やはり俺のマブラヴオルタネイティヴはまちがっている。 作:でーむに
[1999年8月7日 09:11 横浜ハイヴ ENE 31km地点]
なんとか逃げ切れた、のだろう。黒い球体が追いかけてくることはなくなった。正確に言えば『横浜ハイヴを中心に大きくなっていった』というのが正しいだろう。それも止まると、球体は消え失せる。それと同時に爆風の巻き返しというよりも、球体のあった場所へと空気が大移動した。暴風が横浜ハイヴ跡地へと吸い込まれていき、そこには大きなクレーターを形成するだけだった。
「……何だ、アレ」
『新型爆弾、といったところだろう。何にせよ、米軍が直前に通告していた奴がコレか』
「そうみたいです」
『比企谷の声がなかったら、私もあの黒い球体の中にいたかもしれないな』
「かもしれません」
『とは言ったものの、CPは応答しない。HQからの指示も出ない。戦域データリンクには、後退した感のいい戦術機甲部隊が映っているな。帝国、斯衛、国連、皆呆然としている』
データリンク上に部隊IDが表示されている。確かに帝国軍、斯衛軍、国連軍のIDばかりだ。米軍もこの作戦に参加していた筈だが、どうしてその影もないのだろうか。もしかすると、考えたくはないが、先程の爆弾は米軍内でのみ投下が作戦開始前に通告されていたのだろうか。
しかし、こうして呆けていてもどうしようもない。一先ず動く必要がある。
「大尉、どうしますか?」
『そうだな。……一先ず、生存者を探そう。その前に補給をしなくてはな』
なんとかCPに繋げて、補給を受ける手配を整えた俺たちは、早々と補給を済ませていた。簡易的だが整備も行い、推進剤も満タンになっている。だが、武装は満足に補充されなかった。日本帝国軍で使っている92式多目的追加装甲は余っているということなので、平塚大尉はそれを受け取っていた。俺も突撃砲を補給することもなく、弾薬と推進剤の補給を済ませた。F-15Cを乗っているとはいえ、本来ならば
[1997年8月7日 09:02 横浜ハイヴ NE 34km地点]
通信をオープンにしながら戦域を彷徨う。動かなくなった肉塊を流し見、擱座した戦術機を見つけては確認する。もうひと目見れば、その衛士がどうなっているのかも分かるというのに。30機は見送った頃、生存者を発見した。
『う、うぅ……』
「平塚大尉!!」
『あぁ、分かっている。こちら国連軍第26戦術機甲中隊、シェルブリット1。擱座している国連軍の
発信源を探しながら呼び掛けを続ける。そして、見つけた。突撃級の甲羅に凭れ掛かり、要撃級の前腕衝角が右肩部装甲ブロックにめり込んでいる94式戦術歩行戦闘機 不知火を。もう両腕も吹き飛び、腰から下も無くなっている観るも無残な不知火から声が聞こえてくるのだ。
『こ、国連軍 デリング、中隊……イリーナ、ピアティフ……』
「聞こえている。クソッ、邪魔だ」
要撃級に死体を蹴り飛ばし、管制ユニット前の胸部装甲を引き剥がした。その後、強化装備付属の
『シェルブレット1、フォローする』
「お願いします」
擱座した国連軍カラーの不知火に眉を潜めつつ、搭乗する衛士が外国人姓名を名乗っていることを不審に思いながらもユニット内部を覗き込んだ。
「……っ」
酷い状態だ。要撃級の攻撃と突撃級の甲羅に押し付けられた影響で、機体フレームが歪んだのは見て取れた。しかし、中はもっと状況が悪かった。中の衛士、イリーナ・ピアティフは重傷だ。一刻も早く治療しなければ不味い。日本人にはない白い肌が真っ青になっており、綺麗なブロンドヘアも脂汗で額と首筋に張り付いている。
管制ユニット内にある気密装甲兜を被せると、すぐに担ぎ出し、自分の機体に収容。すぐに平塚大尉に状況説明を行い、後続で来ていた生存者調査班と入れ替わりで後方へと下がったのだ。向かう先は、先程補給を受けた場所を目指すかと思われた。しかし、平塚大尉は別の場所を選んだのだ。
『彼処は不味い。付いてこい』
「ですが」
『つべこべ言うな』
そう冷静に諭されてしまい、俺は平塚大尉の後ろを追っかける。そして、降り立ったのは他よりも規模が小さい国連軍の仮設支援区画だった。十分に広さはあるが、それでも小さく見える。そして、87式自走整備支援担架の近くには国連軍カラーの不知火が並んでいた。
近くにいた不知火から通信が入るが、何処かおかしい。
『そこの陽炎。ここでは整備は受けられないぞ』
何故だ。IDの表示もおかしい上、バストアップ映像も『SOUND ONLY』となっている。管制ユニットのモニタが死んでいるのだろうか。
『こちら国連軍第28戦術機甲中隊、平塚大尉だ。貴部隊の衛士を拾ったのだが、負傷している。そちらで収容してもらえないか?』
『何?』
声は女性。しかしどうやら日本人のようだ。何処か徹底した情報隠蔽をしているように見える。機体の足元を歩き回る整備兵やその他制服を着た士官らも、見慣れた国連軍兵士とは様子が違って見えたからだ。
『比企谷、名前は聞いているか?』
「は、はい。国連軍デリング中隊のイリーナ・ピアティフさんです」
『状況は?』
SOUND ONLYの衛士から質問が来た。
「横浜ハイヴ 北東34km地点。突撃級に凭れ掛かった国連軍カラーの不知火を発見。大破していたものの、こちらの呼び掛けに応じたため救助しました」
『そうか、ありがとう。我が連隊の衛士を救ってくれて。管制ユニットを開き、医療班に引き渡してくれ』
「了解」
イリーナ・ピアティフを運び出した医療班を見送ると、平塚大尉から通信が入る。
『シェルブリット1よりシェルブリット10。先程司令部から連絡が入った。横浜ハイヴ残存BETAの敗走を確認。西へ向けて移動中。恐らく佐渡島か鉄原に向かうだろうとのことだ。それに伴い、戦域での負傷者探索が開始している。我々は司令部に出頭だ』
「シェルブリット10了解」
仮設支援区画から離脱すると、先を移動する平塚大尉に質問をした。
「平塚大尉」
『なんだ?』
「先ほど負傷者を降ろした仮設支援区画、何故彼処に降ろしたんですか? 確かに、あそこの部隊の衛士だったからというのは分かりますが、わざわざ近くにあったところを通り越してまで」
『比企谷は疑問に思わなかったのか?』
「……」
『国連軍の正面装備は例外は存在するものの米軍基準だ。しかしどうだ、あの部隊は日本帝国軍の不知火が配備されている。あの仮設支援区画で何機見た? 私は三個中隊分見たぞ。それに、あの負傷兵。イリーナ・ピアティフを発見するまでの道中、国連軍カラーの不知火は何機も大破していた。国連軍で現地軍装備のところなんて見たことがない』
「確かに、あれだけ帝国軍の第3世代機を揃えているというのもおかしな話です。それに、俺はあの負傷兵を担ぎ出したから分かりますが、彼女が使っていた強化装備も日本帝国の物でした」
『もしかしたらアレは……』
平塚大尉は何かに気が付いたようだったが、俺に話すことはなかった。
そのまま司令部まで移動した俺たちは、その場で臨時で再編成を行い休憩に入るのだった。
[1999年8月9日 10:42 横浜ハイヴF層]
俺たちは司令部で変則一個小隊に再編された。部隊はそのまま指揮官である平塚大尉が指揮を執り、コールサインも切り替わった。臨時ではあるが、他の残存部隊との合流である。同機種での再編が行われたが、俺たちのような全滅と言っていい被害で残っていた戦術機甲部隊は多かったようだった。そもそも国連軍自体も戦術機がF-15Cを運用していることが多いこともある。
しかし、そんな臨時編成小隊にこのような任務を与えるのもおかしな話だと平塚大尉が出撃前にごちていた。
『い、いやー、すごいねー!!』
「ゴースト2よりゴースト3、うるせぇぞ」
『むー!! いいじゃん別に!! でも、本当に凄い』
変則小隊を組まされたことによって、俺たちシェルブリット中隊は解体。そのまま新設小隊へと切り替わった。それに伴いコールサインも変わったんだが、何というか腑に落ちない。司令部で聞いた平塚大尉は、戻って来るなり俺の顔を見て吹き出していたからな。『ご、ゴースト……ゴースト、ぷふっ……い、いや何でもない』とか言っていたから、危うく教官時代に訓練生たちで付けたあだ名である『チャンバラ行き遅れ鬼軍曹』と言いそうになった。チャンバラは、いつも木刀を持って訓練をしていたから。それを振り回しながら訓練していたものだから怖かったのだ。そして行き遅れ。これに関してはノーコメント。鬼軍曹は定番だ。もし言っていたら、確実に生身でBETAの目前に放り出される。
そんな俺たちは木更津基地所属は変わらないものの、第26戦術機甲中隊が解体。そのまま引き継ぎが行われ、第44戦術機甲小隊になったのだ。これまた部隊名に付けられた数字もおかしかったらしく、平塚大尉がいい加減笑い止まらなかったので放置して、再編成で合流する衛士を迎えに行ったのだ。
その合流する衛士というのが、また懐かしい奴だった。
由比ヶ浜 結衣。国連軍木更津基地訓練学校同期。あの大隊で共に生き延びた戦友。
あの大隊で生き延びた由比ヶ浜は帰還後、そのまま再編成中であったためにすぐに行き先が決まった。数日間だけ木更津にいたが、早々と配属先へ行ってしまったのだ。その時、何処に行くとか何処の部隊とかは聞くことが出来なかったので、どうなったのかも全く分からなかった。しかし、こうして再会出来たということは、極東国連軍だったのだろう。本人も『国連軍って言う割には日本人多いよねー』とかアホなこと言っていたからな。
『ゴースト1よりゴースト3。凄いことは同意するが、私たちは変則小隊。3機行動であることと忘れるな。誰か1人でもやられてしまえば、地上に戻れないと思え』
『ゴースト3よりゴースト1。分かってますよ、平塚教官。でも、他にもこうやって潜っている部隊がいるのなら、拾って貰えばいいのでは?』
『何を言っておるのだ君は……。確かにこうして横浜ハイヴに潜った部隊は帝国軍・米軍・国連軍合計して連隊規模。しかし、突入した
『そういえばそうですね』
呑気なことを言いながらも、周りを見ているのが由比ヶ浜という奴だ。アホだアホだと思っているが、そういったところでは信頼している。訓練生の頃からそうだったので、恐らく実戦部隊でかなりの経験をしているだろう。手先も器用だったことから、それらも生かして活躍していたかもしれない。
俺たちの小隊は後続の戦術機甲中隊から先行している。合流しないのはそういう理由があるからかもしれない。もしくは、たまたま担当になった門から続く
「ゴースト2より小隊、前方に戦術機を発見」
ハイヴに入ってから何度か見かけることがあった。国連軍カラーのF-15Cばかりだったことから、恐らく国連宇宙総軍軌道降下兵団だ。入り口付近には別の機体も転がっていたこともあったが、今見つけた機体は今までとは違う。
『不知火? それにカラーリングが全然違うよ』
『ゴースト1よりゴースト2。こいつは』
「はい。例の不知火ですね」
周囲警戒を俺が行い、平塚大尉が確認をする。残骸を直視はしないが、声を聞きながら状況を整理していた。
ハイヴ内でも国連軍の不知火を目撃することになるとは、思いもしなかった。由比ヶ浜は即座に不知火だと見抜いていたが、俺が発見した残骸は前腕部だ。観察しなければ分からないモノを、瞬時に判断した由比ヶ浜は不思議がる。
『どーして国連が不知火を? 私たちだってF-15C、長刀の使えない
「知らない。だが、地上でも残骸は見かけたし、衛士を救助したぞ」
『ほんとう? やっぱり日本人なのかな?』
「いいや、東欧人だ。名前もカタカナだったしな」
平塚大尉と話していて纏まった考えだが、届けに行った先での出来事を考えれば、恐らく機密部隊であるのは確かだ。どういった理由で国連軍カラーの不知火に搭乗しているか分からないが、現実問題、それが存在しているし事象は発生したのだ。ならば、そう考えるのが妥当だろうということ。それに、平塚大尉の予測ではあるのだが、その機密部隊から俺たちにコンタクトがあるかもしれないという。何せ負傷した衛士を救助して、直接届けに行ったのだから。
機密部隊であると考えられる以上、あまり関わりのない由比ヶ浜には詮索してしまったことを伝えるべきではないだろう。
『ゴースト1より各員。提示連絡を行う。それに、ずっとレコーダが動いているぞ』
「ゴースト2了解」
『ゴースト3了解。斥候に出されるのはいいけど、いや良くないけど、味方が3機ってのも心細いよ~』
レコーダが動いている、と平塚大尉が言ったのにどうして由比ヶ浜はそういうことをオープン通信でそういうことを言うのだろうか。
静かになるのを確認した平塚大尉が、後続の戦術機甲中隊に連絡を付け始める。
『ゴースト1よりアルファ1。提示連絡だ。我々は問題なく前進を続けている。現在地点、F層……』
『アルファリーダーよりゴーストリーダー。後ろから
『ゴースト1よりアルファ1。了解した。デルタ中隊と我々の間には分岐路も
『ありがとよ』
平塚大尉の命令で、前進が一度停止する。後方で戦闘をしているようで、突撃砲の銃撃音が聞こえてくる。数秒も掛からない内にそれは止まり、再び通信が入った。
『アルファリーダーよりゴーストリーダー。もう片付けた。CPへの連絡もしている。それと、後方から有線通信と兵站が追いついてきているようだ』
『ゴースト1了解』
異常がないまま進んでいき、やがて突入した各部隊と反応炉で落ち合うと思っていたのだが、おかしな通信が入った。
『CPよりゴースト1。ブラボー中隊が謎の広間を発見。G弾の影響と思われる損害はくまなく探してもらいたい』
『ゴースト1了解。ったく、アレが落ちてくる前のを私たちは知らないのだぞ。よく言う』
"G弾"。あの米軍からの退避勧告後に横浜ハイヴ直上で爆発した黒い球体の名前だそうだ。よく分からないが、米軍の新型爆弾らしい。今回の横浜ハイヴ突入は反応炉到達・確保の他にG弾による影響の調査も含まれていた。平塚大尉がごちたように、俺たちはG弾影響以前のハイヴ内の状況を知らない。影響を受けた損壊だなんて言われても、俺たちでは判断しかねるのだ。
「大尉、レコーダが回ってるって自分で言ってましたよね?」
『あぁ、そうだったな』
この後、俺たちは接敵することもなく反応炉に到達した。その場に残っていた残存BETAを掃討した後、地上へと戻ることとなったのだ。結局、CPからの連絡であったような『謎の広間』というのがどういうものだったのかは分からないが、俺たちの担当したところでは発見されることはなかった。しかし、俺の中で謎は残されたままだった。戦場で見つけた国連軍カラーの不知火。ハイヴの中でもそれは同様に発見された。国連に渡るはずのない帝国軍最新鋭戦術機が、何故存在していたのかということ。俺は明確な解答を得られないまま、作戦終了の報告を受けたのだった。