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錬金術のアトリエ 7
キルヘンベルに帰り着くと……もうすぐお昼。
そんな時間だった。
「正直、あたしも眠くてしょうがない時もあったよぉ……今回、ハードだったよねぇ……」
キルヘンベルに入る小川の橋を渡り、ソフィーが呟く。
「途中、何回か寝ながら歩いてたもんな」
オスカーが片眉を上げて、苦笑いを浮かべる。
そんな訳でお腹も減ったけど、プニアタックされたせいで、3人ともプニ汚れべたべた。
カフェに立ち寄る訳にも行かない。
「職人さん達もお昼時かぁ……」
オスカーは、ソフィーとモニカを見る。
髪が服にべったり付いてたりして、頑張って来た感がある。
「モニカさん、目の下のクマが……」
ソフィーはモニカを見る。
眠いけど眠れなくて……
モニカは、目の下のクマが出来やすい人だったみたいだ。
「なんか歩き疲れてさ、街も近付いたものだからって、朝ごはんも抜いちまってるから……腹減ったなぁ……」
オスカーは猫背になる。
「豚ネズミ……食べる?」
ソフィーが荷台を見る。
「イケるか?豚ネズミ……まあでも、カフェ裏広場ならイケなくても職人さん達が食べてくれそうだよな……」
オスカーも豚ネズミを見る。
なんか、この前よりも更にデカいような……
「私は無理……」
疲れた顔のモニカが呟く。
「モニカさん……ちょっと怖いな……」
「モニカさん……ちょっと怖いね……」
ソフィーとオスカーはモニカに背中を向けて、でもやたら近くに寄って囁き合う。
「なんで聞こえるように囁くのよ……」
元気のないツッコミを、モニカは呟いた。
「じゃあ、こんなナリだけど、カフェ裏の広場で昼食にするか!そろそろ職人の人とか、自警団の人なんかで賑わう時間だもんな」
オスカーに続いて……カフェ裏の、草が刈られていて丸太が転がってる広場へ行く。
「こんな所あったんだねぇ……」
即席で造ったのか、歪んだテーブルや丸太を割っただけの椅子が、そこかしこに置いてあった。
オスカーは大鍋に水を張り、ソフィーは豚ネズミの調理準備をする。
お昼になって、職人のおじさんと若いお兄さんがやって来る。
「おや……君たちは……自警団の人かな?プニの群れでも居たのか?」
職人のおじさん、若いお兄さんがソフィー達を見て心配してくれた。
「えへへ、依頼とかもありまして……」
ソフィーがそう答える。
それからも自警団の人達、職人の人達、農家の人達、とカフェの裏は賑わう。
そんな中で、オスカーの捌いた豚ネズミ肉の焼いたのを食べた。
マルグリットさんもホルストさんも顔を出して来た。
お昼は、ここに来たりもするらしい。
「おやおや、ソフィー達もここに来ましたか……また汚れて帰って来たものですね……」
ホルストさんがそう言って笑う。
職人さんも自警団の人も、いい感じで汚れてた。
「あたしも強いんです!豚ネズミも取れるんです!がるるる……」
笑顔でポーズを取り、ソフィーは答える。
「私も強いのよ!豚ネズミも取れるんたから!」
やけっぱちモニカもポーズを取る。
モニカはいつになく眠たい目をしていて、汚れとクマで、中々の負のオーラを纏っている。
オスカーにホルストさん、マルグリットさんが広場の真ん中の焚き火で調理して………
振る舞う串焼きの肉や焼き芋、少し苦い黒いパンに、ソフィーはワイルドに食らいつく。
職人さん達やマルグリットさんにウケた。
「教会の子達と、蛇を追いかけてた子だろ?やるなぁ……」
職人のおじさんが旅汚れたソフィーに拍手を送る。
「面白いぞ、姉ちゃん!」
自警団のお父さんも笑顔で声を贈る。
「あれじゃないか?錬金術士の孫娘じゃないか?あの紺色のコート」
その隣の男が、ソフィーのべたべたのコートを見て呟く。
「もう!ソフィーちゃんたら……」
マルグリットさんは、そんなソフィーの姿を呆れながら見る。
人見知りしないのはいいのだけど、悪ノリ癖もあったようだ。
「この教会の姉ちゃんも……頑張ってるんだなぁ……」
草地に力尽きて眠るモニカを見て、職人さん達と自警団の人達は感心する。
そんな昼食を終えて、ソフィーとモニカはアトリエに帰る。
連日冒険したから、明日明後日はお休み、とオスカーにも伝えておいた。
「おかえりなさい。ソフィー」
プラフタが出迎える。
ソフィーとモニカは、採取してきた物を持って帰って来た。
ソフィーの鞄もべたべただけど、番人ぷにちゃん達が、入れた材料に関しては綺麗にしてくれる。
「また鞄ごと汚れて……じゅるり……」
番人ぷにちゃん隊長が、ソフィーの鞄を見つめる。
ぴょこんと伸ばしたのが手なのか……
そして目も無いんだけど。
「汚れ……美味しいの……?」
ソフィーが、そんな番人ぷにちゃん隊長に聞く。
「それはもう……今のこの汚れは……かわいい味……がしますね」
そうやって、番人ぷにちゃん達は、ぷにちゃんがソフィー達を綺麗にするように、魔法の草とかの材料を、武器や靴、鞄などを綺麗にしてくれる。
……かわいい味ってなんだろ……?
そしてソフィーとモニカは暖炉の前で洗濯を始める。
強敵、プニべたべたをやっつけるのだ。
ハダカ族ソフィーとモニカで、服を綺麗にする。
プラフタはパタパタと、それを見守る。
「もう少し錬金術が進めば、汚れを落とす薬も作れるようになるでしょう。今現在、錬金術の街であったはずのこの街に、その薬が出回っていないのは不思議ですけれど……」
プラフタはそう話す。
「ソフィー……期待してるわよ?」
モニカがソフィーを見る。
凄く眠そうだ。無理矢理動いてる感じもするし……
「これは……頑張らないとだね!」
ソフィーも応える。
プニ汚れが強敵過ぎる……
そして2人はぷにちゃんの部屋へ行く。
「……待っていたぞ……ソフィー……モニカ……今回は……時間を膨らませるか?」
ぷにちゃんは口を開き、2つの舌を見せる。
「うん。膨らませて欲しいかな」
ソフィーが伝える。
「眠い……」
モニカが思う。
「んっ……んうぅっ!あぅぅ……はっ!あっ!」
元気なソフィーがハジケて、時間を膨らませる。
モニカはようやく深く眠り……
ソフィーに意識を向ける事もなく、ぷにちゃんに癒されていく。
……起きても昼。
ソフィーとモニカはコンテナを出る。
「服が乾いてないのね……」
完全復活したモニカは、暖炉の前に干した服を確かめる。
ソフィーは替えの下着を着て、モニカは不思議な毛布で身を包んだ。
「なんか、限界まで付き合わせちゃってごめんね?でもぷにちゃんの力……凄いね……」
ソフィーは笑う。
「もう……我ながら不甲斐ないわ……もっと頑張らないと納得できないもの……」
モニカは俯いて反省する。
「でも職人さん達も自警団の人達も、モニカを見直してたよ?……こんな限界まで頑張ってるんだなってさ?」
ソフィーはカフェ裏……
草地に眠るモニカを思い出す。
旅汚れてぷに汚れてるけど……
なんか……
尊いモノを見たような気分になったような……
「まあ……過ぎた事はしょうがないけど、不覚だったわ……次はそうならないように、もっと緊張感を高めて行かないと……」
不思議毛布くるくる状態のモニカは、遠い目をどこかへ向けて反省していた……
そしてプラフタと錬金術生活を始める。
中和剤(赤)のレシピ構築、そして作成だ。
下着ソフィーとプラフタで、錬金釜の側の机に向かい、話し合う。
素材の扱い、釜の火、かける時間……
錬金術の理論が飛び交う時間。
「ソフィーらしからぬ、難しい話をするものなのね……」
意外にもダークマター工場だった半年の経験が、ここで活きてきている。
ソフィーの話に、プラフタが納得したりする場面もあったし、主導権はソフィーのようだった。
……服が乾いてないから下着姿なんだけど……
モニカは暖炉の側のテーブルに着いて、そんな2人の姿を見守る。
1時間で中和剤(赤)完成!1回で5個出来た。
丸フラスコを、やたらコルちゃんが増やしていたのも、この為だったのか……
と、ソフィーは思う。
「さて、中和剤は錬金術の基本中の基本ですが、中和する薬……なので何かを洗う際に、水と汚れを中和し、洗い流しやすくする薬でもあるのです。このまま使うと汚れはおろか生地まで中和してしまう為、洗剤としては使えませんが……」
レシピ調合ではない、時間のかからない調合……
ちょこっと調合としての錬金術を習う。
こちらの調合であれば、より薄い中和剤を、ものの5分で調合出来たりもするのだけど、この中和剤を図鑑の調合に使う事は出来ない。
でも、生活に実用的な物を作れる。
「なるほど~……確かにちょっと疑問はあったんだよね。浸け置きに時間掛けても、なんかあまり変わらないって感じがあったんだ」
ソフィーはそう話す。
「確かに、効果は大差ないのですが、キッチリ落ち着かせる為には、適度に素材を休ませる時間が必要になるのです……」
プラフタは錬金術談義を始める。
こうして錬金術の話をすると、プラフタは生き生きしてるような……
そんな上下にパタパタするプラフタを、ソフィーは眺めて、大人しく話を聞く。
ちょこっと調合で、食事も作れる。
大概何でも作れるけれど、特性を乗せられない。
そしてちょこっと調合の品物は、図鑑の調合には使えなくなる。
「ん~……でもちょこっと調合の、薄い中和剤を使えば……頑固なプニ汚れも……これでバッチリスッキリ!?」
ソフィーは口許に指を置いて、首をかしげながら明るい笑顔になる。
「そうですね。ではそのレシピを教えましょう。図鑑ではなく、他の本にでも記すといいでしょう」
そしてプラフタとちょこっと調合。
中和剤石鹸(赤)の作成。
5分くらいであっさり出来上がる。
「どう?モニカ~?なんか石みたいに硬いんだけど」
ソフィーは、調合の浸け置き時間に淹れたお茶を飲む、不思議毛布くるくる状態のモニカに、中和剤石鹸(赤)を見せる。
「実際に洗わないとわからないけど、どう使うの?」
モニカは手に取った赤く濁った色の石を見て、首を傾げる。
「水に濡れた布に擦ると泡が出る筈です。まだソフィーがイメージを確定していないので、思ったような出来上がりではありませんが……これから良くなって行くでしょう」
プラフタは落ち着いたトーンでそう話す。
便利に使える品となるのは、まだこれからのようだ。
「ん~……夕食はカフェに行こうよ。服も乾くだろうし……討伐報酬貰って……明日明後日はいい休日にしないとね!」
ソフィーは明るく言う。
オスカーと街をぶらぶらしようかな……
なんて考えたりしながら。
日が傾いた頃、ソフィーとモニカでアトリエを出る。
広場の子供達から、オスカーは旧市街の方へ行ったと聞いて、旧市街へ行く。
エリーゼお姉ちゃんの本屋がある区域だ。
「オスカーが本屋?……なんかイメージと違うわね」
モニカが言う。
「そう?オスカーは植物研究してたりするから、常連さんだって言ってたよ?」
ソフィーはそう話す。
植物と話せるオスカーだけれど、何もかも植物に聞いたりしてる訳ではないようだ。
植物だって、嘘を言う知恵があるらしいから。
エリーゼお姉ちゃんの本屋から、オスカーが出てきた時に、丁度2人が本屋に着いた。
「おお。ソフィーとモニカも調べ物かい?」
オスカーが尋ねる。
「ううん。カフェで依頼報酬貰って、夕食も食べようかな、なんて思って。明日明後日はお休みだし、お金あったら出来る事もあるかもだからね」
ソフィーが話すと、オスカーは頷いた。
「そうだなぁ……オイラは母ちゃんが夕食作ってくれてるだろうから遠慮するけど、報酬は貰いに行かないとだよな」
そして3人でカフェに向かう。
「オスカーオスカー、あたし、今日石鹸作ったんだよ!もっと改良して、オスカーにもあげるね?」
ソフィーは明るく笑う。
「ほお。なんか、お洒落なものを作ってるんだな。出来たら貰おうかな」
オスカーはいつものトーンでそう返した。
「あれ?でもオスカーの服は随分綺麗じゃない?既に何か使ってるんじゃない?」
モニカはオスカーの服を見て、気付く。
ソフィーもモニカも後遺症が残っているのだけど、オスカーの服には残っていない。
「魔法の蔦とか、ラーメル麦なんかを燃やした灰を、教会で配ってるじゃないか。あれを使って洗ってる………ぐらいかな。あっさり落ちるぜ?」
ソフィーとモニカは衝撃でのけぞる。
「え……なんで早く言わないの……」
ソフィーが言う。
「いや、灰が無い方が落ちるって言ってたのは、ソフィーじゃないか。確かに土とか砂は、使っても使わなくてもなんだけどな………」
そんな事を語り合いながらカフェへ。
ストリートに差し掛かった時に、ハロルさんが通りかかった。
「あれ?ハロルさん」
まだ時計店の閉店には早い時間。
ソフィーは不思議に思いながら声を掛ける。
「おう……トリオじゃないか。これからメシにしようと思っていた所だ……そうだ、一緒にどうだ?」
ハロルさんは少し上機嫌で、ほろ酔いっぽい。
「時計店、今日はもうおしまいなんですか?」
モニカが聞く。
「堅い事を言うなよ、独りでやってる都合でな。時折は早く終わらないと、俺は店と心中だ……」
そしてハロルさんと一緒にカフェへと行く。
「いらっしゃいませ。3人には報酬も出ていますよ」
ホルストさんが迎えてくれる。
テーブルを案内されて、4人で囲んだ。
「報酬?ソフィー、お前依頼とか受けているのか?……お前……本当にソフィーか?」
ハロルさんが驚いた顔で3人を見る。
そしてソフィーの顔を掴まえる。
「うん。ソフィーだよぉ……魔物退治とかしてるよ?」
ソフィーが答える。
なんか気付くの遅いような……さてはハロルさんは服で判断していたのか……
「あの悪ガキ3人が……俺も年を取る訳だな。まあ、好きな物を頼んでくれ。俺からも祝いだ」
上機嫌ハロルさんは、少し笑みを浮かべるとそう言った。
……不真面目時計店のハロル……
そう噂が回ってるのもあって、3人は複雑な顔をする。
それでもお金はある……のか。
ここは好意に甘える事にした。
「ハロルさん、時計の修理はもうやってないとか聞いたけど、実際はどうなんだい?」
好意に甘えて、結局食べていく事にしたオスカーが聞く。
「あ?……まあ……やってない事は無いが、直る物と直らない物があるからな。直せそうもない物は引き受けていない。それだけだ」
ハロルさんは気に入らない、という表情をしてから、いつもの感じで答えた。
「私のはちょくちょく調整して貰ってるもの。ね?ハロルさん」
モニカが言う。
ハロルさんも交えての食事。
よく飛ぶナイフを売っていたり、最近は実用的ではないにしろ、銃を扱っている話を聞いた。
ハロルさんが、いつも胸のホルダーに銃を入れてるのは、宣伝なのだそうだ。
それにキルヘンベルの街は、隣の国から移り住んだ人達によって作られた街で、その他の土地からも来てるらしく、銃の話を仕入れたくて、店は閉めがちになっているそうだ。
ハロルさんから色々な話を聞けて、カフェを出る。
オスカーとモニカと別れて、ソフィーはアトリエに帰る。
すっかり夜になっていた。
「おかえりなさい。ソフィー」
プラフタが出迎える。
「ただいま。プラフタ。なんか中々ゆっくり錬金術が出来なくてごめんね?」
ソフィーはそう言って時計を見る。20時……
「今日はまだコルネリアが来ていませんね」
プラフタが言う。
「そうなの?どうしたんだろ?」
ソフィーはそう言って、アトリエのドアを見る。
まあ……自宅に帰った、のだろうけれど。
「さて、錬金術しないとね!今回はゼッテルを作るよ!」
レシピ構築は出来ている品物。
作ると4枚纏まって出来上がるのだけど、なんと6時間も掛かる。謎の紙だ。
「ゼッテルですか。これも錬金術の基本ですね」
プラフタと錬金術話をしながら、ゼッテルを仕込む。
6時間掛かるけど、そのほとんどは浸け置きの時間。
仕込み終わったら5時間程寝てられる。
「……錬金釜は使えないし……持て余す時間だね……」
ソフィーは窓を見る。
外は夜の景色。天気が良くないみたいで、少し暗い。
「洗濯でもしてはどうですか?石鹸を試すチャンスでもありますが」
プラフタは言う。
「それだ!」
ソフィーは早速、中和剤石鹸(赤)を試すべく服を脱ぎ、洗濯を始める。
色々と課題が見つかり、プラフタとちょこっと調合図鑑に課題点を記す。
そして身体を綺麗にする為に、ぷにちゃんの部屋へ行き、アトリエのベッドで一眠りする。
プラフタに起こされて、ゼッテルを仕上げた。
「……紙だね……よし、次を作るよ~!」
ソフィーは張り切る。そして遂にフラムの作成に入る。
「……これ、応用すれば雨でも火を焚ける物が作れないかな」
フラムの浸け置き約3時間……
プラフタと、フラムについて話し合う。
雨でも問題なく使える品だと言う話で、ソフィーは閃く。
「良い閃きです。ですがフラムの瞬発力を、焚き火の持久性に変換するにはまだ……ソフィーの錬金術では難しいのではないですか?」
そんな話をしながら3時間、そしてもう一度3時間。
フラム2つを作り、朝になった。
赤い爆弾8発分。1つで4個セットだ。
「……これ……どんだけ威力あるんだろ?……ごくり」
ソフィーは、出来上がったフラム1発分を手に取って見つめる。
「屈強な戦士の一撃に匹敵する威力を持っています。くれぐれも間違えた所に使わないように」
プラフタは、そんなソフィーに声を掛ける。
「……練習しないとだねぇ……ともかく朝だし……買い物でもしとこうかな……」
ソフィーは窓を見る。今日もいい天気……
ではなくて、どんより曇っていた。
旅はお休みの今日と明日……
お金もあるし……ソフィーは八百屋へと行く。
「八百屋だけだし……プラフタも一緒に行こうよ?」
ソフィーは謎の土下座ポーズで声を掛ける。
プラフタもずっとアトリエの中……
と、いうのも何だか不健康な気がするし。
「……あなたは、時折変なポーズを取りますね……それはともかく、今にも雨が降りそうですから……やめておきます」
あっさり断られて、1人で出掛ける。
そして辿り着く八百屋の、ソフィー用の棚……
ピンピンのラーメル麦、きまぐれいちご等々……
今までの恩もありまくりだし……
と散財する。
「ソフィーちゃん、そんなにお金あったのかい?」
「お金あったら、全部使っちゃうって……いいのか?」
マルグリットさんとオスカーに、心配された。
「へへへ……錬金術やるぞー!って気分になれるんだよね。コンテナの中で悪くなったりしないから、いいんだ」
ソフィーは、ほっくほくの表情でアトリエに帰る。
しっかり食べ物も買ったし。
帰る時、ロジーさんの鍛冶屋から、コルちゃんが出てきた。
「おはよう、コルちゃん」
ソフィーは挨拶する。
コルちゃんと言えば、昨日は珍しくぷにちゃんの部屋で寝てなかった。
「おお、ソフィーさん、聞いて下さい!」
明るい表情で、コルちゃんは長い袖をパタパタして……
はっ、と気づくと袖で口許を隠した。
「なんか……凄くいい事があったみたいだね?そんな顔してるよ?」
にやけて両袖を頬に当てるコルちゃんに、ソフィーもにやけて、尋ねる。
「いい事ありました。この前……ロジーさんを見てからと言うもの、寝る時とか……やたらとロジーさんの顔が浮かぶようになりまして……」
鍛冶屋の前から、ストリート入り口の、謎の壺の場所へとコルちゃんは歩き、ソフィーはついていく。
「完全に恋してるじゃん!それで会いに行ったの?」
ソフィーもテンションを上げる。
ロジーさんたらイケメンだし、商人だし年の頃も近いし……
なんとなくコルちゃんに、お似合いな感じもするし。
「はい。こんな事は初めてでしたので……ロジーさんに聞きに行ったのです」
落ち着かなく足踏みして、ほんのりにやけ顔のコルちゃんは言う。
「……え?ロジーさんに聞きに行ったの?……なんて聞いたの!?」
ソフィーは驚く。
勇者だな……コルちゃん……マナの柱に突撃した時も即決だったし。
「はい。昨日の夕方に……ロジーさんの顔が浮かぶ事を相談したんです……凄く顔が熱くてドキドキしましたので……その事も……」
口許を隠して、そう話すコルちゃんは、顔を赤らめる。
「そ、そしたら?そしたら?」
ソフィーは食い入るように、そんなコルちゃんを見つめる。
恋するコルちゃん可愛い……
「そしたら……気が済めば治るんじゃないかって……一緒に夕食を食べて……添い寝してくれました……凄く幸せな気分で眠れました」
コルちゃんは目を細めて、顔を真っ赤にする。
……治ってはいないみたいだ……
というか……
ロジーさんもその反応だったのか……
「な、治ってないよね?」
ソフィーが尋ねる。
「はい。だからまた、今度鍛冶屋が終わる時間に……おいでって言われまして……へへ……」
嬉しさのあまり、落ち着かなく足踏みしながらコルちゃんが言う。
……それで昨日の夜にはアトリエに来なかったのか……
と思う。
「でも良かったね!ロジーさんも協力してくれて!」
ソフィーはそう言って喜ぶ。
少なくともロジーさんはフリーみたいだし。
……なんか子供扱いされてる感じはするけど……
「はい。だから……今日からはお昼過ぎくらいにアトリエに寄りまして……夜は鍛冶屋に行こうかと……」
コルちゃんはソフィーを見る。
「今まで通り、コルちゃんの好きな時間に来てくれていいよ」
ソフィーはそう言って笑う。
恋するコルちゃんがあんまり嬉しそうだから、ついついソフィーも嬉しくなる。
そしてソフィーは、アトリエへ帰る事にする。
コルちゃんはお店の準備もあるから、と別れた。
「おかえりなさい。ソフィー」
雨が降り出して、ちょっと降られながらソフィーはアトリエに帰る。
「ただいま。プラフタ」
ソフィーは買った物をコンテナの棚に並べてから、錬金釜に向かう。
そして錬金術生活が始まる。
予定通り、ゼッテルから仕込んで行く。
とにかく上達の為に、場数を踏まないと。
「ゼッテル6時間だからな~……」
ソフィーは釜の中の素材を見る。
ソフィーの錬金術の力で配置された素材は、浸け置いて落ち着くまで、錬金釜の中の世界で揺れている。
これが落ち着いてから、沸かして混ぜる。
落ち着くまでおよそ6時間……
「アトリエの掃除などしても宜しいのでは?」
プラフタが言う。
それもそうだ、とソフィーはアトリエの掃除をする。
そんなこんなでお昼になり、オスカーが来た。
「オスカー!どうしたの?」
ノックされてドアを開けて……
ソフィーは笑顔になる。
「ハロルさんからヌルヌル魚を貰ってさ。昼時だし一緒に食べようかな、ってさ」
キルヘンベルの川で超稀に取れるヌルヌル魚……
蛇ではないみたいだけど、長くて蛇みたいなやつ。
オスカーはパンとヌルヌル魚をソフィーに見せる。
「わお!お茶淹れるね。あ……錬金釜でお菓子……ゼッテル中だった……」
慌てるソフィーを尻目に、オスカーは落ち着いてまな板を手に取る。
「もうすぐモニカも来るからさ。捌く時の水を頼むよ」
外は雨だけど、雨の中ヌルヌル魚を捌く。
あとは焼くだけにして、アトリエに戻る頃に、モニカとコルちゃんが来た。
コルちゃんは紫と赤の「蛇の目」で雨を凌ぎながら、優雅に来た。
「うわぁ~……コルちゃん優雅……」
蛇の目の紫が華やかなその姿に、ソフィーが驚く。
「ふふ……お母さんの蛇の目……持って来ちゃったです」
コルちゃんは目を細めて笑う。
ネコを思わせる表情。
「おお、コル助もヌルヌル魚食べて行きなよ。食べた事あるかい?」
オスカーが声を掛ける。
「今日はお昼を食べたので……それに今、ヌルヌル魚を専門にしている商人さんも来ていますので……つい先日頂きました」
さすがコルちゃん、詳しい。
ハロルさんも、その商人から買ったのだろうか。
コルちゃんをコンテナに送り出して、3人はお昼を食べる。
「これ、美味しい!」
ハチミツ入り複雑スープを煮込んだ、というタレを付けて、ソフィーもモニカも大絶賛して食べた。
ヌルヌル魚がおいしいのか、タレが美味しいのか……
「この魚とタレ、高いのかしら?」
モニカがオスカーを見る。
「ハロルさんから貰ったから、値段は知らないんだよなぁ……」
そんなお昼を食べて、ソフィーは錬金釜を見る。
ゼッテルを完成させて、次のフラムを仕込む。
錬金釜の中にコルちゃんが見えて、オスカーにアトリエを出てもらう。
男の子が居ると、コンテナが開かないから、コルちゃんが出て来れないのだ。
「雨が強くなってるなぁ」
コルちゃんがコンテナから出たら、オスカーを呼び戻す。
ちなみに錬金釜に使う材料は、番人ぷにちゃんが、錬金釜の中に送って来る……
だからコンテナが開かなくても、錬金術をする分には問題ない。
「そうだ、コルちゃんがね……」
ソフィーが嬉しそうに、ロジーさんとコルちゃんの話をする。
「おお!やるなコル助」
オスカーも喜びの笑顔で、コルちゃんに言う。
「嘘ぉ!?そんな感じなの!?」
モニカは驚いて、コルちゃんを見る。
「まだ子供扱いですが……私も一端の商人になって……認められたいです」
コルちゃんは、ネコみたいに目を細めて言う。
子供扱いの自覚は、あったみたいだ……
そんな話を少しして、コルちゃんはまた蛇の目を開いて、アトリエを出て行った。
蛇の目を使う後ろ姿が、なんか凄いお洒落だ。
「しかしコル助、素早いなぁ……」
オスカーが言う。
「コル助で定着しちゃってるのね……コルちゃん」
モニカが呟く。
……ロジーさんも、コル助って呼んでたような気がする。
「でも明日も休みじゃ暇だよな……明日はどっか行かないか?ソフィー」
オスカーを思って提案した休日だったけど、オスカーが退屈だったみたいだ。
「じゃ、明日は朝にカフェに行って……どこか行きましょうよ。オスカーもこう言ってる事だし」
モニカも賛同する。
採取生活も美味しい物を食べてるし、色々と楽しい事があるから、悪くなかったりするし。
今までもキルヘンミルクスネークカモン!な日々だったし。
「じゃあ、明日は依頼報酬を目当てに採取生活しよっか」
ソフィーもそう言って、食事の後片付けをする。
雨が強いから、アトリエで3人で過ごす。
オスカーとプラフタが、なんだか意気投合して会話が盛り上がってた。
ソフィーは更にフラムを作る。
「あ~!これ、分かったかも!」
錬金釜からフラムを取り出して、ソフィーは叫ぶ。
モニカが驚いた。
「何!?もう……イキナリ叫ばないでよ……」
驚くモニカをよそに、プラフタがソフィーに近寄る。
「何が分かったのです?」
「超微粒子」などの特性を1つ、引き継げるようになった。
ソフィーはその事をプラフタに話す。
「なんと!それが出来る錬金術士となると、かなりハイレベルな錬金術が出来ますよ!あなたは……かなりの力を受けているみたいですね」
プラフタが驚く。
錬金術士は結構居るらしいけれど、特性を選んで引き継げる者は珍しいようだ。
「……選んで引き継げるかまでは分からないんだけど、一応希望通りだったよぉ」
ソフィーは照れ笑いして、言う。
……夜になると雨は上がり、オスカーにちょっとアトリエを出て貰って、モニカとソフィーでぷにちゃんの部屋へ行く。
「コルちゃん凄いわねぇ……好きな人が出来たらすぐに告白するなんて……」
コンテナに入り、ぷにちゃんの部屋までの、棚に挟まれた道……モニカが呟く。
「凄くドキドキしたって言ってたよ」
相変わらずの能天気な笑顔で、そう言いながらソフィーはドアを開ける。
今日もぷにちゃんが、いつものようにそこに在る。
モニカには白く輝いて見えるらしいけれど、ソフィーには黒く見える。
「あら。なんかいいことあった感じ?」
ぷにちゃんはそう言って2人を迎えた。
ここには、ゲームには無い、勝手に付け加えた設定を書いておく所。
[カフェ裏広場]
服の汚れたお客さんの為に、お昼だけ解放される食事場所。座るだけなら24時間。
[ちょこっと調合]
図鑑の調合と違って、浸け置きの時間が無い。なので忙しい調合。
[錬金術談義]
銀いもの銀部分の名前とか構成とか、中身の名前とか構成とか……難しいお話。
[頑固なプニ汚れ]
なかなか落ちない。
[本屋で植物研究の常連]
オスカーってば本屋の常連さん。物語も読んでるみたい。ゲームでも本屋の近くに居る事も多い。
[少し苦い黒いパン]
大人の味。麦が違うんだって。
[中和剤石鹸(赤)]
ちょこっと調合品。赤い石にも見える。
[教会で配ってる灰]
火を扱う事も多いので、その度に増えるそうだ。教会の子供達が集めてまとめている。
[よく飛ぶナイフ]
ハロルさんのナイフ。
[銃の宣伝]
ロマンがあるらしい。
[コルちゃん×ロジーさん]
ゲームでも、2人は近い場所に配置されている。が、誰かと誰かが恋仲、という設定は全く見かけない。
[コル助]
可愛い愛称。しかし日本的なのが気になるところ。
[ヌルヌル魚]
うなぎ的な生き物。
[蛇の目]
和傘。オリエンタル。
[ハチミツを煮込んだタレ]
うなぎのタレ的なタレ。