今回は米ディではなくシリアルです。
次の本編から徐々に話を進めていこうと思います。
あ、次の話はオリキャラの紹介(ちゃんとしたやつ)にしようと思っています。べ、別に作者が把握しきれなくなったとかそういうのじゃないんだからね!!
疲れしゅごい。短めです。
評価と感想ありがとうございます、なるべくエタりはしないように頑張りたいですそれではどうぞ!
……そろそろうどん、出すか。
蒼然とした闇が広がっている。
黒のキャンバスに光を塗したような星空が広がる迷宮都市。月はその身を惜しげもなく晒し、このオラリオを明るく照らしていた。
大通り沿いを始めとした歓楽街や繁華街は未だにその喧騒を治める気配を見せず、しかしそんな華やかな場所からは一歩離れた場所に彼らはいた。
迷宮都市オラリオの守りの要である巨大な市壁が見下ろす、都市外周の路地裏。騒いだ帰りなのだろうか、赤らんだ顔で放置された樽や木箱の上に座り込む冒険者たちに交ざって、とある男神が手持ち無沙汰に羽根付き帽子を弄っている。
月が見下ろす雲が次々とその形を変えながら夜空を流れていく。それから暫くして、酔いの醒めた周囲の冒険者たちが自らの
「ヘルメス様、ローリエ達が帰還しました」
純白のマントで薄闇を払う彼女は、アスフィ・アル・アンドロメダ。
羽根付き帽子を弄っていた男神ヘルメスの眷属の一人であり、彼が率いる派閥【ヘルメス・ファミリア】の団長でもある彼女の声に、座っていた樽から立ち上がったヘルメスは優男の笑みを浮かべた。
「長旅ご苦労!ローリエ、お前たちも。待っていたぞ」
旅装のフードを下したのは、3人のエルフの男女。ヘルメスから名前を呼ばれた少女を中心に並んだ彼らは、続くヘルメスの言葉に長旅の疲れを感じさせないしっかりとした声で返答する。
「それで、どうだった?」
「はい……ご指示の通りに一旦都市から出回っている密輸品に関する調査を取りやめ、ウィーシェの森へと向かいました。そこで調べてきた情報がこちらです」
「おう、ありがとう」
3人を代表して話すローリエは、懐から巻いた羊皮紙を取り出すとヘルメスに手渡した。その羊皮紙を一度広げ、さっと目を通してから満足げに頷いたヘルメスは腰に巻いていたポーチの中へとその羊皮紙をしまい込んだ。
その様子を見ながら、エルフの団員は硬い表情で口を開く。
「ウィーシェの森は、私の記憶にある通りの変わらない様子でした。……本当に、ヘルメス様から見せていただいたような事態が起こっているとは到底思えません」
「そう思うのも無理はないだろう。現にオレもいまだに迷っている。この情報は確かなものなのか?ってね」
団員の言葉に軽く頷き同意するヘルメス。しかし「ですが……」と言葉を続けた団員に無言で続けるように促した。
「絶対にありえない、と言えないのも確かです。……
「我らが
そう言いながらヘルメスは団員達を
「……いやあ、全く、馬鹿な事を考えるものだね」
団長であるアスフィを除く団員達が拠点へと戻ったのを確認した後、ヘルメスが徐にポーチから取り出したのは、一枚の羊皮紙だった。耐久性に優れるように、しかし有事の際はすぐに焼却できるように加工が施されたその紙には、ウィーシェの森の
《ウィーシェの森を出奔した第一王女を殺してほしい。王女は既にそちらに着いているはずだ。報酬は100万ヴァリスと王女の死体》
この手紙、もとい
どうやら彼らが捜索した闇派閥以外の複数の派閥にこの手紙は流れ込んでいるらしく、ヘルメスが会ったこともないエルフの王女は命の危機を迎えていた。
「エルフってのは、子供は大切にする種族だと聞いていたんだけど……オレの調査ミスだったかな?」
「それで、どうするのですか、ヘルメス様?まさかこの件にも首を突っ込もうなんて考えているわけじゃ……」
「まさか。
「……承知しました」
そう言って傍から見れば残酷にも見えるほどにまだ見ぬエルフの王女を切り捨てるヘルメス。とはいえ、一般的な視点から見ればそれは賢明な判断だ。
なにせ相手は継承権第一位のエルフの里の王族、何か相手の気に障るようなことがあれば即座にこちらの責任となる上に、身内から暗殺計画まで持ち上がっている人物だ、関われば最後彼らが現在行っている任務などに構っている暇がないほどの苦労を押し付けられることになるだろう。
それこそ、彼らの現在の目標である
「……そういえば、報告書を確認していなかったな。アスフィ、近くに人影は?」
「ありません。こちらに向かってきている人影もなし。暫くは大丈夫でしょう」
「ならここでさっさと確認してしまうか」
面倒ごとは早めに片付けるに限る、と側にあった樽に再び座り込みポーチからウィーシェの里に関する報告書を取り出すヘルメス。それを見届けたアスフィは、周囲の警戒にあたるため
夜の狩人である梟が空を舞っていた。
上空は風が強く、アスフィが身にまとっていた外套がバサバサと風に揺れるが、梟はそんな風など意にも介さずに悠々と空を飛び、やがてヘルメスの背後に建っていた家の屋根に舞い降りた。
その自由かつ堂々とした所作にアスフィが微かな憧憬を感じていると、下で報告書を確認していたヘルメスから「アスフィ、すぐに来てくれ」という呼び出しがかかった。
静かに、しかし焦りが含まれたいつにない主神のその声音に緊急性を感じたアスフィは空中からすぐさま舞い降りた。
「どうかなさいましたか」
「……まずい事態になった。ああ、くそっ!!そうか、
「へ、ヘルメス様!?」
がり、と自らの頭をひっかき、付き合いの長いアスフィでも見たことがないほどの狼狽ぶりを見せるヘルメス。
しかし、続く彼の言葉で彼女も動揺させられることになる。
「精霊の愛し子、それも
「なっ─────」
「悪い、アスフィ。怪物売買の調査とは別口ですぐにこのエルフの王女の調査を行ってほしい。無事にオラリオに着いているかどうかも分からないが一先ずの捜索範囲はこの街だ。オレも他の神々に探りを入れてみる」
「ヘルメス様、ヘルメス様!?……行ってしまった……」
指示をする時間すら惜しいとばかりに駆け出して行ったヘルメス。すぐに路地裏の闇夜に隠れてしまったその方向を呆気にとられた表情で暫く見つめたアスフィは、はっと我に返ると直ぐに派閥の者たちに追加の指示を出すために
斜め上の方向に駆けずり回ることになった被害者が増えた、その瞬間であった。
「……さて、話がしたいと言っていたね。聞こうか」
「感謝する、神ニニギノミコト」
夜空を梟が翔る。
ニニギの目の前に佇む影のような謎の人物の腕から飛び立ち、何処かへと飛んでいく一羽の梟を見送りながら神とヒトは密かに対峙していた。
場所はオラリオ郊外。ニニギ・ファミリアがデメテル・ファミリアを相手に交渉を重ねた末に手に入れた水田が広がるその場所で、ニニギは静かに口を開いた。
「貴殿が
「……ご名答、と言いたいところだが、流石にこれは分かりやすすぎたかな」
「こんなもの、聞けば赤子でも答えられる」
元より、ニニギ・ファミリアの拠点の周囲にこちらを観察する者がいたことは把握していた。最初は他派閥からの回し者かと警戒していたが、数日程様子をうかがっていればどうもリリアを観察しているようだということは理解できた。
彼女に危害を加える様子を見せなかったために放置していたが、ある時を境にその見張りがどうも変わったような気配をニニギは感じていた。簡単に言えば「気配が極限まで薄くなった」のだ。
まるでそこに穴が開いてしまったかのような完全な隠蔽。ニニギに逆に違和感を抱かせたその見張りもリリアを観察しはするものの危害を加える様子を見せなかった。そして今日、日課である田んぼの面倒を見終わり拠点へと戻ろうとしたニニギにこの黒の外套で全身を包んだ人物が接触してきたのだ。
夜に話がしたい。
それだけを言い残し消え去ったその人物がこれまでリリアを観察していた人物であると直感したニニギは、自らが天界に送還される危険性を顧みずにこうして単身彼(もしくは彼女)と接触を図っていた。
「─────そうだな。ここは正直に話させて頂こう」
そう言って外套のフードを上げる謎の人物。そのフードの下に隠れていたのは、
肉と皮の存在しない、正真正銘の髑髏であった。
「私はフェルズ。ギルドの、いや
「……ほう、彼の
肉の無い伽藍洞の姿を見ても、ニニギは特に驚いた様子を見せなかった。そのことにフェルズは若干の驚きを抱きながらも目の前の神にこちらの目的を告げる。
「私たちの目的は、迷宮都市オラリオの存続。─────そのために、貴方のファミリアの団員であるリリア・ウィーシェ・シェスカの身柄を預からせてほしい」
「怪しいって思ったんは最近や。リフィーたんの行動を見てたら、どうも
「……」
重苦しい空気が広がる。
恨むで、フィン。
緊張した表情でこちらを見つめる
リフィーリア・ウィリディスが自らの目的を偽っている可能性がある、とロキに言い出したのは他でもない【ロキ・ファミリア団長】フィン・ディムナであった。最初はそんな馬鹿なと笑い飛ばしていたロキだが、彼の推測を聞いているうちに段々とあり得ると思えてきたのだ。
自らの眷属を疑う。それはロキにとって一番したくないことの一つであり、かつそれが
「自分、
「……それは」
「それに、本気でその子を探してないよな、自分」
「……」
淡々と、機械的にリフィーリアを追い詰めていく。彼女の顔が歪むたびに、ロキも悲しくなる。天界にいた頃とは比べ物にならないほどに丸くなったロキは、たった数カ月とはいえ自らの眷属となったリフィーリアを自らの手で問い詰めなければならないことに悲しんでいた。
しかし、これも派閥を率いる神としての義務である。真偽を完璧に判別できる神だからこそこういった尋問には最適だ。
「まるで
「私、は……」
「自分、
「……信じても、いいんですか」
「ああ、何があっても、うちらはリフィーたんの味方や」
実は─────。何かを覚悟した顔でロキを見つめたリフィーリア。
そして、彼女から語られた内容に、ロキは目を見開いた。
歓喜の声が響く。
暗い広間の中央で、一人の神が狂喜のあまり踊り狂っていた。
「っはは、あっははははははははははははははははははははははははははははははははははッ!!!!!!いいわいいわ、素敵だわッ!!!!!!精霊の愛し子!!それも6人から愛されているなんて!!!!!なんて、なんて、
涎を垂らし、衣服は乱れ。
常人には見るに堪えない有様の神はおかしなことに
「これなら簡単に穴を開けられる、死が大地を覆いつくす!!!!大切なものを失った精霊が壊れていく様が見られるなんて、ああ、とても素敵!!!!」
こうして、事態は静かに進行する。
ただ一つの