ナナリーの親友兼専属メイド   作:赤いUFO

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久々に復活のルルーシュを観たら執筆が進んだ。


報酬

 パシャン、と水音が鳴ったのは、車椅子に衝撃が走った直後だった。

 

「え?」

 

 その事に若干遅れて反応したナナリーは水音がした方に顔を向ける。

 少しして水から何かが出てくる音がした。

 

「冷たっ!? なんか引っ掛かったのよさ!」

 

 くしゅんとくしゃみをして聞いたことのない誰かの声がする。

 

「あ、あの……大丈夫、ですか?」

 

「ん~? ランペルージさん。同じクラスの。あぁ、だいじょぶだいじょぶ。上半身から噴水に突っ込んだだけだから」

 

 それは大丈夫じゃないんじゃあ、とナナリーは思う。

 それとどうやら相手はナナリーと同じクラスらしい。

 

「ま、いいや。さっさと教室いこ」

 

「えぇっ!? あの、制服を乾かさないと……」

 

「めんどくさい。体温で昼までには乾くだろうからいいと思うのよ?」

 

「えぇ……?」

 

 あまりにも信じられない返答にナナリーが戸惑っていると、歩いて遠ざかる音が聞こえた。

 

「じゃあね、ランペルージさん。教室で」

 

 その後に彼女の名前がリーエン・ハミルトンという同じクラスの人だとナナリーは知り、次の日に彼女が風邪を引いて休んだ事を聞いた。

 その時の事は今でも覚えている。

 

「リーエン。なぜ貴女はドアの前で倒れているかしら? しかもジャージで」

 

「ちょっと走りに……うえーきもちわる……」

 

 何故か風邪を引いて休んでいたのに走りに行っていたらしいリーエン。

 ナナリーはその行動に絶句していた。

 リーエンと同室の女子生徒が重ねて質問する。

 

「……一応聞いてあげる。何故そんな馬鹿なことを?」

 

「走って汗と一緒にウイルスを追い出せば早く治るかなって……」

 

「ハミルトンさんはいつもそうして風邪を治してたんですか?」

 

「風邪なんて生まれてこのかた引いたことないのよさ。ランペルージさんは、どうして寮に?」

 

「お、お見舞いに……」

 

「おぉ……ランペルージさんは良い人なのね。でもごめん。今は部屋に入れて……動けない」

 

 同室の少女が心底呆れた様子で肩を貸して部屋に入れた後にベッドに下ろす。

 

「わざわざありがとね。すぐに、治ると思うから……」

 

「あの……お体には気をつけてくださいね?」

 

「はは。ありがと……あたし、あたしに優しくしてくれる人が大好きなのよさ……」

 

 茶化すような言葉だが、リーエンが嘘偽りなくそう言ってくれているのがナナリーには伝わった。

 それからも少しずつ話すようになって。

 仲良くもなって。

 そして今日までずっと支えてくれた優しい人。

 

 そんな大切な親友を、ナナリー・ヴィ・ブリタニアは自分から切ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーニャ・アールストレイムは今しがたナナリーから秘密の任務────いや、頼みを引き受けて退室したところだった。

 それは、皇帝ルルーシュを討った後に、ナナリー自身をも含めたブリタニア皇族をダモクレス共々に葬ってほしいという滅茶苦茶な願いだった。

 最初は引き受ける気のなかったその頼みをナナリーがこれまで抱えていた負の感情や兄に裏切られた事への絶望に触れて、騎士としてでなく、彼女の友人として最後の頼みを引き受けた。

 それでも、気が重くなるのを感じながら歩いていると、ナナリーのいる部屋に向かって行く人影を見つける。

 その人物を見て、アーニャは小さな驚きから瞬きする。

 ナナリーの部屋に行こうとしているのは解雇してここには居ないと言われた少女だった。

 その少女は不機嫌そうに歩いており、アーニャに気付くと慌てて取り繕うようにして一礼する。

 そうしてそそくさとナナリーが居る間へと入っていった。

 それを見てアーニャは僅かばかりの希望を懐く。

 ずっとナナリーの傍にいたあの少女が、絶望に堕ちたあの皇女を、少しだけでも救ってくれるのではないかと。

 その人任せな期待を懐きながらアーニャは自分の戦場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入ってきた人物にナナリーが呆けたのは一瞬耳がおかしくなったのかと思ったからだ。

 聴こえる足音はゆっくりと近づき、聞き馴染んだ声で自分を呼ぶ。

 

「ナナリーちゃん……」

 

「どう……して……」

 

 ナナリーの質問に答えずにリーエンが近づいて来る。ただ、その足音はいつもより躊躇いがちに感じた。

 その足音がナナリーの頭に少しだけ冷静さを取り戻させる。

 

「何故、貴女がここに残っているのですか……?」

 

 自分の声が僅かに震えが混じっているのを感じてナナリーは自身に苛立つ。

 ここまで来て、そんな情けない声を出すことは許されない。

 ナナリーがここを出るように言う前に、リーエンが口を開いた。

 

「あたし、きっと心のどこかでナナリーちゃんのこと見下してた」

 

 その言葉が信じられないようにナナリーは息を呑む。

 

「目の見えないナナリーちゃんに折り紙を教えたり、車椅子を押したりして、感謝の言葉をいつも言ってくれるのが心地よくて、いつの間にか、ナナリーちゃんの上に立ってたつもりだったんだと思う」

 

「……そうですか。それで? そんな事を今更口にして、どういうつもりですか? 罪悪感を薄めたいだけなら、他所でやって下さい」

 

 ナナリーはただ、リーエンを突き放す。それが、彼女の為だと信じて。

 しかし、ナナリーの言葉を無視して続ける。

 

「初めて、ゼロと会ったときのことを覚えてる? ほら、飛行船で」

 

「それが、なんですか?」

 

 今更、何故そんな事を話すのか。意味が分からずアーシアは苛々を募らせた。

 

「あの時に、ナナリーちゃんはガタガタ震えてたあたしと違って、ちゃんとゼロに自分の意見を言って。その後も、特区・日本を宣言して。あの時に思ったのよ。スゴいなって」

 

 嬉しそうに話すリーエンにナナリーは車の手摺を強く握った。

 リーエンが何を言いたいのか、まるで理解出来ない。

 

「それからも色々遇ったよね。たくさんの問題が在って、ナナリーちゃんの考えを否定されたり、立て籠り事件とか。無茶な事もしたし、日本の人達の為にずっと頑張ってきて。そんな風に頑張れるナナリーちゃんにずっと憧れてたんだよ。誇らしかったって言ってもいいかな?」

 

 その言葉にナナリーは唖然となった。

 もし彼女の目が見開けたなら、その目蓋が限界まで開いていただろう。

 だが、その言葉は今のナナリーには怒りを買う物でしかなかった。

 

「馬鹿に、してるんですか? こんな私に憧れてたなんて……」

 

 目も足も不自由で、誰かに助けて貰わないと生きていけない。

 そんな人間のどこに憧れるところがあるのか。

 リーエンはゆっくりとナナリーに近づく。

 

「ゴメンね。あたしはたぶん、どれだけ説明されても、ナナリーちゃんの苦労とか痛みとか、本当の意味じゃ解ってあげられない。あたしに都合の良い物を見てる部分もあると思う。それでも、ずっと見てきたよ。これまで、どれだけナナリーちゃんが頑張ってきたか」

 

 どれだけ不安だっただろう。

 点字で書かれた書類や聞いた報告に嘘はないか。

 自分の施した政策がどれだけ反映され、人々に受け入れるか。

 そんな不安と戦い続け、少しずつ評価されていったのに、それは全てスザクが撃ったフレイヤで台無しにされて。

 でも、その結果などリーエンには関係ない。

 死んでしまった人達には悪いが、彼女にとって大事なのは大切な親友の頑張りなのだ。

 そこから一拍置いて続ける。

 

「さっき怒ったのも、悲しかったけど、嬉しくもあったのよ? ナナリーちゃん、ああいう誰かを傷付けるような感情を向ける事ってないから」

 

 それは、ナナリーなりの処世術だったのだろう。

 人に嫌われないように振る舞う事こそが。

 例えそれが負の感情でも、本心をぶつけてくれたのは嬉しかった。

 

「でも、怒ってる部分もあるよ。分かる?」

 

 まるで謎解きでもするような口調で問うリーエンに、ナナリーは答える。

 

「それは、私が貴女に酷い事を言ったから……」

 

「ぶっぶー。違いまーす!」

 

 もう触れられる位置まで近づくとリーエンはナナリーの両肩を強く掴んだ。

 

「それはね。あんなことを言ったくらいで、あたしがナナリーちゃんを嫌いになって、離れていくなんて思った事を、だよ! ちょっとひどいこと言われたくらいで距離を取るなら、ここまで付いて来る訳ないじゃん!」

 

 その声はナナリーに向けるには珍しく怒った口調だった。

 ナナリーが痛みを感じる程に強く肩を掴み、涙声混じりに叫ぶ。

 

「ホンットーにそれだけが腹立つのよさ! あたしは確かに馬鹿だけど、そんな薄情じゃないんだから!」

 

 こんな時に何を言っているのだろう、彼女は。

 そんな事を言う為に態々ここに来たのか。

 

「それで? 気が済みましたか? なら、早くダモクレスから出て下さい。戦闘になる前に────」

 

「嫌だよ! 逃げないって!」

 

 ナナリーの言葉を遮って拒否するリーエン。

 その態度にナナリーの苛立ちが限界を迎えた。

 

「いい加減にしてっ!!」

 

 掴まれていた腕を払い、リーエンを押し退ける。

 一変した態度にリーエンは驚き、ナナリーは捲し立てる。

 

「ここから先は、リーエちゃんには関係ない事だよ! それに! それにここに居たら、貴女まで巻き添えにっ!?」

 

 荒くなった態度と口調を調えてからナナリーは告げる。

 

「この戦闘でルルーシュお兄様を討った後に、アーニャさんにこのダモクレスを沈めるように依頼しています。ブリタニア皇族である私とシュナイゼルお兄様をこの世界から消す為に」

 

 これまで、散々世界を踏み荒らしたブリタニア。その皇族とダモクレスが世界の憎しみを一身に背負って消えることで世界が明日を迎えれば良いと思っている。

 だがそれはルルーシュがこれまで犯してきた罪を知り、まだ罪を重ねようとするだけでなく、自分の言葉を拒絶した絶望からくる自棄っぱちの感情であり、自分達の死で世界が良くなればいいな、という願望だった。

 だが、そんな自殺に親友を亡きを巻き込む訳にはいかず、ナナリーはここを離れる為にリーエンを拒絶する。

 

「……ナナリーちゃんは、ここで死ぬ気なの?」

 

「……」

 

 ナナリーの沈黙をどう受け取ったのか、リーエンは大きく息を吐いた。

 

「そっか。なら、しょうがないなぁ」

 

「そうです。だから早くダモクレスから────」

 

「なら、やっぱりあたしはナナリーちゃんの傍に最後までいるのよさ」

 

 まるでちょっとしたお願いを聞くような気楽さでそう告げた。

 

「結局、あたしが頑張ってるナナリーちゃんにあげられる物ってなんだろうって、ずっと考えてた。ようやく決まった。あたしはここでナナリーちゃんと一緒に死ぬことくらいしか無いみたい」

 

「なにを、言ってるの……?」

 

 訳が分からない。何でそんな結論に至ってしまうのか。

 リーエンはもう一度ナナリーに近づき、頭を抱き寄せる。

 

「世界中がナナリーちゃんを憎んでも、一緒に死んでも良いって思うくらい想ってる馬鹿が1人くらい居ないと、不公平だもんね。だから、あたしが最後まで傍に居るのよ?」

 

 それはただの自己満足で、何の価値もない。誰も得をしない選択だった。

 

「ずっと頑張ってきたナナリーちゃん。それが周りの所為で駄目にされて、ルルーシュ先輩にも拒絶されて。それで全部が全部嫌になって死んでいくなんて、あたしが嫌なのよ。何か1つくらい、報われる物がないと。でもあたしがあげられる物ってもうそれくらいしかないのよ。悔しいなぁ。ここで、ナナリーちゃんが生きたくなるような言葉1つ浮かばないなんて」

 

「なんで……そこまで……」

 

 抱き締めてくれている体は震えていて。リーエンが死にたくないと思っているのが伝わる。

 それでもナナリーの為に一緒に死ぬという。

 

「うん。理由は色々と思いつくけど。1番の理由は単純で。あたしはナナリーちゃんが大好きだから。あなたの頑張りが少しでも報われて欲しいから、かな」

 

 その為なら、ここで自分の命を終わらせても良いと、リーエンはそう言った。

 なんて馬鹿な選択だろう。

 誰もそんな事を望んでないのに、彼女はナナリーが少しでも報われて欲しいからと、それだけの為に自分の命を捨てようとしている。

 拒絶しろと理性が叫ぶ。

 貴女の自己満足に付き合わせるなと抱き締めている腕を払えと。

 

「本当に、最後まで居てくれるの……?」

 

「うん。ナナリーちゃんがどんなに突き放しても、離れてなんてあげないのよさ」

 

「ばかだよ……本当に、馬鹿……」

 

「あたし、ずっと周りが羨ましかった。ルルーシュ先輩みたいに頭が良かったら。スザク先輩みたいにKMFの操縦とか、格闘技が強かったら、もっとナナリーちゃんの役に立てるのにって。でも、今はあたしが無能で良かったって思ってる。だって、そのお陰で今、ナナリーちゃんの傍に居られる」

 

 もしもリーエンがもっと有能で、周りの注目を集める存在なら、もっと別の場所に配置されたかもしれない。

 KMFの操縦が達者なら戦場に駆り出されていたかもしれない。

 頭脳明晰なら、誰かに利用されたり、殺されたりしていたかもしれない。

 誰かに注目されるほど際立った物が無かったから、こうしてリーエン・ハミルトンはナナリー・ヴィ・ブリタニアの傍に居られたのだ。今、この瞬間も。

 その温かさに、ナナリーは目頭が熱くなった。

 気がつけば、その腕を払うのではなく、強く掴んでいた。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい、リーエちゃん……!」

 

 貴女の優しさを、好意を疑って。酷い言葉を投げ付けてごめんなさいと、ナナリーはリーエンの胸に埋めて泣いた。

 ここまで自分を想い最後まで味方で居てくれる人。

 

「わたし、前にリーエちゃんが折ってくれた折り紙を破いて捨てて……」

 

「うん。分かってる。分かってるから」

 

 ナナリーが泣き止むまでずっと頭を撫で続け、嗚咽が治まると、リーエンの顔を真っ直ぐと見つめた。

 これは、せめて自分が言わないといけない言葉だから。

 

「リーエン・ハミルトン。この戦いがどう終わろうと、私はこのダモクレスと共に最後を迎えます。だから────私と一緒に、死んでくれますか?」

 

「うん。ナナリーちゃんがそう望んでくれるなら」

 

 リーエンは、ナナリーの手に自分の手を重ねた。

 

 

 

 

 

 




次回でゼロ・レクイエムまで終わるはず。出来ればエピローグまで書きたい。
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