「わぁ! ナナリーちゃん、お姫様みたいなのよ!」
「いや、お姫様だからね」
「あ、そうでした」
スザクの言葉にリーエンはペロッと小さく舌を出す。
褒められているナナリーは恥ずかしそうに肩を小さくさせる。
しかし、すぐに険しい表情をして問う。
「あの、リーエちゃん。本当に良かったの? 私に付き合ってここに残って……」
「むしろあたしからしたら、就職先が見つかってラッキーって感じ? 実家に連絡したら、お前みたいななんの価値もない愚図はそのまま家の敷居を跨ぐなって言われちゃったしな!」
アハハーと能天気に笑うリーエン。
本当は彼女の実家から言われた暴言はそんなものではないのだが、本人は適当に省略して伝えてたりする。
「だからちょっとミスしたらクビにするとか止めてね? あたし野垂れ死んじゃうから」
冗談とも本気ともつかない彼女の言葉にナナリーは曖昧に笑みを浮かべる。
思えばこの少女は出会った時からこの調子だった。
明るく、優しく、嘘をつかず、自然体で接してくれる。
ブリタニアに戻って味方の少ないナナリーには彼女の存在がどれだけ支えになったか。
「スザク先輩もラウンズの衣装、とても格好いいですよ。あ、ここだと枢木卿って呼ばないとダメですね」
口元を押さえるリーエンにスザクは苦笑する。
「他の人見ている時はそうだけど。普段ならそこまで気にしなくていいよ」
学園に居た時と変わらない気安さで接してくるスザク。
しかし、以前に比べて憂いを帯びた表情が増えたのは今の立場による責任故か。それとも別に理由があるのか。
「ルルーシュ先輩にも、見せてあげたかったよね。きっとスゴくべた褒めしたと思うのよ」
ルルーシュの名前が出てスザクの表情が険しくなったが、盲目なナナリーとスザクに背を向けているリーエンは気付かない。その事が良かったのか悪かったのか。
ナナリーとスザクを見比べてリーエンは着ているメイド服のスカートの裾を摘まむ。
「こうして見るとあたしだけすごい場違い感あるよね。馬子にも衣装。猫に小判。豚に真珠。コスプレ感が半端ないぜ! って思うのよ。研修でも、怒られない日は無い上に、一度も誉められなかったからね!」
「えーと……」
いきなりの自嘲にナナリーが戸惑った様子でいる。
そこでスザクがフォローに入った。
「そんなことはないさ。充分似合ってる。それにメイドの仕事だってリーエンならすぐに慣れると思うよ」
「ウッス! せっかくシュナイゼル殿下のコネでナナリーちゃんの付きにしてもらったからには頑張るのよさ!」
「もう。リーエちゃん!」
そんな風に笑い合うナナリーとリーエン。その光景を眩しそうにスザクは眺めていた。
自分の主であり、大切な人だったユーフェミア。
彼女は今の日本人にとっても希望になるはずだった少女。
そんな彼女を殺し、虐殺王女に仕立てたのは親友であり、ナナリーの兄であるルルーシュだった。
自分はきっと、一生ルルーシュを許すことは出来ないだろう。
昔のように、親友に戻ることもきっと無い。
だからこそ、目の前の少女たちにはずっと仲の良い親友同士で居て欲しいと自分が願うのは傲慢なのだろうか?
そんなことを考えているとスザクは呼び出しを受ける。
「ごめん、行かないと。リーエン、ナナリーをお願いね」
「任せてください! 研修の成果を見せてやるのよさ! あ、やべ」
素が出たことがマズイと気付いて口元を押さえる。
その様子にスザクは苦笑して部屋から出ていった。
扉が閉まるとリーエンが天井を見上げて手を伸ばして息を吐く。
ブラックリベリオンと呼ばれる事件で金髪の変な子供にナナリーのついでで拉致され、なんやかんやでここまで来た。
「ホント、遠くに来たなーって感じ……」
「リーエちゃん……」
「だから! そんな声出さないでってば! あたし、誰かに言われたからじゃなくて! ちゃんと自分の意思でここにいるつもりなのよ?」
申し訳なさそうに声を出すナナリーにリーエンは少し怒った様子を見せる。
しかし、ナナリーからすればどうして? という気持ちもあるのだ。
ここに居て、王族に復帰したナナリーの傍に居れば、きっと様々な嫌がらせを受ける。
そうまでしてここに残る意味が理解できないのだ。
それを訊くとリーエンはうーんと腕を組んで考える。
「なんて言うのかなー。ナナリーちゃんと初めて会った時、話してさ。こう思ったのよ。この子と友達になりたいって。だから、もしあたしでも力になれるなら傍に居たいってね。うん! きっとそんな理由だよ!」
あっけらかんと、本当に真面目に考えたのかと思えるほどにリーエンの答えは子供っぽい理屈だった。
「それにあたし、家では家族に邪魔者扱いされて嫌われてるからね。ならせめて、大好きな友達の役にくらい立ちたいのよ? はは……ま、出来ることは少ないけど!」
「……」
どうしてこの少女は真っ直ぐにこうして好意を伝えてくるのか。これでは、学園に戻ってほしいとは伝え辛いではないか。
この少女は、何があっても、自分の傍に居てくれることに、甘えてしまいそうで。
そんなナナリーの様子にリーエンは、はぁー、と嘆息する。
近づくと、自分の小指をナナリーの小指に絡ませた。
「約束するのよ。あたしは、なにがあっても、ナナリーちゃんの友達で、味方で、ずっと傍にいるのよさ!」
「リーエちゃん……」
指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます。
「指切った!」
それは、彼女達の年齢からしても幼稚な約束だった。
端から見ればただの子供がする口約束に等しい誓い。
だけど、この時の2人にとっては確かな
ある皇女の傍に居た少女は、決して特別な、優れた人間などではなかった。
優れた頭脳など無く。
戦う力も無く。
強い権力も財力も持ち合わせていない。
周りを惹き付けるカリスマも無い。
況してや、世界を変えるなんて大それた事も出来はしない。
少女が居ようが居まいが、物語に大した変化など起きはしない。
少女はただ、大好きな
最後まで、
これは、本当に、本当にそれだけの話。
出来れば復活のルルーシュまで行きたい。