やはり俺のマブラヴオルタネイティヴはまちがっている。 作:でーむに
[1999年8月14日 07:05 国連軍仙台基地]
昨日、木更津基地に大嵐が訪れ、局所的な大雨……とか言っている場合ではないか。昨日の日付変更辺りに木更津基地を出発した俺たちは、たった一個小隊を運ぶために輸送機は出せないと言われてしまい、基地で借りたトラックに荷物を載せて向かった。無論、運転も自分たち。最初は平塚大尉が運転してくれていたが、途中で俺に交代。しかし、それ以降は運転手を交代することはなかった。後ろから俺たちの戦術機、
俺も寝たかったんだが、由比ヶ浜は荷詰めを終えると荷台で寝てしまった上、交代した平塚大尉も助手席で眠りコこけていたので起こすに起こせず、結局指定された国連軍仙台基地まで運転してしまったのだ。途中、後続の自立整備支援担架の運転手が交代の知らせを無線で入れてくれていたのだが
『先程の休憩の際、運転手を交代しました』
「了解」
『比企谷少尉?』
「なんだ?」
『えっと、交代は?』
「してない」
『ゆ、由比ヶ浜少尉は??』
「アホは寝てる」
『あ、あはは……。事故だけはしないでください』
「了解」
という会話があったことからも分かるように、その後の休憩の際に妙に優しくされた。何かコーヒーモドキを貰った。解せぬ。
仙台基地に到着すると、ゲート前で立哨に書類を提出し審査を受けた。後続の戦術機の調査も行い、運転を整備兵と交代し、俺たちは司令部に出頭するようにと言われた。すでに平塚大尉は起きていたが、まで眠っていた由比ヶ浜を叩き起こして司令部へと向かう。
※※※
司令部に向かったはいいが、結局俺たちが案内されたのはミーティングルーム。といっても、人払いがなされている場所のようで、人の気配がほとんどしない。通された部屋で大人しくしていると、部屋に香月大佐相当官と副官と思われる士官が入ってきた。体つきからして技術士官だろう。
「敬礼」
「これから私や私の直属兵がいるところではそれ、やめてよね」
つまらなさそうな表情をした香月大佐相当官は、すぐに切り替えて俺たちに資料を配るように技術士官に言う。技術士官は数枚で綴られた書類を俺たちに手渡し、部屋の隅へと移動してしまった。
「という訳で、そこの比企谷のせいで異動になってしまったアンタたちに説明。異動先は木更津では『私の直属兵』って伝えたけど、あっちでは言えないことばかりだったから、こっちで本説明するわ」
渡した資料を見ろとのことなので、表紙を捲って中身を見る。至って普通の資料かと思ってみたが、中身はそのような言葉で形容できないものだった。知らない言葉の羅列。それらの内容の全ては『オルタネイティヴ計画』という言葉に集約されてしまっているが、最後まで確認してみるものの、結局『計画』についてしか書かれていない。
「確認したわね。私が主導で進める『オルタネイティヴ4』、その直属部隊へ異動。この直属部隊には衛士適性の他にも要求してるモノがあるけど、これもアンタたちは合格しているから受け入れよ。ただ、比企谷は別件もあるからよろしく」
そう言って『配布した資料はこの部屋を出るまでに覚えてから、この場で燃やして捨てなさい』とのこと。
「早い話、異動になったのは比企谷が原因。普段は直属部隊の特設小隊として作戦活動に従事すること」
「ほぇ? ヒッキーが原因?」
「そうよ~何ガハマ。アンタは完全に巻き添えだから諦めなさい」
「由比ヶ浜です、香月……さん?」
「そう、由比ヶ浜。それで、ご丁寧に自分たちの戦術機を持ってきたみたいだけど、アンタたちの戦術機はこっちで用意しているから。所有権も私に移ったし、取り上げよ。私の部隊にF-15Cは必要ないわ」
となると、恐らく俺たちに配備される戦術機は不知火になるだろうな。平塚大尉もそのことは察しているみたいだが、由比ヶ浜は別みたいだ。
「じゃ、解散。すぐに読み、一度で覚えなさい。比企谷はさっさと読んで私について来なさい。待たされるのは嫌いよ。静は
妙な寒気がしたので、俺は早々に配られた資料を読んで燃やし、香月大佐相当官の後に付いて行く。
「あれ?? あたしはどうすれば??」
そしてミーティングルームにはアホが取り残された。結局平塚大尉について行き、戦術機の受取に立ち会ったみたいだ。
※※※
俺たちの行き着いた先は執務室。通過したセキュリティを見る限り、かなり高位の人間じゃないと入れないようなところだ。しかし、フロアの大部分が実験用になっている様であるにもかかわらず、人が極端に少ない。
書類や本が山積みになり、ところどころ崩れているところもある。デスク・チェアには白衣が放り出されており、PCも起動したまま放置しているのだろう。書類の壁を尻目に、座りなさいと促されたソファーに腰掛けると、正面に香月大佐相当官も座った。
「さて、アンタには聞きたいことがあるわ」
「……あのことですか?」
「そうよ。"記憶を見た"と言っていたわね? レコーダではそこまで詳細に言っていなかったみたいだけど、アンタは記憶の中で私のことも知っているわよね?」
「はい。ここのような部屋には頻繁に出入りしていた記憶です」
「そう。それで"オルタネイティヴ計画"については?」
「先ほど貰った資料と遜色ない情報量は。ですけど、配布資料には"オルタネイティヴ4"についての記述が薄かった」
「……記憶の中で覚えている範囲でいいわ。オルタネイティヴ4について、アンタは何を知っているの?」
「2001年12月24日までに目標を達成しないと、オルタネイティヴ5に移行すること」
「っ……続けなさい」
「オルタネイティヴ4の目標は"対BETA諜報員の育成"。そのために超能力を備える量子電導脳を持ったコンピュータ(?)を作ること」
「もういいわ」
「そうっすか」
香月大佐相当官は眉間にシワを寄せた。俺の話した内容は、恐らくかなり重要な話なのだろう。記憶の中でも、知っている人間は少ないとかなんとか言っていたのだ。
俺の話した内容を踏まえて、俺は伝えるべきか迷ったことがある。それは、今のままではその量子電導脳は作ることができない。制作に必要な理論が間違っているということだ。しかしこれは言っていいものなのかと考えてしまう。
理論が間違っていることを伝えた元々の記憶の持ち主は、彼女に掴みかかられて揺さぶられ気を失いかけていた。記憶の持ち主ならば、恐らく女性に対する耐性やコミュニケーション能力で耐えられることができただろうが、生憎俺は異性耐性もコミュニケーション能力もない。俺ならば確実に気を失う。
「記憶について思い出せるだけ思い出しておきなさい。これは命令よ」
「うす」
「やる気のない返事ね。……まぁいいわ。退室なさい」
「了解しました」
俺は言われるがまま退室し、来た道を戻る。始めてきた基地ではあるが、あまり人と関わらないが故に、始めて入った施設の構造を初見で覚えるのは得意だ。もし道を忘れて通りすがりの人に聞こうものなら、相手がどのように思うのかは自明の理。わざわざ心を痛めるようなことをしたくはない。相互利益みたいなものだ。
といいつつ覚えた道をずんずんと歩き進めていくが、行きも思ったことを思い浮かべる。
誰ともすれ違わないのだ。人の気配が全く無い。……記憶を頼りに理由を考えるが、恐らく機密保持的なものがあるのだろう。もしくは、このフロアに立ち入れる関係者は多くない、ということだろう。
ミーティングルームのある階から降りてきたエレベータの前に付くと、ボタンを押してエレベータを呼出す。
すぐに到着したエレベータに乗り込み、乗ってきた階のボタンを押してミーティングルームへと戻った。
※※※
ミーティングルームには当然、平塚大尉も由比ヶ浜もいない。確か戦術機の受領をするとか言っていたのを思い出した俺は、F-15Cを収めたハンガーを目指す。
ハンガーには予想通り大尉と由比ヶ浜が来ていた。そして丁度、シェードが掛けられた戦術機が3機搬入されてくるのが見える。
2人に近づいた俺は、大尉の隣に立って戦術機を見上げた。
「香月大佐相当官が言っていた奴はこれですか?」
「ん? 話は終わったのか、比企谷。そうだ。こいつが新しい機体らしい」
そう言われて見上げていると、由比ヶ浜がぴょんぴょんと飛び跳ねる様に俺の目の前に立った。さながらおもちゃ売り場を目にした幼児が如く、目を輝かせて戦術機を指差す。
「聞いて聞いて!! あたしたちの機体がすごいのに変わったんだよっ!!」
「ほぉー」
「さっき平塚教官の手続きを横から覗き見してたんだけどさ、間違いない奴だよ!! ここのハンガーはあたしたちしか使わない、小さいところだし!!」
「へぇー」
「聞いて驚けっ! あたしたちの機体はねー、イーグルに変わって不知火になったんだよっ!! すごくない!? 国連軍なのにすごい!!」
「ふーん」
「どうしてだろー? ねー、ヒッキー?」
「……さぁ?」
「『さぁ?』って……。というか、あたしの話聞いてないでしょ?!」
「おう」
「あたしの話、聞いてよー!」
プリプリ怒る由比ヶ浜よりも、その背後でシェードが取られた戦術機の方に意識は集中していた。
俺たちがこの間まで乗っていたF-15Cとはカラーリングが変わりつつもUNブルー塗装をされた異色の戦術機。帝国軍でも最新鋭の戦術機が、目の前に三機並んだのだ。
それに続けてF-15Cが運び出されていく。
「あぁ……あたしの"サブレ"が……」
「は? サブレ? 何それ」
「あたしの"サブレ"! あたしのF-15C!」
「おいおい、お前、F-15Cにそんな愛称付けてたのか?」
「いいじゃん、可愛いでしょー?」
ちょっと、目の前で胸を張らないでくれませんかね。国連軍BDUは割と身体にピッタリフィットするデザインだから、そのたわわに実った果実がブルンと震えるんですが。
とか考えたがすぐに明後日の方向に投げ飛ばし、由比ヶ浜へのツッコミを続ける。ちなみに隣で大尉も頭を抱えている。『自分の戦術機に愛称付ける奴、始めて見たぞ……こいつが私の教え子なのか……』と。
「ノーコメント」
「むっかー!! いいじゃん!! あたしの機体は皆サブレなの!!」
「……そうかよ」
「うん。先代サブレなんて、管制ユニットにダックスフントの絵が書いてあるよ?」
「マジかよ……。お前それ怒られなかったのか?」
「怒られるに決まってんじゃん。だけど3回目から整備班長に怒られなくなった。これってつまりオッケーってことだよね?」
「オッケーなわけあるか……。呆れられたんだよ」
そんなバカ話をしている間に、不知火に加えて3機分搬入が始まっていた。もう俺たちの機体の搬入は終わっているのにどうしてだろうか。奥のハンガーに入れられた不知火よりも手前の3つのハンガーに、搬入された戦術機が拘束される。整備兵がシェードを取ると、そこには全く見慣れない戦術機がいた。
分からない俺に大尉が教えてくれる。
「あれは97式戦術高等練習機 吹雪。第1・第2世代機に登場していた衛士を第3世代機に機種転換する際に用いる第3世代練習機だ。練習機でありながら、主機と跳躍ユニットを実戦用に換装することで、実戦に耐えられるように作られている」
吹雪。不知火のために用意された練習機、ということだろうか。よく考えたら、俺たち全員が国連軍に所属しているということは、全員が第3世代機の搭乗経験がないということになる。つまりこれは……。
「香月め……気を利かせてくれたのか……」
「なるほど。さっさと機種転換して、実戦投入できるようになれってことですか」
「そういうことだろう。しかもご丁寧に日本帝国軍仕様のままだ。塗り替えもされていない。仙台基地の訓練部隊に紛れて訓練しろってことだろう」
面倒臭いなぁ、とか考えている俺の横で、由比ヶ浜はテンションが上りまくっていた。
訓練部隊にいた頃からだが、由比ヶ浜はどこか戦術機フリークなところがある。戦術機訓練に入った時も、人一倍目を輝かせながら喜々として訓練に励んていたからな。その少し動き辛そうなルックスとは裏腹に、むちゃくちゃ機敏で奇っ怪でアクロバットな動きをする。もはや当時の訓練機だったF-4が由比ヶ浜の動きに追いついていないんじゃないか、と教官たちに言われる程だった。
よくよく思い出したら、明星作戦中に合流してハイヴに潜った時も、部品を見ただけで戦術機がなんなのか当ててたな。
「嬢ちゃーん! 戦術機が好きなんかー?!」
「はーい! あたしのことを守ってくれる鎧ですからー!」
「べっぴんさんにそう言われたら嬉しいだろうなー! こいつら全部、状態のいい中古品だが、嬢ちゃんに乗ってもらえると上機嫌だろうさー!」
「わーい! ありがとうございまーす! 整備のおじさーん!」
あ、整備兵の皆さんの鼻の下が伸びた。うん。その気持ち、分かるぞ。しかし作業に集中してくれ。というか、由比ヶ浜が集中を乱しているのか。
「由比ヶ浜は昔からこうだったな」
「……そうっすね」
平塚大尉がそう呟く。あの時の大隊が結成された時も、こんな風にしていたのをよく覚えている。それが彼女なりの衛士としての振る舞い方なんだろう、というのは何となくだが分かっていた。
訓練兵だった当時、あまり馴染むのが得意じゃなかった俺を引っ張ってくれたあの頃から……。
「さて、戦術機の搬入も見届けたことだし移動しよう。午後からシミュレータルームを抑えてある。そこで吹雪を使ってみようじゃないか」
「「了解(はいっ!)」」
大尉の後に続いて、俺と由比ヶ浜はハンガーを後にする。午前中の余った時間は荷物整理と、やらなくてはならない事務作業が待っている。大尉ほど多くはないだろうが、早々に終わらせてダラダラしよう。そう心の中で考えながら、2人の背中を追った。
ちなみにこの後、事務作業が不得意な由比ヶ浜を手伝った後、大尉の所に顔を出そうと連れ出されて、結局ダラダラすることはできなかった。おのれ由比ヶ浜。