8/5 加筆訂正
8/6 加筆訂正
帝国の転移
1941年12月8日 深夜
首相官邸会議室
そこには三人の男がいた。そして、みなため息をついている。
「はあ、やってしまった。まさか、米国外交官に伝えるはずの宣戦布告の詔書が攻撃の2時間後にやっと通達したと言うことは、完全に奇襲攻撃となってしまった」
「あちらの大使館との行き違いがあったのだ、悔やんでも仕方ない」
「それに国際法上、俺たちは資源貿易を禁止された故の自衛戦争だ。先に攻撃になってしまったのは、こちらも悪いと思うが……」
男たちはその後も今後の問題をどうするか話していた。問題は戦争の異常な拡大の可能性や資源の急速減少による資源調達、軍人や国民の食糧などその他いくつもの問題が山積みとなっていた。とりあえず今解決できる問題は至急行い、今後の増える課題の見積りなどを行うことで今回の簡潔会議は終了となった。
「今回の会議は以上とし、ここからはまた一国の大臣として聞いておきたい。
「それについては俺より伊藤の方が詳しいだろう。なあ、
「はいはい、変な挑発はやめてください山本さん。艦艇自体はすでに完成しおり、今は試験航行を行っている。大和型戦艦の一番艦は遅くても今月の16日までに就役予定です」
大和型戦艦は4年前に起工しブロック工法にて建造をしてきた。軍事機密のため船渠(ドック)の周りは高い塀で囲まれ、見下ろせる高い山には憲兵が厳重に警備を行い、天皇ですら厳重に取り調べを行ってから入れるほどだった。
「ただ、設計を担当した松田と
「あれか、あんなの造れるのか?大和ですら4年前から建造してやっと完成間近なんだ」
「確かにそうですね。主砲すらまだ完成してないですし、船渠も大分県で急ピッチで進めている状態だしな……」
改大和型戦艦は大和型の改良型として設計され、超大和型に関しては発展型として51cm連装砲の開発を行っている。⑤計画では戦艦以外をあわせて159隻の建造を予定している。
「そもそも戦艦を主体にした計画案なんぞ古いんじゃないか?もう時代は航空主兵なのだ」
「確かに航空機も良いかも知れんが、母艦が沈めば意味がない。だったら強固な軍艦の大艦巨砲こそが帝国海軍の伝統なんだ」
「古い思想ばっか捉えてると頭が固いぞ。どんどん新しいのを出すのも伝統なんだ」
「伝統は引き継いでいくもの。今、引き継がず、いつ引き継ぐのだ」
「なんだと?」
「そっちこそ」
二人が話から外れ、海軍内での論争になっていると、そこに東條が口を挟んだ。
「それは海軍内でやってくれ。今は関係ないんだ」
「す、すまん」
「申し訳ない」
東條は再びため息をつき話をした。
「戦争をしたくてやってるわけではない、それは同じだろ。先代の総理、近衛殿も貿易回復のため何度もアメリカに訪れたが、状況は悪化するばかり、しまいには8月に石油さえも貿易禁止された。近衛殿も逃げてしまうよ」
「確かにそうだな、いくらなんでもドイツと同盟を組んでるだけなのに、なぜ私たちに矛を向けられるのか分からない」
「ああ、特にドイツは自分たちこそが最も優れた人種だと言い、俺たちも見下してくる、特に悲惨なのはユダヤ人だろう。ただユダヤ人なだけで拷問され、実験道具として扱われ、しまいには殺される。狂ってるとしかいいようがない」
「矛を向けるべきはドイツだ。それにドイツとは別に国民を大事にしない国もある」
「中華民国の蒋介石と中国共産党の毛沢東か」
この時、ドイツ(ナチス第三帝国)はユダヤ人に大虐殺(ホロコースト)を行っており、最終的に900万人以上とされている。また中華民国及び中国共産党は権力のためになら、国民は死んでもかまわないという思想のもと日本軍以上に国民もしくは自国兵士を殺しているとされている。
「そういや東條、南京や満州にいる陸軍はどうなっている」
「今は戦闘は起きず、内部の復興を手伝ってるところだ。あいつら焦土作戦とかいう最悪な行為をするから、そこから中国の領土の復興費用がこのまま45年までに国家予算を越える見積りだ」
「はっ、嘘だろ。今の日本の国家予算は約20億円だろ。それを越えるってのか?」
「恐らく47億円はいく予算だ。このままでは今の国家総動員法を更に重くすることになる」
当時の一万円(1945年)を今のお金(2017年)に換算すると約156万円になり、国家予算は今のお金で約312兆円、中国への復興費用は約734兆円に昇ると言われている。
「国家総動員法か……、戦時のみに使用とはいえ民に苦しい思いをさせるのは、俺たち軍人や大臣にしても心苦しいのに、天皇陛下は俺たち以上に心苦しいだろう。国を守るためとはいえ、民が死んでいく姿を天皇陛下は一番見たくない姿だ」
「勝つことなんて最初から考えてなどいない。せめて引き分けにでもできれば万々歳だ」
「まあ先代の日清・日露の戦争の時もそれで生き残ったからな」
三人は話したいことを話して、重い足取りで会議室をあとにした。
───────────────────────────
翌日
東條家の屋敷が勢いよく叩かれ、東條英機はなにごとかと急ぎ軍服を着て、外に出た。そこには木村兵太郎中将が息を切らし佇ずんでいた。
「東條、大変だ!」
「何があった?」
「中国にいた関東軍やアジアに進出していた陸軍が突然、国会議事堂前に現れた!」
「なんだと!?」
「陸軍だけじゃない!海軍も出撃したはずの艦艇が母港にいつの間にか戻っている。これは戦争どころじゃない!」
「……分かった。すぐに御前会議を行うことを陛下や各大臣に連絡しろ!」
「了解!」
これにより緊急御前会議が行われ、二・二六事件以来のクーデターかとの発言もあったが、それとは違うとのことですぐに否定。その他にも多数の意見が出たが、納得するものが無かったが天皇陛下の一言により、会議室は沈黙の時を迎えた。
「異世界への転移、そう考えるのが妥当だろう」
天皇陛下の声は透き通るように聞こえた。しかし、そんなことがあり得ないと思った東絛は天皇陛下に質問した。
「しかし陛下、あくまで陸軍と海軍が国に突然戻ってきたというのは、異世界転移でなくても可能だと思われます。こちらもはっきりいってあり得ない話ですが時空間のねじれなので偶然いたということも考えられます」
東絛の話のほうがまだ納得がいく。突然、異世界転移と言われても、その証拠がどこにも無いのではいくら陛下であっても信じられない。東絛の話にも納得したかのような天皇陛下は服の中から一通の手紙を出した。
「陛下、その手紙は?」
「皇居に送られてきた手紙だ。差出人は不明、しかもその執筆者は初めて日本語を書いていると思われる。書かれていた内容をここで読み上げよう」
『ふタつの日のまるは異界にてンイし、交差スル。ふたツのひのマルの転移は世界ヲ静カに狂ワす。新ナせカイの夜明ケの鍵トナルくニのカた方はせん争開始直ゴ、もう片ほうは第さんじせかイ大せんのチョク前に(現代語訳:二つの日の丸は異界に転移し、交差する。二つの日の丸の転移は世界を静かに狂わす。新たな世界の夜明けの鍵となる国の片方は戦争開始直後、もう片方は第三次世界大戦直前に)』
その内容はまるでこのことを示唆しているかのようで、天皇陛下が異世界転移を唱えた理由も納得できる。天皇陛下の助言に東絛は感謝した。
これにより、御前会議は終了した。決まった内容は以下の通りである。
○異世界転移の可能性を第一に国民に恐怖を抱かせないようにする
○建造中の兵器は10日以内に完成・就役するものを除き、建造を一時停止する
○海軍による哨戒行動を行い、周辺区域及び領土(北方領土、対馬、台湾などの本国から離れている島々)の確認
であった。
───────────────────────────
日本が消失した地球では混乱が巻き起こっていた。
中国大陸では共同の敵を無くし、内戦が再発。
日本という後ろ盾が無くなった満州国は政府内で賄賂が飛び交い腐敗、蒙古自治邦政府は中国共産党に侵略され滅亡。
朝鮮半島では独立(親日)派、属国(親中)派、併合(親ソ)派で対立し朝鮮三派内戦が勃発。
ドイツは同盟国及び仮想敵国である日本を失い、戦線を縮小。
イギリスは日本の人種差別撤廃に未来を感じ、ドイツのユダヤ人虐殺に対する報復を決定。
アメリカでは日本という敵が無くなった今、戦争の意味は無いのにも関わらずアジアへの侵攻を開始。政府への不信感から第二次南北戦争が勃発。
ソ連は日本という抑止力が無くなった今、臆する敵は無しと判断しアジアへの南下が開始。
日本の消失は世界の歴史そのものを大きく狂わした。戦争を止められる国がいなくなった今、全ての国は戦争から戻れない。
世界は『弱肉強食の世界』にある、国家の興廃は誰にも分からない……