(Fate 二次創作) 『臨終編』   作:段差滝脈動

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⑥筆川さんの屋敷

 

 表に出ると、止めてある車のわきで鳥箱さんが手をあげている。駆け寄って、助手席に乗り込む。鳥箱さんの運転で、鳥箱さんの屋敷とは別の魔術師の屋敷に向かうらしい。道中で話を聞くと、筆川さんのお宅らしい。とりあえずそこにいるマスターと協力してほしいと言われた。また、鳥箱さんは建設会社で働いているらしい。話が難しくて、うまく会話が弾まなかった。

 

 十七時ごろに目的地に着いた。これまた長々と高い塀が続いている大きな屋敷である。鳥箱さんがインターホンを押すと、しばらくして同年代くらいのジャージを着た女の子が中から門を開けてくれた。鳥箱さんの車は帰っていく。俺は少女に先導されて屋敷に足を踏み入れた。

 

「初めまして。鳥箱さんから話を伺っていると思います。建持到といいます。よろしくお願いします」

 

「筆川留です。……何歳?」

 

「十八」

 

「私は十七」

 

「はあ、そうですか。同年代ですね。学校には行っているんですか?」

 

「当たり前じゃ……建持くんは行ってないの?」

 

「行ってないです」

 

「…普段何してんの?」

 

「もっぱら議会か連合に出入りしていろいろやってますね」

 

「ああ。そういうこと」

 

 筆川が振り返り口を開く。

 

「令呪」

 

 令呪?つい右手の甲を確かめる。

 

「まあ、ある…か、なんで私じゃなくてあなたに宿ったのやら」

 

 筆川が入り口の扉を開く。

 

「まあ、ようこそ建持くん。貧乏くじ引いて大変だろうけど、がんばって」

 

「これからよろしくお願いします」

 

 

 

 この部屋を使ってくれと筆山に案内された部屋で寝転んでいる。場所はえらく遠回りしてたどり着いた一角である。罠なんかもあるだろうし、案内された時の道順を毎回たどらなければいけないだろう。忘れないか不安だ。

 

“マスター、先ほどの少女はマスターではないようですが…”

 

“そうみたいだ。今明らかになっているマスターは、俺、鳥箱さん、死んだ人の三人だけ。千里さんや鳥箱さんの話を信用すると、魔術師が四人、うち一人死亡。残りは、俺と連合の人と、…よくわからない一人”

 

“魔術師たちが失った三つのマスター権、それをすでに二つ傘下に収めたとすると吸血鬼に頑張ってもらうほかないですね”

 

 面従腹背、状況によっては俺たちが魔術師側の足を引っ張ってもいいのだが、わざわざ口にしない。

 

“そういえば受肉に必要な魔力はどれぐらいなの?アーチャーさん。サーヴァントがいくつ脱落したら十分たまる?”

 

“私の知識では、六体のサーヴァントが脱落するまで聖杯は使用できません”

 

 ……そうなのか。アーチャーの受肉を諦めて、俺の任務だけ達成するならやりようもありどうだが……。

 

 ノックの音が聞こえた。扉を開けると金属でできた毛玉のような使い魔がいた。使い魔から聞いたことがない人の声が聞こえる。

 

「建持さん。お話があるので、ついてきてくれるかな」

 

「わかりました」

 

 使い魔の先導で上へ下へ、どう考えても遠回りをして進んでいく。途中で同じ場所を何回も通る。これは罠を避けるという感じじゃない。歩くことで術式が反応して目的地に行けるようになるパターンだろうか。覚えるのが厳しくなってきたので、こっそりハンカチに道順を焼きつけながらついて行く。

 

 こじんまりした談話室に先ほどの少女とワンピースの女性が待っていた。暖炉に火が入っていないのに部屋の中が暖かい。

 

「建持さん。筆川平と申します。鳥箱のおじさんから話を聞いていると思うけど、しばらくはこの屋敷で生活してもらいます」

 

 筆川さんがにこにことしながら手を差し出してきたので握手を交わす。

 

「よろしくお願いします。お世話になります」

 

 先ほど少し話をした留も手を差し出してきた。

 

「筆川留です。よろしく」

 

「よろしくお願いします」

 

 はじめに筆川さんが紅茶を注いでくれる。タイミングを考えて準備をしてくれていたのだろう。まだ熱いぐらいだった。ありがたくいただく。ミルクと砂糖は多めにする。

 俺がカップを置いたタイミングで筆川さんが話を切り出した。

 

「建持くん。協力を申し出てくれたこと、とても感謝しています。これからいくつもお願いすると思うけれどよろしくね。あ、でも安心して。建持くんはこの屋敷の中で過ごしてもらうつもりだから。吸血鬼や制御をはずれたサーヴァントは入ってこれないから、屋敷では安心して過ごしてくださいね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 いくつものお願いか、吸血鬼やサーヴァントに対して鉄砲玉になる役割だろうな。

 

「早速ですが、私は何をすればいいですか?あまり期待されても困ってしまうのですが」

 

「ん~、建持くんというよりも、あなたのサーヴァントにお願いすることになると思うのだけれど、今はのんびりしていて。私たちが使い魔を出して吸血鬼を探してはいるのだけれど、さすがにすぐに成果は出ないと思うわ」

 

 その言葉に緊張がゆるむ。筆川さんとの会話がたわいもないものになる。屋敷もでかいし鳥箱さんは資産家らしい。たぶん筆川さんも。鳥箱さんはどうして働いているのだろう。筆川さんは仕事を持ってないみたいだし。

 

 少し懸念なのは、筆川妹、留に話を向けても一言二言で止まってしまうことだ。時折非難するようなきつめの視線を向けられるし。これは嫌われましたね間違いない。

 会話を切り上げて、退出するところに筆川さんから声がかかった。

 

「まだ潜んでいるアサシンのサーヴァントもいます。極力屋敷の外には出ないで。常にサーヴァントと行動してくださいね」

 

 その声に送られて退室する。ここから預かった部屋に戻らなければ。俺は道順を記録しておいたハンカチを取り出した。

 

 あれから何もなく。やることもないし居室でアーチャーと時折会話していたら二十時になった。こんな生活がいつまで続くのだろうか、退屈すぎて死んでしまわないか心配だ。

 ノックがしたので扉を開けると、先ほども見た使い魔が浮いている。

 

「建持くん。食事を作るなら、調理場に案内するけど」

 

 留の声だ。

 

「自分で作るの?」

 

「なっ、何?当たり前でしょ」

 

「何人分?」

 

「私たちは食べないけど……」

 

「そっか。案内お願いします」

 

 のろのろと使い魔について行く。

 

“食事といえばサーヴァントは魔力の摂取とか必要なの?”

 

“いえ、必要ないです”

 

 そういうことらしい。料理か、材料や器具はどうなっているのだろうか。もちろん持ってはいないので、この屋敷のものをあてにするほかない。

 

「……いつもはあんな感じじゃないの?」

 

 留が唐突によくわからないことを言ってきた。

 

「あんな感じってどんな感じを言っているんですか?」

 

「下で話をしたときに、なんかしつこかった……ナンパのつもり?姉さんが困ってた」

 

 これからお世話になるし、誰もが沈黙している気まずい時間を作らないようにという心遣いなんだけど……まあ、少しわかってきた。鳥箱さんも筆川さんも、ここの魔術師は話好きじゃないな。

 

「別に……緊張して何か話さなければいけないなと焦ってしまっただけだよ。これからは気を付けるから」

 

「そう」

 

「そうそう」

 

「…っく」

 

 ツボにでも入ったのだろうか、使い魔越しでも押し殺した笑い声が聞こえる。魔術師ってよくわからない。

 

“アーチャー。俺ここでうまくやっていけるかな?”

 

“……立派な心掛けですが、最終的には敵ですよ。あまり心を許さないように”

 

“まあ筆川さんはともかく、留の方はね。刻印がないから俺みたいなものだし、マスターでもないし”

 

 アーチャーは黙り込んでしまった。俺だって、今は敵陣の中にいるってことを忘れてはいない。だから、会話ぐらいは頭を使わない他愛もないものにしようと考えているのに、会話一つとってもシリアスにいかなければいけないかもしれない。心が重くなる。

 

「ここ使って。あるものは好きに使って食べていいから」

 

「ありがとう」

 

 使い魔がどっか行ったので、案内された扉を開ける。部屋一個分が調理スペースとは羨ましい。ガス水道電気問題なし。調理器具もそろっている……表に出ていた物は埃被ってるけど。冷蔵庫を開けると、真空パックされたでかい肉の塊と手のひらサイズの金属缶ぐらいしか入ってない。肉はともかく缶には何が入っているんだろう。ラベルと中身を確かめたが、タバコの葉にしか思えない。なんでタバコが冷蔵庫に入っているんだろうか。諦めて戸棚をあさるが、他の場所に食料はなかった。

 一通りチェックしたが、この部屋がまともに使われているようには思えない。この屋敷の人間は霞でも食べて生きているんだろうか。それとも他にも調理スペースがあって、こちらはサブなのかもしれない。

 時間をいくらか浪費して、ここにはまともな食糧が無いことはわかった。スーパーマーケット行くか。

 

“アーチャー。買い物に行こう”

 

“お供します。……文句の一つぐらい言ってもいいのでは”

 

“そうだね”

 

 廊下に出たがどのように進めばわからない。かろうじてわかるのは借りた部屋への戻り方。そこからなら玄関まで戻れる。しかし、さすがに面倒くさい。大きな声で呼びかけていると使い魔がやってきた。

 

「食材届いたから運んで」

 

 開口一番そんなことを言う。渡りに船ではあるが釈然としない。ここから玄関に案内してくれるらしい。

 玄関には段ボールがいくつか積んである。

 

「それじゃあ任せた」

 

 使い魔は玄関の電灯の上にとまって動かなくなった。留は、見ているだけらしい。

 実体化してもらったアーチャーと協力して調理スペースまで段ボールを運び込む。アーチャーはサーヴァントだけあって力が強い。助かる。

 段ボールの中には調味料に肉や野菜、米もある。別の段ボールの中には冷凍食品の山だ。俺が訪ねることが決まってから急いで手配してくれたのだろうか。俺の心が感謝で満たされる。アーチャーと二人、せっせと食材をしまう。

 

「アーチャー、後で筆川さんたちにお礼をいわないといけないね」

 

“ええ、忘れないようにしてください”

 

 食材を片付け終えたアーチャーは霊体に戻ってしまっていた。魔力を節約したい気持ちはわかるが、少し寂しい。

 

“アーチャーは料理得意?”

 

“知識はあっても経験はないですね”

 

“……やってみたい?”

 

“遠慮します”

 

 結局一人で料理に取り掛かることになった。よく作る肉野菜煮込みにしよう。米はインスタントでいい。

 

 ネギを切っていると、前触れなく留が入って来た。

 

「どもー。私の分も作ってー」

 

「なんで使い魔じゃないの?」

 

「暇だからね。同居人の料理スキルも気になるし」

 

 留は何を考えているのだろう。心配だから見に来てくれたのだろうか。

 

「料理はそれなりに作っているよ。留さんはどうなのさ?はじめはこの部屋に食べるものなかったけど」

 

「毎食届けてもらっているのさ」

 

 金持ち魔術師は、みんなこんな生活なんだろうか。それはさておき、会話は好きな方であるが、俺は料理中に話しかけられるのが嫌いだ。なんで留は話しかけてくる。適当に相槌を打っていたが、俺はなんで学校生活の愚痴を聞かされているのだろうか。

 

“アーチャー、話し相手になってあげて”

 

“嫌です。…私が留さんを退出させましょうか?”

 

“そこまでは嫌がってないから大丈夫”

 

 ようやく鍋に食材を入れて煮込む段階まで進んだ。

 

「手際いいじゃん。毎日料理やってるんだ」

 

「家では母さんが作ってくれるけど、議会や連合の集まりで食事の準備することが多いから。……俺の料理、天狗や大牙のチビ達からは結構評判いいんだぞ」

 

 後は待っているだけなので俺も椅子に座る。

 

「炊き出し係だったのね」

 

「言われてみればその通りな気もする。まあ、そんな経験があるから、出来は期待していていいよ」

 

 得意げに自分の胸を叩く。それを見て留は目を細めた。

 

「自信満々ね。まあ食べてみるまで信じないけど。あなたの味覚」

 

 め、面倒くさい。確かに大口が過ぎた気もするけど。

 

「さて、そろそろいいかな。さっさと味見して自分の部屋に持って帰るか決めてくれ。食べないなら俺が二人分食べるから」

 

「ごめんごめん。怒らないでよ。一緒に食べましょう。一緒に」

 

 話の流れで留をこの場から排除しようとしたのに、

 

「ここで食べるのか……」

 

 仕方ないので食器を取り出して食事の準備を行う。留は食事中もしつこく話しかけてくる。相槌が適当になりすぎないように気を付けないと。……なんとなく留のことは嫌いだが、嫌いの理由は金持ちだからと嫉妬しているのかもしれない。こういうのはよくない。食材ももらっているのに、少し優しくしなければ。

 

「食事係は俺にお任せを。朝は何が食べたい?」

 

「いや遠慮しとく。普段食べてるものの方が……舌に合うし。あっ、夕食だけお願いするわ」

 

 ……やっぱり留とは気が合う気がしない。それとも慣れない環境で俺の気が立っているだけなんだろうか。落ち着け。落ち着け。

 

「……思ったより美味しかった。ありがとう。じゃあね」

 

 食事が終わって、留は早口に言って足早に去っていった。魔術刻印がないという共通点だけではなく、俺と留は同じかもしれない。食器の片づけはアーチャーが手伝ってくれた。助かる。

 

 

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