やはり俺のマブラヴオルタネイティヴはまちがっている。 作:でーむに
[1999年8月13日 15:22 国連軍木更津基地]
3日間程、制圧が完了した横浜ハイヴを、残存攻略部隊で持ち回り警備をしていた。
特にすることもなかったが、考え事をするには丁度いい時間だったのかもしれない。
俺が参加した横浜ハイヴ攻略作戦、明星作戦で思ったことだ。いつもと変わらない死と隣り合わせの任務であったことに間違いはないが、横浜ハイヴ攻略は日本帝国の悲願でもあり、まだ徴兵年齢を満たしていない小町の住んでいる千葉を出来るだけ戦場から遠ざけることは、俺としても願ってもない作戦だった。
木更津の国連軍部隊は即応部隊と一部の部隊を残して、そのほとんどが出撃した。知っている顔ぶれの部隊は特になかったが、PXで見かけたことのある奴も同じ戦場に立っていたのだ。
与えられた任務を熟しながら、生き残ることをだけを考えて戦っていた。しかし、深く考えざるを得ない事象が発生したのだ。そう。俺を目標にした支援砲撃の最中、気を失った時に見た記憶のことだ。自分に都合のいいものだったのかもしれない、そんなことを考えたりもした。何故なら、あの極秘計画が本当に存在するのであれば、人類は救われるかもしれない。あの白衣を着た国連軍佐官曰く、記憶の持ち主のおかけで、人類に残された時間を延長することが出来たのだ。その与えられた時間の間に、人類が反撃の一歩を作り出すことが出来たのならば或いは、と。
しかし現実味があるようでない話ではあった。BETAの居ない世界なんて考えられない。そして、時間を何度巻き戻しているという状況。並行世界毎に因果が、記憶の持ち主を因子を集めて再構成しているとか言っていたが、よく分からない言葉が多かった。それに、全ては『インガリツリョウシ論』という理論の上に成り立っていることであると仮定していたので、その理論に対する俺の理解が深くないことからも、解釈しようとしたところで無駄であることは明白だった。
ここまで考えた俺は、ふと思い出した。気を失っていた時に見た記憶のことを平塚大尉に話した時、俺の話に引っ掛かりがあり、その引っ掛かりが大尉の友人の論文で見たことと関係がある、ということを。
確かその時、平塚大尉が言っていた友人の名前は……
「香月 夕呼、だったか?」
「比企谷、どうした?」
「あ、いえ……。というか平塚大尉、こう毎回出撃前に遺書を書いては捨てるって面倒ですね」
「私は何回かは使いまわしているぞ。と、違う違う。さっき呟いていた『香月』がどうかしたか?」
「俺が支援砲撃の最中で見た記憶について話したじゃないですか? それを聞いた平塚大尉が引っ掛かりがある、とか言ってその人物の名前を出したんですよ?」
「……そうだったな。香月、か。懐かしい名前だな」
俺がベッドに寝転がっていた私室に上がり込み、椅子に腰掛けた平塚大尉が脚を組んで話し出す。
「アイツは気難しい奴で、よく神宮司を引き摺り回していたな。あ、ちなみに神宮司というのは、私と同級生かつ同期の軍人で腐れ縁だ」
「平塚大尉、腐れ縁多いっすね」
「君もその1人だよ。高校に通っていた頃、香月が書いた論文を読んだことがある、って話したと思う」
「はい」
「それは多次元世界やら並行世界やらに関する論文だ。世界は繋がっていて、因果が~っていうな。いやなに、私には何が書いてあるのかさっぱりだったよ。神宮司も読んでいたが、アイツは頭から湯気出していたな」
平塚大尉の話から、香月という人物が天才で優秀な人物であったことと、神宮司という人物が後に軍人になったということが分かる。
「その論文の考えられる仮説の項目に、比企谷が言ったようなことについて書かれている項があったんだよ。たまたま思い出しただけではあるのだが」
「どこについてでしょうか?」
「"何度も時間を遡る"だ。いや、未来の記憶やらBETAの存在しない世界というところからも、香月の論文に引っ掛かった理由の1つでもあるんだがな」
駄目だ。分かららない。
「ただ、神宮司から聞いた話ではあるんだが、その香月は帝国大学量子物理学研究をしていた筈なんだが、気付いたら国連軍の大佐技術相当官という地位にいたというのだ」
「はぁ?」
「どいういう理由で国連軍の技術士官になっているのかは分からないが、子飼いの部隊もいるという」
「ますます分からないですね」
ベッドから起き上がり、腰を掛けて話を聞いていると、平塚大尉が急に立ち上がる。
「おっと、忘れていた。比企谷、これから私と共にブリーフィングルームに集合だ」
「了解」
[1999年8月13 15:29 木更津基地]
ブリーフィングルームに来たが、どうやら俺と平塚大尉しかいないようだ。というか、部隊内でのミーティングなら由比ヶ浜も呼ばれている筈なんだが、一向に来る気配がない。
そうこうしていると扉が開き、白衣を着た国連軍士官と付添と思われる衛士が2人だけ入ってきた。
「あら静じゃない、久しぶり~」
「あぁ、久しぶりだな……って、香月と神宮司か?!」
『香月』。それはさっき平塚大尉が言っていた『香月』のことだろうか?
「あ、あらしず、んんっ、平塚大尉」
「神宮司軍曹」
「申し訳ありません。伊隅大尉」
何だ、この空気は。俺の現在最大級の考え事に登場する人物勢揃いしているではないか。伊隅大尉、に関してはよく分からないが、何処か聞き覚えのある声だ。
「はいはい、同窓会しに来た訳じゃないんだから。それで?」
白衣の国連軍士官、恐らく『香月』に視線を向けられる。凄まじい眼力で俺の目を見た後、頭の先からつま先まで見ると、再び俺の目を捉える。
「目が死んでるわ。まるで死んだ魚のようね」
「合成食品必要なさそうっすね。というか魚じゃねぇし」
「死んでいることは否定しないのね」
その質問に答えることはせず、取り敢えず自己紹介をする。
「極東国連軍第11軍 木更津基地 第44戦術機甲小隊 比企谷 八幡少尉です」
「そ。私は香月 夕呼よ」
それに続けて、伊隅 みちる大尉と神宮司 まりも軍曹を紹介される。
「それで香月……大佐相当官。わざわざお越し頂いてまでする話とは?」
「やめてよね、そのかたっ苦しいの。いつも通りでいいわよ、静。要件があるから来てるんじゃない」
「はぁ……」
「要件は2つ。1つはG弾による攻撃の後、アンタらが運んだ死に絶えの衛士。所属と名前を忘れなさい、って言いたいところだけど無理な話よね。もう1つは、アンタたちの機体に搭載されたレコーダ記録」
コツコツとヒールの音を立てながら俺に近づいてくる香月大佐相当官。おもむろに懐から拳銃を抜き出し、俺の額に突きつける。
「比企谷、とか言ったわね? アンタにはスパイ容疑が掛けられているわ」
「は?」
「レコーダに残されたアンタの言葉、アレが問題だったのよね。それで、どういった理由で明星作戦に参加したの?」
いきなり突きつけられた銃口に驚きながらも、周囲を見ると誰も動き出そうとはしていない。平塚大尉も『香月、お前』とか言っていたが、それ以上何も言わなかったのだ。それに、香月大佐相当官の言っている意味が分からない。
「極東国連軍の命令で明星作戦に」
「他に別の組織から受けていた任務があったのでは?」
「無いです。というか、別の組織って」
そう言いかけた刹那、平塚大尉が割って入った。
「ま、まてまて。コイツは私の中隊所属の衛士だ。なんなら訓練生の頃から知っている教え子でもある。別の組織もなにも、私の部隊に所属し、今回の作戦に参加せよという国連軍からの命令ではないのか?」
「そうは言うけどねぇ、一階の国連軍人が知らないことをコイツは口走っていたのよ。それを聞いたとなれば、スパイと考えるのが妥当だと思うのだけれど?」
「比企谷が言った言葉? 確かにコイツは時よりよく分からんことを口にするが、基本的なコミュニケーションを取ることは可能だ」
「そういう意味じゃないのよねぇ。比企谷、こんな言葉知ってる?」
そう言い、香月大佐相当官が目を細めて言い放った。
「"グレイ"」
「っ?!」
「ふぅん。なら決まりね。アンタ、何処で知ったの? と言っても、それもこれも全てレコーダで記録しているから知っているんだけどね」
「……な、なら俺に聞く必要ないっすよね?」
「まぁ、一応ね。んで、命令。アンタはその身の丈に合わない機密を知ってしまった」
機密。あの記憶が機密だと言うのだろうか。もしくは、記憶自体ではなく、含まれていた内容の一部が機密ということだろう。その機密を知ってしまった、ということはどうなるのだろうか。香月大佐相当官が連れてきた衛士、義務ではあるが武装はしたままのようだ。この場で射殺、ということもあり得るのだろう。平塚大尉も『機密』という単語が出てきた瞬間、何か悟ったような表情をしていた。ともなれば、俺も平塚大尉も同じ立場ということか。否。俺が平塚大尉を巻き込んだ、という方が正しいのかもしれない。
ともあれ、覚悟をするべきなのかもしれない。BETAとの戦いの中で死ぬことは覚悟している。何度か死にかけたこともある。だが、同じヒトから殺されるというのはどういうものなのだろうか。
「あら、理由を聞くとかしないのね。知る必要のない機密を知った人間がどうなるかなんて、想像すれば幾らでも出てくるでしょうに。最も、最期は同じだけど」
「えぇ。……ただ」
「……」
「いや、なんでもありません。それで、銃殺ですかね? チャッチャとやってくださいよ。後ろの伊隅大尉と神宮司軍曹は武装しているみたいですし、貴女にはできなさそうですからね」
諦め、とは違うが従うべきだろう。それに俺は、無関係な平塚大尉を巻き込んでしまった。せめて、平塚大尉は無罪放免にして貰えないだろうか、と考えた。しかし、無理だろう。数言交わしただけでも香月大佐相当官の性格は何となく分かった気がする。冷酷であり自身の立脚点を明確に持ち、自身の立場を考えて行動している。その中で好きなように振る舞っているということも。
香月大佐相当官の表情がピクリと動いた。ずっと澄まし顔で全く表情を変えなかったが、俺の発言に反応したようだった。
「こ、香月、大佐相当官。コイツはこういう性格なんだ」
「知ってるわよ。来る前にデータベースで確認してきているから」
「だが銃殺は」
「しないわよ、そんなこと」
はい?
「だって面倒でしょ~? 機密を知ったから射殺しました、っていう報告するのも面倒だし。そもそもコイツは私とは組織的繋がりが遠いのよ」
「そうか……」
「それにもし射殺ってなったとしても、こんな回りくどいことはしないわよ。訓練中の事故死とかならパパっとやれるし後腐れないから」
香月大佐相当官はそう言い、俺の目を直視する。
「濁った目ね」
「よく言われます」
「はい、じゃあさっき言っていた命令」
俺は姿勢を正し、香月大佐相当官に向く。
「アンタら木更津基地 第44戦術機甲小隊は、
「はぁ……?」
「何よ静ぁ。アンタもよ」
「わ、私もか? というか小隊は」
「そう。
そう言った香月大佐相当官はチェシャ猫のように嗤い、伊隅大尉と神宮司軍曹を連れて出て行ってしまった。
この場に残された俺と平塚大尉は数秒後に再起動し、一先ず正式な命令を受理してからすぐに動けるように準備をすることにした。
そして正式な命令は16時に平塚大尉が呼出を受け、受理されると同時に、未明までに準備を整えることを命令されたのだった。
「うわーん!! 昨日荷解きしたばかりなのにーー!!」
と喚いている由比ヶ浜の声が聞こえたのはお約束である。