ナナリーの親友兼専属メイド   作:赤いUFO

9 / 9
婚約

(なんであたし、シュナイゼル様と2人っきりで食事してるんだろう?)

 

 当然呼び出されたと思ったら車に乗せられ、高級レストランの個室で食事を摂っている。

 ナナリーのオマケで一緒に食事をした事はあるが、マンツーマンとか一種の罰ゲームではないだろうか? 

 

(緊張して食欲がなくなる。だけどそれにしても、このお肉柔らかいなー。軽く噛むだけで肉がほぐれておいしー。おかわりしても怒られないかな?)

 

 このお店の代金は全てシュナイゼル持ちという話なので、遠慮なく食事をしているリーエンは意外と肝が座った少女なのだ。

 食事が一段落すると、表情が声程に語っているリーエンにシュナイゼルが苦笑する。

 

「随分とここの料理を気に入ってくれたみたいだね」

 

「は、はい! とても美味しかったです!」

 

 緊張をしながらもそう返すリーエン。

 食後の飲み物が出されるとシュナイゼルから話題を振りだした。

 

「秘書の試験、合格おめでとう。カノンも随分驚いていたよ」

 

「はい。その節はカノンさんには大変お世話に……」

 

 ルルーシュ率いるブリタニアとの戦争後、秘書試験を受けると決めたリーエン。

 しかし、そのハードルは高かった。

 何せ、彼女の最終学歴はアッシュフォード学園中等部の中退。

 在学中も飛び抜けて成績良かったという事もなく、要するに基礎学力が決定的に足りていないのだ。

 せめて紅月カレンのように学園に再入学してはどうかという声もあったが、本人がそれを固辞し、カノンを家庭教師にして勉強していた。

 本人の努力とやる気が高かった事もあって、着実に学力を伸ばし、勉強を見ていたカノンも3回試験を受ければたぶん合格するだろうと思っていた。

 それが蓋を開ければ試験の1発合格。これにはカノンを始め周りは元より、親友であるナナリーも目を丸くしていた。

 それくらいあり得ないと周りは思っていたのだ。

 

「カノンも驚いていたよ。リーエンが何か不正を働いたんじゃないかと疑う程に。私としては、カノンのあの表情を見られただけでも楽しかったがね」

 

「は、はぁ……」

 

「ともかく、これからも世界人道支援機関(WHA)の名誉顧問として活動するナナリーの側で支えてあげて欲しい」

 

「それはもちろん。えぇ、はい」

 

 ナナリーは政治以外の道で復興を助けられるようにと黒の騎士団をバックにWHAの名誉顧問として働くと決めた。

 リーエンが秘書資格を得ようとしたのもその為である。

 

(前みたいなメイドじゃあ、出来ることも少ないしね)

 

 光を取り戻したナナリーは以前よりも出来ることが増え、リーエンの手助けも少なくなっていた。

 ならばリーエンも出来ることを増やさねばと秘書試験を受けたのだ。

 それだけでなく、咲世子からは家事と護身術と変装術。カレンとジノからはKMFの操縦を習っていて、何を目指しているのか本人もよく分からない状態だ。

 そこでシュナイゼルが口を付けたグラスを置き、今回の本題に入った。

 

「ところでリーエン。君は、私と婚約する気はないかな? もちろん今のまま仕事を続けてくれて構わないよ。その方が私も助かるからね」

 

 その提案に口付けていたノンアルコールのワインを吹いてシュナイゼルに吹きかけなかった自分を褒めたい気分だった。

 驚いて噎せたリーエンはグラスを置いて質問した。

 

「な、何故わたしを? シュナイゼル様なら選り取り────あ、いえ、引く手数多では?」

 

 やや品の無い言い回しを変えるリーエンの様子を気にせず、シュナイゼルはうん、と間を置いた後に説明を始めた。

 

「皇族制が廃止されたとはいえ、元ブリタニア皇族の血を残そうという意見は意外と多くてね。だが、皇族の血を残しているのは私を含めて少ない」

 

 あの戦争で大半の皇族はルルーシュのギアスにかかり、シュナイゼルが用意したフレイヤで死亡している。

 今では指を折って数えられる人数にまで減ってしまった。

 尤も、遠縁や隠し子なども調べればもう少し生き残っているかもしれないが。

 何よりも悪逆皇帝ルルーシュに最後まで抗ったシュナイゼルに子を残して欲しいと考える者はそれなりの数がいる。

 

「だが私は立場上黒の騎士団、と言うよりも、ゼロに仕えなければいけない。彼の正体を探ろうとする者が何処から現れるかも分からない。その点、現在ゼロの身の回りの世話をしているリーエンはその心配もない」

 

 ルルーシュによってゼロに仕えるギアスを使われているシュナイゼル。

 ゼロも人間である以上、全く素顔を晒さずに生きていく事は不可能だ。

 何せ今のゼロは素顔で外を歩くことも出来ないのだから。

 故に今はゼロの身の回りの世話の殆どをリーエンが請け負っている。

 まぁ要するに、妻を娶る条件にリーエンが1番都合が良かったという話だ

 もちろん他にも候補者は居るのだろうが。

 

「どうだろう? 私も必要以上に君を縛るつもりはない。これまで通り過ごしてくれれば良い。悪い話ではないと思うけどね」

 

 婚約の話だと言うのに、甘い雰囲気は全く無い。これではまるで会社の契約である。

 シュナイゼルの提案にリーエンは────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仮面を取ったゼロ────枢木スザクの髪を整える為にリーエンはハサミと櫛を動かしながら話しかける。

 

「あたし、おかしいと思うのよさ」

 

「何がだい?」

 

 この散髪も2年前からリーエンの仕事の1つであり、月1で行っている。

 

「あの戦争からもう2年経過してるのよ? 黒の騎士団が結成されてから3年以上? とにかくそれくらい時間が流れてるのよさ」

 

「そう、だね……」

 

 リーエンの言葉にスザクは頷く。

 黒の騎士団の結成からこれまで色んな事があった。

 きっと幸せな事よりも辛く苦しい事の方が多かったと思う。

 しかし、おかしな事とはいったい……。

 

「何かあったのかな?」

 

「えぇ。ズバリよ。皆さん、見た目が変わらなさ過ぎなのよさ!」

 

「は?」

 

 リーエンの台詞にスザクは訳が分からないと呆けた返事を返した。

 

「いえほらね? 本編から数年後の劇場版って言ったら何人かはこいつ誰だよって感じにキャラデザが変更されるのが普通だと思うのよ? なのに皆、髪型どころか身長や体型が全然変わらないとかどういう事? ナナリーちゃんも成長期なのに在学中から全然体型とか変わってないでしょ?」

 

「いや、どうだろう……」

 

「特に天子様。今は15歳くらいの筈なのに、実は10歳で小等部に通ってるって言われても信じ────」

 

「うん、本当に止めようか。その話題に触れるのは」

 

 これ以上はいけないとスザクがストップをかけた。あまり下手な事を言うと天子に忠誠を誓っていて病に倒れたある男が墓から蘇って襲いかかりそうだ

 一息吐いてからリーエンは続ける。

 

「私なんて秘書試験を受かった記念に髪をバッサリ切って、目も悪くないのに伊達眼鏡まで購入したんだけど?」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 少し前までのリーエンはミレイと同じくらいの髪の長さだったが、今では四聖剣の千葉と同じくらいの長さに切られている。

 話終えたリーエンに対してスザクは難しい表情で質問した。

 

「ところでリーエン。君とシュナイゼルが、その……」

 

「婚約の事? お受けしたのよ」

 

 やや歯切れの悪い質問にリーエンはあっさりと答える。

 どうして、と問う前にリーエンは話を続ける。

 

「だって日本で言う玉の輿。それにシュナイゼル様は容姿も綺麗だし、婚約を持ちかけられて断る女の子はそうはいないと思うのよさ」

 

「しかし!」

 

 声を荒らげるスザク。

 ギアスによってゼロに仕えるシュナイゼルはもしもゼロか妻かと天秤にかける事態になった時は、間違いなく妻を切り捨てる。

 そしてゼロとはスザクであり、妻とはリーエンの事なのだ。

 それに対して分かってると言わんばかりに声色を真面目な物にする。

 

「それも含めて、あたしが選ばれた理由でしょうけど。うん、でもね、スザクさんもナナリーちゃんも、いい加減焦れったいから」

 

 散髪が終わり、箒で切った髪を集め始める。

 

「いつか、皆がナイトオブゼロの枢木スザクなんて人の事がどうでも良くなって、スザクさんが仮面を外して町を歩けるようになる日がきっと来るよ。その時に今の考えのままだときっと大変なのよ?」

 

「そんな日は……」

 

 想像も出来ない。自分はゼロとして世界に全てを捧げる身だから。

 それが敵であり、親友だった男との────。

 顔を歪ませるスザクに何処から取り出したのか、バリカンを持ってリーエンが提案する。

 

「素顔で町を歩きたくなったらいつでも言って。スキンヘッドにしてちょっとお化粧でもすればバレないと思うからー!」

 

「……遠慮しておくよ」

 

 煙に巻くようなリーエンにスザクは肩を落として断る。

 ただその時の気分は少しだけ軽かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういう訳で、あたしシュナイゼル様と婚約したから、式ではスピーチよろしくね! ナナリーちゃん!」

 

「へ?」

 

 もしかしたらリーエンが秘書試験に受かったと知った時よりも目を丸くしているかもしれないナナリー。

 数秒かけて意味を咀嚼したナナリーは確認する為に質問する。

 

「え? えぇ……本当にシュナイゼルお兄様と?」

 

「うん。昨日プロポーズされたのよ。とうとうあたしにもモテ期がやって来たのよさ!」

 

 シュナイゼル()のプロポーズが全然想像出来ずに戸惑うナナリー。

 そんなナナリーの手を握ってリーエンは笑顔で。しかし眼だけは真剣に問う。

 

「ナナリーちゃん。ナナリーちゃんは今、幸せ?」

 

「しあわ、せ……?」

 

 リーエンの質問にナナリーは答える事が出来なかった。

 あの戦争で多くの人の命を奪った自分。

 なのに、今もこうして不自由なく生きている。

 ミレイなどの世話になった人達も変わらずに接してくれる。

 ずっと寄り添ってくれた親友も居る。

 だからナナリー・ヴィ・ブリタニアは幸せだ。

 そうでなくてはいけない。

 だからリーエンの質問に笑顔で幸せだと答えないと。

 なのに、その言葉がでなくて。

 ナナリーの反応にリーエンは仕方ないなぁ、と笑う。

 

「ナナリーちゃんのそういう、罪を償おうとか、やってしまった事を忘れないでいようって気持ちは大切だと思うのよ。でもあたし達が今より年を取って、おばちゃんになって、おばあちゃんになっても、引き摺って幸せになろうとしないのはヤだなぁって思うのよさ」

 

 きっと、ナナリーに死んで欲しいとか、不幸になれと思う人間は居るだろう。

 ルルーシュの妹であり、彼女の自身が犯した罪は生涯消えることはない。

 ナナリーが罪に苛まれて上手く眠れない日々が続いているのも知っている。

 だけど、1個人として幸せになってはいけないという考えは違うと思う。

 

「正直、シュナイゼル様との婚約は本当に殻を作っただけって感じだけど、未来は違うかもしれないのよさ」

 

 自分にすら興味のないシュナイゼルも、もしかしたらこの婚約を期に未来では変わるかもしれない。

 それに触発されて、ナナリーにも良い影響を与えてくれるかもしれない。

 

「あの戦争で、何だかんだで生き残ったんだから、幸せにならないと嘘でしょ? だからね? ナナリーちゃん」

 

 これは祈りだ。

 今は罪悪感でがんじがらめになっている少女が、いつか自分の幸せを願えるくらいには解放されるようにと。

 そんな、ワガママでちっぽけな。

 

「幸せになって……」

 

 心からそう願ってリーエンはそう告げた。

 

「うん、ありがとう……リーエちゃん」

 

 だけど、そんな言葉1つで払拭させるのなら苦労はしない。

 ナナリーの1番の罪悪感の根源。

 それを祓える人は、もうこの世には居ないのだから。

 

(あー。やっぱりあたし、ルルーシュ先輩のこと嫌いなのよさ)

 

 やる事だけやって、後始末を丸投げして退場した親友の兄に向けて、リーエンは心の中で愚痴を溢した。

 

 

 

 

 




取り敢えず、シュナイゼルとの婚約理由だけ書けば良いかな、と。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。