ナナリーの親友兼専属メイド   作:赤いUFO

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天使

「あぁ、来ていたのか」

 

「どうもなのよ、ルルーシュ先輩!」

 

「お帰りなさい、お兄様」

 

 ゼロとして黒の騎士団の活動を終えて戻ったルルーシュは妹のナナリーと一緒にいるリーエンに軽く挨拶する。

 2人の少女は円形のテーブルで何やら物凄く凝った折り紙を折っていた。

 

「……なんだこれは?」

 

「何って。天使なのよ?」

 

 見れば分かるでしょ? と首を傾げるリーエン。

 背中の羽やら胸の位置で腕をクロスさせている人形(ひとがた)は確かに天使だった。

 無駄に完成度の高いそれはルルーシュも小さな感嘆を与えた。

 ルルーシュも、紙飛行機やチューリップ。折り鶴くらいなら折れるがこれは折り方が一目では想像出来ない。

 

「すごいんですよ、リーエちゃん! 咲世子さんも知らない色々な折り紙の折方を知ってるんです! 私も今、桜の折方を教わってて」

 

「あたしのお母様が生前、日本のこういう文化に熱心で。良く折ってくれてたのよさ。で、あたしも手慰みに折ってたり調べたりしているうちに!」

 

 笑って胸を張るリーエンだが気になる単語があった。

 

「生前、とはもしかして……」

 

 目の見えないナナリーにリーエンが指を重ねて桜の折方を教えながらルルーシュの質問に答える。

 

「学園に来る前に。というより、お母様が亡くなったからここに来たのが正確なのかな? 元々身体が弱い人だったしね。あ、ナナリーちゃん、指止まってるのよ?」

 

「あの……リーエちゃん……」

 

「お母様のことはあたしが勝手に話しただけだし気にしないで。それにお別れはちゃんと済ませたし。嬉しいこと言ってもらえたのよさ」

 

「嬉しいこと?」

 

 ルルーシュが首を傾げるとリーエンは少しだけ遠くを見つめる。

 

「私の人生で、貴女ほど愛した人はいないって。でも昔のあたしは泣いてばかりで伝えなきゃいけない気持ちを口にする事ができなかったのよ。だから、好きな相手には自分の気持ちをちゃんと伝えるように心がけてるのよさ。っと、ほい完成!」

 

 ナナリーと一緒に折っていた桜が完成して重ねていた指を放した。

 

「相手がどう思ってるか、解ってるつもりでも口にしなきゃいけない時もあるだろうし。遠慮して本心を見せないで仲良くなるより、本心からぶつかって嫌われた方がマシって思うのよ。ちなみに、あたし、ナナリーちゃんのこと好きよ? 友達になれて良かったって心から思ってるのよさ!」

 

 最後の方はその場の冗談とも本気とも取れる言葉を放つがナナリーは照れたように顔を赤くした。

 

「と、言うわけでこれもプレゼント!」

 

 先程ルルーシュが触っていた天使の折り紙をナナリーの手に乗せる。

 

「あたし的にはお姫様もいいかなって思ったけど。やっぱり、あげるならこっちかなって思って」

 

 何がどう思ったのかは本人のみぞ知るだが、それは他意の無い心からの言葉だった。

 

「あ、ありがとうございます。リーエちゃん……」

 

 ナナリーはこれまでの褒め殺しから顔を赤くしてそれを受け取る。

 その手つきは、どこか壊れ物でも触れるように丁重で。

 

「ついでに、ルルーシュ先輩は好き嫌いが付くほど話してません! 残念でした?」

 

「それ言う必要があったのか!」

 

 リーエンの言葉にルルーシュがツッコミを入れてナナリーがクスクスと笑いを堪えている。

 

 そんな日常がかつて、確かに存在したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナナリーとリーエンは黒塗りのリムジンに皇帝から勅命を受けた騎士と共に乗っていた。

 ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイム。

 枢木スザクが他国への作戦に参加する間にナナリーの護衛として皇帝陛下より任を受けたナナリーとリーエンと同い年の少女。

 大掛かりな護衛ならともかく、身近な護衛ならば年の近い同性の方がナナリーの精神的な負担が軽いと判断されたのかもしれない。

 

(実際、あたしも似たような理由でナナリーちゃん付きになれたのよね)

 

 本来、出戻りとはいえ、皇女殿下であるナナリーにメイドとして新米も良いところのリーエンが専属になるなどあり得ない人事だ。

 しかし、目と足の不自由なナナリーの精神的な負担を少しでも軽減するためにシュナイゼル殿下が口を利いてくれたのだ。

 

 目的の場所へと着くと、ナナリーがリーエンに耳打ちする。

 

「これから、何があっても黙っていてね、リーエちゃん」

 

「え? あ、うん……じゃなかった。はい。分かりまし、た?」

 

 意味は分からずとも、頷く他なく、リーエンは返事を返す。

 

 目的の場所に着くと、ナナリーの異母兄であるクロヴィス皇子を亡くしたその母の下へとお見舞いに行った。

 しかし息子を亡くした彼女は心を壊しており、手にした人形をクロヴィスと思い込んで過ごす、労しい様子で、ナナリーのことも意識に入れることさえなかった。

 

 お見舞いを終えて別の場所に移動していくと左右の髪を結わえた赤い髪の、自分達より少しだけ歳上の少女とすれ違う。

 

 その少女はナナリーを視界にいれるとまるで獲物を見つけた獣のような顔を一瞬して近づいてきた。

 

「あら。戻ってきてたのね」

 

「カリーヌお姉様……」

 

 久々に聞く声からその人物を認識してナナリーの体が少しだけ強張った。

 

「いったいここに何の用かしら? ここは貴女の大っ嫌いなガブリエッラ様のお家なんだけど」

 

 刺を撒くようなその声音にリーエンは彼女のナナリーに対する人当たりを察する。

 カリーヌ・レ・ブリタニアはナナリーに近づき見下ろすと毒々しい言葉の数々を言い放つ。

 ナナリーが僅かな反論をすれば、それが2倍、3倍へと返ってくる。

 

「クロヴィスお兄様やユーフェミアお姉様が殺されたのに、ろくに人質の役目も果たせなかった役立たずの貴女がノコノコとブリタニアに帰ってくるなんて米長、本当に不公平よねぇ? まぁ、ユーフェミアお姉様はなんか馬鹿をやらかしたみたいだから自業自得だけど」

 

「……!? 私のことはともかく、ユフィお姉様を悪く言うのは止めてください!」

 

 ついさっきまで顔を下にしていたナナリーも、特に仲の良かった異母姉妹であるユーフェミアを悪く言われて声を荒らげる。

 その剣幕にカリーヌは一瞬だけ驚いたが、それもすぐに鼻で嗤った。

 

「そうね。ユーフェミアお姉様はちゃんと皇族としての役割を果たしたものね。反抗的なナンバーズをたくさん殺して。あのゼロとかいうテロリストも処分できたみたいだし」

 

「カリーヌお姉様!」

 

「なによ? 私、褒めてるんだけど。それに皇族としての義務を何も果たしてない貴女にどうこう言えると思ってるの?」

 

「……っ!」

 

 ナナリーが歯噛みしていると、その後ろに立つリーエンに視線を向けた。

 

「貴女も大変ねぇ。こんな目も足も使えない役立たずな妹の面倒を押し付けられて。そうでしょ? ハミルトン男爵のご令嬢さん」

 

「……」

 

 ナナリーから事前に何も言うなと言われていた為、何も言い返さずに沈黙する。

 

「いつ取り潰されるかわからない男爵家。だからナナリーみたいな子に取り入ろうと近づいたのでしょう? そうでなかったら、こんな子の面倒なんてみたくもないわよねぇ」

 

 返事など期待していない。ただ、カリーヌは自身の中でこう、と決めつけて毒を撒き散らしている。

 

「大変よね。嫁ぎ先もない醜い傷物の女は。ナナリーみたいな役立たずにまで媚びを売らないといけないなんて。私だったらあまりにも惨めでこの世に居られないわ」

 

「カリーヌお姉様!」

 

「うるさいわね。まぁでも、とってもお似合いよ? 何も出来ない皇女と嫁ぎ先のない無能な男爵令嬢の主従なんて」

 

 見下し、鼻で嗤うカリーヌ。そこで前に出たのがアーニャだった。

 

「なによ? お父様の飼い犬がなにか用かしら」

 

「ナナリー皇女殿下はブリタニア皇族の名で毎日ブラックリベリオンで死んだ兵士の遺族や民間人宛にお見舞いの手紙を書いてる。まだ帰国が公表されてないから名は伏せてるけど。それに戦災孤児向けの援助基金を設立するため、宰相府宛に申請書を提出した」

 

 それは、ナナリーを庇う、というよりはただただ事実を口にしている様子だった。

 

「皇族としてなにもしていない?」

 

 首を傾げるアーニャにカリーヌは不愉快げに眼を細めたが、すぐに口元を吊り上げた。

 

「そうやって。私は善い人ですー。優しいですーってアピールして、汚い仕事は周りにも押し付ける。それで綺麗な自分を見せ続けて、いつも汚れ仕事を押し付けられるシュナイゼルお兄様やコーネリアお姉様が可哀想!」

 

 膝に置いていたナナリーの手が握られた。

 

「綺麗なお仕事をしてるだけで周りに聖女扱いされるなら楽よねー、皇族も! 馬鹿馬鹿しい! 誰のお陰で手を汚さずに済んでると思ってるんだか。反吐が出ちゃうわ!」

 

 そう言い残して去って行くカリーヌ。

 その姿が見えなくなると車椅子を押していたリーエンが手を離す。

 

「ごめん、ナナリーちゃん。もう限界」

 

「リーエちゃん?」

 

 するとリーエンは、壁に向かって自分の額を叩きつける。

 

「はっら立つわーっ! まさかあんな絵に書いたようなイジワルな姉がいるとは思わなかったのよさ!」

 

 ナナリーやルルーシュを除いて会った皇族がシュナイゼルだけだった為にそういう皇族もいるのだということが頭から抜け落ちていた。

 

「それもナナリーちゃんを否定するくせに! シュナイゼルお兄様がーとか! コーネリアお姉様がーって! 自分が何の仕事をしてるか言ってみろ! あの髪飾り引っ張ってやりてぇのよさ!」

 

 壁を引っ掻いて怒りを爆発させるリーエン。

 そこでカシャッと小さなシャッター音がなった。

 見ると携帯でリーエンの奇行を画像に収めていた。

 それを見てリーエンはだらだらと冷や汗を流す。

 

「ア、アールストレイム卿……その、今のは見なかったことには……」

 

「もう記録した。面白いものが撮れた」

 

 どう説得しようか考えるリーエンにアーニャが続ける。

 

「でも、面白い」

 

「へ?」

 

「2人とも、自分の悪口を言われても怒らないのに、互いのことを言われると怒るなんて」

 

『あ』

 

 アーニャの指摘に今気付いたのか、2人は顔を赤くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。

 今日訪れる場所は日本にくる前に、ナナリーとルルーシュ。そして今亡きマリアンヌ皇妃が暮らしていた城だった。

 

 今は誰も住んでいないものの保安システムは当時のまま維持されている。ただ、生活する電気や水道は止まっているらしいが。

 それを聞いてアーニャがポツリと呟く。

 

「もったいない。せっかく綺麗にしてあるのに」

 

「綺麗にしてあるんですか?」

 

「家具に埃が積もっていない。庭の花や草もちゃんと手入れされてる」

 

 アーニャの言葉にナナリーは少しだけ温かな気持ちになる。

 それは、この城の所有者である父が、母との思い出を大切にしてくれてるようで。

 もちろん、ナナリーの想像だが。

 

 移動した先。それはかつてナナリーが暮らしていた部屋だった。

 その寝室には多くのぬいぐるみが置かれている。

 それに、かつてここで暮らしていた思い出を話始めるナナリー。

 その語りが一段落すると、ナナリーがここで1人になりたいと申し出た。

 

「この部屋なら大丈夫だと保証します。だから……」

 

 かつて暮らしていた場所に戻り、考えたいこともあるのだろう。

 リーエンは、ギリギリまで渋っていたが、アーニャに引っ張られる形で部屋を出た。

 

 部屋を出て本宮へと歩いているとリーエンから話しかける。

 

「あ、あの!」

 

「?」

 

「ありがとうございました。先日、ナナリー様を庇ってくれて」

 

 頭を下げるリーエン。

 それは、カリーヌからナナリーを守ってくれたことだった。

 

「私はただ、事実を言っただけ」

 

「それでも、嬉しかったですから。お礼を言うタイミングを逃してしまってましたけど」

 

「……」

 

 少し前を歩いていたアーニャがリーエンに近づく。

 その右手を動かす。

 すると、突然リーエンの首根っこを掴んで壁に背を叩きつけてきた。

 

「なっ!?」

 

 突然の暴力に驚くと、アーニャは普段の無表情から一変して失望したように嘆息する。

 

「ダメね。この程度も避けられないなんて」

 

 その声は、アーニャの声の筈なのに、まったく別物に聞こえる声音だった。

 

「V.V.がナナリーと一緒に連れてきた子だって言うから興味があったけど、全然ダメ。役に立たない子」

 

(だれ?)

 

 姿形はアーニャの筈なのに、まったく記憶と一致しない言動。

 まだ知り合ったばかりでアーニャのことをよく知っているとは口が裂けても言えないが、今の彼女は普段から明らかに違いすぎる。

 

「あなたは、だれ……?」

 

 リーエンの質問にアーニャはクスリと笑う。

 

「アーニャよ。アーニャ・アールストレイム。知ってるでしょ?」

 

 嘲りとからかいが混じった声音。少なくともリーエンが知っているアーニャはこんな表情と声を出す人ではなかった。

 

 まるで別人────。

 

「まぁ、いいわ。貴女、今のままだと役に立たなさそうだから、暇を見て稽古を付けてあげる」

 

「なにを……」

 

「それと、もしナナリーを裏切る真似をしたら……」

 

 その整えられた唇が獰猛な獣のように歪み、首を掴んでいる手に力を込めるとリーエンの耳元へと近づく。

 

「殺すわ」

 

 死神のような威圧感を伴ってリーエンに告げた。

 

「アール、ストレイム卿……」

 

 なんとかそう、声を絞り出すと、ハッとアーニャが目を見開いてこの状況を驚いていた。

 パッと手を離すと、自分の手の平を見つめる。

 

「なにがあったの?」

 

 まるでさっきまでのことをまったく覚えていない様子のアーニャ。

 アーニャに何が起こったのか。全然理解できないリーエンは反射的に答える。

 

「いえ……大したことでは……」

 

 それ以外の言葉を、思い付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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