

と思いながら、ソフィーとプニ助は絢爛荷車レストラン号を眺める。

「造花、お花も売る予定なのよ!」

少し重そうに荷車を引いてる、エルノアさんがそう話す。

引き心地も確かめるみたいで、モニカはそれを見守っている。

「レストランから広場じゃ、こんな上り坂ないのに、エルノアったら聞かないんだもの。重いんじゃない?」

荷車を安定させる為に、荷車の後ろに手を掛けているモニカがそう話す。

 

 

「これは、あまりにも華やかな……驚きだな」

錬金荷車2号に近寄る、絢爛荷車レストラン号。

ジュリオさんとナザルスさんが出ていて、驚いた顔で出迎える。

「ソフィーのアトリエ前だと、浮いてしまうばかりだけど、種の日の噴水広場で使うものだから、張り切っちゃって……あなたがナザルスさんなのね?」

エルノアさんはそう話して微笑みかける。

華やかなレストラン号、華やかなレストランに華やか大暴走のモニカの家……

だけどエルノアさん本人は、地味な服装だったりする。

 

 

……そして華やかな朝食を取る。

ナザルスさんが驚きながら食事をしていた。

 

朝食が終わり、雨上がりのアトリエ前。

緑に雨の雫がキラキラする中で、ナザルスさんの旅の話を聞く。

他の国では残酷な話も多くて、魔物も砂に潜って待ち構える罠みたいな虫とか、実体のない風みたいな魔物で、包まれると身体を切り刻まれるとか、怖い話が多かった。

それと比べると、キルヘンベル周辺の魔物は、本当に魔物なのか疑いたくなるくらいなんだとか。

危険は危険なんだけど、ナザルスさんの危険ハードルが、どうにかなっているような……

 

そんな話をしていると、お昼前になっていて、オスカーとコルちゃんがやって来た。

 

「なんか、凄い荷車が!これがレストラン号なのですか!?」

絢爛荷車レストラン号に、コルちゃんは食い付く。

「八百屋バスケットは、どちらでも売る予定だからなぁ。こりゃあ、母ちゃんも手伝いの子供を増やす訳かぁ……」

 

八百屋荷車3号改を引いてるオスカーも、そう言って笑う。

あまりにも飾り気のない荷車。

……と、いうか壊れたのを直してるだけだから、1号の頃から、ひと回り大きくなったくらいしか、違いはなかったりする。

「更に昼の食事とは……私はそれほど持ち合わせは無いのだが……」

思わず怯むナザルスさん。

「ナザルスさんのお話には、それくらいの価値がアリアリなのです!冒険のお話を聞かせて頂ければ、全く問題ないのです!」

コルちゃんが両手を広げるポーズを取ると、そう話す。

夜には教会騎士の面々と、ディーゼルさんも来る予定なんだとか……

 

そしてお酒まで入り、更に賑やかになるアトリエ前。

フリッツさんも、旅の話はやたらと聞かれるそうで、色々な場所で人気者だったりするみたいだ。

そんな話も聞いた。

 

「なんか、みんな旅の話に飢えてるんだねぇ……」

アトリエ前の賑わいから少し距離を置いて、ソフィーとオスカーは、カワニレの木の場所で、風に吹かれてる事にした。

「オイラも、旅に出る予定なんだから、聞いておかないといけないんだろうけどな」

オスカーは、そんな賑わいを眺めて話す。

もう少しで14時、日輪の雫も仕上がりの時間だ。

「そろそろ日輪の雫、完成させないとかなぁ」

ソフィーが呟くと、オスカーが目を見開いた。

「そうだ!ソフィーの土が効いてさ、朧草も花を咲かせそうなんだよ!多分明日の朝イチには咲く感じだからさ!持って来るな!」

急にテンションを上げるオスカーに、さすがのソフィーも怯む。

「あ、あはは……でもこれでプラフタの言う、真理の鍵の調合も出来ちゃうね……」

朧草の花をコンテナに預ける算段を話して、ソフィーはアトリエに戻る。

 

遂に日輪の雫も仕上げの時間だ。

 

 

「よし!日輪の雫、完成!」

黄色い宝石を錬金釜から取り出して、ソフィーはその宝石を見つめる。

「真理の鍵の、正に中心となるアイテムですが、見事な出来上がりですね!私の居たアトリエにも繋がりそうな……」

プラフタは感心して、そして振り返った。

その向かう先にはアトリエの2つのベッド……

その間のコンテナの入り口。

「なんか………変な感じがしてる………」

ソフィーも、コンテナの入り口を見る。

 

「日輪の雫は、真実を照らし出す装置としての存在です。その日輪の雫が出来上がり、今まさに……色々な謎が解けようとしているのでは……」

このアトリエ、特にマナの柱の部屋とコンテナには、色々な謎がある。

特におばあちゃんに関して、色々な謎があった。

 

……なぜソフィーのおばあちゃんは、他の人の記憶にも現れないのか……

……錬金術の力を与えたハズのマナの柱でさえ、おばあちゃんの記憶は抜け落ちている……

……色々と思い出せない記憶……

でもそれは、知らない方がいい事なのかも知れない……

 

ソフィーとプラフタは、コンテナの入り口へと向かう。

「日輪の雫は、置いて来た方がいいかな?」

ソフィーが呟く。

「そうですね。あまりよろしくないかも知れませんから、置いておきましょうか」

ソフィーとプラフタはベッドを整えて、日輪の雫を置く。

そうして閂を外して……

と、いつもの動きをしてみるも、開かない。

 

「あれ?開かなくなってる……」

ソフィーとプラフタで何度か挑戦するも、閂が外れるだけで開かなくなっていた。

「どういう事なのでしょうか?」

プラフタはアトリエの外を見ようと、ドアへと行く。

 

プニ助も、絢爛荷車レストラン号に居たハズだけど……

 

「なんか、空気が変わったよね………」

ソフィーはベッドに置いた日輪の雫を手に、プラフタの後を追う。

アトリエのドアは、プラフタが手を伸ばすよりも先に開き、青い錬金コートを着た女性が入って来た。

 

「さて、本格的に困った事になって来たね」

プラフタに気付かず、プラフタに重なり、そしてソフィーにも気付かずに、その女性はベッドへと向かう。

その後を2人の男性が付いて来た。

 

「ギリアムの奴、完全に街を牛耳っていたからな。ホルストの時間稼ぎも、もう持たないだろう」

「どうすればいい?ラミゼル?」

2人の男はそう話す。そしてアトリエのドアは閉まり、中に入る。

「……おばあちゃん?おばあちゃんだ!」

ソフィーは両手を口許に、青い錬金コートの女性を見る。

ラミゼル・ノイエンミュラー。

ソフィーのおばあちゃんの錬金術士。

そして男性の1人は、ブライト・ジーメンス。

天才時計職人。ハロルさんのおじいちゃんだ。

3人は声を出したソフィーにも気付かず、話を続ける。

 

「仕方がないからね。マナの柱まで抑えられてしまう訳には行かない。この地域をねじ曲げるしかないね」

ラミゼルはベッドに座り、ため息をつく。

「まさか爆弾騒ぎからこうなってしまうとは。広報紙とは怖いものだな」

3人は話を続ける。

その話をソフィーとプラフタは、黙って聞いている事にした。

 

……フラムの作成依頼から、どうやら殺し合いが起きて、その製造者としてキルヘンベルの街に広く知られる事になった。

ギリアム・ドレスデンはその広報紙を日々配り、ラミゼルはすっかり悪者、魔女として悪者とされた。

その悪者。魔女の討伐を正義とする者が集まり、ラミゼルの肩を持つ者に襲い掛かる。

そうした事件が繰り返され、ラミゼルはすっかり追い詰められている……

そうした話だった。

 

「とにかく、あたしは世界からマナの柱と共に消える事にするしかないね。ブライトにも世話になったけれど、うまく消える筈だから」

そう話して、3人は消えた。

 

 

がらん、としたいつものアトリエだけど、照明が暗い。

いつもの少し明る過ぎるくらいの明るさとは、全然違う空気。

「これは……どういう事?プラフタ?」

ソフィーが尋ねる。

少し暗い照明に照らされた、灰色がかったプラフタ。

ソフィーにとって見慣れない色のプラフタは、考え込むポーズで窓を眺めていた。

「日輪の雫がこの世界に顕現した事で、ソフィー、あなたのおばあちゃん……ラミゼルの隠した過去が、ここで起きた出来事が見えている……そういう事なのでしょう」

プラフタはそう話す。

「世界から消える……って、どういう事なんだろ?ホルストさんは知っていたりするのかな?」

ソフィーがそう呟くと、勢い良くドアが開いた。

 

 

「ソフィー!ソフィー!」

幼いソフィーを抱えたラミゼルと、また2人の男。

その3人が駆け込んで来た。

抱えられた幼いソフィーは焼け焦げて、顔の半分が無くなっているような……

呼び掛けて答える筈の無い状態で、入って来た男達は、ドアを開けて引き返し、ドアを閉めた。

ラミゼルはベッドの閂を外し、コンテナへと入って行く。

「……!」

ソフィーは驚き、閉じた床の扉を見つめる。

「これは……?」

 

プラフタも言葉を詰まらせ、ソフィーと共に床の扉を見つめる。

暫くすると、血と炭に汚れたラミゼルだけが出て来て、アトリエのドアを開け、男2人を引き入れた。

「市街地のこのアトリエの山、麓で起きた爆発に巻き込まれたみたいだ。教会騎士団がストリートにごった返してる。おそらくバーニィか、ディーゼルがこちらにも来るぞ」

男はそう話す。

「他の子には被害は無かったのかねぇ……ソフィーはまだ魂があったから、マナの柱の中で持ち直す筈だけど、これで儀式は大きく遅れる事になるね」

ラミゼルはそう話しながら、血と炭に汚れた上着を脱いでいく。

「本当に平気なのか?このままだと、どんどんこちらの分が悪くなるぞ」

怒りの表情で、ブライトが言う。

「刺激して、このアトリエに来られるのが1番都合が悪い。どうにかしてその手前で抑えないとね」

ラミゼルは上着を着替えて、アトリエを出る。

男2人もそんなラミゼルに続き、出て行くと、ドアは閉まった。

……ドン!

 

爆発音が鳴り、ソフィーとプラフタは窓から外を見る。

3人組の男が、ラミゼルと2人の男に爆弾を投げ、ラミゼルが爆発を防いだみたいで、歪な爆発の形跡が見えた。

ブライトが何かを投げて、3人とも倒れ、そしてその人影はみんな消えた。

 

 

薄暗い空……

アトリエ前の草地、井戸の辺りもひどく暗い景色。

「……なんか、あたし死んでたし……これ何?こんな事が起こったの?」

ガクブル涙目のソフィーは、そう言ってプラフタにしがみつく。

「どうやら、そのようですね。しかし、なぜこんなにもラミゼルは、敵視されてしまったのでしょうか?」

プラフタはソフィーを受け止め、何もない暗い景色を眺める。

 

 

……また暫く時間が過ぎる……

 

 

……何も起こらない。

プラフタはソフィーと共にベッドの方へと移動して、ソフィーを座らせる。

「顕現した日輪の雫は、真実を照らし出す光として作用します。それと以前持ち帰った久遠の竜鱗は、過去に遡る効力を発揮するのです。そうしたアイテムが相互作用してこんな事が起こった……という事なのでしょう」

プラフタはそう話す。

「おばあちゃんの記憶が無かったのは、この記憶を消して姿を消したって事なのかな?」

ソフィーは顔を上げて、プラフタを見る。

「儀式、と言ってましたね。マナの柱の記憶もあいまいな所がありますので、記憶を消して……というのは当たっているのかと思いますが」

プラフタはそう話し、アトリエの窓を見つめる。

「外に出れたりしないかな?」

ソフィーは、窓のある壁に手を伸ばしてみる。

ラミゼルや男2人みたいに、すり抜けたり出来るかと思ったけれど、そんな事は無かった。

 

 

それからもソフィーとプラフタで、アトリエの中をうろうろする。

そうこうしていると、窓を見た外の景色の遠くから、明るくなって来た。

朝が訪れた、みたいな感じではなく、記憶の世界を押し退けて、ソフィーの見慣れた世界がやって来る……

そんな感じで、明るさがこちらにやって来るのだ。

 

朝と共にその明るさがやって来て、アトリエの中も明るくなる。

明るくなると、アトリエのドアが開いた。

「おお~♪」

早速、外に出るソフィー。

そんなソフィーに、心配していたジュリオさんとモニカ、ナザルスさんにプニ助を乗せたコルちゃんが駆け寄る。

 

「急にアトリエの電気が消えて、閉まってしまったので驚きました。何かあったのです?」

コルちゃんが尋ねる。

「暗いアトリエの中で、おばあちゃんが居たんだけど……あれ?」

ソフィーはそう話して、首を傾げる。

記憶もすっぱり抜け落ちて、思い出せないのだ。

「しかし、どうして明るさを取り戻したのでしょうか?」

プラフタもキョロキョロと辺りを見回す。

 

 

昨日のお昼、日輪の雫の仕上げをする、とソフィーとプラフタでアトリエに入ると、アトリエの灯りが消えて、アトリエは閉じてしまったのだと、ジュリオさんとモニカが話す。

そして一晩中閉まったままで、朝の7時くらいになった今、灯りが点いてソフィーが出てきた。

そういう経緯を話していると、オスカーがやって来た。

「ソフィー!みんなも見てくれよ!朧草が花をつけたんだ!ほら!」

植木鉢を大事そうに抱えてやって来た、ハイテンションなオスカーは、ソフィーにその植木鉢を見せる。

「なるほど……朧草の花でしたか……」

プラフタは顎に指を置き、朧草に顔を寄せると微笑んで見せた。

朧草の花は弱い植物なので、急いでコンテナに仕舞う事にする。

コンテナも普通に開き、そしてオスカーも入れるようになっているので、一緒に入る。

 

棚に、地面に、天井に……

丸い影が無数にあるコンテナの中に入ると、その影からぽんぽんぽんぽん、と、番人ぷにちゃんが現れた。

「朧草の花は、奥に置いておいて」

ぴょこんをぴょこぴょこさせて、番人ぷにちゃんはソフィーに言う。

いつもとは違う、掠れた声。

言われた通りに1番奥、ぷにちゃんの部屋の扉の側に朧草の花を置いた。

 

「はぁ~……なんかいつもな感じだねぇ……急に息苦しいもやもやした感じがして、どうにかなりそうだったよぉ……」

番人ぷにちゃんはそう言って、ぴょこんをふらふらさせる。

オスカーが居るから、今は開かないぷにちゃんの部屋の扉。

「……そうですね。日輪の雫の完成から、この朧草の花が届くまで、色々ありましたから」

プラフタはそう言うと、足早に歩き、コンテナから出て行く。

「プラフタ?」

ソフィーは不思議に思いながら、プラフタを見送った。

 

「朧草の花、好きなのか?ソフィーの錬金術のおかげとはいえ、オイラも花が咲いてくれて喜びもひとしおなんだよな。預けて行くけど、よろしくな」

オスカーは朧草が花を付けた事で、ただただ喜びに浸っているみたいだった。

そして、ソフィーとオスカー、コルちゃんもコンテナを出て、アトリエの外へと出る。

 

 

「双葉の日の朝なのですよね。ナザルスはどうしましょうか?」

ソフィーが外に出ると、その前に出ていたジュリオさんとモニカ、ナザルスさんとプラフタが話していたり。

「とにかく、皆で集まらないのに話を決めてしまっては良くないから、カフェで合流はしないといけないかな」

ジュリオさんは言う。

「そうね。ソフィーのアトリエの灯りが消えて……なんて少し穏やかじゃないから、旅に出るのは少し考え物、よね?」

モニカもそう話す。

「私もあまりここに留まっている訳にも……とは思うのだが、少し思う所もある。今しばらくこの辺りで過ごさせて貰うとするかな。荷車は持って行って貰っても構わんよ」

ナザルスさんは伏し目がちにそう言って、プニ助を肩に乗せたソフィーを見る。

「ん~……とにかく、カフェに行って来ますね。皆で決めないとだし」

錬金荷車2号と、ソフィー達はナザルスさんを残してカフェへと向かう事にした。

 

「夜の間、コルちゃんも心配してたのよ?何かあったの?」

カフェに向かう道すがら、モニカがソフィーに尋ねる。

「アトリエの中でね、おばあちゃんに会ったような……なんか曖昧な感じになってるんだよね。夢を覚えてない、みたいな感じ」

ソフィーはそう答える。

錬金荷車2号の1階で、コルちゃんはプニ助と共に眠っていた。

日差しの穏やかな、晴れたキルヘンベル。

「ソフィーは大きく忘れてしまったみたいですが、私は覚えています。ですが、その事を伝えて良いのか……悩んでいる所ですね」

プラフタが、そんな2人に向けて言う。

そしてカフェに着くと、ハロルさんとレオンさん、フリッツさんが外で待っていた。

それと、深い紫のローブにフードを深く被った見知らぬ人……

 

ソフィーとプラフタが近寄ると、深い紫のローブの人は、深く頭を下げた。

そして、まるで空気に溶けるように消えて、ソフィーの頭に涼しい風が吹いた。

「……あれ?今誰か……」

涼しい風が、今見た筈の人を忘れさせる。

ソフィーは、思わず手を伸ばした。

「ソフィー、君らを今まで見張っていた、我が国王の使いの者だな。そして、これは我らが国からの願いとなる」

そう言うと、フリッツさんはアシタバの帰舟のレシピと、手紙をソフィーに渡す。

 

「旅には行けなくなったが、とても良い経験だった。まだまだこうした日々が続けばと思うが、こうした日が来るのもまた、仕方がないのだろう」

ソフィーに渡すと、フリッツさんは少し寂しそうに微笑んだ。

「え?……あれ?……プラフタ!翻訳」

ソフィーは戸惑い、プラフタにその困惑した顔を向ける。

「どうやら、急に色々と事情が変わった……という事かと」

プラフタは、そう答える。

 

「まあ、朝メシくらいは食って帰れ。お前がそこまで優秀な錬金術士、なんてのは信じられないが、ワープするフザけた道標なんてのも使っていた訳だし、そうだったんだろうな」

ハロルさんはそう言うと、戸惑うソフィーとプラフタをカフェへと誘う。

 

 

「話は聞いていますが、モーニングのサービスはありますよ。どうやら錬金術士として、認められるどころか飛び越えてしまったみたいですね」

カフェで、ホルストさんがにこやかに話す。

「この手紙とレシピ……何が書いてあるんだろ」

ソフィーは手紙とレシピを取り出すと、テーブルに置いた。

「国王のサインと大紋……本物か?」

その手紙を見たハロルさんが、ホルストさんを見る。

「おそらくは……しかし、綺麗な字ですね。この字も国王陛下のものなのでしょうか?」

ホルストさんもその手紙を見る。

その内容は、アシタバの帰舟のレシピを携え、キルヘンベルから離れるように……と、そう書いてあった。

 

……また、プラフタの記憶を取り戻す、封印されたアトリエ……

プラフタのアトリエの封印は、今は解かないように、とも記されていた。

 

「ソフィーは、マナの柱の影響の外には出た事が無い……その状態で、マナの影響の外、しかも強烈な魔物の巣に踏み込む事を危惧してもいるみたいですね」

プラフタも、その手紙を眺めて呟く。

「新鮮な葉っぱ4枚だけで、このアシタバの帰舟が作れる……とんでもレシピなんだけど……こんなの出来るかな……?」

ソフィーは手紙よりも先に、アシタバの帰舟のレシピを眺めていたり。

 

そうしてカフェで過ごし、ソフィーとプラフタは、アトリエへと帰る事にした。

 

帰り道のコルちゃん露店。

コルちゃんが居なくて、子供達がお店番。

儲かってるから、と子供も3人雇っているみたいで、職人さんが買い物をしてる。

「なんか、離れなきゃいけないなんて話をされちゃうと、何ともない景色が目についちゃうね」

ソフィーは呟く。

「確かに、そういう気持ちにはなりますが……離れる為には、アシタバの帰舟という調合をしなくてはならないのでは?」

プラフタは伏し目がちに答える。

「なんか、究極難しいんだよね……こんなの作れるのかなぁ……」

ソフィーはそれを聞いてうなだれる。

ただ、素材の気楽さ、時間のかからなさから、失敗し放題ではある。

「しかし、このようなレシピを成功させるのも驚きですが、作り出した者が居るというのも驚きですね。一体どのような錬金術士が……と興味は湧きます」

プラフタはそう話し、2人はアトリエへの山道を登って行く。

 

 

そして早速、アシタバの帰舟の調合!

「あうぅぅ~……」

シュポンと煙が昇り、錬金釜から焦げた葉っぱが出て来る。

MPバリアとLPバリアを大きく消耗する上、品質がほんの僅かでも下がると、途端に失敗になるという、あまりに無理ゲーなレシピだった。

時間は掛からないし、素材もすぐ目の前の葉っぱでいいのだけど、これでは連続チャレンジは出来ない。

「無駄な力が入りまくっていたのが敗因かと。しかし、これは手強いレシピというか……可能なのでしょうか?」

プラフタも首を捻る。

 

「む~……とにかくなんか凄い疲れたし、ぷにちゃんが気になるし、ぷにちゃんに癒して貰いたいし、コンテナに行かなきゃだね!」

アシタバの帰舟に、おばあちゃんの出来事、ナザルスさんに、旅立つ話……

なんか急に忙しくなったもので。

 

取り敢えずソフィーとプラフタは、コンテナへと入る事にした。

 

 

「ともかく、このアシタバの帰舟……何をするアイテムなのかが分からないんだよねぇ……」

ソフィーは呟く。

「……確かに、見た事も聞いた事もありませんからね。アシタバの帰舟について、どうにか調べないといけませんね」

プラフタもそう話す。

「アシタバの帰舟?聞いた事あるなぁ……でも……思い出せないなぁ……」

番人ぷにちゃん達が、わっしょいしながら言う。

そしてソフィーとプラフタは、ぷにちゃんの部屋へと入る為、服を脱ぐ。

 

……ぷにちゃんとも色々話して、眠って……

起きてからも色々と話すも、アシタバの帰舟の話をぷにちゃんが思い出す事は無かった。

 

 

「……ん~……とにかく、ぷにちゃんの封印をどうにかしないと、アシタバの帰舟がどんなものか、分からない訳かぁ……」

アトリエに帰って来て、錬金釜の前に立つソフィーは呟く。

窓を見ると晴れたキルヘンベル。

これからお昼になる時間だ。

 

アトリエの外には、冒険には行かずに帰って来た錬金荷車2号。

そこにナザルスさんとジュリオさんが、まったりと過ごしている姿があった。

「取り敢えずナザルスさんに聞いてみようかな」

ソフィーはアトリエ前の錬金荷車2号へと行ってみる事にした。

 

すぐ目の前、固定された錬金荷車2号。

ナザルスさんは土を眺めていて、そんなナザルスさんとジュリオさんで昔話に花を咲かせていたようで。

「やあソフィー。旅に出ないとなると、少し退屈だね」

ジュリオさんはそう話し、寂しそうな顔をする。

「確かにそうですね。アシタバの帰舟を作り上げて、キルヘンベルを離れないと行けない……って話なんですけど、アシタバの帰舟が……さっぱり分からないんですよね」

ソフィーはそう話す。

 

「……僕も初めて聞くね。ナザルスさんは、アシタバの帰舟なんて聞いた事がありますか?」

ジュリオさんはそう話を振る。

「ふむ……私も分からんが、レシピがあるならレシピの作者が居るのでは……その作者なら心当たりがあるかも知れないな」

ナザルスさんはそう話す。

「作者……誰だろ?まさか国王?」

ソフィーは考える。

ともかく、貰った手紙を見直すべく、アトリエに取りに帰る。

 

「国王?」

ナザルスさんはジュリオさんに尋ねる。

「いえ、実は……」

ジュリオさんは説明する。

1回話したのだけど、このオジサン空返事だったみたいで……

そう説明していると、プニ助を背負ったソフィーが戻って来る。

「ナザルスさん!これです!作者は書いてないけど!」

 

「どれどれ……」

ナザルスさんは手紙とレシピを眺める。

「何か分かります?」

ソフィーは手紙を見るナザルスさんに尋ねる。

「ふむ……アシタバの帰舟を作る……のではなく、このレシピを携えて……とあるな」

ナザルスさんは顔を上げる。

「え?あれ?」

ソフィーは驚く。

「作れ」とは書いていない。

 

「じゃあ……もう旅立てる……って事?」

ソフィーはナザルスさんに尋ねる。

「まあ、そうではあるが……旅の準備というのが必要だろう。君はアトリエ以外で調合が出来たりするのかね?」

ナザルスさんは苦笑いして、そう話す。

「あと、いつまでに旅立たないといけない、というのも無いんじゃないかな?ソフィー」

ジュリオさんも、そう話した。

そして、確かにそうなのだ。

 

 

……ともかく、なんかのんびりとした昼食を食べて、ソフィーとプラフタは、フリッツさんに会いに行く事にした。

「なぜ、キルヘンベルを離れないと行けないのでしょうか?そこの理由もまた、書かれていないのですが……」

プラフタはそう話す。

「確かに。でも、錬金術の力が他の人から疎まれる……って話を幾つか聞いたからなぁ」

ソフィーはそう言って、背中のリュックをふるふると振る。

振るとプニ助がにょ~ん……

と出てきて、プニ助を捕まえて頭に乗せる。

頭に乗せるにはデカい。

そしてやっぱり抱く事にするけど、抱くにもデカい。

「それで、逃げるようにこの場所を離れる、という話なのでしょうか?」

プラフタは少し苛立ち、そう話す。

「戦う訳にも行かないんじゃないかな?街の人と戦うくらいなら、旅に出る方がいいんじゃないかな?」

ソフィーはそう言って、歩く。

……フリッツさんは、何を知っているのやら……

 

 




ここには、ゲームには無い、勝手に付け加えた設定を書いておく所。

[錬金荷車2号]
2階建て荷車。しかも屋根付き!更に寝たりするので、ふわふわクロースとか、もふもふモフコットとか完備。
[絢爛荷車レストラン号]
エルノアさんが飾り付けをした、めっちゃキラキラの荷車。レストランも荷車販売をするみたいで作られた。高性能マナフェザーにより、重量のほとんどを不思議パワーでごまかしている、錬金荷車3号。

[エルノアさん]
モニカと一緒に住んでる可愛いおばさん。飾り付け大暴走の人。あかん、キルヘンベルがキラキラしてしまう。
[手伝いの子供]
ヴァルム教会が派遣する、ヴァルム教会で育てられてる子供達。働く場所には、バーニィさんとディーゼルさんの目が光る。
[バーニィさん]
神父さんの格好をしている、ヴァルム教会の子供達の先生。
[ディーゼルさん]
神父さんの格好をしている、ヴァルム教会の子供達の先生。筋肉マン。

[八百屋荷車3号改]
元々は八百屋荷車1号なんだけど、バージョンアップを繰り返していたり。ver3.0.2みたいな感じ?

[日輪の雫]
72時間掛かる、凄いアイテム。
[プニ助]
失せし者達の都に居た、元々はマナの柱だった……らしい、すーぱーぷに。

[ギリアム]
昔の人?
[ラミゼル・ノイエンミュラー]
おばあちゃん。
[ブライト・ジーメンス]
ハロルさんのおじいちゃん。
[深い紫のローブの人]
何者?

[アシタバの帰舟]
この小説ではエンディングの調合。

[国王のサインと大紋]
綺麗な文字。美しいハンコ模様と黒と灰色の混じった不思議なインク。


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