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マスターやサーヴァントであっても千里さんのバックにつく議会を簡単に敵に回すような真似はしないだろう。千里さんは安全なはず。安全なはず。
それと同じくらい任務が重要だ。そうだ、魔力を得ないと。魔力を得て、術を起動する。自分が家の役に立てる機会は、後にも先にもこれだけなのだから。
「マスター、マスター」
アーチャーの言葉で我に返る。
「大丈夫、聞いているよ」
「私たちの今後の方針は……、そういえばマスターは、サーヴァントのクラスについてはご存知でしょうか」
多少知っているけど、アーチャーが知っているなら聞いておいた方がいいかもしれない。
「説明お願いします」
「はい。七体のサーヴァントはそれぞれ異なる七つのクラスが呼び出されます。バランスよく暴力に秀でた者となるセイバー、遠距離を間合いとするアーチャー、私です。オリンピック五種競技の優勝者から選抜される身体能力に優れたランサー、宝具を三つまで持ち込むことができ乗り物を扱うライダー、魔力や魔術に優れた者がなるキャスター、古の暗殺者から選ばれるアサシン、理性を失うかわりにトップクラスの身体能力を持つバーサーカー、以上七つです」
長い長い長い。クラスの名前ぐらいは聞いたことある。でも一度につらつら言われても覚えきれない。
「ありがとう。後でまた同じこと聞くかも。それはそれとして、つまりアーチャーさんは本名じゃない?っあ、いや、クラスの名前なんだから本名のわけないよね。今の質問なしで、聞かなかったことにしてください」
アーチャーが首をかしげる。しまった。髪の毛で隠れて顔はよく見えないが嫌に思ったかもしれない。
「私に名前はありません。サーヴァントは過去の記録。名前まで残っているのは、とても恵まれた者だけです」
やっぱり触れない方がいい話題じゃないか。
「そっか、それじゃあこれからもアーチャーさんと呼びます」
「はい。しかし、名前となると……私のステータスは見えていませんか?マスターがサーヴァントを見た時は、その情報が多少なり見えてくると聞きますが」
見えている。アーチャーを見ていると文字が頭に浮かぶ。それのことだろう。
「見えていますけど……」
「それならよかった。私はマスターに全て見える設定にしていますから」
アーチャーは何でもないように言う。しかし、ステータスである。アーチャーは女性?ステータスが見えていてよかったのだろうか。筋力が体重と関係がある?少しさばを読んだ方がいいのだろうか。
「私のステータスはどうなっていますか?持ち込む宝具やスキルは自分で選んでいますが、ランクは状況によって多少ばらつくのでマスターから聞いておきたいです」
「ええと……クラス名はアーチャーだよね。なんかCとかDとかある。バーもある」
「見えたものをそのまま読み上げてください。しかし、私のステータスは低いので、改めて伝えられるのは恥ずかしいですね」
アーチャーが頭をかく。ステータスが低いと恥ずかしい。高い方が優秀と単純に考えていいのだろうか。
「いやステータスが低いのって、俺から見た……俺がアーチャーさんを侮っているからじゃ…」
「マスターが見たステータスは完全に正しいです。私はどんなステータスを伝えられても気にしません。聞かせてください」
話が進まないので見た内容を伝える。
クラス名アーチャー、筋力C、耐久C、敏捷D、魔力C、幸運B、宝具‘デッドエンド’E、スキル耐魔力A、単独行動A、呪術A、物理耐性C、気配遮断B。
(各項目性能が高い順番にABCDEでランク分けされている。)
アーチャーはうなずいて聞いていた。
耐魔力、Aランクもあるそれによって現代の魔術でアーチャーに干渉することは不可能に近いようだ。……既に諦めていたことではあるが、魔術でサーヴァントを魔力に変換しようという試みはうまくいきそうにない。魔力を集める聖杯戦争でサーヴァントを競い合わせるのはここら辺に理由があるのかもしれない。それはそうと疑問もある。
「アーチャーさん、宝具ってどのような意味でしょうか?」
「宝具はそのサーヴァントを象徴する切り札です。例えば、広範囲を破壊する一撃であったり、便利な道具であったり、様々なタイプがあります。いま私たちがいるこの空間も宝具です。私の宝具は、結界なんですよ」
広範囲を破壊か。千里さんも巻き込まれる可能性があるような、ないような。大丈夫だろうか、大丈夫だろうな……。
気がかりではあるけれども、とりあえず自分が生き残らなければ。まずはアーチャーの宝具についてもっと知っておいた方がいいだろう。
「アーチャーさんの宝具は何ができるのですか?結界というと召喚直後にやったという離脱ができる……とか?」
「離脱は、スキルの呪術です。魔力の消費が多いので、召喚直後のマスターに負担をかけてしまい申し訳ありません。もう少し消費魔力が少ないと使いやすいのですが……。お眠りになってマスターの魔力がある程度回復したようですが二回ほどしか使えないと思います。
宝具の結界は燃費がよくて、一二週間出したままでも大丈夫でしょう。結界の機能としては、いま私たちがいるような建物の中に取り込んで迷わせたり精神的負荷をかけたりすることができます。まあ、人間相手はともかくサーヴァント相手には有効打にならないEランク宝具です」
アーチャーは幾分自虐的に説明してくれたがスキルも宝具も優秀と考えて間違いなさそうだ。
「アーチャーさん、今の話を聞いていると……、アーチャーのクラスは遠距離戦を得意としているし、隠れながら不意打ちで戦えば六対一でも勝機があるんじゃないかな?単独行動や気配遮断のスキルもある」
アーチャーが優秀なので、光明が見えてきたかもしれない。六人のサーヴァントを魔力にして任務達成。夢ではないかもしれないな。
浮かれかける俺をよそに、アーチャーは沈黙している。表情はわからないが俺の意見には同意しかねるということだろうか、やはり六組を相手取るのは無理かもしれない。
「そういえば私が召喚される時に敵のサーヴァントがいたはずですが、ステータスは確認しましたか?」
アーチャーが話題を変えてくれた。俺がアーチャーを召喚した前後、その時にセイバークラスのサーヴァントを見たのは数秒だったが、なんとか覚えている。ステータスは確か……
クラス名セイバー、筋力A、耐久B、敏捷B、魔力B、幸運A、宝具C、スキル耐魔力EX、騎乗E。
アーチャーと比較すると、……これは……
「……六対一どころか、セイバー相手じゃ勝ち目がないのでは……」
「まともにぶつかりあえば勝つことは難しいと思います。それに相手に私の情報が渡るほど勝つことが難しくなる。さすがに他の六体全てに打ち勝てるとも思いません。一度しか戦わないという幸運に見舞われるとは考えない方がいいのでしょうが、敵が一枚岩でないことを祈りましょう。やはり先ほども言ったように、当分は潜伏して様子を見るしかないでしょう」
当分は待機することに決まったので、教室に入ってアーチャーと座りながら世間話でもすることにした。なんで今までずっと立っていたのだろう。まあいいや、何を話そうか。
…
……
………
長い黒髪に白い服、アーチャーは妖怪の仲間かと思って、天狗の鼻や猫又、大牙のジョークやあるあるネタを披露したのだが、あまりピンときてないらしい。気まずくなりかけて、普通の話題を振ったら話が弾んだ。特に食事の話で盛り上がった。アーチャーの生前の記録はプリンが好きだったらしい。俺も好き。スーツケースは議会の事務所において来てしまったが、今身に着けている外套にも多少のお金は入っている。後でコンビニに寄ろう。
話をしていると、アーチャーに対して昔の人が生き返ったかのような印象を受ける。しかし、サーヴァントは現代の記録から過去にあったかもしれないものをでっちあげて作る使い魔だと聞いている。幽霊なのに幽霊でない?なんとも変な感じだ。アーチャーはこんなにも生きている感じがするのに。
ふいにアーチャーが会話を切り上げた。
「マスター侵入者です」
アーチャーの声は雑談と打って変わって鋭くなる。
「サーヴァント?」
「……人間のようです。始末しますか?」
「結界に一般人が迷い込むことはあり得るんですか?人間ということはマスター?」
アーチャーは答えずに、椅子から立ち上がって、……また座った。
「ええと、マスターが私を召喚したときに近くにいた女性」
「千里さん!」
「彼女がマスターの名前を呼びながら歩いてきますね」
千里さんは無事か!よかった。……しかし話がうますぎると言えばいいのか、おかしいと言えばいいのか。この結界はサーヴァント、すごい魔力の持ち主、の切り札である。あの千里さんとはいえ、こんなにすぐ侵入できるのだろうか。……すぐ?
俺は慌てて腕時計を確認する。なんで今まで時間を確認しようともしなかったんだ。俺のバカ野郎。時計は10時を示している。鳥箱さんの家にお邪魔したのが深夜の1時過ぎぐらいだったはずなので、……俺はすごく寝ていたらしい。
それほどの時間経過があったとしても千里さんがここを発見するなんて偶然は起こりうるのだろうか。いや偶然といっても、現に千里さんはここにたどり着いているらしい。
とりあえずアーチャーと一緒に千里さんを迎えに行こうか。
「マスター、私だけで行くべきではないですか?彼女の無事が確認できたのですから、私たちは安心して聖杯戦争に臨むことができる。彼女には説明をして帰っていただくだけです」
一理ある。
「俺もいくよ。話をしたいから」
「危険ですマスター。そもそも彼女がここにたどり着いたことはおかしい」
「そこをなんとか」
顔の前で手を合わせて頭を下げる。
「……」
「また危なくなったら、スキルを使って逃げればいいと思う……思います」
「……確かにそのような手段もありますが」
「アーチャーさん、だめですか?」
「…………いいでしょう。それでは行きましょう」