素朴な幸せでオペレーターを籠絡する話。 作:杜甫kuresu
皆はフロストリーフちゃんのことをローストビーフと聞き間違えないようにしようね!
「フロストリーフ。傭兵をやっていたが、今はお前に命を預ける。命令とあらば、何でも従おう」
やたらといい声をした女の子だなあという印象だった。黒いフードから突き出た耳が特徴的な、銀髪の小さな子。赤い瞳ばかりが俺をじーっと見つめている。
ヘッドフォンなんかして、ところどころに見える戦場慣れした装備を抜けば、きっと何処か町中を歩いていそうだ――――――――肩に掛けた戦斧を除けば。
アーミヤでも十分衝撃だったわけだが、いやあ。これはとりわけびっくりした。
俺の視線に居心地悪そうに斧をくるくると回す手付き。子供の細い指から繰り出されるにはあんまりに繊細で、しなやかで、殺し慣れている血の匂い。
冷淡な様子も程々に、少しだけ困ったような顔で尋ねかける。
「…………どうした。体調でも悪いのか?」
体調は悪かった。悪かったが、それ以上に何だか痛ましかった。
「お前は、戦場に出るのか?」
「……? 当たり前だ、そのために此処に居る」
口をついて出た言葉は最悪だった。
「お前が戦場に出るのは、俺。嫌だな」
冷たかった瞳が失望に変わったのが印象深い。
「はぁ…………そして俺は何でドクターなのに深夜飯決めてるんだろうな…………」
人の健康の心配はしていられないご身分だが、それでも俺はドクターと呼ばれていた。
話を聞くには俺は鉱石病なる謎病に対する治療方法を知っていて、感染者の組織であるロドスなんてところに所属しちゃってるらしい。
うんまあ設定の話ね。寝て起きたらそんなつよつよ設定とかお前ラノベ主人公かよ、実感ねえわ。
大体名医が深夜にカップラーメン食うか? いや食わん、いや食うのか? 分かんね、分からん時点で医者の知り合いに心当たりはなさそうだよね。
「俺は飯と可愛い子がいればそれでいいんだよ、それで」
転生者っぽい意味不明な呟き、でも多分転生者だし。確証はないが、なんかこんな世界観のゲームしてた気がする、するだけ。
それすらあやふやな不安も麺を啜れば喉奥に追いやれる。というか、名医でしたって言うよりは転生者でしたって言う事実の方が受け止めにくい。
そんなこんなで名医ヤヒトさんは哀れにも記憶にない仕事に追われ、気づけばいつも深夜に徘徊老人よろしくうろついて飯を食う不審者になった。ロドスの警備員とはもう仲良しだ、この前飲みに誘われた、なんか泣けてきたんだよなあれ。
電気もつけない根暗根性剥き出しの貧相なディナー、孤独だった食堂に足音が鳴り響き出した。俺ではない。
「…………ドクター、どうして電気をつけてないんだ?」
「部屋が一つだけ明るいと狙撃される」
めっちゃ適当な返事をした、暗がりで創造主の性癖まるだしのケモミミがヒョコヒョコっと動くと首を傾げる。
銀髪赤目のドストライク、フロストリーフ。今日の昼にやってきた新人で…………。
ああ、昼っつーと悲しいこと思い出してきた。フロストリーフとできるだけ視線を合わせないようにする。
というのもあの時の彼女の返しが未だ突き刺さったままなのだ。
”私は読み書きを学ぶ前から斧を握ってきた。それが私の個性だからだ”
”斧を振らない私に、お前は一体どんな価値があるというつもりだ?”
彼女の暗がりの姿にあの冷え切った瞳のフラッシュバック、血も凍るような凍血の瞳。
俺は答えられなかったと言うか、どっちかと言えば言葉が全部その瞳に冷え切って凍えちまったというところだ。
別に言いようは有った。ちっぽけな理想論と笑われる世界観らしいが、言うだけならタダだ。
でもこんな小さい子供がそれを言わなきゃいけない世界に俺は敗北した、子供が自分の価値を冷酷に問いただして、しかもそれを以て甘い言葉を喰い殺す。
それは俺以上にフロストリーフの、世界の不幸ってもんだ。
「いつもこんな風なのか、お前は」
「まあそうだぞ。記憶喪失でも世間は待ってくれねえからよ」
冷えてく心に尚更麺を啜る僅かな揺れがしみる。
俺の視界の端に細い指が入り込んでくる、捲られそうだったフードをとっさに深く被り直す。
「大体なんだ、そのフードは。顔が見えない」
「見えなくても困らんだろ、んなもん」
「…………まあ、そう言われてしまえばそうだが」
何だかちょっと寂しそうだった、俺の良心がギシギシ悲鳴を上げる。
とはいえ、マトモにあそこで切り返せなかったのが結構ショックだったり。もっとこう、他人事みたいにズバズバっと俺は言い返せるもんだと思ったんだが、それすら出来なかった。
半端な男に見せる顔はない。
黙々とぼっち飯に励む時間がまた始まるかと思ったが、一向に立ち去る足音は聞こえてこない。フード被りすぎて周りが見えないなんてバレたら恥ずかしいので平静を装う。
「………………」
「なあ、ドクター」
「……何」
「私もそれ、食べてみていいか?」
思わず麺を吹き出した。
「後はポットの湯を入れて三分待つだけだ」
「なるほど…………文明万歳だな」
恐ろしいことにマジでフロストリーフはカップ麺を知らなかったらしい。世界は広いと言うべきか、この子の生まれ育った環境がそれだけ酷かったのか…………謎が尽きん。
クールぶりつつチラチラと視線を寄せて砂時計を待つ姿の可愛さたるや。俺の想像する年下の女の子に結構近くて、何だかちょっとだけ安心してしまう。
声が出てたのだろうか、彼女の冷ややかな視線が突き刺さってくる。
「カップ麺を知らないのがそんなにおかしいか、ドクター」
「ああ、違う。悪い、そういうことじゃないんだ」
「じゃあどういうことだ」
むすっとしてそっぽを向くが、尻尾がくるくる丸まっていて拗ねているのが丸わかりだった。きっと学がないと思われたとでも思っているのだろう。
往々にしてそういうくだらないことを言うやつは居る、冷たいが、それぐらいの人間が存在できるバランスは平和の先駆けとも言える――――かも。
「朝に会った時はもっと冷たい顔してたし、昼も俺のこと避けてただろ? そういう顔するんだなって」
「どんな顔だ。別にいつもどおりのつもりだが」
「結構可愛いと思うぞ、素直じゃないけど」
可愛いという言葉にちょっとだけ此方を向いて様子をうかがう、縮こまった耳を見るには疑われているような、そんな感じ。
しばらくじぃと俺を見つめていたかと思うと、また瞳に冷気が灯りだす。
「…………そんな事を言うのはお前が初めてだ」
「顔で売る商売も出来るぞ、お前」
「鉱石病に罹ってからは、特に扱いは酷いものだったからな」
鉱石病。
俺はそのたった漢字にすること三文字に、どれだけの意味が籠もってるかはよく分からない。彼女が俯いた理由も、砂時計の小さな音がやけに大きく聞こえてしまった理由も、俺がどうして言葉を躊躇ったのかも、よく分からん。
分からないので、笑い飛ばすことにする。
「鉱石病が何だ、俺は仮にも医者だぞ。俺の仕事は怯えることじゃなくて、助けることだ。だろ?」
まあ、記憶ないんだけどさ。
そんな泣き言にフロストリーフがふっ、と少しだけ笑った。
「情けないな、ちゃんと啖呵は切り通せ。ヤヒト」
「うん? 今名前呼んだか?」
得意げにしっぽを振りながら、時間の終わったカップ麺の蓋を開ける。彼女の横顔はやっぱりちょっと笑ってる。
「どうだろうな。お前こそ名前を呼べ、ドクター」
「それもそうだな、フロストリーフ」
何も考えてない…………此処からどう展開するんだ……?
私は雰囲気でアークナイツの二次創作をしている…………。