(Fate 二次創作) 『臨終編』   作:段差滝脈動

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⑧大牙の少年

 

 跳ねるように飛び起きる。びっしょりと肌着を濡らした汗が気持ち悪い。服の下に手を入れてみる。肌着の上には……護符はもうない。

 

「……おはよう。アーチャー」

 

“おはようございます”

 

「アーチャー」

 

“……なんでしょう?マスター”

 

「……これからもよろしく」

 

“もちろんです。マスター。この身にかけても、あなたを勝者にします”

 

 アーチャーと普段通りに話せてよかった。とりあえず汗を流してこよう。

 

 日も昇って来たころ、筆川さんが使い魔をよこした。

 

「建持くん。ちょっといいかしら」

 

「なんでしょうか?何でも言ってください!」

 

「バーサーカーのマスター、田桐久雄っていう子なんだけど。彼が来てくれたわ。少しお話してあげてくれる?」

 

 そんなわけで談話室に来た。大きな椅子に不釣り合いの少年が待っていた。こちらに気が付いた少年は椅子から飛び降りて頭を下げる。

 

「大牙の田桐久雄です…」

 

 妖怪連中の見た目の幼さは全くあてにならないもの。俺の肩までの背丈で俺の何倍も年を取っている大牙の友人が一人二人いる。しかし、目の前の少年の年齢は計りかねた。人見知りなのか恥ずかしそうにしていて、幼い印象を受ける。

 

「どうも久雄くん!俺は建持到です。名前で呼んで!」

 

「よろしくお願いします。到…さん」

 

 なるほどなるほど。それなら地元で使いやすかった話題で行ってみよう。

 

「しかし大牙ね。ちょっとイーってしてみてよ。ほらイー」

 

 俺が笑って歯を見せる。

 

「い、いーっ」

 

 少年は少し戸惑いながらやってくれた。何か素直だなこの少年。

 

「ふむふむ、なるほど。どれだけ使い込んだかわかりませんが、犬歯がかなりすり減ってますね。お兄さん!すごい!歴戦の勇士って感じですよ!」

 

 牙を見た感じ年上である。とりあえず褒めてみる。彼は両手で口を隠した。

 

「僕は混血だから。牙とか……その、人間と変わらないです。だからすり減ったとかじゃ、ないです。僕は十四歳なので、お兄さんの方が年上ですよね」

 

「ま、まあそうだね。でもそうか。へー、大牙の友達は何人かいるけど混血は始めて見たよ。牙がそうなると、尻尾とか耳はどんな感じなの?」

 

「尻尾はその……、耳はこんな感じです」

 

 少年がふわふわのくせ毛をかき上げて耳を見せる。大牙の横に伸びた耳ではなく人間と違いがない。恥ずかしいのか耳が真っ赤だ。恥かしいなら見せなけりゃいいのに。

 

「おー。初めて見たよ。ありがとう!帰ったら友達に自慢してやろう」

 

 少年と楽しく話していると、後ろから苦々しいような声が割り込んできた。

 

「なに?議会の坊主見習いだと思ってたのだけれど。あなたも妖怪か何かなの?」

 

 振り返ると留が居たので、ひらひらと手を振る。

 

「いんや、俺は人間。地元で連合に友達が多いだけ。でもどうしたよ?」

 

「別に……あなたは、力が強い人の方が好きって妖怪然とした考え方を持ってるって気が付いただけ」

 

 どう考えても勘違いしているんだが……俺の留に対する扱いがぞんざいだって気が付いてしまったのだろうか。これからは敬語を使おうか。

 

「使い魔から姉さんの声がするときだけデレデレしちゃってさ」

 

 何で知ってんの?

 

「何で知ってんの?」

 

「ここが誰の屋敷か考えてみたら?」

 

「そりゃあ、……考えが足りなかった…です」

 

「今度は、また敬語を使うことにしたの?それで不機嫌のつもり?到くん」

 

 なんでここまで喧嘩を売られなければいけないんだ。こういう時は、まともに組み合わない。この世の心理だな。

 

「留さんこそ私に突っかかってきて、降ってわいた同居人が不愉快なのはわかります。でも事情もあるので、しばらく我慢していただくことはできますか?」

 

「考えとく」

 

 不愉快なのは否定しないんすね。なんだこの女。薄々話の流れが怪しかったが、やっぱり姉への劣等感こじらせて俺に矛先向けてんじゃないだろうな。いろいろ言ってやりたいことはあるが、相手は家主。下手なことは言わないほうがいい。

 ちくしょう。このままじゃ不利だ!俺の好きなプリンの話題に無理やり持って行ってやる。そう決意して久雄くんに話を振った。

 

 

 

 久雄くんは鳥箱さんが車で迎えに来るまでこの屋敷にいるらしい。鳥箱さんは吸血鬼を探しているとか。鳥箱さんのサーヴァント、セイバーが優秀であることはステータスからわかっているが、こんなにマスターがいるのに一組だけで動くのは少し心配になる。

 久雄くんは俺の隣の部屋を使うことになったので、早速遊びにいく。ノックに返事が聞こえたので中に入った。

 

「久雄くん。何か予定はあるのかい?」

 

 部屋には久雄くんと粗末な服を着た男がいた。サーヴァントだ。ステータスが見える。

クラス名バーサーカー、筋力C、耐久C、敏捷C、魔力C、幸運D、宝具D、狂化-。

 とりあえず挨拶しないと。

 

「久雄くん、お邪魔します。初めまして、バーサーカーさん。建持到です。よろしくお願いします」

 

「いらっしゃいませ……到さん」

 

「よろしく。建持くん。歳も近いようだし、マスターと仲良くしてやってほしい。ああ後、今まで霊体化していて挨拶もできなかったが、気を悪くしないでくれ。」

 

 常識的な気がするぞ。これこれ、こういう人たちと仲良くしたいんだよ。

 

「バーサーカーっていうぐらいなので身構えてましたが、むしろ穏やかなぐらいで驚いています。やっぱり前評判はあてにならないですね」

 

「今はまだ話もできるさ。狂化の話は聞いているだろう?まあ、話ができるのもこの機会だけだろうからね。挨拶だけでも、と思って出てきたんだ」

 

 今は……か、吸血鬼の所在が割れれば俺と久雄くんで狩りに行くのかもしれない。

 

「それでは失礼するよ。二人とも仲良くな」

 

 バーサーカーが霊体化して消えた。後は若い二人で仲良くやって、というあれなのだろうか。確かに吸血鬼戦を控えていると考えると、今のうちに仲良くしておいたほうがいい。それにこの屋敷で俺以外の住人というと家主である筆川の二人なのだ。同じ部外者同士だし、久雄くんには俺が優しくしないと。

 そうはいっても、バーサーカーさんがすぐ引っ込んでしまったのは少し悲しい。俺は机のわきにあった椅子に、久雄くんはベッドに座った。

 

「バーサーカーさん、なんか慌ただしかったね」

 

「僕は魔力が多くないので……」

 

 久雄くんがぽつりと聞き逃してはいけないことを言っている。確かに久雄くんから魔力をあまり感じないが、

 

「バーサーカーは魔力消費が多いって聞いているんだけど、久雄くん魔力少ないの?」

 

「はい。でも僕、魔術師じゃないので魔術とかでは魔力を使わないので……」

 

 全然大丈夫そうじゃない。何か対策を考えてやりたいが、久雄くんは魔術師でもないらしい。魔力をコントロールできないということだろうか。ああ、何で君みたいな善良な一般人がここにいるんだ?

 

「外部から魔力を持ってこれるようにした方がいいかもしれないね。どうしようか……」

 

 久雄くんが慌てて両方の掌を振っている。

 

「大丈夫……だと思います。鳥箱さんが作戦を考えてくれました。一度しか戦えないけど。令呪を使ってバーサーカーの魔力を補って、同時に契約も破棄するように言われています。それなら大丈夫じゃないですか?」

 

 一回しか戦えないのは大丈夫じゃないだろうとは言えなかった。吸血鬼はしぶといらしい。バーサーカーさんが優勢であっても、決着の前に消えてしまったら死ぬのは久雄くんである。

 

「鳥箱さんは他に何か言っていた?吸血鬼と戦う時のこととか」

 

「まだ決定じゃないけど、僕と到さんとサーヴァントで責めるんじゃないかって、そう言っていました」

 

 勝ち目あるのかな?この子押しに弱そうだし、騙されているんじゃないだろうな。いや、弱みを握られているのだろうか。

 鳥箱さんは連合と何かやり取りをして、連合のマスター、久雄くんを味方につけたと言っていた。連合との兼ね合いがあるので、久雄くんを危険にさらすのはためらいそうなものだけど。俺の考えすぎだろうか?

 

「それなら、次は俺と君、そしてサーヴァントのできることと、どうやって戦うかについて話をしておきたいな」

 

「はい、わかりました」

 

 久雄くんは、小さめのリュックからノートとシャーペンを取り出して持ってきた。俺も何か持ってきた方がよかったかもしれない。

 話をしていくと俺たちマスターは、ただの弱点。戦うにしてもサーヴァントだよりになりそうだとわかった。わかったというよりも当たり前。そもそも人が簡単に強力な化け物やサーヴァントに対抗できる方がおかしい。

 作戦会議と意気込んでも、すぐにやることが無くなった。

 昨日久雄くんがプリン好きだと言っていたことを思い出したので、プリンを作ることにした。準備は昨日からしている。久雄くんは手伝ってくれた。留のやつとは違う。……筆川さんはまっとうだし、文句を言いたくなる留にもお世話になっている。彼女たちの分のプリンには果物を添えて、留の使い魔に渡しておいた。

 


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