「シンジ君は私が責任を持って預かるわ!」
等と葛城ミサト(29)は供述しているが、実際はシンジがミサトの面倒を見ることになるのだ。大人は嘘つき、シンジは前回の経験から学んでいる。
「貴女、まさか……」
水着に白衣とか言うどこかのお店から飛び出して来たような格好の高学歴なんちゃって愛人女こと、リツコの言葉だ。
「僕はミサトさんにそう言っていただけると助かります。1人だと不安で……」
しゅん、とした顔を見せる演技派シンジ。
なんとこのクズは、第三使徒の命懸けのお仕置きを、いきなりATフィールドとかゆースパシン御用達の一発芸で無傷で切り抜けやがった。憎まれっ子世にはばかる、とは良く言ったものである。
(さっきからごちゃごちゃとうぜーな。変態マザコン女が)
口が悪いのは思春期男子中学生アルアルだ。生暖かく見守るべきである。
「……じゃあ、そういうことで。行くわよシンジ君」
「はい! これからよろしくお願いします!」
(早くヤり部屋に案内しろや)
天使のような表面とのこのギャップ。ギャップ愛好家の許容範囲はどこまでなのか。世界の深淵を覗きたいものだ。
「シンジ君。明日から起動実験や訓練があるからそのつもりでいてね」
最後にリツコがモルモットを逃がさまいと粘着力を発揮する。
(わかってるよ。どうせATフィールドがどうのとか訳分かんないことで、いちゃもんつけるんでしょ? 金髪にしてヤンキー気取りかよ)
金髪=ヤンキーではない。
(つーか、眉も細くするか、染めるかした方がいーんじゃないか?)
それに関しては同意する。
(さて、状況を整理しよう。綾波に記憶が有るか否かは未確認。僕以外ではそれらしき人物は今のところ居ないように思われる)
なんか始まったぞ。
(現時点で確定するのは危険だが、少なくとも現時点で前回と大きく変わった点はないことから、前回の記憶を元にここまでの流れを変える行動をとった人物は居ないと言うことだ)
急に真面目になってどうしたのだろうか。
(そして、それは記憶を継承してる人物が僕だけである可能性を否定しきれないということだ。そうなら、一番だが楽観はしないでおこう。次に綾波についてだが……)
綾波についてだが……。
(定期的に重症を負ってもらおう。あれはいいものだ)
お巡りさんこいつです。ちょっと真面目になったと思ったらすぐこれだ。全く油断ならない。
(おっと違う違う。綾波の状態についてだった)
お?
(前回の紅い海に混ざりあった時、断片的にだけど色んな情報が入ってきた。実際に経験したことも合わせて考えると、前回と同じなら、綾波は2人目。そして、母さんの遺伝子を継いでいることになる。……近親相姦)
そうくると思ったよ。
(近親相姦は別にいんだ穴があれば、大丈夫だ。問題ない)
血は争えない。クズの血を確実に受け継いでいる。
(問題は、今の綾波の精神状態だ。誰の言うことでも何でも聞く人形ならいいが、前回の経験から言うと……)
「シンジ君着いたわ。ここがあなたがこれから生活する家よ」
(とりあえずは気合いを入れて掃除しないといけないな)
「シンクロ率70%!」
リツコが驚愕を浮かべる。本来ならこんな高い数値は然るべき訓練をしない限り出ないのだ。
(うーん。もっと低くできないかなぁ。細かい調整出来ないんだよなぁ)
いくら2回目とは言えガチスパシン程の能力は無いようだ。本当に良かったと思う。
程々に手を抜きそれなりの成績で起動実験と戦闘シミュレーションを終えるシンジ。さとり世代やゆとり世代を先取りしているのだろうか。性癖まで先取りしないことを祈るばかりだ。
(さて、ここが綾波の病室か)
お見舞いに行くと言い場所を教えてもらったシンジは綾波の病室の前まで来ていた。三回ノック。
「入っていい?」
この男、いかにも気弱そうな声を出している。演技技術が飛躍的に向上してしまっている。
(返事はないけど、行くか。ラッキースケベカモン!)
だが、現実は非情である。綾波はベッドに座り読書をしている。相対性理論と背表紙に書かれた本だ。
「……誰?」
気だるげに綾波レイが誰何する。
(久々の綾波ボイスキタ━(゚∀゚)━!)
「僕は碇シンジ。初号機のパイロットをやることになったんだ。これからよろしくね」
前回とは比べ物にならない位の饒舌ッぷり。完全に陽キャである。
「なぜ?」
が、綾波は非情である。
(やっぱりそうなるよね。ここはカメラが有るだろうし声も拾われているかもしれない。でも、今後のためにも出来る限りのことは伝える)
「深い意味は無いよ。挨拶だけのつもりだったけど、綾波が良かったらもう少しここに居ていいかな」
「……別に」
(どっちとも受けとれなくもないけど、明確に拒絶されてないなら良しとしよう)
前向きである。こんなんでサードインパクト起こせるのか?
暫く沈黙が続く。
シンジがふいに沈黙の終了を決定する。
「ねぇ」
「なに」
「なんでエヴァに乗るの?」
シンジはまるで昨日のテレビの話でもするように軽く聞く。
少しの間。瞳が揺れる。
「絆だからよ」
「誰との絆なの?」
また、間。本の背表紙をなぞる青白く細い指。
「碇指令」
「……ホント?」
下から上目遣いに覗き込むシンジ。
「……本当よ」
目線は真っ直ぐにシンジを見つめている。ふいにシンジが柔らかく微笑む。
「そっか。変なこと聞いてごめんね」
「……構わないわ」
「お詫びにこれを貸してあげよう!」
じゃじゃーん。
「何?」
シンジが差し出した物は……。
「○らぶるダークネス?」
と○ぶるってお前。しかも初手ダークネスってあかんでしょ。
「そう。綾波はそれを読んで僕との接し方、つまりは絆を学ぶんだ!」
(名付けてエロ漫画で綾波育成計画! これなら極自然にハーレムを許容できる常識が形成されるはず! ホントはガチエロ本が良かったけど、流石にそれは言い訳できない)
○らぶるダークネスも言い訳できない。有害図書は伊達じゃない。
「……接し方。……絆」
シリアス顔してるが、手にしている物はエロ本である。
「そう。僕と綾波だけの秘密の絆。だから、漫画のことを他の人に言ったり、見せたら駄目だよ?」
この男、抜けてるのか、抜けてないのか分からない。ただ、確実に言えることは、凄い都合の良いこと言ってやがる。
「わかったわ」
不幸なことに綾波にシンジの悪意を見抜く人生経験はない。素直にシンジの言葉に頷いてしまう。
シンジは、また、柔らかく、だけどさっきよりは少しだけ大げさに微笑む。
「はい」
小指を差し出すシンジ。
「何」
もはや、定型句となりつつある言葉。
「綾波も小指出して」
はよはよ、とうっっざいノリで急かす。
「はい」
「ぷ」
綾波がシンジと逆の手を差し出したのを見てシンジは吹き出してしまった。要するに右手と左手で鏡合わせになっている。これはいけない。
「ま、いっか。はい。指切りげんまん嘘ついたら針千本呑ーます!」
シンジは右手でも構わず喰っちまう男なので、気にせず小指を巻き付け一方的に約束してしまう。世間一般では、これを約束とは言わない。
「じゃあ、僕はもう帰るよ。またね」
ヤることヤったらさっさと帰るとは男の鏡である。勿論、皮肉だ。
シンジが居なくなり急に静かになった病室で、綾波は優しく小指をなぞる。
「ぽかぽかする」
(よし。とりあえず肉体的接触によるパーソナルスペースの接近はクリアってことにしよう。今後はもっと
台無しである。