(Fate 二次創作) 『臨終編』   作:段差滝脈動

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⑪大牙の少年2

 

 バーサーカーが消滅し、アーチャーが立ち止まる。

 

「バーサーカーは明らかに制御できる状態にはありませんでした。久雄様が令呪で自害させたのではないでしょうか」

 

「そうか。ありがとうアーチャー。アーチャーが適切に助けてくれなかったら死んでいたよ」

 

 そして、隼にも助けられた。

 

「いえ、お気になさらず」

 

「とりあえず、戻ろうか」

 

 隼の遺骸がある方を指さす。そちらには留が立っている。

 

 歩いて近づくと、留はしゃがんで何かをしている。隼の体の一部をいじくりまわしていることに気が付いて、つい声を荒げてしまった。

 

「留!何をして

「うるさい!見てわかんないの。刻印だよ、刻印」

 

 すっかり忘れていた。筆川さんも魔術刻印の回収をしてほしいと言っていたじゃないか。留はそのために同行したようなものだし。留に頭を下げる。

 

「ごめん」

 

「落ち込まないでよ。確かに死体をあさっているのは印象よくないと思うから」

 

 留は魔力で何かをした布で隼の腕などを包み、ベルトで固定した。

見当たらないので、少し心配になってあたりを見渡すと、久雄くんは少し離れた場所に座りこんでいた。

 

「お疲れ様。久雄くん。ケガとかしてない?」

 

「……はい」

 

 なんとなく久雄くんの顔色が悪いような気がする。声をかけても顔をこちらに向けるぐらいでぐったりしている。

 

“マスター、久雄様は魔力を消費しすぎたのではないでしょうか?バーサーカーが暴れていましたし”

 

 なるほど、久雄くんが立ち上がろうとして、前に倒れこんでしまう。俺が受け止めるが、久雄くんは力なく体をこちらに完全に預けている。呼吸が弱く目を閉じている。

 なるほど。魔力切れか。俺が足を延ばして座り、その上に膝枕するように久雄くんを仰向けに寝かせる。久雄くんはされるがままだ。意識が薄いのだろうか、これは深刻な魔力切れかもしれない。

 懐から取り出した折り畳みナイフの刃を出して、左手のひらに切れ目を入れる。少しずつじんわりと熱くしびれて、染み出した血は玉になる。それを落とさないように久雄くんの口に持っていく。血が噴き出しているわけでもないので、血を与えるために久雄くんの口を開いて、その唇で血を拭うように血を与える。少しして久雄くんの赤い舌が口の外へと先端を出した。舌が傷口に沿うように手のひらをあてる。久雄くんが俺の左手のひらをなめる。傷口からはゆっくりと血が伝って。久雄くんは待ちきれないように下で傷口を押し広げようと……痛い。こいつ意識してやっているんじゃないだろうな。少しつねってやろうか。ほじくるというほど荒々しくはないが、唾液で傷口がしみるぐらいには久雄くんの舌が俺の傷口を蹂躙する。傷が痛む。違和感がある。気持ちが悪い。なるだけ乱暴にならないように久雄くんの頭を抑えた。手のひらを舌が届かない高さまで持ち上げる。血は上から落とせばいい。

 大分血を流して、久雄くんの顔色がよくなった気がする。……よくなってもらわないと困る。

 

 魔術刻印にも鮮度がありそうなので、久雄くんはアーチャーに背負ってもらい、急いで筆川さんの屋敷に戻った。幸い無事に帰りつくことができた。

 皆疲れ果てていたので、たっぷりと休養をとった後、久雄くんと鍋を作って夕食にした。留はやることがあるらしく食事に来なかった。

 

 

 

 穏当に睡眠をとり翌日。朝食を食べて少ししたぐらいの時間、筆川さんに使い魔で、久雄くんと一緒に鳥箱さんの屋敷へ行くことになると伝えられた。

 留とは会えなかった。筆川さんに話を聞くと、留は魔術関連で手を離せず、この屋敷にはいないので会うことができないらしい。留の行先は教えてもらえなかった。

 鳥箱さんの屋敷に行って、もうこちらには戻ってこないだろうか?そもそも次の機会まで俺が無事でいられる保証はない。少し迷ったが、隼に会いに行くときに受け取っておいた道具を使うことにした。外側の金属線をはがして、包まれていたガラスのようなたまに語り掛ける。

 

「建持到です。少しだけ話がしたい。今大丈夫かな」

 

“何があったの?

 

「もうすぐ鳥箱さんの屋敷に移動することになって……いつ戻るかわからないから」

 

“緊急……じゃないの?

 

「お礼だけ言っておこうと思って」

 

“……切るよ”

 

「ごめん、謝るからもう少しだけ、お願いします」

 

 寝起きだったのかもしれない。それともこの道具の特徴だろうか。会話における留の反応が遅いし、普段に比べて口数が圧倒的に少ない。手が離せないと聞いているし、お疲れなのだろうか。

 

「ごめん。お礼を言う機会があるかもわからないから……。ありがとうございます。本当にお世話になったし、助かった。留も体に気を付けて……機会があれば恩を返したいと思っているよ」

 

“何?もうすぐ……死ぬ……の?”

 

「そんなことはないさ。……お元気で」

 

 気まずくなって道具の術式を砕いた。嘘はつきたくなかったが仕方がない。

 

 荷物などの準備を終えて筆川さんに別れを告げて、久雄くんと一緒にタクシーに乗り込んだ。鳥箱さんの屋敷について、はじめは館の中を鳥箱さんの使い魔が案内してくれた。

 鳥箱さんの屋敷での生活も部屋の中に閉じこもってやることがない。食料はビスケットや干し肉、漬物など保存食が中心になりそうだった。

鳥箱さんはやることがあるらしく、会話もできないので、引き続き久雄くんと雑談して時間をつぶす。

 

「なーんか待ち時間多いよね、久雄くん。外にも出れないし」

 

「今は平和ですけど……まだ戦わなくちゃいけないんですか?」

 

「バーサーカーいないし、久雄くんは屋敷にこもってもらうことになるんじゃない」

 

「到さんはアーチャーと一緒に戦うんですよね」

 

 久雄くんは真剣な表情だ。シリアスな話か、雑談しようと思ってたのに。

 

「そうなるね」

 

「到さんも屋敷に残って居たほうがいいんじゃないですか。アーチャーだけで行ってもらうとか……その方がよくないですか?」

 

 久雄くんはこちらの心配をしているらしい。

 

「まあ俺はアーチャーに守ってもらうだけだけど、令呪を使うタイミングとか現場にいないと難しいから。まあ覚悟してるよ」

 

 久雄くんは俯いて考え込んだ。吸血鬼と相対して何か思うところがあったのかもしれない。

 

「後はアサシンだけだから。アサシンが消えれば終わる。こちらの方が数が多いしどうにかなるさ」

 

 ということになっている。そう、アサシンが負けたら俺たちも終わりだ。俺がアサシンの側につけば二体二になるが……。うまく漁夫の利を狙うしかない。爆発か何かで全滅するところを俺たちだけ転移するとか。

 

「到さん!」

 

「なっ、なにかな?」

 

 久雄くんが急に大声を出したので驚いてしまった。久雄くんは力強くこぶしを握って、こちらを真摯に見つめている。

 

「僕に手伝えることはありますか。何か準備をするとか、何かないですか」

 

「特にないかな」

 

 強いて言うならアーチャーと今後について相談したいが、それなら久雄くんがいないときのほうがいい。

 

「そうですか」

 

 久雄くんが残念そうな顔をする。

 

「といってもなー」

 

 先日に護符の多くを失った。サーヴァント相手には焼け石に水でもある方が安心できる。材料があれば護符でも作るんだが、墨はあっても紙がない。用意した紙は全て消費してしまった。

 

「お守りみたいなもん、護符っていうんだけど。俺は自分で作ることもあるんだよね。今は材料ないけど、書き方の練習でもするか?いつか手伝ってもらうかもしれないし、俺が教えるよ」

 

 せっかくだから久雄くんに護符の書き方でも教えてみるか。久雄くんはメモ帳とペンを持ってきていたはずだ。

 

「はい、教えてください」

 

「じゃあ紙とペン持ってきて」

 

 久雄くんが持ってきたノートにシャーペンで決まった図形を書いていく。筆と違って線が細いから塗りつぶすのに時間がかかる。

 

「これが炉、こっちの紋は河、この端のは明って名前なんだよね。光るとか、まじない除けとか、きつけとか効果もいろいろあるよ」

 

「形が似てて、違いが判らないです…。あっ、でもこの見本をよく見て、自分で書くときは頑張りますから」

 

 久雄くんがノートの図形を一生懸命見ている。なんか申し訳ない。わかりづらいのは、俺が描いた図がきたないのが理由な気がする。実際に作る時も五分の一ぐらいしか成功しないし。

 

「到さん。でもこれを書くだけで、効果があるんですね。すごいです」

 

「魔力とか術式も必要だけどね。そっちは興味あったら実際に作る時に説明するよ。機会があれば」

 

 機会があれば。

 

「はい。ありがとうございます」

 

 久雄くんのまっすぐな笑顔がまぶしい。そのほほえましさに俺が頬を緩めていると、久雄くんが服の下から、首にかけたきんちゃく袋を取り出した。大牙は全員同じような気がする。地域性はないのかも。

 

「そ、その、到さん。お守りとして、これをもらってくれますか……」

 

 久雄くんがおずおずと、生え変わったものであろう自分の犬歯を差し出してくる。これはちょっと良くないかもしれない。ああ、久雄くんはハーフだと言っていた。知らないのかもしれない。地域性かも。確認しよう。

 

「う~ん、これ犬歯じゃないかな?」

 

「えっ、……はい……」

 

「犬歯は、あとは臼歯も、取っておいてくれよ。絶対にいつか渡すことになるはず。一番小さい……この歯をもらっとくよ」

 

 地元では犬歯は家族に、それ以外の歯で大きな臼歯あたりは親友に送ると聞いている。今もらうのは適切ではない。俺は久雄くんのきんちゃく袋の中を確認して、一番小さい歯を取り出す。久雄くんは俺の手首を控えめがちにつかんだ。

 

「それで、その……到さんは、僕に血をくれました。その歯よりも別の歯の方がいいものなら、そっちをもらってください」

 

「いーや、これがいいんだ」

 

 俺は摘まみ上げた歯を自分の首から下げているきんちゃく袋にいれる。そして外套に貼り付けていた護符の一つを持ってきた。それを久雄くんに手渡す。

 

「お礼にこれを渡そう。この護符の効果は虫除けだから。喜んでもらえると思う」

 

 久雄くんが驚いて固まってしまう。心配ない、大牙なら嬉しいはず。

 恐縮しきってしまい、護符をつき返そうとする久雄くんにいくらか言葉をかけてなだめた後に、疲れていると適当な理由をつけて自室に戻った。ベッドに寝っ転がりアーチャーに話しかける。

 

“アーチャー、この状況からどうやって勝ちに行く?”

 

“アサシンとぶつかる時にどれだけ脱落するかが勝負ですね。できれば最後は一騎打ちが望ましい。一対一なら勝機を生み出して見せます。”

 

“セイバー相手でも?”

 

“やりようはあります”

 

“そっか。まあ今日はのんびりしてようか”

 

 所在不明な最後のサーヴァントがアサシンというのが不気味だ。筆川さんや鳥箱さんが探しているのだろうが、気配遮断のスキルを持つアサシンは発見できない気がする。もちろん俺も見つけられない。長期戦になった場合、どうだろうか。

 目をつぶると、睡魔が襲ってきた。

 

 

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