(Fate 二次創作) 『臨終編』   作:段差滝脈動

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⑦昔2

 

 食事の片づけをして部屋に戻ってすぐ、ノックされたので扉を開けたら使い魔がいた。留の声が聞こえる。

 

「情報を持ってきてやったぞ」

 

 まだ留と会話しなきゃいけないのかよ……。

 

「もう十時なんですけど。ああ、いや、ありがとうございます。でも早く寝たほうがいいですよ」

 

「言われなくてもそのつもり」

 

 使い魔は備え付けの机に降り立った。俺はベッドに腰かける。

 

「一応一通り全部伝えておくね。質問があるならなるだけ答えるから。

まず、私たちは聖杯戦争という儀式をやっています。サーヴァントは七騎。ライダーは脱落しました。鳥箱にはセイバーとバーサーカーがいます。この屋敷にはランサーとあなたのサーヴァン……

「アーチャー」

 

「アーチャーがいます。ここまでの私たちが把握しているサーヴァントは五騎。残りのアサシンとキャスターは召喚されているそうだけど情報がないです。ええと後は、危ない吸血鬼もいます。それ以外の脅威は結界が機能しているからこの町に入ってきていないと思う」

 

「問題山積みですね……」

 

「その通り。なのでアサシン、キャスター、吸血鬼を何とかする必要があります。私が聞いた話だと、どれかの居場所が割れたらあなた達に突っ込んでもらうみたいだから、それまではのんびりしてたらいいんじゃない」

 

 俺たち捨て石っぽいっすね。

 

「そういえば、そもそもなんで令呪やサーヴァントがうまくいかなかったんだ?令呪が俺なんかに宿っているし」

 

「議会や連合にも話を通して、魔術回路が起きているようなのは全員結界の外に出したはずなんだけど。まあ、うまくはいかなかったみたい。誰に令呪が宿るかなんてよくわかってないし」

 

 よくわかってないのに何で儀式始めたんだろうね……。

 

「他に聞きたいことは?」

 

「う~ん。ないかな」

 

“マスター連合のマスターについて、彼女は触れていませんね”

 

“ありがとうアーチャー”

 

 そういえば、鳥箱さんは連合にもマスターがいて、協力すると言っていた。そのマスターがアサシンかキャスターを召喚したのだろうか。それについて、留は聞かされていないのか、俺に明かす必要はないと判断しているのか、鳥箱さんが嘘をついたとは考えたくないが……。何にせよ情報はあればあるほどいい。マスターについて質問してみよう。

 

「待って。マスターについて聞きたいんだけど?」

 

「何よ」

 

「マスターって、俺と鳥箱の……参代さん、筆川平さんだよね?」

 

「そうよ」

 

「他はだれがいるの?」

 

「聞きたいの?」

 

 留の声のトーンが下がる。ただの興味本位以上の理由が出せないので、これ以上の話は聞けないかもしれない。

 

「聞きたい」

 

「まあいいけど、協力するかもしれないって聞いてるし。鳥箱にいるバーサーカーのマスターは連合から来た子供らしいよ。私も詳しくは聞いてないけど。後は……死んだライダーのマスターは鳥箱さんちの未来って名前の子。まあ、あなたと会うことはもうないけど」

 

「なるほど、そうなんですね」

 

「なんか反応薄いね。まあ、あなたが聞きたいのは姉さんのことじゃない?」

 

「はあ、教えてくれるならありがたいけど」

 

 筆川さんが実践しているお金の稼ぎ方とか教えてくれるのだろうか。

 

「ああやっぱり。態度違いすぎるもん。わかるわー。女の私から見ても姉さんは綺麗だもんねー」

 

「まあ綺麗だとは思うけど……」

 

「ほらほら、顔を赤くしちゃって、カワイー」

 

 ここぞとばかりにからかってくる。留はこういうタイプだったか。……俺の顔、本当に赤くなってないよな?

 

“うるさい口を閉じさせますか?マスター”

 

“気にしないでよ。アーチャー”

 

 留は、こちらをひとしきりからかって後、満足したのか使い魔が帰っていった。去り際に風呂場への生き方を聞いておいた。風呂に入ってから寝よう。

 

 

 

 ベッドに向かう。

 

「おやすみ、アーチャー」

 

「マスター」

 

 なぜか霊体化していたはずのアーチャーが実体化している。

 

「敵?」

 

 アーチャーが髪をかき分けて、そのうつろな黒い眼でこちらを……突然胸に焼ける熱さを感じて膝をついた。

 

「痛っ、ててて、……何なんだ」

 

 服の下から熱を帯びたものを引っ張り出す。それは千里さんからもらった護符だった。何らかの干渉を受けたのか、大きく焼け焦げて破れている。何らかの干渉を自分が受けたんだ。

 

「なにがあった?アーチャー?」

 

 アーチャーに駆け寄って、その背に隠れるように背中合わせになる。

 

「いえ……」

 

 アーチャーの歯切れが悪い。確かアサシンのサーヴァントはアーチャーと同じく気配遮断スキルを持つはず。まだ近くで様子をうかがっているのだろうか。しかし、いくらサーヴァントといっても、まったく感知されずにここまで侵入できるものなのだろうか。何か兆候があれば留あたりが教えてくれても……見殺しにされる可能性もあるな。しばらくたってもアーチャーは動かない。そもそも、この部屋に脅威なんて……ないのか?今部屋にいるのは…

 

「アーチャー。今俺の護符が反応したんだけど。あ、いや、そもそもなんで実体化したの?敵に気が付いたから?」

 

「……この部屋から少し離れたところにサーヴァントの反応を感じました」

 

 アーチャーはこちらを向かない。サーヴァントの反応?なんでアーチャーはすぐに俺に知らせなかった?転移術式を使わない?

 

「何をされたんだろう、アーチャー?」

 

「私にはわかりかねます」

 

 わからないのに、まだここで無防備に立っているのか?何か、とてもよくない疑念が腹の中にたまる。否定したい頭が言語化を必死に阻んでいるのに。いやその結果、アーチャーに詰め寄りながら、とても率直な思いが口をついて出てしまった。

 

「本当のことを言ってよ。アーチャー!」

 

 俺の右手の甲から一瞬だけ赤い光が部屋全体に広がった。慌てて令呪を確認すると、令呪の一部が輝きを失っている。

俺の目の前でアーチャーが口を開く。

 

「づっ……、マスター。私はマスターに呪術を使いました」

 

 その言葉に、アーチャーとの距離を詰めていた俺は、逆にじりじりと後退して、ベッドの端に足がぶつかって尻もちをつく。

 

「なんで?理由がないよね、アーチャー。俺が何かした?」

 

「……マスターは平静を欠いていました。敵地では命を落としかねません。冷静な判断ができるように呪術を用いました」

 

 息が荒くなる。落ち着け。落ち着け。今みたいに慌てやすいのが……いけないの?

 

「それだけ?俺が冷静じゃなかったから?それで護符が壊れる?」

 

「……マスターに暗示をかけました。積極的に聖杯戦争に参加するように。私の悲願、受肉を果たすためにはマスターが勝利する必要がありますから」

 

 俺の弱腰がアーチャーに呪術を使わせたのだろうか。いや、アーチャーは裏切……もうやめてほしいのに。気持ちは言葉は口から漏れ出てしまう。

 

「他には?何かしたの?」

 

「いえ、今申し上げた通りです」

 

 視界がぼやけてくる。泣くな。俺はもう泣き虫じゃ……

 

「なんで?……アーチャー?」

 

「……マスターを勝者にしたい。もちろん私も勝ち残りたいと切望していますから」

 

「ううっ……ぐっ……」

 

 俺たちは、はじめから絶望的なほどすれ違っていたのだろう。もう手遅れなのか?白々しい。俺はそんなことに気が付いているくせに。もう言葉にもならない。涙も止まらない。止まれ。頼むから止まってくれ。

 

「この期に及んで信じてくださいとは言いません。令呪で自害を命じれば従います。ただ、これからもマスターを守ります。私たちが勝者になるために全力を尽くします」

 

 令呪、そういえばアーチャーは令呪を一つ失うまではこちらの言うことを聞いてくれると話していた。その令呪一つが今はない。アーチャーは、もう俺の味方じゃないのか?そもそも、はじめからアーチャーは受肉が目的で俺とは……もう無理だ。もうたくさんだ。もう耐えられないんだ。いつも通りだ。今日の俺も深い記憶の底に積まれて、出てくることがないのだろう。もう何も考えたくない。

 

「夢だった!本当は何も起きてない!俺はもう寝てる!夢の中だ!」

 

「マスター…」

 

「おやすみアーチャー、また明日」

 

 ベッドにもぐりこんだ。黒い雲のように不快感が回って、寝ているのかもあいまいに、不快感の中に意識が落ちていった。

 

 

 

 廃墟に佇んでいる。見捨てられ草木の奥に沈んだ廃校の中だ。たまに人の訪れがある。学生が肝試しできた時は、黒い影が見えた。侵入者を窺うように、暗がりで身じろぎする。若者が酒盛りした時は、床を走る小さな影が目撃された。ネズミがいるのだろうと若者たちは考えたようだ。若い二人連れが来たときは、首を吊る遺体を目撃した。白い服に長い黒髪、

若者は逃げ帰った。しばらく後に地元の人が遺体を再発見して警察に連絡した。その人は、不気味な雰囲気を感じ取ったという。警察が現場周りを調べた時には、教室の窓を横切る人影や建物の屋上から飛び立つ大きな鳥が目撃された。

 

 その後、当分は人の訪れもない。その悠長な時間の経過が、人々の残していった恐怖心を一つの形に結実させる。その姿は変わることがなく。長い時とたまに訪れる人々の恐怖で、十分に廃校に馴染むのだと理解した。

 

 ああ、ようやくわかった。夢が覚めるまでの少しの間でも、一人で過ごすのは寂しいだろうと、駆け寄ろうとして、右手をつかまれる。……右を向いても誰も見えない。目には映らなくとも、存在を感じさせる温もりを確かに感じる。落ち着いてきた、眠ってしまいそうだ。夢の中でも夢に落ちるだろうか。その前に、言わなければいけないことがある。自分の勝手な思い込みを断ち切るために。

 

 この夢の中でも、言葉が音に乗って相手に届くのだろうかと不安があった。意を決して紡いだ言葉が伝わるものと信じて、

 

「アーチャーはあの時に生まれたの?それとも……

 

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